アルバムレビュー:Thank U, Next by Ariana Grande

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2019年2月8日

ジャンル:Pop / Contemporary R&B / Trap-Pop

概要

thank u, nextは、Ariana Grandeが2019年に発表した5作目のスタジオ・アルバムである。前作Sweetenerからわずか約半年という短い間隔で制作され、キャリア上でも特に私的な出来事と制作時期が密接に結びついた作品となった。マンチェスター公演での爆破事件を経た後の精神的な揺れ、元恋人Mac Millerの死、Pete Davidsonとの婚約解消などが短期間に重なり、その経験が失恋、喪失、自己防衛、欲望、依存、再出発といった主題へ変換されている。

サウンド面では、Sweetenerで前面に出ていたPharrell Williamsの変則的でファンキーなプロダクションから一歩離れ、Tommy Brown、Max Martin、Ilyaらとともに、トラップ由来の808、簡潔なシンセ、重い低音、R&B的なヴォーカル・レイヤーを中心とした統一感のある音像へ移行した。派手な楽器編成を避け、Arianaの声を何層にも重ねることで空間を作る手法が全編を支えている。

本作の特徴は、失恋を「悲しい出来事」として一方向に描かないことである。相手を求めながら距離を置き、強がりながら自己嫌悪に陥り、性的な親密さを欲しながら感情的な関係を避ける。その矛盾した心理が曲ごとに異なる角度から現れる。タイトル曲「thank u, next」は過去の関係を自己成長へ変換するが、アルバム全体はそこまで整然と前向きではない。むしろ回復の途中にある不安定な感情を、ポップ・アルバムとして異例なほど即時的に記録した点に本作の独自性がある。

全曲レビュー

1. imagine

アルバムは、実現しなかった理想的な関係を夢想する「imagine」で静かに始まる。柔らかなシンセとR&B的なコードの上で、Arianaはごく日常的な親密さを思い描くが、その情景は現実ではなく仮定形の中にしか存在しない。

歌詞が描くのは壮大な恋愛ではなく、二人きりの時間や安心した会話といった小さな幸福であり、その具体性がかえって喪失を強くする。終盤ではホイッスル・レジスターまで声域を広げるが、技巧の誇示というより、現実には届かない理想を音楽だけが拡張していくように聞こえる。アルバムを「回復」ではなく「失われた可能性」の記憶から始める選択が重要である。

2. needy

タイトル通り、自分が他者からの愛情や確認を必要とし過ぎることを認める曲。通常なら隠されがちな依存心を、自己批判と開き直りの中間のような口調で提示する。

プロダクションは極めて簡素で、控えめなビートと柔らかなキーボードがArianaの声を囲む。ヴォーカルも大きく歌い上げず、やや気怠くフレーズを置くことで、感情的に疲弊している人物像が浮かぶ。「自立した強い女性」というポップ・スター的な理想像から距離を置き、面倒で矛盾した自分をそのまま認める点に、本作の率直さがよく表れている。

3. NASA

恋愛関係にありながら、一人になるための空間を必要とする心理を、宇宙と距離の比喩で描いた曲。“space”を物理的な宇宙と人間関係上の距離の両方へかける発想が、軽妙なポップ・ソングへまとめられている。

低音の効いたトラップ・ビートに対し、コーラスは明るく開ける。歌詞では、愛しているから常に一緒にいたいという考えを否定し、距離を取ることが関係維持に必要だと主張する。「needy」で依存を認めた直後に、今度は一人でいる必要性を歌う構成によって、本作の主人公が一貫した答えを持っていないことが分かる。

4. bloodline

軽快なホーンとトラップ・ビートを組み合わせた、アルバム中でも特に外向きな曲。タイトルの“bloodline”は家系や血統を意味するが、ここでは相手を人生へ深く組み込みたくないという意味で使われる。

身体的な関係は楽しみたいが、家族や将来にまでつながる本格的なパートナーシップは求めないという態度が明確である。華やかなサウンドに対して歌詞はかなり防御的で、親密さを限定するための境界線が引かれている。欲望を肯定しながら、感情的な責任は避けようとする矛盾が、失恋後の自己防衛として聞こえる。

5. fake smile

有名人として常に明るく振る舞うことへの疲労を扱った曲。公の場では笑顔を要求される一方、内面では悲しみや怒りを抱えている。その不一致を「偽りの笑顔」を拒否することで表現する。

