
楽曲の概要
「Good Ones」は、Charli XCXが2021年9月に発表したシングルで、翌2022年の5作目のスタジオ・アルバム『CRASH』に収録された楽曲である。Charli XCXとスウェーデンのプロデューサー/ソングライターOscar Holterが制作し、Holterがプロデュースを担当した。2分16秒ほどの短い曲で、脈打つシンセサイザー、硬い電子ドラム、簡潔なメロディを組み合わせたダークなシンセ・ポップとなっている。
この曲は、2020年の『how i’m feeling now』から大きく方向を変える新章の第一弾として発表された。Charliは当時、自らを誇張した「ポップスター」として演じ、名声、セックス、グラマー、ヒット曲といったメインストリーム・ポップの記号を意識的に取り込む方向を打ち出していた。「Good Ones」はその方針を非常に分かりやすいポップ・ソングとして実践しながら、歌詞では安定した恋愛を自分から壊してしまう自己破壊的な心理を扱っている。
歌詞の概要
「Good Ones」で描かれるのは、良い恋人を失ってから、その原因が自分自身にあったと気づく語り手である。相手は十分に愛情を与えてくれたにもかかわらず、語り手はその安定を受け入れられなかった。むしろ危険だったり、感情を乱されたりする関係に惹かれてしまい、本当に大切にしてくれる「good ones」を手放してしまう。失恋した相手を責めるのではなく、自分の恋愛パターンを認識している点が、この曲の中心になっている。
ここでの「good ones」は、単純に「いい人たち」という意味以上の働きをする。語り手にとってそれは、安心して愛せる相手、健全な関係、幸福になれる可能性そのものを指しているように読める。しかし彼女は、そうしたものを欲しがりながら、実際に手にすると逃げてしまう。危険な相手に惹かれることと、安全な相手を退屈に感じることが裏表になっており、自分でも理解している悪い習慣を止められない。
そのため、歌詞には後悔があるものの、典型的な失恋バラードのような悲嘆には向かわない。語り手は自分の欠点をかなり冷静に把握しており、それを直ちに克服したとも語らない。「どうして良い人たちを手放してしまうのか」という問いが答えのないまま残ることで、自己分析と自己破壊が同時に存在する。自分の問題を理解していることと、その問題から抜け出せることは別だという、少し厄介な感情が描かれている。
制作背景・時代背景
「Good Ones」の前作にあたる『how i’m feeling now』は、COVID-19によるロックダウン下の2020年に約5週間で制作されたアルバムだった。Charliは制作過程をファンと共有し、A. G. Cookらとともに鋭く加工された電子音や大胆なボーカル処理を使いながら、孤立した生活での感情を直接的に作品へ落とし込んだ。実験性と個人的な内容が密接に結びついた作品であり、彼女のキャリアでも特に特殊な制作環境から生まれている。
その次に発表された「Good Ones」では、方向が意図的に反転した。Atlantic Recordsの当時の公式資料では、この曲を新しい章の始まりと位置づけ、Charliが現代のメインストリーム・ポップスターに伴う名声やグラマーを積極的に受け入れるものとして紹介している。本人もこの時期に「ultra popstar」という考え方を示しており、アンダーグラウンドとメインストリームの境界を行き来してきた自分自身を、今度は意識的に商業的なポップスターとして演出していった。
これは単純に実験的な音楽をやめて売れ線へ移ったということではない。Charli XCXは「I Love It」「Boom Clap」などのヒットに関わる一方、『Vroom Vroom』『Pop 2』『Charli』ではSOPHIEやA. G. Cookらとの仕事を通じて、従来のポップを極端に変形したサウンドを追求してきた。『CRASH』期では、その両方を知っている彼女が、1980年代的なシンセ・ポップや大手レーベル的なスター像を意識して「王道」を演じること自体が作品の仕掛けになっている。「Good Ones」は、そのコンセプトを最もコンパクトに示した先行シングルだった。
歌詞の抜粋と和訳
この曲を理解するうえでは、「good ones」という言葉が何度も戻ってくることが重要である。ここで語り手が失っているのは、単に魅力的だった元恋人ではない。自分を大切にしてくれる相手を選び、安定した関係を続ける可能性まで、自分自身の行動によって手放している。
また歌詞には、相手から十分に愛されていたという認識もある。つまり「愛情が足りなかったから別れた」という説明は成立しない。それでも逃げてしまったという矛盾があるからこそ、「Good Ones」は相手への未練よりも自分自身への疑問を歌った曲として聞こえる。幸福を望みながら幸福を壊してしまうという構図が、短い歌詞の中で繰り返されている。
サウンドと歌詞の考察
「Good Ones」でまず耳に入るのは、低い位置で脈打ち続けるシンセサイザーである。音色そのものは暗く、細かいパルスが機械的に反復されるため、曲には最初から緊張がある。その上に電子ドラムが強い拍を置き、ダンス・ポップとして身体を動かせるリズムを作る。明るいコードと大きな多幸感で盛り上げるタイプのクラブ・ポップではなく、暗い部屋で照明が規則的に点滅しているような感触だ。失恋を扱いながらバラードへ向かわないことが、この曲の第一のポイントである。
この反復するシンセは、歌詞に描かれた自己破壊のパターンともよく合う。語り手は一度だけ恋愛に失敗したのではなく、良い相手を選べないという習慣そのものを問題にしている。シンセも同じ短い動きを何度も繰り返し、そこから簡単には抜け出さない。そのため曲を聴いていると、語り手が「次こそは違う」と前進するより、同じ場所を何度も回っているような感覚が生まれる。踊れるビートなのに心理的には停滞しているという矛盾が、歌詞の内容を音で補強している。
