
発売日:1972年9月25日
ジャンル:ヘヴィ・メタル、ハード・ロック、ドゥーム・メタル、プロト・メタル、サイケデリック・ロック、プログレッシヴ・ロック要素
概要
Black Sabbathの4作目『Vol. 4』は、初期Black Sabbathの重厚なリフ美学を維持しながら、より実験的で、内省的で、混沌とした方向へ踏み込んだ重要作である。1970年のデビュー作『Black Sabbath』でロックに恐怖と不吉な重さを持ち込み、同年の『Paranoid』で社会批判と強烈なリフを結びつけ、1971年の『Master of Reality』で低く沈むヘヴィネスを極限まで濃縮した彼らは、『Vol. 4』でさらに表現の幅を広げた。
本作は、単に前作までの成功を繰り返したアルバムではない。もちろん「Wheels of Confusion」「Tomorrow’s Dream」「Supernaut」「Snowblind」「Under the Sun」といった楽曲には、Tony Iommiの重いギター・リフ、Geezer Butlerのうねるベース、Bill Wardの肉体的なドラム、Ozzy Osbourneの呪文的なヴォーカルというBlack Sabbathの核がはっきり残っている。しかし同時に、「Changes」のようなピアノ主体のバラード、「FX」のような実験的な音響小品、「Laguna Sunrise」のような美しいアコースティック・インストゥルメンタルが収録されており、バンドが単なる暗黒リフの反復にとどまらず、より広い音楽的領域へ進もうとしていたことが分かる。
『Vol. 4』は、バンドが初めてセルフ・プロデュースに近い形で制作した作品としても重要である。前作までのプロデューサーRodger Bainから離れ、バンド自身がより自由に音作りへ関わったことで、作品には荒さと実験性が増した。音は時に整理されきっておらず、前作『Master of Reality』のような圧倒的な一体感と比べると、曲ごとに方向性が散らばっている印象もある。しかし、その散らばりこそが『Vol. 4』の魅力である。ここには、Black Sabbathが自分たちの可能性を試し、重さ、美しさ、混乱、陶酔を同じアルバム内に押し込もうとする姿がある。
本作を語るうえで避けられないのが、ドラッグ、とくにコカインとの関係である。制作時期のBlack Sabbathはアメリカでの成功を背景に、過剰な生活、薬物、ツアーの疲労、金銭的な混乱の中にいた。もともとアルバムには『Snowblind』というタイトルが予定されていたともされるが、レコード会社側の判断で『Vol. 4』になった。収録曲「Snowblind」は、そのドラッグ体験をもっとも直接的に反映した楽曲であり、アルバム全体にも現実感の揺らぎ、陶酔、疲弊、破滅の気配が漂っている。
ただし、『Vol. 4』は単なるドラッグ・アルバムではない。むしろ、快楽と崩壊が表裏一体であることを音楽的に示した作品である。「Supernaut」のような曲には驚くほどの高揚感とグルーヴがあり、「Snowblind」には白く霞むような陶酔と危険が同居する。「Wheels of Confusion」では混乱する世界認識と時間感覚が描かれ、「Under the Sun」では宗教や社会的権威から距離を取り、自分自身の現実を見つめる姿勢が示される。Black Sabbathの暗さは、悪魔的な演出というより、現実を生きる人間の混乱や逃避の記録として深まっている。
音楽的には、『Vol. 4』はBlack Sabbathの過渡期にある作品である。『Master of Reality』のような徹底した低音の重力から、次作『Sabbath Bloody Sabbath』のより構築的でプログレッシヴな方向へ進む中間地点といえる。リフは相変わらず重いが、曲の展開はより複雑になり、アコースティックな間奏や意外な転調、音響的な実験も増えている。これは、ヘヴィ・メタルが単なるブルース・ロックの暗黒化ではなく、アルバム単位で多層的な表現へ進化していく過程を示している。
Tony Iommiのギターは、本作でも圧倒的な存在感を持つ。「Supernaut」のリフは、Black Sabbathの中でも特に強靭で、後の多くのメタル/オルタナティヴ系アーティストに影響を与えた。「Under the Sun」の重く沈むリフは、ドゥーム・メタルの原型として重要である。一方で「Laguna Sunrise」では、Iommiの繊細なアコースティック・ギターが前面に出る。彼は単なる重いリフの職人ではなく、静かな旋律や雰囲気を作る作曲家でもあることが本作でより明確になる。
