
1. 歌詞の概要
Charli XCXの「You (Ha Ha Ha)」は、初期Charliらしい毒のあるポップ感覚が、きらめくエレクトロ・サウンドの中で炸裂する楽曲である。
タイトルだけを見ると、軽い。
「You」
そして「Ha Ha Ha」。
笑っている。
けれど、この笑いは明るい笑顔ではない。
相手を突き放す笑い。
裏切られたあとに出る乾いた笑い。
泣く代わりに笑ってみせる、少し強がった笑い。
そんな感情が、この曲にはある。
「You (Ha Ha Ha)」は、Charli XCXのメジャー・デビュー・アルバム『True Romance』に収録された楽曲で、2013年2月にシングルとしてリリースされた。楽曲はGold Pandaの「You」を大きくサンプリングしており、そのループが曲全体の幻惑的な土台になっている。(Wikipedia, Pitchfork)
この曲の語り手は、相手に傷つけられている。
でも、ただ泣いているわけではない。
相手の嘘や不誠実さを見抜き、もう自分はそのゲームから降りるのだと言う。
そこには怒りがある。
しかし、その怒りは重いロックの叫びではなく、キャンディのように甘い電子音に包まれている。
ここがCharli XCXらしい。
感情は暗い。
でも音は光る。
歌詞は辛辣。
でもメロディはキャッチー。
恋の失敗を、悲劇ではなく、ポップな復讐劇へ変えてしまう。
Pitchforkは『True Romance』のレビューで、この曲を「gorgeously bitter」と評している。つまり、美しく、同時に苦い曲である。Gold PandaのサンプルとCharliの声が、最初から一緒に存在していたかのように噛み合っているとも述べている。(Pitchfork)
まさにその通りである。
「You (Ha Ha Ha)」は、甘い。
でも苦い。
踊れる。
でも刺さる。
かわいい。
でも怖い。
2010年代初頭のインターネット・ポップ、Tumblr的なビジュアル感覚、ゴスとギャルとレイヴが混ざったような空気。
そのすべてが、この曲の中でコンパクトに輝いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「You (Ha Ha Ha)」が発表された2013年前後のCharli XCXは、後のハイパーポップ的な未来志向のアイコンになる前の、少し暗く、少しゴシックで、少し手作り感のあるポップスターだった。
『True Romance』は、彼女の初期美学を凝縮したアルバムである。
シンセ・ポップ。
ゴス・ポップ。
クラウド・ラップ的な空気。
R&Bの影。
インディー・エレクトロ。
そして、恋愛の終わりを映画のように美化しながらも、どこか冷めた目で見つめる歌詞。
「You (Ha Ha Ha)」は、その中でも特にわかりやすくCharliの個性が出た曲だ。
Gold Pandaの「You」をサンプリングしたループは、きらきらしているのに、どこか不穏である。WhoSampledでも、Charli XCXの「You (Ha Ha Ha)」がGold Pandaの「You」をサンプリングしていることが確認できる。(WhoSampled)
このサンプルの使い方が絶妙だ。
Gold Pandaの原曲には、反復する電子音の中に、少しノスタルジックで陶酔的な響きがある。
Charliはそれを、失恋後の冷笑と結びつけた。
つまり、夢のような音の上で、かなり辛辣なことを歌っている。
このズレがいい。
明るい音に暗い歌詞を乗せる。
甘い声で毒を吐く。
相手を責めながら、それをポップなフックへ変える。
この手法は、後のCharli XCXにもつながっていく。
彼女の音楽は、しばしば感情をそのまま泣かせるのではなく、スタイルに変える。
怒りも、未練も、嫉妬も、孤独も、クラブで鳴る形へ変換する。
「You (Ha Ha Ha)」は、その初期の好例である。
この曲は、The Guardianの記事では、すでに始まる前から失敗する運命にある新しい関係について書かれた曲として紹介され、Charli本人が「angel-pop」と表現したことにも触れられている。(The Guardian)
「angel-pop」という言葉は、とてもよく似合う。
天使のように甘い。
でも、完全に清らかではない。
羽には少し黒い影がある。
夜の街で光るネオンの天使。
そんな雰囲気だ。
ミュージック・ビデオも、曲のイメージを強く印象づけた。
Pitchforkは、Ryan Andrewsが監督したビデオについて、90年代初頭のレイヴ的な美学をまとい、厚底靴やキャンディカラーの髪をした女の子たちが銃工場でパーティーする映像だと紹介している。(Pitchfork)
この映像は、公開後に銃のイメージをめぐって反応も呼んだ。Charliは手書きの声明で、ビデオはグラインドハウス映画や強い女性キャラクターへのオマージュであり、「make lipstick, not war」という意図だったと説明している。(Pitchfork)
