
発売日:2020年10月2日
ジャンル:インディー・ロック、オルタナティヴ・ロック、エモ、ポスト・ハードコア、ヒップホップ、R&B、エレクトロニック、インディー・ポップ
概要
Bartees Strangeの『Live Forever』は、2020年代のインディー・ロックにおいて、ジャンルの境界、黒人アーティストとしてのロック史への関わり方、そして個人的記憶と社会的視線の交差を鮮烈に提示した重要なデビュー・アルバムである。Bartees StrangeことBartees Cox Jr.は、オクラホマで育ち、ワシントンD.C.周辺の音楽シーンでも活動してきたアーティストであり、インディー・ロック、エモ、ポスト・ハードコア、ヒップホップ、R&B、フォーク、エレクトロニックなどを自由に横断する作風を持つ。彼はThe Nationalの楽曲を再解釈したEP『Say Goodbye to Pretty Boy』でも注目を集めたが、『Live Forever』ではカヴァーではなく、自身の声と経験を中心に据え、より広い音楽的視野を提示した。
このアルバムの最大の特徴は、ジャンルが固定されないことである。一般的な意味でのインディー・ロック・アルバムとして聴くこともできるが、そこにはギター主体のバンド・サウンドだけでなく、トラップ的なビート、R&B的な歌唱、エモの感情の爆発、ポスト・ハードコアの緊張、フォーク的な語り、さらに現代的なプロダクションの断片が組み込まれている。重要なのは、それらが単なる混合物として並列されているのではなく、Bartees Strangeというアーティストの生きてきた経験、聴いてきた音楽、置かれてきた社会的位置から自然に立ち上がっている点である。
『Live Forever』というタイトルは、「永遠に生きる」という意味を持つ。ロック史において「永遠に生きる」という言葉は、若さ、名声、記憶、死への抵抗、音楽による自己保存を連想させる。しかしBartees Strangeの場合、この言葉は単純なロック・スター的な不死願望ではない。彼は、アメリカの音楽史においてしばしば周縁化されてきた黒人ロック・アーティストとして、どのように自分の居場所を作るかを問うている。永遠に生きるとは、単に成功することではなく、自分の存在を消されないようにすることでもある。
本作におけるBarteesの歌詞には、故郷、家族、移動、孤独、成功への欲望、過去への痛み、黒人としてインディー・ロックの場にいることの複雑さが現れる。彼は自分をジャンルの外側に置くのではなく、むしろ複数のジャンルの中心を同時に占めようとする。これは音楽的にも政治的にも重要な姿勢である。ロックはしばしば白人中心のジャンルとして語られてきたが、その歴史の根にはブルース、ゴスペル、R&Bなど黒人音楽が深く存在する。Bartees Strangeは、その歴史を踏まえつつ、現代のインディー・ロックに黒人アーティストとしての身体と声を持ち込む。
音楽的には、『Live Forever』は非常にダイナミックである。冒頭の「Jealousy」では短い導入の中に不穏な空気を作り、「Mustang」では一気にギター・ロックの推進力を提示する。「Boomer」ではヒップホップ的なリズムと言葉の切れ味が前面に出る一方、「Flagey」や「Far」ではより繊細で内省的な表情が見える。「Kelly Rowland」ではR&Bやポップ・カルチャーへの参照が現れ、「Stone Meadows」ではフォーク的な広がりも感じられる。各曲は異なる方向を向いているが、全体としてはひとつの自己表現に収束している。
このアルバムが特に優れているのは、ジャンル横断が単なる技術的な器用さに終わっていない点である。Bartees Strangeは、ロックもヒップホップもR&Bもエモも、自分にとって等しく現実の音楽として扱う。ジャンルはアイデンティティを閉じ込める箱ではなく、記憶や感情を表現するための道具である。だからこそ『Live Forever』は、現代的でありながら非常に個人的に響く。過去のインディー・ロックの形式をなぞるのではなく、それを自分の身体を通して組み替えている。
2020年という時代背景も重要である。アメリカ社会では人種をめぐる議論が再び強く可視化され、音楽シーンにおいても、誰がどのジャンルを担うのか、どの声が中心に置かれるのかが問われていた。『Live Forever』は、その問いに対して直接的なスローガンだけで答える作品ではない。むしろ、音そのものによって答えている。Bartees Strangeは、自分が愛してきたインディー・ロックを内側から更新し、そこに黒人音楽の歴史、現代のビート、個人的な声を流し込むことで、新しいロックの形を示した。