Geezer Butlerの歌詞とベースも、アルバムの精神性を支えている。彼の歌詞は、世界への不信、精神の混乱、ドラッグ体験、信仰への疑問、自己認識を扱う。ベースはギターの下で支えるだけでなく、楽曲に不穏なうねりを与え、リフの重さをさらに深くする。Bill Wardのドラムは、ヘヴィでありながらジャズやブルースの揺れを残し、曲に人間的な躍動を与える。Ozzy Osbourneの声は、ここでも技巧ではなく、独特の無垢さと不安によって曲の世界を伝える。
『Vol. 4』は、Black Sabbathのディスコグラフィの中で、最もまとまりがある作品ではないかもしれない。しかし、最も人間的な混乱が刻まれた作品の一つである。重いリフ、ドラッグによる陶酔、内省的なバラード、実験音響、アコースティックの美しさ、社会や宗教への疑問。それらが一枚の中で完全に整理されないまま共存している。この未整理の濃さこそが、本作を単なる名盤以上に、1970年代初頭のBlack Sabbathの危うい生命力を記録した作品にしている。
全曲レビュー
1. Wheels of Confusion / The Straightener
アルバム冒頭の「Wheels of Confusion」は、『Vol. 4』の混沌とした性格を象徴する大曲である。タイトルの「混乱の車輪」は、時間、記憶、人生、社会の中で自分の感覚が回転し続け、安定した答えを見つけられない状態を示している。前作までのBlack Sabbathが恐怖や戦争、終末を描いていたとすれば、この曲ではより内面的な混乱が中心にある。
曲は重く、ゆっくりとした導入から始まる。Tony Iommiのギターは、暗く沈むリフによって、世界が崩れていくような空気を作る。Geezer Butlerのベースはその下でうねり、Bill Wardのドラムは重いテンポの中にも揺れを与える。Ozzyの声は、人生への幻滅を歌いながら、どこか遠くから響くように感じられる。
歌詞では、子どもの頃には世界が明るく見えたが、大人になるにつれて現実の冷たさや欺瞞を知っていくという感覚が描かれる。これはBlack Sabbathにしては非常に普遍的なテーマであり、悪魔や怪物ではなく、人生そのものの幻滅が主題になっている。夢が崩れ、時間が進み、混乱の車輪が止まらない。この感覚は、1970年代初頭の若者文化の疲労とも重なる。
後半の「The Straightener」では、演奏はよりインストゥルメンタル的に展開し、暗い混乱から少し開けた場所へ進むような印象を与える。完全な救済ではないが、重い導入部とは異なる流れが生まれる。この構成により、曲は単なる暗いリフの反復ではなく、心理的な旅のように聴こえる。
「Wheels of Confusion / The Straightener」は、『Vol. 4』が従来のSabbathの重さを保ちながら、より複雑な曲構成と内省へ向かっていることを示すオープニングである。アルバムの不安定さ、実験性、重さが凝縮された重要曲である。
2. Tomorrow’s Dream
「Tomorrow’s Dream」は、比較的コンパクトなハード・ロック曲であり、重いリフと明快な構成を持つ。前曲の長大で混沌とした展開の後に置かれることで、アルバムに勢いと整理された輪郭を与えている。タイトルは「明日の夢」を意味するが、歌詞には明るい希望というより、関係の終わりや新しい場所へ向かう決意が感じられる。
Tony Iommiのリフはシンプルで力強く、Black Sabbathらしい重さを持ちながらも、曲全体は比較的ストレートに進む。Geezer Butlerのベースはギターと一体化し、低音の厚みを加える。Bill Wardのドラムはタイトで、曲を前へ押し出す。Ozzyのヴォーカルはメロディをはっきり歌い、曲にシングル向きの分かりやすさを与えている。
歌詞では、今いる場所や関係から離れ、明日へ向かう語り手の姿が描かれる。これは単純な希望ではなく、どこか疲れた決別に近い。Black Sabbathの世界では、未来は輝かしい約束ではなく、過去から逃れるために向かう不確かな場所である。「Tomorrow’s Dream」という言葉にも、夢と現実の距離が含まれている。
この曲は、『Vol. 4』の中で大きな実験性を担う曲ではないが、アルバム全体のバランスにとって重要である。重く、短く、覚えやすいリフを持つことで、Black Sabbathが依然として強力なハード・ロック・ソングを書く力を持っていたことを示している。
