
1. 歌詞の概要
「Mustang」は、Bartees Strangeが2020年に発表した楽曲であり、同年リリースのデビュー・アルバム『Live Forever』の冒頭を飾る重要曲である。
「Mustang」というタイトルは、野生馬を意味すると同時に、Bartees Strangeが育ったオクラホマ州マスタングという町も指している。Stereogumはこの曲について、馬としての「Mustang」と、彼が育ったオクラホマの町としての「Mustang」の二重の意味を持つと説明している。stereogum.com
この曲の歌詞は、故郷への単純な郷愁ではない。
むしろ、そこから逃げ出したい感覚、そこにいた頃の痛み、そしてその場所が今も自分の身体のどこかに残っているという感覚が混ざっている。
Bartees Strangeは「Mustang」で、過去を美しく塗り直さない。
故郷は懐かしい。
けれど、安心できる場所ではなかった。
そこには孤独があり、見えなさがあり、息苦しさがあった。
この曲で響いているのは、帰りたい気持ちではなく、帰れなさを知っている人の声である。
歌詞には、血、夜明け前、痛み、アメリカへの嫌悪、仕事、酒、見えない傷といったイメージが散らばっている。
どれもきれいな青春の断片ではない。
むしろ、朝になる前の暗い時間に、身体の中から浮かび上がってくる記憶のようだ。
サウンドは、Bartees Strangeらしく一筋縄ではいかない。
曲はカントリー的な影を持ちながら、2000年代のインディー・ロック、エモ、ポスト・ハードコア、シンセのきらめき、そして終盤のハードコア的な崩壊へと変化していく。GRAMMY.comは「Mustang」について、もともとはカントリー・ソングとして始まったが、The Walkmenの「The Rat」のような2000年代ロックの影響、予想外の拍子の変化、きらめくシンセ、終盤のハードコア・ブレイクダウンを含む曲へと発展したと紹介している。Grammy
つまり「Mustang」は、ただのロック・ソングではない。
ただの故郷ソングでもない。
自分のルーツから走り出し、ジャンルの境界を蹴散らしながら、最後には叫びのような音にたどり着く曲である。
歌詞の語り手は、自分の痛みを完全には説明しない。
だが、その断片は十分に鋭い。
何かが起きた。
何かが壊れた。
何かを置いてきた。
そして、それでも生き延びている。
「Mustang」は、その生き延びる感覚を、荒々しい速度で鳴らしている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Bartees Strange、本名Bartees Leon Cox Jr.は、ワシントンD.C.を拠点に活動してきたアーティストであり、インディー・ロック、エモ、ポスト・ハードコア、ヒップホップ、R&B、カントリー、フォーク、電子音楽を自由に横断する表現で注目を集めた。
彼が広く知られるきっかけのひとつは、The Nationalの楽曲を再解釈したEP『Say Goodbye to Pretty Boy』だった。GRAMMY.comは、このカバーEPが、The Nationalのコンサートで彼が数少ない黒人の観客のひとりだった経験に触発されたものだと紹介している。Grammy
このエピソードは、Bartees Strangeの音楽を理解するうえでとても重要である。
彼はインディー・ロックを愛している。
だが、その空間の中で、自分がいつも自然に受け入れられていたわけではない。
好きな音楽の中に、自分の居場所がないように感じる。
それでも、その音楽を自分の声で歌い直す。
この態度が、『Live Forever』全体、そして「Mustang」にもつながっている。
「Mustang」は、Bartees StrangeがMemory Musicと契約したタイミングで発表されたシングルでもある。彼の公式サイトでは、「Mustang」をリリースしたこと、隔離期間中に自宅でミュージック・ビデオを撮影したこと、そしてWill Yipが運営するMemory Musicと契約したことが告知されている。また、楽曲はBartees自身が書き、プロデュースしたと記載されている。BARTEES STRANGE
この背景を知ると、「Mustang」の荒々しさはさらに鮮明になる。
