アルバムレビュー：Time for Heroes – The Best of The Libertines by The Libertines

アルバムレビュー

2025.04.212025.04.22

発売日: 2007年10月29日
ジャンル: ガレージロック、ポストパンク・リバイバル、インディーロック

混沌の美学、瞬間の永遠——The Libertines、“英雄たちの時間”を刻む青春の記録集

『Time for Heroes – The Best of The Libertines』は、The Libertinesが2004年の事実上の解散後に初めて公式にリリースしたベスト・アルバムであり、その短くも鮮烈な活動期間に刻まれた“瞬間”を、ひとつの物語として再構成した記録である。

タイトルに掲げられた「Time for Heroes」は、彼らの代表曲のひとつであり、同時にこのアルバム全体のテーマを象徴している。
ここで語られる“英雄”とは、勝利者でも成功者でもなく、夢や友情、反抗心といったかけがえのない衝動を一瞬でも信じた若者たちのことなのだ。

本作は、スタジオ・アルバム2作『Up the Bracket』『The Libertines』の楽曲を中心に、初期のシングルB面やライヴ・バージョンも収録した、コンパクトながら感情濃度の高い構成。
音の粗さや演奏の危うさもそのままに、“完璧でないこと”が彼らのリアルを強く物語る。

1. Up the Bracket
全てはここから始まった。切り裂くようなリフと破れた詩が交錯する、初期UKガレージの金字塔。 “裏通りのランボー”とでも呼ぶべき、文学と混沌の結晶。

2. Time for Heroes
「あなたは反乱軍に石を投げたことがある？」というラインがすべて。
この時代の若者たちの無力な反抗と、それを美しく昇華した代表曲。

3. Don’t Look Back into the Sun
スタジオ・アルバム未収録のシングル曲。朝焼けに背を向けてでも進むしかない、という少年たちの切実な歌。

4. Can’t Stand Me Now
ピートとカールの友情と断絶をそのまま歌った名曲。まさに“これ以上君を愛せない”瞬間の記録。

5. What a Waster
初期の代表曲にして、“リバティーンズ的生き様”そのものを体現する暴走ポップ。

6. Boys in the Band
バンドマンという存在への痛快な自己言及。観られること、歌われること、そして消費されることのメタ構造。

7. Death on the Stairs
“階段の死”という詩的なタイトルに込められた、都市生活の混乱と感傷。美しく壊れた日常を描く名品。

8. What Became of the Likely Lads
かつての夢や友情が、どこへ行ってしまったのか——青春の亡霊を追うような、静かで痛切な問い。

『Time for Heroes』は単なるベスト盤ではない。
それは、The Libertinesという“瞬間のバンド”が残した、夢と混乱と不完全さの美学をアーカイヴする行為である。

ピート・ドハーティとカール・バラーという稀代の“詩人であり悪友”の関係性、
DIY精神と英国的ロマンチシズムの衝突、
そして燃え上がるようにして去っていったその青春——

このアルバムを聴くことは、リバティーンズという名の小さな革命に、もう一度立ち会うことを意味する。