3. Changes
「Changes」は、『Vol. 4』の中でも最も異色で、Black Sabbathのイメージを大きく広げたバラードである。ピアノを中心にした構成で、ギター・リフは前面に出ない。ヘヴィ・メタルの始祖として語られるバンドが、このような繊細で悲痛な曲をアルバムの中核に置いたことは、非常に重要である。
歌詞では、愛する人を失った後の喪失感、変化してしまった人生、戻れない時間が歌われる。ここには悪魔も戦争もドラッグも登場しない。あるのは、極めて個人的で普遍的な悲しみである。Ozzy Osbourneの歌唱は、技巧的ではないが、その素朴さが曲の痛みを強めている。彼の声は、飾らないまま後悔と孤独を伝える。
サウンドは、ピアノとメロトロン風の響きを中心にしており、重さではなく空白と余韻で聴かせる。Black Sabbathの暗さは、ここでは音圧ではなく、心の空洞として表現されている。リフがないにもかかわらず、この曲は非常にSabbathらしい。なぜなら、彼らの本質が単に重いギターではなく、喪失や不安を音にする力にあるからである。
「Changes」は、リリース当時には意外な曲だったはずだが、後年に至るまでBlack Sabbathの重要なレパートリーとして残っている。ヘヴィなバンドが静けさを用いることで、かえって深い暗さを表現できることを示した楽曲である。『Vol. 4』の実験性を象徴する一曲である。
4. FX
「FX」は、非常に短い実験的な音響小品である。通常の意味での楽曲というより、スタジオ内で作られた効果音的なトラックであり、アルバムの流れに奇妙な断絶を作る。Black Sabbathのディスコグラフィの中でも異色の存在である。
音は、ギターや機材の偶発的な響き、エフェクト、金属的な反響によって構成されている。メロディやリズムはほとんどなく、聴き手は一瞬、通常のロック・アルバムから外れた不安定な空間へ放り込まれる。これは、1970年代初頭のロック・バンドがスタジオを実験の場として使い始めていた時代の空気とも関係している。
「Changes」の静かな感情の後に、このような抽象的な音響が置かれることで、アルバムはさらに不安定になる。快適な流れではないが、『Vol. 4』の混沌を考えると、この違和感は作品の一部として機能している。Black Sabbathはここで、リフや歌だけでなく、音そのものの奇妙さにも関心を示している。
「FX」は名曲として語られるタイプのトラックではない。しかし、アルバムの実験性を示す断片であり、Black Sabbathが『Vol. 4』で従来の形式を崩そうとしていたことを象徴している。
5. Supernaut
「Supernaut」は、『Vol. 4』を代表する楽曲の一つであり、Black Sabbathのリフとグルーヴが最も高い次元で結びついた名曲である。Tony Iommiのリフは、重いだけでなく、驚くほど躍動的である。曲全体には、暗さだけでなく、上昇するような高揚感がある。
サウンドは非常に強靭で、Iommiのギター・リフが曲全体を牽引する。Geezer Butlerのベースはそのリフをさらに太くし、Bill Wardのドラムはファンク的ともいえる跳ねを加える。Black Sabbathはしばしば遅く重いバンドとして語られるが、「Supernaut」では重さと運動性が見事に両立している。
歌詞では、山より高く、空を越え、超越した視点へ向かうようなイメージが描かれる。タイトルの「Supernaut」は、宇宙飛行士や精神の旅人のような響きを持つ。これはドラッグ的な高揚としても、現実からの超越願望としても読める。Black Sabbathの暗黒性の中に、珍しく開放的なエネルギーが感じられる。
「Supernaut」は、多くの後続アーティストに影響を与えた曲であり、ヘヴィ・メタルだけでなく、インダストリアル、オルタナティヴ、ストーナー系の文脈でも重要である。重いリフがこれほど身体的なグルーヴを持ち得ることを示した、Black Sabbath屈指の名曲である。
6. Snowblind
「Snowblind」は、『Vol. 4』の中心的な楽曲であり、アルバム制作時のバンドの状況を最も直接的に反映した曲である。タイトルの「Snow」はコカインを示す隠語として解釈され、曲全体には白く霞むような陶酔と危険が漂っている。もともとアルバム・タイトル候補でもあったとされるこの曲は、本作の精神を象徴している。