日本のリスナーにとって本作は、近年のインディー・ロックを理解するうえで非常に重要な作品である。The National、Bon Iver、TV on the Radio、Bloc Party、Frank Ocean、Moses Sumney、Cloud Nothings、Fugazi、Sufjan Stevensなどの要素を想起させながらも、Bartees Strangeはそれらのどれにも完全には収まらない。『Live Forever』は、ジャンルを越えることが流行としてではなく、生きるうえでの必然として鳴らされたアルバムである。
全曲レビュー
1. Jealousy
オープニングの「Jealousy」は、短い導入曲でありながら、アルバム全体の心理的な緊張を凝縮している。タイトルは嫉妬を意味するが、ここでの嫉妬は単なる恋愛感情ではなく、成功、承認、他者との比較、社会的な場所をめぐる複雑な感情として響く。デビュー・アルバムの冒頭にこの感情を置くこと自体が、Bartees Strangeの自己認識の鋭さを示している。
音楽的には、明確なロック・ソングとして展開するというより、空気を作る導入である。音は不穏で、断片的で、これから始まるアルバムが一直線のギター・ロックではないことを示す。声や音の配置には、ヒップホップ的な間の感覚、R&B的な浮遊感、インディー・ロック的なざらつきがすでに混ざっている。
嫉妬という感情は、しばしば恥ずべきものとして隠される。しかしBarteesはそれを隠さず、冒頭に置く。これは重要である。彼の音楽では、成功したい、認められたい、誰かに勝ちたい、同時にその欲望を恥じている、という矛盾がそのまま表れる。『Live Forever』は、その矛盾を美しく整理するのではなく、音楽の燃料にするアルバムである。
2. Mustang
「Mustang」は、本作の最初の大きな爆発であり、Bartees Strangeのロック・アーティストとしての力を明確に示す楽曲である。タイトルの「Mustang」は、アメリカ的な車、速度、自由、荒野、若さを連想させる。同時に、彼の育ったオクラホマ周辺の風景や、アメリカ中西部/南部的な移動感覚も想起させる。
音楽的には、ギター・ロックの推進力が前面に出る。リフは鋭く、ドラムは力強く、曲は一気に前へ進む。しかし、単なるインディー・ロックの疾走ではない。ヴォーカルのフロウやリズムの取り方には、ヒップホップやR&Bを通過した現代的な感覚があり、ロックの形式がBartees自身の身体感覚によって更新されている。
歌詞では、故郷、記憶、移動、自己形成が絡み合う。Mustangというイメージは、自由に走ることへの憧れであると同時に、どこかから逃げ出す感覚も含む。Barteesの歌には、場所への愛と、そこに閉じ込められたくないという衝動が同時にある。その二重性が、曲の勢いを単なる爽快感以上のものにしている。
「Mustang」は、『Live Forever』の核を示す重要曲である。インディー・ロックのエネルギー、個人的な回想、黒人アーティストとしての位置、そしてジャンル横断的なセンスが、非常に高い密度で結びついている。
3. Boomer
「Boomer」は、本作の中でも特にキャッチーで、Bartees Strangeのジャンル混合が鮮やかに表れた楽曲である。タイトルは世代を示す言葉としても読めるが、ここでは世代間の距離、社会的な呼称、あるいは現代的な皮肉を含んでいるように響く。曲自体は非常に軽快で、アルバムの中でも大きなフックを持つ。
音楽的には、ヒップホップ的なリズム感、インディー・ロックのギター、ポップなサビが巧みに組み合わされている。Barteesの歌唱は、ラップに近い語りからメロディックな歌へ自然に移行し、曲全体に躍動感を与える。ここで重要なのは、ジャンルの切り替えが露骨な実験としてではなく、非常に自然に行われている点である。
歌詞では、成功への欲望、自分の位置、他者からどう見られるかという問題が感じられる。Barteesは、自分がシーンの中でどこにいるのかを常に意識している。彼は outsider として外側から眺めるだけではなく、中心に入り込み、そこを変えようとする。その野心が「Boomer」には明るい形で表れている。
この曲は、『Live Forever』の中でも特に入口になりやすい楽曲である。キャッチーで、軽快で、同時に複雑な背景を持つ。Bartees Strangeがポップ・ソングとしても優れた感覚を持っていることを示す重要曲である。