これは、外から与えられたイメージに合わせた曲ではない。
自分の過去、自分の声、自分の音楽的ルーツを、自分で混ぜ合わせて作った曲なのだ。
アルバム『Live Forever』は2020年10月2日にMemory Musicからリリースされた。Pitchforkはこの作品を、Bartees Strangeがアリーナ・ロック、フォーク、ラップなど多様なスタイルを自由に行き来し、黒人アーティストとしての自由についても描いたデビュー・アルバムとして評している。Pitchfork
「Mustang」は、そのアルバムの最初に置かれている。
つまりこれは、自己紹介である。
だが、普通の自己紹介ではない。
名前を言う前に、故郷の暗がりを見せる。
ジャンルを説明する前に、ジャンルを全部鳴らしてしまう。
自分が何者かを一文で語る代わりに、音の中で証明する。
Pitchforkは、マスタングという町が白人の多い地域であり、幼少期のBarteesが家族とともに州内を移動しながらオペラや教会で歌っていたことにも触れている。その文脈で「Mustang」は、過去へのわずかなオマージュでありながら、同時に故郷から逃げ出す必要の感覚を持った曲として読まれている。Pitchfork
ここで大切なのは、「故郷」が単なる出発点ではないということだ。
それは、逃げた場所であり、戻れない場所であり、それでも自分の声の中に残っている場所である。
Bartees Strangeは、そこを美談にしない。
彼は「Mustang」を、青春の回想としてではなく、身体に残った傷のように鳴らしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の権利に配慮し、ここでは短い範囲に限定して引用する。
歌詞全文は、権利処理された歌詞掲載サービスや公式配信サービスで確認するのが望ましい。Dorkの歌詞ページでは、「Mustang」が『Live Forever』収録曲として掲載されている。Readdork
I hate America
和訳すると、次のようになる。
アメリカが嫌いだ
この短い一節は、曲の中心にある痛みを鋭く切り出している。
ここでの「アメリカが嫌いだ」は、単なる反抗的なポーズではない。
故郷、社会、人種、労働、期待、暴力、見えない疎外感。
そうしたものが一気に押し寄せる言葉である。
Bartees Strangeにとって、アメリカは自分が生まれ育った場所であり、自分の音楽的な土壌でもある。
カントリーも、ロックも、ゴスペルも、ヒップホップも、そこにある。
けれど同時に、その場所は彼を苦しめてきた場所でもある。
愛しているものと嫌っているものが、同じ地面から生えている。
「Mustang」の複雑さは、そこにある。
もうひとつ、短く引用する。
I just wait for my horses now
和訳すると、次のようになる。
今はただ、自分の馬たちを待っている
このラインは、タイトルの「Mustang」と強く結びつく。
馬は、自由の象徴として読める。
走り出す力。
どこかへ連れていってくれるもの。
制御される前の野生。
しかし、この歌詞では「走る」のではなく「待っている」。
そこに、強い切なさがある。
自由になりたい。
逃げ出したい。
けれど、まだ動けない。
あるいは、自分を連れ出してくれる何かを待っている。
この待つ感覚が、曲の中の焦燥と重なる。
ギターもシンセもドラムも前へ進もうとしているのに、歌詞の語り手はどこかで足止めされている。
そのずれが、曲に大きな緊張を与えている。
歌詞引用元については、権利保護のため全文転載を避け、短い抜粋に限定した。参照情報はDorkの歌詞掲載ページ、および楽曲に関する各種インタビュー・レビューに基づく。
4. 歌詞の考察
「Mustang」の歌詞を読むと、まず感じるのは、故郷に対する感情がひとつではないということだ。
懐かしい。
でも苦しい。
誇りがある。
でも逃げたかった。
自分を形作った場所でありながら、自分を閉じ込めた場所でもある。
この矛盾が、曲全体を動かしている。
タイトルの「Mustang」は、地名であり、馬であり、車の名前も連想させる言葉である。
野生。
スピード。
アメリカ的な力。
広い道。
田舎町。
逃走。
ひとつの言葉の中に、いくつものイメージが詰め込まれている。
