Wisdom by The Brian Jonestown Massacre(1996)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Wisdom」は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が1996年にリリースしたアルバム『Methodrone』に収録された楽曲であり、シューゲイザー/ドリームポップとサイケデリック・ロックの交差点に咲く、儚くも美しい叙情詩である。
タイトルの“Wisdom(知恵、叡智)”は、スピリチュアルな探求や人生の迷い、あるいは自己との静かな対話を想起させる語であり、曲全体もまるで心の奥底で独り語りを続けるような内省性に満ちている。

歌詞は抽象的でありながらも、一貫して「自分は何者か」「愛や真理とは何か」といった普遍的テーマに触れており、静けさの中に哲学的な振動をはらんでいる。反復されるコード進行と浮遊感のあるサウンドスケープが、意識と無意識のあわいをたゆたうような感覚をリスナーにもたらす。歌詞の細部が曖昧なほど、そこに自分の感情や問いを投影できる――まさに“Wisdom”という抽象的なテーマにふさわしい構造となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

本楽曲が収録された『Methodrone』は、BJMにとっての事実上のファースト・フルアルバムであり、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやRide、Spacemen 3などの影響を色濃く感じさせるシューゲイザー的アプローチが際立つ作品群である。その中でも「Wisdom」は、静謐で内省的なムードを湛えたナンバーで、バンドの中でも最もメランコリックで美しい楽曲のひとつとして位置づけられている。

アルバム全体が“サイケデリックの夢”を追体験するかのような構造を持っており、「Wisdom」はその夢の中でふと立ち止まり、己と対話するための“内なる部屋”のような楽曲と言える。ヴォーカルは囁くように低く、ギターは濁ったリヴァーブに包まれ、曲全体が淡く、どこか遠い記憶のように響いてくる。

なお、「Wisdom」はライブでも頻繁に演奏される定番曲でありながら、そのたびにテンポやアレンジが微妙に変化しやすく、“変わらない感情”と“変化する表現”の絶妙なバランスが魅力のひとつとなっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

英語原文:
“And I can see you coming down the street
And I know it’s time to go
And I can hear you calling out to me
And I know I’m not alone”

日本語訳:
「君が通りを歩いてくるのが見える
もう行かなくちゃとわかってる
君が僕を呼ぶ声が聞こえる
ひとりじゃないってわかってる」

引用元:Genius – Wisdom Lyrics

この詩は、「別れ」「旅立ち」「再会」など、複数の感情が交差する瞬間を切り取っており、そこには距離の中にある愛情、沈黙の中にある気配のようなものが感じられる。誰かが現れ、また去っていく。だが、それでも“私は独りではない”と感じられる――それが「Wisdom」の核心である。

4. 歌詞の考察

「Wisdom」は、語り手が人生のなかで自分の中の“静かな確信”と向き合っている楽曲である。
ここで描かれる“知恵”とは、学問や知識の積み重ねではなく、むしろ心の奥にある微かな理解や、身体的な直感に近いものである。何かを知るのではなく、“わかっている”という感覚に身を委ねること――それこそが、この曲のタイトルが指し示す“叡智”なのだ。

また、「君が見える」「声が聞こえる」という描写が連なっていくことで、歌詞は一見、他者との関係を語っているようにも見える。だが、その“君”は実在の誰かではなく、語り手の中のもうひとりの自己、あるいは過去の記憶である可能性もある。そう捉えると、この曲は**“自己受容”や“孤独の肯定”を描いた精神の旅**とも読めるだろう。

反復するサウンドとミニマルな歌詞構造は、まさにその“内的対話”のサウンドトラックとして機能しており、音楽が言葉を超えて感情を運ぶ、BJMの真骨頂が表れている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Sometimes” by My Bloody Valentine
     シューゲイザーの代名詞的名曲。浮遊感と哀しみが共鳴する。

  • “So Hot (Wash Away All of My Tears)” by Spacemen 3
     内面の痛みと救済の繰り返しを美しく表現したサイケ・ゴスペル。

  • “Dreams Burn Down” by Ride
     激情と静寂を同居させたシューゲイズ・バラッド。

  • “Sleep” by The Dandy Warhols
     甘美な憂鬱と催眠的メロディが心を包み込むスローナンバー。

  • Leave Them All Behind” by Ride
     過去との決別と再生の旅を描いた、壮大なサイケ・アンセム。

6. “音の中の静寂”が語る、個の叡智

「Wisdom」は、The Brian Jonestown Massacreの音楽のなかでも、最も内的で、最も静かな叫びを含んだ楽曲である。
この曲において“叫ぶ”とは、音量や激情のことではない。沈黙の中で、自分の存在と向き合うことそのものが叫びなのだ。

人生において、本当の“知恵”はいつも静かなかたちで現れる。
それは誰かから教わるものではなく、自らの心の内からにじみ出る気づきであり、
その瞬間を、BJMはこの楽曲でそっと、しかし確かに音にした。

「Wisdom」は、喧騒のなかに埋もれた**“ひとりでいる勇気”**を、
そしてその先にある“誰かと再び繋がる可能性”を、
静かに、しかし鋭く教えてくれる。

それこそが、この曲の放つ叡智なのだ。

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