4. Kelly Rowland
「Kelly Rowland」は、タイトルからしてポップ・カルチャーへの明確な参照を持つ楽曲である。Kelly RowlandはDestiny’s Childのメンバーとして知られるR&B/ポップの重要人物であり、その名をタイトルに置くことで、Barteesはインディー・ロックだけでなく、2000年代以降のR&Bやメインストリーム・ポップの記憶も自分の音楽的世界に含めている。
音楽的には、ギター・ロックの枠を超え、R&Bやヒップホップ的な余白が強い。リズムは硬すぎず、声の配置にも滑らかさがある。Barteesの音楽的背景の広さがよく表れており、ロックの文脈だけでは説明できない曲である。
歌詞では、憧れ、自己像、ポップ・スターへの視線、そして自分自身の成功への欲望が重なる。Kelly Rowlandという名前は、単なる有名人の引用ではなく、黒人ポップ・カルチャーの記憶を呼び込む記号として機能している。Barteesは、白人中心に語られがちなインディー・ロックの空間に、こうした記憶を自然に持ち込む。
「Kelly Rowland」は、『Live Forever』がどれほど広い音楽的地図を持っているかを示す曲である。The National的なインディー・ロックだけでなく、R&B、ポップ、ヒップホップ、黒人音楽文化の記憶が、Barteesの中では同時に存在している。そのことが非常に明確に表れる一曲である。
5. In a Cab
「In a Cab」は、都市的で移動感のある楽曲である。タイトルは「タクシーの中で」という意味で、移動中の密閉された空間、深夜の街、誰かとの会話、あるいは孤独な時間を思わせる。Bartees Strangeの音楽には、場所と移動が重要なテーマとして繰り返し現れるが、この曲ではその感覚がより都市的な形で表れている。
音楽的には、抑制されたビートとメロディが中心で、派手なギターの爆発よりも、空間の質感が重視されている。タクシーの中という場所は、外の世界と隔てられながら、同時に街の中を移動する場所である。この矛盾した空間性が、曲のムードにも反映されている。
歌詞では、移動しながら考えること、誰かとの距離、過去や現在が窓の外を流れていくような感覚が描かれる。Barteesの歌において、移動は単なる地理的な行為ではない。自分がどこから来て、どこへ向かっているのかを考える時間でもある。
「In a Cab」は、アルバムの中で内省的な役割を持つ曲である。大きなアンセムではないが、Bartees Strangeの都市的な孤独と、移動する身体の感覚をよく示している。
6. Stone Meadows
「Stone Meadows」は、タイトルの段階から非常に風景的である。石の草原という言葉には、自然の広がりと硬さ、牧歌性と冷たさが同時にある。Bartees Strangeは、都市や故郷、移動の記憶を歌うアーティストだが、この曲ではより広い土地の感覚が表れている。
音楽的には、フォークやインディー・ロックの要素が感じられ、アルバムの中でも比較的穏やかな表情を持つ。ギターは強く歪むというより、風景を描くように配置される。Barteesのヴォーカルも、ここではより語りに近い柔らかさを持つ。
歌詞では、場所と記憶が深く結びつく。Stone Meadowsという言葉は具体的な地名であると同時に、心の中に残る風景のようにも響く。硬い石と柔らかな草原という対比は、Barteesの音楽そのものにも通じる。彼の曲には、強いリズムや鋭いギターがある一方で、非常に柔らかな感情もある。
「Stone Meadows」は、『Live Forever』の中で、Barteesのルーツや土地への感覚を静かに示す曲である。派手なジャンル横断よりも、彼の内面にある風景を聴かせる重要な一曲である。
7. Flagey
「Flagey」は、本作の中でも特に感情の揺れと音響的な繊細さが表れた楽曲である。タイトルはブリュッセルの地名を連想させるが、ここでは単なる場所というより、旅、遠さ、異国、記憶の変化を示す言葉として響く。Bartees Strangeの歌には、場所の名前が感情の容器として機能する瞬間が多い。
音楽的には、静かな導入から徐々に情緒を広げるような構成を持つ。Barteesのヴォーカルは繊細で、ギターや電子的な音色がその周囲を包む。曲は大きく叫ぶというより、内側から広がっていく。エモ的な感情の高まりはあるが、サウンドは非常に現代的で、ジャンルの枠を越えている。