Stereogumはこの曲を、シンセとギターを重ねた、2000年代半ばのブログ・ロックの伝統を感じさせる、激しく突き進むインディー・ロック曲として紹介している。stereogum.com
その説明は、サウンドの手触りをよく捉えている。
しかし「Mustang」は、ただ過去のロックを参照しているだけではない。
Bartees Strangeは、そのロックの語法の中に、自分の身体を置いている。
ここが重要である。
インディー・ロックはしばしば、白人男性中心の文化として語られてきた。
Barteesはその音楽を深く愛しながらも、その中で「自分の声がどこにあるのか」という問いを抱えていた。Pitchforkは『Live Forever』について、黒人アーティストとしてのBarteesが、インディー・ロックやヒップホップなどの文脈の中で、黒人の声が周縁化される問題と向き合っている作品だと評している。Pitchfork
「Mustang」は、その問いを理論としてではなく、音として鳴らす。
曲の冒頭から、サウンドは大きい。
だが、その大きさには虚勢だけではない。
むしろ、見えなかった自分を見えるようにするための大きさに聞こえる。
声が前に出る。
ギターが広がる。
シンセが夜空のように光る。
ドラムが地面を蹴る。
それは、故郷から走り出すための音である。
歌詞にある「アメリカが嫌いだ」という感情も、この曲を単純な個人的回想から引き上げている。
ここでのアメリカは、国名であり、システムであり、夢の名前でもある。
アメリカは自由を語る。
けれど、その自由は誰に開かれているのか。
アメリカは成功を語る。
けれど、その成功に近づくために、誰が自分を折り曲げなければならないのか。
「Mustang」は、その問いを持っている。
ただし、この曲は説教臭くならない。
Bartees Strangeは、社会的なテーマを掲げる前に、まず音楽として走らせる。
だから曲は重いのに、身体が動く。
ここが彼のすごさだ。
怒りや疎外感を、静的な告白にしない。
それをグルーヴに変える。
疾走感に変える。
サビの開放感に変える。
Pitchforkは「Mustang」について、アリーナ級の大きな身振りを持ちながらも、実際には心と心の対話のような曲だと評している。Pitchfork
この指摘はとても的確である。
「Mustang」は、スケールが大きい。
だが、歌っていることはとても近い。
寝起きのつらさ。
仕事を失いかけること。
自分が見えていないように感じること。
誰にもわかってもらえない傷。
そうした生活の細部が、巨大なロック・サウンドの中に埋め込まれている。
この組み合わせが、曲を強くしている。
Bartees Strangeは、日常の痛みを小さなままにしない。
それを大きな音に変える。
すると、その痛みは個人のものにとどまらず、聴き手の身体にも響く。
また、この曲には引用や参照の感覚もある。
GRAMMY.comは、「Mustang」の歌詞がThe Antlersの『Hospice』収録曲「Epilogue」を引用していることに触れている。Grammy
Stereogumも同様に、この曲の歌詞がThe Antlersの「Epilogue」を引用していると伝えている。stereogum.com
これは単なるオマージュではない。
Bartees Strangeは、自分が愛してきたインディー・ロックの記憶を、自分の歌の中に取り込み直している。
誰かの音楽だったものを、自分の経験の中で鳴らす。
その行為には、奪い返すような力がある。
「この音楽は、自分のものでもある」。
「このジャンルの中に、自分の声もある」。
そう宣言しているように聞こえる。
終盤のハードコア的な爆発も、曲の感情の流れとして非常に重要だ。
「Mustang」は、ずっと同じテンションで進む曲ではない。
最初は大きなインディー・ロックとして始まり、途中で感情がねじれ、最後には制御不能な方向へ崩れていく。
これは、歌詞の内面と重なる。
人は、自分の過去をきれいに語ろうとする。
故郷の話を、懐かしい物語にしようとする。
傷の話を、克服の物語にしようとする。
だが、実際の感情はそんなに整っていない。
怒りもある。
恥もある。
愛もある。
逃げたい気持ちもある。
戻れない悲しみもある。
「Mustang」は、その整わなさを整えないまま曲にしている。
だから最後に崩れる必要がある。