R&B寄りの落ち着いたビートと、淡々としたヴォーカルが中心で、感情を爆発させるより消耗感を聞かせる。Arianaはここで、悲しみを克服した人物として自己演出すること自体を拒む。アルバムが発売された時期の彼女をめぐる過剰なメディア注目を背景に考えると、私生活が公共の物語へ変換されることへの抵抗としても読める。

6. bad idea

「良くないと分かっている行動」にあえて身を任せる衝動を描いた曲。失恋や孤独から逃げるため、別の相手や一時的な快楽へ向かう心理が中心にある。

サウンドは本作の中でも劇的で、トラップ・ビートの上にストリングス風の音が加わり、後半では展開が大きく変化する。Arianaのヴォーカルも通常より押しが強く、自制が効かなくなる感覚を演出する。歌詞は行動を肯定しているわけではなく、自分でも「bad idea」と認識しながら実行してしまう点にリアリティがある。

7. make up

恋人と喧嘩し、仲直りする過程そのものに刺激を感じる関係を描く。タイトルは「仲直りする」と「化粧する」の意味を重ねた言葉遊びになっており、歌詞でも美容や外見の語彙が恋愛の駆け引きへ接続される。

曲は短く、軽いビートと浮遊感のあるコーラスが中心。健全な関係を描くというより、対立と和解を繰り返すことが一種の依存的な快楽になっている。深刻なテーマが多いアルバムの中で一見軽快だが、不安定な関係を刺激として消費する心理を扱っている点では全体の流れから外れていない。

8. ghostin

本作で最も重い感情を扱うバラード。現在のパートナーと一緒にいながら、亡くなった別の人物への思いを捨てられず、そのことで現在の相手を傷つけてしまう状況が描かれる。

環境音のように広がるシンセと非常に抑えたビートによって、曲全体がほとんど無重力の状態に置かれる。Arianaの声も多重化されるが、通常の華やかなコーラスというより、記憶が周囲を漂うような使われ方をしている。罪悪感、喪失、愛情が分離できないまま共存し、誰かを愛することが別の誰かを忘れることにはならないという残酷な現実を描く。本作の感情的な中心である。

9. in my head

実在の相手そのものではなく、自分が頭の中で作り上げた理想像に恋をしていたと気づく曲。失恋後の自己分析として、「相手が変わった」のではなく、自分が最初から別の人物像を投影していた可能性へ踏み込む。

トラップ・ビートは比較的硬く、ヴォーカルにも苛立ちがある。だが批判の矛先は相手だけでなく、自分自身へ向けられる。恋愛の幻想が壊れる過程を「相手の本性を知った」と整理せず、自分の認識の歪みまで問題にすることで、アルバム後半の自己理解を深めている。

10. 7 rings

Richard RodgersとOscar Hammerstein IIによる「My Favorite Things」の旋律を引用し、友情、消費、金銭的成功をトラップ・ポップへ変換した曲。アルバム中でも最も派手で、ラップに近いフロウと重い低音が中心となる。

歌詞では、悲しみを買い物や友人への贈り物で埋めようとする姿勢が描かれる。表面的には成功と富の誇示だが、アルバムの文脈では明らかに対処行動の一つである。感情的な穴を物質で埋める行為が誇らしげに歌われることで、強さと脆さが同時に現れる。ポップ・スターとしての権力を誇示しつつ、その権力でも喪失そのものは消せないという皮肉が残る。

11. thank u, next

過去の恋人たちを否定するのではなく、それぞれの関係から学んだことを受け取り、次へ進むという発想を提示したタイトル曲。固有の過去を歌いながら、失恋ソングの定型である恨みや復讐から距離を置いたことで、極めて大きな共感を集めた。

サウンドは意外なほど控えめで、柔らかなシンセとR&B的なビートが中心。大きなアンセムへせず、会話のような歌唱を保つことで、自己啓発的な説教臭さを避けている。ここで語られる自己愛も完成形ではなく、過去を整理するための一つの言葉に近い。アルバム全体の混乱を完全に解決する曲ではないからこそ説得力がある。

12. break up with your girlfriend, i’m bored

アルバム最後に置かれるのは、成熟した自己受容ではなく、再び欲望と衝動へ戻る曲である。既に恋人がいる相手に対し、別れて自分のところへ来るよう求めるという挑発的な設定を、暗いR&B/トラップのサウンドで描く。

低くうねるベースと囁くようなヴォーカルが、性的な緊張を作る。タイトル曲で「次へ進む」と歌った直後に、倫理的にも感情的にも危うい行動を提示することで、本作はきれいな成長物語になることを拒む。人間はひとつの悟りを得たからといって、その翌日から一貫して賢く振る舞えるわけではない。その矛盾を残したまま終わることが、thank u, nextのリアリズムでもある。