歌詞では、距離、記憶、自己の不確かさが感じられる。Barteesは、どこかへ移動することで自由になる一方、移動によって自分の居場所がさらに不明確になることも知っている。「Flagey」には、そのような漂流感がある。
この曲は、『Live Forever』の中でBartees Strangeの感情表現の深さを示す楽曲である。激しい曲ではないが、彼の音楽が単にジャンルを混ぜるだけではなく、場所と記憶の細かな震えを表現できることを示している。
8. Mossblerd
「Mossblerd」は、タイトルからして謎めいており、Bartees Strangeの実験的な側面が強く出た楽曲である。言葉の意味が明確でない分、曲は音そのものの質感やムードによって聴き手を引き込む。アルバム全体の中でも、ジャンルの境界をさらに曖昧にする役割を持つ。
音楽的には、電子的な処理、ビート、声の配置が特徴的で、一般的なギター・ロックの構造からは距離がある。Barteesはここで、インディー・ロックのソングライティングよりも、音響のコラージュやリズムの揺れを重視しているように聴こえる。短いながらも、アルバムの実験性を支える曲である。
歌詞や声の扱いは、明確な物語よりも感覚的である。Barteesの音楽には、言葉が具体的な意味を運ぶだけでなく、音の一部として機能する瞬間がある。この曲はその傾向が強い。声は語り手であると同時に、サウンドの一部でもある。
「Mossblerd」は、アルバムの中で異物感を持つ曲であり、その異物感が重要である。『Live Forever』は、すべてを分かりやすいロック・ソングへ収めるアルバムではない。こうした曲があることで、Bartees Strangeの音楽的世界はより広く、予測不能になる。
9. Far
「Far」は、タイトル通り距離をテーマにした楽曲である。遠さ、離れていること、手が届かないこと、あるいは自分がどこか遠くへ来てしまった感覚。Bartees Strangeの歌には、故郷から離れること、シーンの中で孤立すること、成功に近づくほど過去から遠くなることへの複雑な感情がある。
音楽的には、メロディックで、アルバム後半の中でも感情の核となる曲である。サウンドは広がりを持ち、Barteesの声は距離を越えて届こうとするように響く。ここでは、エモやインディー・ロック的な感情表現が比較的明確に表れている。
歌詞では、誰かとの距離、場所との距離、自分自身との距離が重なる。遠くへ行くことは成長であり、自由であり、成功でもある。しかし同時に、失うものもある。Barteesはその矛盾を単純に解決しない。遠くにいることの寂しさと必要性を、同時に歌う。
「Far」は、『Live Forever』の中でも聴き手に感情的に届きやすい楽曲である。ジャンル横断の派手さよりも、Barteesの声とメロディの強さが前面に出ている。アルバムの後半における重要なハイライトである。
10. Ghostly
「Ghostly」は、タイトルが示す通り、幽霊的な存在感、過去の残像、見えないものに付きまとわれる感覚を持つ楽曲である。Bartees Strangeの音楽には、過去の記憶や故郷、家族、失われた関係がしばしば影のように現れるが、この曲ではその感覚が直接的なタイトルになっている。
音楽的には、空間の広がりと不穏さがある。声はやや遠く、音は浮遊し、曲全体に夢の中のような質感がある。ロックの直接的なエネルギーよりも、残響と雰囲気が重視されている。タイトル通り、実体のある音というより、何かの気配のように鳴る。
歌詞では、過去や誰かの記憶が、現在の自分に影響を与え続ける感覚が描かれているように響く。幽霊とは、完全に消えたわけではないものだ。失われたはずなのに、まだそばにいる。Barteesの音楽において、記憶はしばしばそのように機能する。
「Ghostly」は、アルバム後半のムードを深める曲である。『Live Forever』というタイトルが示す不死性とも関係している。永遠に生きるものは、必ずしも肉体を持つ存在ではない。記憶や声、音楽の中で幽霊のように残るものもある。
11. Booster
「Booster」は、アルバム終盤にエネルギーを再び注入するような楽曲である。タイトルには、押し上げるもの、強化するもの、加速装置という意味があり、曲自体も前へ進む力を持っている。『Live Forever』の中で、Bartees Strangeが再びロック的な推進力を提示する場面である。
音楽的には、ギターとビートの組み合わせが力強く、曲は勢いよく進む。Barteesのヴォーカルもエネルギッシュで、ラップ的なリズム感とメロディックな歌が自然に行き来する。ここでもジャンルは固定されないが、曲全体には強い前進感がある。