きれいな結論ではなく、音の崩壊で終わる。
それが正しい。
この曲の中で、Bartees Strangeは故郷を振り返っている。
だが、振り返るだけではない。
そこから全力で走り出している。
「Mustang」は、過去を語る曲でありながら、過去に閉じ込められない曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Boomer by Bartees Strange
『Live Forever』の中でも、Bartees Strangeのジャンル横断性が非常によく出た曲である。GRAMMY.comは「Boomer」について、Barteesがブルックリンでようやく居場所を感じた瞬間を記録した曲として紹介している。Grammy
「Mustang」が故郷からの脱出を歌う曲だとすれば、「Boomer」はその後に別の場所で自分の足場を作ろうとする曲である。ラップ、ポップ・パンク、インディー・ロックの要素が混ざり、Bartees Strangeの自由な感覚がより明るく弾けている。
- Flagey God by Bartees Strange
『Live Forever』の中でも、リズムの面白さとボーカルのしなやかさが光る曲である。Pitchforkは「Flagey God」について、湿度を帯びたクラブ的な汗を感じさせるドラム・パターンと、ゴスペルやハウスの影を持つBarteesの乗り方に触れている。Pitchfork
「Mustang」の後半にある身体的な加速が好きなら、この曲のグルーヴにも自然に引き込まれるだろう。ギター・ロックだけではないBarteesの広さを感じられる。
- Mossblerd by Bartees Strange
Bartees Strangeが黒人アーティストとしてジャンルの中でどう見られるか、どう押し込められるかを鋭く扱った曲である。Pitchforkは「Mossblerd」について、黒人の声が特定の型にはめられることへの怒りを扱う曲として論じている。Pitchfork
「Mustang」の中にある「見られなさ」や「アメリカへの苛立ち」に反応した人には、この曲の圧縮された怒りも強く響くはずだ。
- The Rat by The Walkmen
GRAMMY.comが「Mustang」の影響源として言及した、2000年代ロックの名曲である。Grammy
焦燥感のあるドラム、張りつめたボーカル、爆発寸前のギターが、「Mustang」の持つ疾走感とよくつながる。怒りと不安が、ロック・バンドのエネルギーとしてまっすぐ噴き出す曲である。
- Epilogue by The Antlers
「Mustang」が歌詞の中で引用しているとされる、The Antlers『Hospice』の楽曲である。GRAMMY.comとStereogumの両方が、その参照関係に触れている。
「Mustang」の荒々しさとは対照的に、「Epilogue」はもっと幽霊のように静かで痛い曲だ。しかし、傷が過去から現在へ戻ってくる感覚は深く共通している。Bartees Strangeがインディー・ロックの記憶をどう自分のものにしているかを知るうえでも、あわせて聴きたい一曲である。
6. 故郷から逃げるためのロック
「Mustang」は、Bartees Strangeのデビュー・アルバム『Live Forever』の扉を開ける曲である。
そしてその扉は、静かには開かない。
蹴破るように開く。
ギターが鳴り、シンセが光り、声が飛び出し、リズムが走る。
その瞬間、リスナーはBartees Strangeというアーティストが、既存のジャンルの棚におとなしく収まるつもりがないことを知る。
この曲の強さは、スケールの大きさと個人的な痛みが同時にあるところだ。
サウンドは大きい。
まるで広いハイウェイを夜に突っ切るような音である。
だが、歌詞の中にあるのは巨大な英雄物語ではない。
そこにあるのは、自分が見えないという感覚だ。
自分の痛みが誰にも届かないという感覚だ。
朝起きることの難しさ。
仕事に向かうことの重さ。
故郷を離れたのに、まだ故郷の影が身体に残っていること。
この日常の重みが、「Mustang」をただの派手なロック・ソングではなくしている。
Bartees Strangeの音楽は、よくジャンルレスと呼ばれる。