サウンドは、重く、ゆったりとしながらも、どこか浮遊感がある。Tony Iommiのリフは低く沈み、Geezer Butlerのベースはその下でうねる。Bill Wardのドラムは重さと揺れを同時に作り、Ozzyの声は陶酔したように響く。曲中でさりげなく叫ばれる「cocaine」という言葉も、当時のバンドの生活と曲の主題を直接結びつける。
歌詞では、雪に包まれたような感覚、現実が遠のく陶酔、危険な快楽が描かれる。これは大麻を陽気に称えた「Sweet Leaf」とは異なる。ここでのドラッグ体験には、もっと冷たく、危うい感触がある。白い世界は美しくもあり、同時に視界を奪う。快楽は救済ではなく、破滅への入口にもなる。
「Snowblind」は、Black Sabbathのドラッグ・ソングの中でも特に複雑である。単純な賛歌ではなく、陶酔と崩壊が同時にある。『Vol. 4』全体を覆う過剰さ、疲弊、現実感の揺らぎが、この曲に凝縮されている。
7. Cornucopia
「Cornucopia」は、重く、暗く、どこか奇怪なリフを持つ楽曲である。タイトルは「豊穣の角」を意味し、神話的には豊かさや恵みの象徴だが、曲の雰囲気は明るい豊穣とは程遠い。むしろ、現代社会の過剰や欺瞞、精神的な混乱を暗示しているように響く。
Tony Iommiのリフは、複雑な拍の感覚を持ち、曲に不安定さを与える。重さはあるが、単純に地を這うだけではなく、どこか歪んだ動きをする。Geezer Butlerのベースはその奇妙なリフに絡み、Bill Wardのドラムは変化の多い曲展開を支える。演奏面では、Sabbathの中でも癖の強い曲の一つである。
歌詞では、現実の欺瞞、社会の空虚さ、人間の錯覚が描かれる。豊かさに見えるものが実は虚無であり、外側の華やかさの裏に精神の貧しさがある。これはBlack Sabbathが繰り返し扱ってきたテーマでもある。悪魔や怪物よりも、人間社会の中にある欺瞞が恐ろしいという視点である。
「Cornucopia」は、アルバムの中ではやや地味に聴かれることもあるが、『Vol. 4』の実験的で不安定な側面をよく表している。リフの奇妙さと社会批判的な歌詞が結びついた、深く聴く価値のある楽曲である。
8. Laguna Sunrise
「Laguna Sunrise」は、Tony Iommiによる美しいアコースティック・インストゥルメンタルであり、『Vol. 4』の中で静かな光を放つ楽曲である。タイトルは「ラグナの夜明け」を意味し、カリフォルニアの風景、朝の光、穏やかな空気を連想させる。重く暗い曲が並ぶアルバムの中で、この曲は一瞬の休息として機能する。
サウンドは、アコースティック・ギターを中心に、ストリングス風のアレンジが加わる。Tony Iommiの旋律は非常に繊細で、Black Sabbathが持つもう一つの顔を示している。彼はヘヴィ・リフの創造者であると同時に、静かなメロディを紡ぐ作曲家でもある。
この曲には歌詞がないが、アルバム全体の流れの中で重要な意味を持つ。「Snowblind」や「Cornucopia」の混濁した世界の後に、「Laguna Sunrise」が置かれることで、暗闇の中に一瞬だけ澄んだ風景が現れる。しかし、その美しさは長く続かない。次に来る「St. Vitus Dance」や「Under the Sun」へ向けて、再び現実の重さが戻ってくる。
「Laguna Sunrise」は、Black Sabbathの音楽における美しさを象徴する小品である。重さと静けさ、美と暗黒が同じバンドの中に存在することを示している。『Vol. 4』の多面性を理解するうえで欠かせない曲である。
9. St. Vitus Dance
「St. Vitus Dance」は、比較的短く、ロックンロール色の強い楽曲である。タイトルは、中世に集団的な舞踏やけいれん的な動きと結びつけられた「聖ヴィート舞踏」を連想させる。Black Sabbathらしい不気味な題名だが、曲調は意外に軽快である。
サウンドは、ブルース・ロックや初期ハード・ロックの感覚が強く、リフもコンパクトで分かりやすい。アルバムの中では大きな実験曲ではないが、重苦しい曲が多い中で、短いアクセントとして機能している。Bill Wardのドラムも軽快で、曲にロックンロール的な動きを与える。
歌詞では、恋愛や関係の混乱が扱われている。Black Sabbathの曲としては比較的日常的な題材であり、終末や宗教的テーマから一歩離れている。ただし、タイトルの奇妙さによって、単なる恋愛曲にはならず、不安定な身体感覚や狂騒のイメージが加わる。