ヴォーカルでは、Charliが感情を過剰に露出させないことが重要である。ヴァースでは比較的低い声域を使い、言葉を短く切りながら冷静に状況を説明する。ところが音数が減る部分では声がより繊細になり、強気なポップスターの表面から後悔が少しだけ覗く。Pitchforkも当時のレビューで、力強いプロダクションから孤独なシンセとファルセットへ移る瞬間に注目していた。大声で泣き叫ぶのではなく、整ったポップ・プロダクションの隙間から弱さが見えるため、歌詞の自己認識がかえって生々しく聞こえる。
サビも非常に効率的に作られている。複雑な言葉で恋愛心理を説明するのではなく、「良い人を手放してしまう」という中心的な考えを短いフレーズに集約し、それをビートに強く結びつける。メロディも一度で覚えやすく、曲が終わった後には自己破壊という重いテーマより先にフックが残る。この「悲しい内容を快楽的なポップへ変換する」方法は、Charli XCXが以前から得意としてきたものだ。「Good Ones」では実験的な音響処理を抑えることで、そのソングライティングの骨格がむしろはっきり見える。
もう一つ特徴的なのが、曲の短さである。2分少々で終わるため、一般的なポップ・ソングなら期待される長いブリッジや最終サビの大爆発をほとんど待たずに曲が終わる。Pitchforkのレビューでも、この曲がもう少し長くてもよいほど短いことが指摘されていた。この物足りなさは、結果として歌詞と奇妙な一致を生んでいる。語り手は良い関係を十分に味わう前に手放し、曲そのものも聴き手が満足しきる前に消えてしまう。「良いものほどすぐ失ってしまう」という感覚が、再生時間にまで入り込んでいるように聞こえる。
『CRASH』期のコンセプトとの関係では、音楽そのものが「メインストリームのポップスターを演じる」という発想を担っている。Oscar Holterのプロダクションは輪郭が明確で、ヴォーカル、シンセ、ドラムの役割がすぐ理解できる。『how i’m feeling now』のように音が崩壊寸前まで歪んだり、展開が突然切断されたりする場面は少ない。それでも歌詞の中心には、完璧なポップスター像とは相反する不安定な人物がいる。表面は洗練されているのに、中身は自分で幸福を壊してしまう。この食い違いこそ、「Good Ones」が単なる1980年代風シンセ・ポップの再現に終わらない理由である。
ミュージック・ビデオでCharliが恋人の葬儀に参加するという極端な設定を採用したことも、この二重性をさらに強めた。本人は当時、人生の「goodness」を捨てて「sinister」なものを選んでしまうという趣旨で映像を説明している。曲だけでも自己破壊の構図は明確だが、映像ではそれを葬儀、黒い衣装、振付、スター然とした演技へ拡大した。『CRASH』期のCharli XCXは、内面をそのまま告白するのではなく、ポップスターという人工的なキャラクターを大きく演じることで、逆に自分の厄介な感情を見せている。「Good Ones」はその方法を最初に提示した曲だった。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「New Shapes」 by Charli XCX feat. Christine and the Queens & Caroline Polachek
同じ『CRASH』期のシングルで、恋愛を続けられない人物の心理を1980年代風シンセ・ポップに乗せる。「Good Ones」の自己破壊というテーマを、より会話的な形で広げたような曲である。
「Gone」 by Charli XCX feat. Christine and the Queens
不安や孤独を強いダンス・ビートへ変えるという点で「Good Ones」とつながる。「Gone」のほうが展開や電子音は大胆で、『CRASH』以前の実験的なCharliとの違いを比較しやすい。
「Dancing on My Own」 by Robyn
孤独や失恋を、悲しいバラードではなくダンスフロアの高揚感へ変換したシンセ・ポップ。「Good Ones」にある「踊れるのに感情は痛い」という構造を理解するうえで重要な先行例の一つである。
「Blinding Lights」 by The Weeknd
暗い感情と1980年代的なシンセサイザーを、極めて簡潔なポップへまとめた大ヒット曲。「Good Ones」と同じく、ノスタルジックな音色を現代的な低音と明瞭なビートで更新している。
「Physical」 by Dua Lipa
硬いシンセと休まず進むビートによって、1980年代的なダンス・ポップを現代化した曲。「Good Ones」より開放的で力強いが、短いフレーズと電子音で勢いを維持するプロダクションには共通点がある。
まとめ
「Good Ones」は、Charli XCXが実験的なポップの先駆者というイメージをいったん横に置き、意識的に「大きなポップスター」を演じ始めた『CRASH』期の入口である。Oscar Holterによる脈打つシンセと硬いダンス・ビートは驚くほど簡潔だが、その中央にいる語り手は幸福を素直に受け入れられず、自分を愛してくれる相手ほど手放してしまう。反復するリズム、感情を抑えた歌唱、2分少々で突然終わる構成までが、その自己破壊的な循環と結びついている。華やかなメインストリーム・ポップの形式を使いながら、その内部に不安定な人物像を置くという『CRASH』の仕掛けを、最も短く明快な形で示した一曲である。
参照元
- Atlantic Records / Charli XCX 2021 Biography
- Charli XCX / 『CRASH』
- Pitchfork / 「Good Ones」Track Review
- Pitchfork / Charli XCX Shares Video for New Song “Good Ones”
- Pitchfork / The 100 Best Songs of 2021

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