確かに、彼の曲には多くのジャンルが混ざっている。
インディー・ロック。
エモ。
ハードコア。
ラップ。
フォーク。
カントリー。
R&B。
ゴスペル。
だが、「ジャンルを混ぜている」と言うだけでは足りない。
彼にとってジャンルは、服のように着替えるものではない。
人生の中で実際に触れてきた音であり、身体に残った記憶である。
子どもの頃に歌った教会やオペラ。
大人になって関わったバンド。
好きだったインディー・ロック。
黒人アーティストとして向けられる期待や制限。
そのすべてが、彼の音楽の中で衝突している。
「Mustang」は、その衝突音でできている。
故郷の名前をタイトルにしながら、曲は故郷にとどまらない。
むしろ、そこから離れるために加速する。
しかし完全には離れられない。
ここに、この曲の苦さがある。
故郷とは、地図上の場所だけではない。
自分の発音、記憶、恐怖、怒り、価値観、身体の反応の中に残るものでもある。
だから、遠くへ行っても消えない。
Bartees Strangeは、その消えなさを知っている。
だから「Mustang」は、逃走の曲であると同時に、逃げきれなさの曲でもある。
音は前へ進む。
でも歌詞は過去に引っ張られる。
その綱引きが、曲を緊張させている。
終盤のブレイクダウンは、特に象徴的だ。
それまで保たれていた曲の形が、突然、身体の奥から壊れていくように崩れる。
これは、抑えていた感情が限界を超える瞬間に聞こえる。
きれいに歌うことも、うまく語ることも、もうできない。
だから、叫ぶ。
だから、音を壊す。
その壊れ方が美しい。
「Mustang」は、完璧な自己紹介ではない。
むしろ、不安定な自己紹介である。
自分が何者かを説明しようとして、説明より先に音が爆発してしまう。
だが、それこそがBartees Strangeというアーティストの本質なのだ。
彼は、ひとつのカテゴリーで自分を説明させない。
黒人ロック・アーティスト。
インディー・アーティスト。
エモの影響を受けたシンガー。
ラップも歌うソングライター。
どの言葉も部分的には正しいが、どれも全体ではない。
「Mustang」を聴けば、そのことがすぐにわかる。
この曲は、ロックである。
だが、ロックだけではない。
故郷の曲である。
だが、郷愁だけではない。
怒りの曲である。
だが、怒りだけでもない。
そこには、恐れ、疲労、誇り、孤独、愛、嫌悪、自由への渇望がある。
そして、そのすべてが同じ速度で走っている。
Pitchforkは『Live Forever』を、Bartees Strangeが黒人としての経験の制約の中に、新しい広い場所を作り出す作品として評している。Pitchfork
「Mustang」は、その最初の宣言である。
逃げるだけではない。
新しい場所を作る。
どこかに受け入れてもらうのを待つのではなく、自分の音で場所を作る。
この曲の疾走感は、その意志から来ている。
Bartees Strangeは「Mustang」で、自分の過去を振り返った。
しかし、そこにひざまずかなかった。
故郷の痛みを認めながら、それを燃料に変えた。
だからこの曲は、暗いのに前向きに聞こえる。
傷ついているのに力強い。
怒っているのに、どこか開けている。
それは、自由がきれいなものではないからだ。
自由は、しばしば痛みを伴う。
何かを捨てる必要がある。
何かに嫌われる覚悟がいる。
自分がいた場所を、自分の言葉で言い直さなければならない。
「Mustang」は、そのための曲である。
夜のハイウェイ。
遠ざかる町。
胸の中に残る名前。
まだ来ない馬たち。
走り出したい身体。
それでも消えない痛み。
そのすべてが、Bartees Strangeの声の中で燃えている。
「Mustang」は、故郷から逃げるためのロックであり、故郷を自分のものとして語り直すためのロックでもある。
そして何より、Bartees Strangeというアーティストが、最初からどれほど大きな射程を持っていたかを示す一曲である。
この曲を聴くと、出発というものが必ずしも明るいものではないことがわかる。
出発には怒りがある。
傷がある。
置いていくものがある。
でも、それでも走り出す瞬間がある。
「Mustang」は、その瞬間を音にした曲なのだ。

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