歌詞では、加速する感覚、自分を押し上げる力、あるいは成功へ向かう衝動が感じられる。Barteesの音楽には、内省や孤独だけでなく、野心も明確にある。彼は自分の場所を探すだけではなく、自分の場所を作りに行く。その攻めの姿勢が「Booster」には表れている。
「Booster」は、アルバム終盤において、作品を再び外へ開く役割を持つ。内省的な曲が続いた後に、ここで身体的な勢いが戻ることで、アルバムは単なる回想ではなく、未来へ向かう力を持つ。
12. Shape
「Shape」は、形、輪郭、自己形成をテーマにした楽曲として聴ける。『Live Forever』というアルバムは、Bartees Strangeが自分の形を作り上げる作品でもある。黒人アーティストとして、インディー・ロックの中で、複数のジャンルを抱えながら、どのような形で存在するのか。その問いが、このタイトルに集約されているように響く。
音楽的には、アルバム終盤らしく、内省と広がりが共存している。Barteesの声は感情的だが、過剰に崩れることはなく、曲全体をしっかり支えている。ギター、ビート、電子的な音色が一体となり、ジャンルの境界が溶けるようなサウンドを作る。
歌詞では、自分の輪郭を見つけようとする感覚がある。人は他者から形づけられる。社会、家族、音楽シーン、人種、故郷、過去。それらによって形が与えられる一方で、自分自身で形を作り直すこともできる。Bartees Strangeの音楽は、その作り直しの過程そのものである。
「Shape」は、『Live Forever』のテーマを静かにまとめる楽曲である。ジャンルを横断することは、形を持たないことではない。むしろ、自分自身の形をより自由に作ることだ。この曲は、その考えを音楽的に示している。
13. 17
アルバムを締めくくる「17」は、短くも印象的な終曲である。タイトルの数字は、年齢、記憶、特定の時点、若さ、過去の自分を示すものとして読める。17歳という数字は、多くのロックやエモにおいて、青春の不安定さ、自己形成の痛み、未来への焦りを象徴してきた。Bartees Strangeもまた、この数字を通じて過去の自分や記憶と向き合っているように響く。
音楽的には、アルバムの終わりにふさわしく、余韻を残す構成である。大きな爆発ではなく、静かな感情の残響として閉じる。『Live Forever』は非常に多くのジャンルと感情を通過するアルバムだが、最後に残るのは、過去のある地点への視線である。
歌詞では、若い頃の自分、失われた時間、そこから現在まで続く感情が感じられる。永遠に生きるというタイトルのアルバムが、最後に「17」という具体的で個人的な数字へ戻ることは重要である。不死への願いは、抽象的な野心ではなく、過去の自分を消さないための行為でもある。
「17」は、『Live Forever』を静かに閉じる曲である。派手な結論ではないが、アルバム全体の個人的な核心を示している。Bartees Strangeが何者になるかという問いは、彼が何者であったかという記憶と切り離せない。そのことを、終曲が静かに伝えている。
総評
『Live Forever』は、Bartees Strangeのデビュー・アルバムでありながら、すでに明確な作家性と広い音楽的視野を持った作品である。インディー・ロック、エモ、ポスト・ハードコア、ヒップホップ、R&B、フォーク、エレクトロニックが混ざり合うが、その混合は散漫ではない。むしろ、Bartees自身の複合的なアイデンティティと音楽的記憶を反映した、非常に自然な表現になっている。
本作の最大の意義は、インディー・ロックの中心を問い直した点にある。Bartees Strangeは、ロックの外側から別のジャンルを持ち込むのではなく、ロックの内側にあるはずだった黒人音楽の歴史を再び可視化し、同時に現代のヒップホップやR&Bの感覚を自然に接続する。彼の音楽は、ロックを否定するのではなく、ロックを広げる。ジャンルとは誰かを排除する境界ではなく、複数の歴史が交差する場所であることを示している。
楽曲面では、「Mustang」「Boomer」「Kelly Rowland」「Far」「Booster」などが特に重要である。「Mustang」は彼のロック的な爆発力を示し、「Boomer」はポップ性とリズム感の鋭さを示す。「Kelly Rowland」は黒人ポップ・カルチャーへの参照を自然にインディー・ロックへ組み込み、「Far」は彼のメロディックで感情的な強さを表す。「Booster」は終盤にアルバムを再加速させる。これらの曲を通じて、Bartees Strangeが単なる実験家ではなく、強いソングライターであることが分かる。