総評

thank u, nextは、失恋や喪失から立ち直った後の作品ではなく、その最中に作られたアルバムである。そこが最大の特徴であり、同時に作品全体の不安定さの源でもある。「needy」で依存を認め、「NASA」で距離を求め、「bloodline」で深い関係を拒み、「ghostin」で忘れられない相手を抱え、「thank u, next」で前進を宣言した直後に「break up with your girlfriend, i’m bored」で再び衝動へ戻る。この矛盾は構成上の欠陥ではなく、回復というものが直線的には進まないことをそのまま示している。

サウンド面では、その感情の揺れに対して驚くほど統一されている。808、トラップ由来のハイハット、柔らかなシンセ、ミニマルなコード、重層的なヴォーカルがアルバム全体を貫き、曲ごとにジャンルを大きく変えることは少ない。SweetenerにあったPharrellの遊び心や変則性に比べると音響の幅は狭いが、その狭さが私的な日記のような集中力へつながっている。

Arianaの歌唱も、本作では大声量や超高音だけで評価すべきではない。多くの曲で彼女は声を抑え、囁き、語り、フレーズの後ろへわずかに遅れて入る。何層にも重ねられたセルフ・ハーモニーはR&Bの伝統を受け継ぎつつ、主旋律の感情を細かく分裂させる役割を持つ。「ghostin」の浮遊するコーラスや「needy」の倦怠感は、ヴォーカル・アレンジそのものが心理描写になっている好例である。

歌詞の強みは、Ariana自身を完全な被害者にも、完全に自立した人物にも見せないところにある。相手へ依存し、時には他者を利用し、物質的な消費へ逃げ、理想像を勝手に投影していたことまで認める。ポップ・アルバムにおける「エンパワーメント」はしばしば傷ついた後に自信を取り戻す物語として整理されるが、本作では自己肯定と自己破壊が同時に進行する。

弱点としては、ミッドテンポとトラップ系のプロダクションが続くため、楽曲の音響的な振幅は大きくない。また、制作時期の即時性ゆえに、歌詞の一部は長期的な視点で整理されたものというより、その瞬間の感情を切り取った性格が強い。しかし、それこそが本作の歴史的な位置づけでもある。SNS時代のポップ・スターが、私生活を過剰に監視される状況の中で、その速度にほぼ匹敵する速さで作品を作り、自分の物語を自分の言葉で更新した。

thank u, nextは、2010年代後半のメインストリーム・ポップにおいて、R&Bとトラップの語法が完全に中心へ移った時代を象徴すると同時に、Ariana Grandeを単なる卓越したヴォーカリストから、アルバム単位で自己像を構築できるアーティストへ押し上げた作品である。感情を乗り越えた記録ではなく、感情の中を移動し続ける記録であることが、このアルバムを同時代の失恋ポップから際立たせている。

おすすめアルバム

Sweetener by Ariana Grande

2018年発表の前作。Pharrell Williamsによるファンク、R&B、エレクトロニックの変則的なプロダクションと、Max Martin系の精密なポップが共存する。thank u, nextがそこからより暗く、簡潔で私的な音響へ移ったことを比較できる。

Positions by Ariana Grande

2020年発表。R&B、トラップ、ストリングス、多重コーラスをさらに滑らかに統合し、恋愛と親密さをより安定した視点から描いた作品。thank u, nextの不安定な感情が、その後どのように成熟したサウンドへ変化したかが分かる。

ANTI by Rihanna

2016年発表。メインストリーム・ポップの定型から距離を置き、R&B、トラップ、ダンスホール、サイケデリアを通じて、より私的で曖昧な自己像を提示した作品。ヒット志向と内省性を両立する点でthank u, nextと共通する。

CTRL by SZA

2017年発表。恋愛における嫉妬、依存、自己嫌悪、欲望を、理想化せず矛盾したまま描いた現代R&Bの重要作。自己肯定と不安が同居する歌詞の率直さは、thank u, nextの感情的な語り口と強く響き合う。

My Everything by Ariana Grande

2014年発表。EDM、R&B、ポップを横断しながらArianaを世界的なポップ・スターへ押し上げた初期代表作。そこでは卓越した歌唱力とシングル性が中心だったが、thank u, nextと比較すると、5年間で彼女のアルバム作家としての視点がどれほど深まったかを確認できる。

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