この騒動も含めて、「You (Ha Ha Ha)」は初期Charli XCXの危うい魅力をよく示している。
かわいさと暴力性。
ポップと反抗。
遊びと不穏。
ガール・ギャング的な美学と、恋愛の痛み。
その全部が、まだ粗いまま混ざっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞全文は著作権で保護されているため、ここでは短い一節のみを引用する。歌詞の確認にはDork掲載情報を参照した。(Dork)
You fucked it up
和訳:
あなたが全部台無しにした
この一節は、「You (Ha Ha Ha)」の感情を非常に端的に表している。
ここには、遠回しな表現がない。
あなたが壊した。
あなたが失敗した。
あなたが台無しにした。
恋愛の終わりを、きれいな比喩に包んでいない。
相手に向かって、はっきりと責任を突きつける。
その直接性が、この曲の強さである。
ただし、Charliの歌い方は怒鳴り散らすようなものではない。
むしろ、少し笑っている。
だからこそ怖い。
本気で怒っているとき、人は叫ぶこともある。
でも、もう相手に期待していないときには、笑うこともある。
「Ha Ha Ha」というタイトルの笑いは、その冷えた感情に近い。
怒りが熱を失い、冷たいポップになった瞬間。
それがこの曲の一番おいしいところだ。
歌詞引用元:Dork掲載歌詞。著作権は各権利者に帰属する。(Dork)
4. 歌詞の考察
「You (Ha Ha Ha)」の歌詞は、別れのあとに残る怒りと優越感を描いている。
語り手は傷ついている。
しかし、ただ傷ついた側にとどまらない。
相手を笑う。
相手の失敗を指差す。
自分がもうそこから抜け出していることを示そうとする。
この曲の面白いところは、感情が完全には整理されていない点である。
「あなたが台無しにした」と言っている。
「もういらない」と言っている。
しかし、歌にしている時点で、その相手はまだ頭の中に残っている。
つまり、語り手は相手を切り捨てながら、同時に相手を反復している。
ここに失恋ソングの矛盾がある。
本当にどうでもいい相手なら、歌にはならない。
笑い飛ばしているように見えて、まだ感情が残っている。
でも、その感情を「未練」として見せるのは悔しい。
だから、笑う。
だから、毒を吐く。
だから、相手の失敗として物語を作り直す。
「You (Ha Ha Ha)」は、この物語の作り直しの曲である。
関係が終わった。
自分は傷ついた。
でも、そのままでは終わらせない。
相手を笑いものにして、ポップソングの中で自分の勝ちに変える。
この感覚は、Charli XCXのポップスター性と深く結びついている。
彼女は、感情をそのまま弱さとして出すのではなく、スタイルにする。
失恋をグリッターに変える。
怒りをフックに変える。
傷をMVの衣装や色やポーズに変える。
「You (Ha Ha Ha)」では、その変換がとても鮮やかだ。
サウンド面では、Gold Pandaのサンプルが曲の核心にある。
このサンプルは、少し夢見心地で、少し機械的で、少し酩酊している。
まるで、同じ記憶が頭の中でループしているようだ。
Charliの歌詞も、同じように相手への怒りをループさせる。
音がループする。
感情もループする。
「you」という言葉もループする。
その結果、曲全体が、失恋後の思考のループのように聞こえる。
相手の言葉を思い出す。
あの瞬間を思い出す。
どうしてあんなことをしたのかと考える。
そして最後には、「まあ、あなたが台無しにしたんだけどね」と笑う。
この笑いは、防御である。
傷ついた人が、自分の尊厳を守るために笑う。
本当は痛いのに、痛くないふりをする。
しかし、そのふりがあまりにもポップで、かっこいい。
「Ha Ha Ha」という表記にも注目したい。
普通の笑い声なら「haha」でもいい。
しかし、括弧に入った「Ha Ha Ha」は、少し人工的に見える。
自然な笑いではなく、演出された笑い。
字幕のような笑い。
SNSの投稿に置かれた冷笑のような笑い。
この人工性が、曲の時代性と合っている。
2010年代初頭のインターネット・ポップでは、感情はそのままではなく、画像、GIF、投稿、スタイル、引用として流通していた。
「You (Ha Ha Ha)」も、まさにその空気を持つ。
失恋した。
でも、それをTumblrに載せられるような美学に変える。
涙ではなく、キャンディカラーの髪、厚底靴、銃工場、リップスティック、電子音のループとして表現する。
この感覚は、今聴くと少し懐かしい。
現在のCharli XCXは、よりクラブ寄りで、より自己言及的で、より過激なポップ実験を行っている。