歌詞面では、故郷、移動、成功、嫉妬、記憶、人種、孤独、自己形成が繰り返し現れる。Barteesは自分の経験を普遍化しすぎず、具体的な場所や名前、文化的参照を通して語る。そのため、歌詞は個人的でありながら、現代アメリカの音楽シーンにおける構造的な問題も映し出す。黒人としてインディー・ロックの中にいること、複数のジャンルを自然に愛していること、故郷から離れながらも過去に縛られていること。それらが、アルバム全体の緊張を作っている。
サウンド面でも、『Live Forever』は非常に現代的である。ギター・ロックの伝統を尊重しながら、ビートや声の処理は2020年代の感覚に近い。ロック・バンド的な生々しさと、デジタルなプロダクションが共存している。これは、現在のリスナーがジャンルを横断して音楽を聴く現実とも対応している。Bartees Strangeは、プレイリスト時代の雑食性を、単なる表面的なミックスではなく、自分の表現として深く定着させている。
『Live Forever』は、デビュー作としては非常に野心的であり、ところどころに荒さもある。曲ごとの方向性が大きく変わるため、従来のアルバム的な統一感を求めるリスナーには散漫に聴こえる部分もあるかもしれない。しかし、その揺れこそが本作のリアリティである。Bartees Strangeは、最初からひとつの型に収まることを拒んでいる。むしろ、収まらないことを自分の強みにしている。
日本のリスナーにとって本作は、現代インディー・ロックの変化を理解するための重要な一枚である。90年代や2000年代のエモ、インディー・ロック、ポスト・ハードコアを聴いてきたリスナーにとっては、その文脈が更新される瞬間として響くだろう。また、ヒップホップやR&B、現代ポップを通過した耳にも、ロックがまだ新しい形を取り得ることを示す作品として聴ける。
『Live Forever』は、ジャンルの境界を越えるアルバムであると同時に、記憶を生き延びさせるアルバムでもある。Bartees Strangeは、自分の過去、故郷、音楽的ルーツ、社会的な位置を音に変え、それらを未来へ投げ出す。永遠に生きるとは、変わらないまま残ることではない。変化しながら、消されずに残ることである。『Live Forever』は、そのための力強い第一声である。
おすすめアルバム
1. Bartees Strange『Farm to Table』
『Live Forever』に続く作品で、Bartees Strangeのソングライティングとプロダクションがさらに洗練されたアルバム。ジャンル横断の姿勢は維持しながら、より大きなメロディと広いスケールを獲得している。『Live Forever』の荒削りな野心がどのように発展したかを知るうえで重要である。
2. TV on the Radio『Dear Science』
ロック、ソウル、エレクトロニック、アート・ポップを横断し、黒人アーティストを含むバンドがオルタナティヴ・ロックの枠を拡張した重要作。Bartees Strangeのジャンル横断性や都市的な緊張感を理解するうえで、非常に関連性が高い。
3. Bloc Party『Silent Alarm』
ポスト・パンク・リバイバル、ダンス・ビート、エモーショナルなヴォーカルが結びついた2000年代インディー・ロックの重要作。Kele Okerekeの存在も含め、黒人フロントマンがインディー・ロックの中心でどのような表現を行ったかを考えるうえで、『Live Forever』と比較しやすい。
4. The National『Boxer』
Bartees StrangeがThe Nationalの楽曲を再解釈した経験を考えるうえで重要なアルバム。抑制された感情、反復するギター、都市的な憂鬱が特徴であり、Barteesがどのようなインディー・ロックの語法を吸収し、自分のものに変えたかを理解できる。
5. Moses Sumney『Aromanticism』
R&B、アート・ポップ、フォーク、実験的な音響を横断しながら、黒人アーティストとしての孤独や自己認識を繊細に表現した作品。Bartees Strangeとは音楽的な方向性が異なるが、ジャンルの枠を超えて個人的かつ社会的な声を作る姿勢に共通点がある。

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