「St. Vitus Dance」は、『Vol. 4』の中では小品的な存在だが、アルバムにリズムの変化を与えている。Black Sabbathがブルース・ロックのルーツをまだ強く持っていたことを示す曲でもある。
10. Under the Sun / Every Day Comes and Goes
アルバム最後を飾る「Under the Sun / Every Day Comes and Goes」は、『Vol. 4』の中でも最も重く、ドゥーム・メタル的な迫力を持つ楽曲である。冒頭のリフは極めて低く、遅く、圧倒的であり、後のドゥーム、スラッジ、ストーナー系の音楽に大きな影響を与える原型として聴くことができる。
歌詞では、宗教的権威や社会的な教義への疑問が示される。語り手は、自分に何を信じるべきかを命じる人々を拒み、自分自身の目で世界を見る姿勢を示す。「太陽の下で」生きるという表現には、現実世界を自分の足で歩む感覚がある。これは「After Forever」とは異なる宗教観であり、信仰そのものよりも、他者から押しつけられる信念への反発が中心にある。
曲は、重い導入部からテンポを変え、後半ではより疾走感のある展開に入る。この構成により、閉塞から解放へ向かうような流れが生まれる。ただし、それは明るい救済ではなく、重い現実を認識したうえで前へ進むような感覚である。
「Under the Sun」は、『Vol. 4』の締めくくりとして非常に強い。アルバム全体にあった混乱、陶酔、喪失、実験性を、最後に再び圧倒的なリフの重力へ収束させる。Black Sabbathが持つドゥーム的な本質を最も濃く示す名曲である。
総評
『Vol. 4』は、Black Sabbathの初期作品の中でも特に混沌と実験性が強く表れたアルバムである。『Black Sabbath』『Paranoid』『Master of Reality』の三作でヘヴィ・メタルの基礎を作り上げた彼らは、本作でその基礎を維持しながら、より広い音楽的領域へ踏み出した。重いリフだけでなく、バラード、アコースティック・インスト、音響実験、複雑な曲展開が加わり、Black Sabbathの表現は大きく広がっている。
本作の最大の魅力は、整理されすぎていない危うさにある。『Paranoid』のような代表曲の分かりやすさ、『Master of Reality』のような低音の統一感と比べると、『Vol. 4』は明らかに散漫な部分を持つ。しかし、その散漫さは単なる欠点ではない。1972年のBlack Sabbathが、成功、薬物、ツアー、自己探求、音楽的野心の中で揺れていたことが、アルバム全体に刻まれている。これは混乱の記録であり、その混乱が作品に異様な生々しさを与えている。
「Wheels of Confusion」は、人生への幻滅と混乱を重厚な構成で描き、「Tomorrow’s Dream」はストレートなハード・ロックとしてアルバムに推進力を与える。「Changes」は、Black Sabbathが静かな悲しみを表現できることを証明し、「Supernaut」はリフとグルーヴの結晶としてバンドの代表曲の一つになった。「Snowblind」はドラッグによる陶酔と破滅を象徴し、「Under the Sun」はドゥーム・メタル的な重力を持つ終曲としてアルバムを締めくくる。
Tony Iommiの作曲力は、本作でさらに明確になる。彼は「Supernaut」や「Under the Sun」のような圧倒的なリフを書く一方で、「Changes」や「Laguna Sunrise」のような静かな曲でも重要な役割を果たしている。Black Sabbathの音楽を重いギターだけで説明することはできない。Iommiの強みは、重さと旋律、暗さと美しさを同じ作曲感覚の中で扱える点にある。
Geezer Butlerの歌詞は、本作でも世界への不信と内面的な混乱を描く。「Wheels of Confusion」では大人になることによる幻滅、「Snowblind」ではドラッグの陶酔、「Under the Sun」では押しつけられる信念への反発が表現される。彼の歌詞は、Black Sabbathが単なるホラー的なバンドではなく、現実の苦しみや精神の揺れを扱うバンドであることを示している。
Ozzy Osbourneの歌唱は、本作の多様な楽曲に独特の統一感を与えている。彼は「Changes」では素朴で痛ましい声を聴かせ、「Snowblind」では陶酔したように歌い、「Supernaut」では高揚感を伝える。技巧的な幅ではなく、声そのものが持つ不思議な存在感によって、曲をSabbathの世界へ引き戻している。