しかし「You (Ha Ha Ha)」には、その前段階の、まだ暗いベッドルームとインターネットの光を行き来していたCharliがいる。
『True Romance』というアルバム・タイトルも重要だ。
「真実のロマンス」と言いながら、アルバムにはかなり歪んだ恋愛が詰まっている。
甘いだけの恋ではない。
欲望、嫉妬、夜、ドラッグのような陶酔、裏切り、執着。
その中で「You (Ha Ha Ha)」は、失敗した関係を笑い飛ばす曲として光っている。
Pitchforkがこの曲を2013年の年間ベスト・トラックに選んだことも、その時代性をよく示している。(Pitchfork)
「You (Ha Ha Ha)」は、単なるアルバム曲ではなく、2013年のポップのひとつのモードを象徴していた。
インディーとメインストリームの境目。
サンプル文化とポップ・ソングライティングの融合。
暗い美学とキャッチーなフック。
ガール・パワーと失恋の毒。
その交差点に、この曲がある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Nuclear Seasons by Charli XCX
『True Romance』の冒頭を飾る楽曲で、初期Charliのゴシックで映画的なポップ感覚がもっとも濃く出た曲のひとつである。「You (Ha Ha Ha)」の暗い輝きが好きなら、この曲の終末的なシンセと恋愛の破滅感も響くはずだ。
- What I Like by Charli XCX
同じく『True Romance』収録曲で、「You (Ha Ha Ha)」よりも少し柔らかく、若い恋の甘さが前に出た曲である。Pitchforkの『True Romance』レビューでも「You (Ha Ha Ha)」と並んで高く触れられている。(Pitchfork) 初期Charliのロマンティックな側面を知るには重要な曲だ。
- You by Gold Panda
「You (Ha Ha Ha)」の土台となったサンプル元である。Charli版を聴いたあとに原曲を聴くと、同じループがまったく違う表情を持っていることがわかる。Gold Panda版はよりインストゥルメンタルで、淡い電子音の反復そのものを楽しめる。
- Everything Is Embarrassing by Sky Ferreira
2010年代初頭の暗く甘いインディー・ポップの空気を共有する名曲である。恋愛の痛み、冷めた目線、80年代的なシンセのきらめきがあり、「You (Ha Ha Ha)」のゴス・ポップ的な美学と相性がいい。
同時期のインターネット以後のポップを象徴する曲である。高い声、電子音、かわいさと不穏さの同居という点で、初期Charliの世界と深く響き合う。「You (Ha Ha Ha)」のキャンディカラーの毒が好きなら、この曲の無重力な怖さも刺さる。
6. 笑い声で失恋を切り返す、初期Charli XCXの毒
「You (Ha Ha Ha)」は、Charli XCXの初期キャリアを語るうえで欠かせない曲である。
この曲には、後のCharliにつながる要素がすでにたくさんある。
サンプルの大胆な使い方。
甘い声と辛辣な歌詞のギャップ。
失恋を弱さではなくスタイルに変える感覚。
インターネット的なビジュアル美学。
そして、ポップでありながら少し危険な匂い。
この曲の笑い声は、ただの笑いではない。
「Ha Ha Ha」は、勝利の笑いであり、防御の笑いであり、冷笑であり、強がりである。
相手に傷つけられたあと、自分が負けたままでは終わらないための笑いだ。
Charliは、この笑いをフックに変えた。
そこが素晴らしい。
失恋の曲は、涙で終わることが多い。
しかし「You (Ha Ha Ha)」は、涙を見せない。
代わりに、笑う。
そしてその笑いを、きらめく電子音の上で反復する。
その結果、曲は悲しいのに、強い。
痛いのに、踊れる。
毒があるのに、ポップとして気持ちいい。
Gold Pandaのサンプルは、夢のように美しい。
Charliの歌詞は、現実的に苦い。
この二つが重なることで、「You (Ha Ha Ha)」はただの失恋ソングではなく、記憶の中で相手を何度も笑い飛ばすための電子ポップになる。
2013年のCharli XCXは、まだ世界的なポップスターとしての巨大な姿になる前だった。
しかし、この曲にはすでに彼女の核がある。
かわいいだけではない。
怒っているだけでもない。
傷ついているだけでもない。
その全部を同時に抱えながら、キャッチーな曲にしてしまう。
「You (Ha Ha Ha)」は、初期Charli XCXの毒入りキャンディのような一曲である。
甘くて、きらきらしていて、噛むと少し舌がしびれる。
そして一度聴くと、その笑い声が頭の中で何度も戻ってくる。

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