Bill Wardのドラムも、アルバムの生命力に大きく貢献している。「Supernaut」のグルーヴ、「Wheels of Confusion」の重い展開、「Under the Sun」の圧力など、彼のドラムは曲を単なるリフの反復にとどめない。初期Black Sabbathの魅力は、後年のメタルのような機械的精密さではなく、ブルースやジャズの影響を残した人間的な揺れにある。本作でもその特質は強く出ている。
『Vol. 4』は、後の『Sabbath Bloody Sabbath』へつながる重要な橋渡しでもある。次作では、よりプログレッシヴで構築的な作風が強まり、キーボードや複雑な構成も増えていく。その前段階として、本作は実験の粗い原石のような位置にある。「FX」や「Laguna Sunrise」のような曲は、Black Sabbathがアルバム内に異質な要素を入れることを恐れなくなっていた証拠である。
本作の弱点は、作品としての統一感がやや揺らいでいる点である。『Master of Reality』のように明確な重さの美学で貫かれているわけではなく、曲ごとの方向性が大きく異なる。そのため、最初は散らかった印象を受けるかもしれない。しかし、聴き込むと、その散らかり方自体が1972年のBlack Sabbathのリアルな姿であることが分かる。過剰な生活、音楽的冒険、精神的疲労、創作意欲。そのすべてが混ざっている。
日本のリスナーにとって『Vol. 4』は、Black Sabbathを代表曲単位ではなく、アルバム単位で深く理解するために重要な作品である。『Paranoid』のような分かりやすい名曲集ではなく、『Master of Reality』のような重さの完成形でもない。本作は、Black Sabbathが自らの暗黒性を保ちながら、バラードや実験音響、アコースティックの美しさまで取り込もうとした、過渡期の野心作である。
『Vol. 4』は、完璧に整ったアルバムではない。しかし、Black Sabbathというバンドの危うさ、創造性、人間的な崩れ方を最も濃く記録した作品の一つである。重いリフの背後には、喪失、陶酔、疑念、混乱、美しさがある。ヘヴィ・メタルが単なる音の暴力ではなく、精神状態そのものを表現する音楽であることを示した、初期Black Sabbathの重要な到達点である。
おすすめアルバム
1. Master of Reality by Black Sabbath
1971年発表の3作目。『Vol. 4』の前作であり、低く重いリフの美学を決定的に押し進めた作品である。「Sweet Leaf」「Children of the Grave」「Into the Void」を収録し、ドゥーム・メタルやストーナー・ロックの原点として重要である。
2. Sabbath Bloody Sabbath by Black Sabbath
1973年発表の5作目。『Vol. 4』で始まった実験性をさらに発展させ、プログレッシヴな構成やキーボード、複雑なアレンジを取り入れた作品である。Black Sabbathが初期の重さからより構築的なアルバム表現へ進んだことを示す重要作である。
3. Paranoid by Black Sabbath
1970年発表の代表作。「War Pigs」「Paranoid」「Iron Man」「Electric Funeral」を収録し、Black Sabbathの楽曲性と社会批判、リフの強さが最も分かりやすく結晶したアルバムである。『Vol. 4』の混沌と比較すると、初期Sabbathの明快な力がよく分かる。
4. Sabotage by Black Sabbath
1975年発表の作品。バンド内部やマネジメントとの問題が反映された、怒りと複雑な構成を持つアルバムである。『Vol. 4』の実験性が、より鋭く、攻撃的で、劇的な形へ進んだ作品として関連性が高い。
5. Dopesmoker by Sleep
2003年に広く知られる形で発表されたストーナー/ドゥーム・メタルの重要作。Black Sabbathの「Sweet Leaf」「Snowblind」「Into the Void」的な重さとドラッグ的陶酔を、極端な長尺形式へ拡大した作品である。『Vol. 4』の遺伝子が後世でどのように発展したかを理解できる。

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