
発売日:1974年3月4日
ジャンル:ポップ、グラムロック、ユーロポップ、ポップロック、ソフトロック、シュラーガー
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Waterloo
- 2. Sitting in the Palmtree
- 3. King Kong Song
- 4. Hasta Mañana
- 5. My Mama Said
- 6. Dance (While the Music Still Goes On)
- 7. Honey, Honey
- 8. Watch Out
- 9. What About Livingstone
- 10. Gonna Sing You My Lovesong
- 11. Suzy-Hang-Around
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. ABBA – ABBA(1975)
- 2. ABBA – Arrival(1976)
- 3. ABBA – The Album(1977)
- 4. Sweet – Desolation Boulevard(1974)
- 5. Brotherhood of Man – Love and Kisses(1976)
概要
ABBAの『Waterloo』は、1974年に発表されたセカンド・アルバムであり、グループを国際的な存在へ押し上げた決定的な作品である。特に表題曲「Waterloo」は、1974年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストでスウェーデン代表として優勝し、ABBAをヨーロッパ全域、さらには世界市場へ紹介する役割を果たした。『Arrival』や『The Album』以降の洗練されたABBA像から振り返ると、本作はまだ発展途上の部分も多いが、同時に後の成功を予感させるメロディ感覚、男女ヴォーカルの魅力、明快なポップ構成、そして国際市場を意識したプロダクションの萌芽が詰まっている。
ABBAは、Agnetha Fältskog、Björn Ulvaeus、Benny Andersson、Anni-Frid Lyngstadの4人によるスウェーデンのグループである。初期には「Björn & Benny, Agnetha & Anni-Frid」という名義も用いられ、まだ完全なABBAとしてのブランドが固まりきっていなかった。しかし『Waterloo』期には、4人の個性を一つのポップ・ユニットとして提示する方向が明確になる。BennyとBjörnによる作曲・制作、AgnethaとFridaの華やかな女性ヴォーカル、そしてスウェーデン発のポップを英語圏にも届く形へ磨き上げる戦略が、この時点でかなり明確になっている。
本作を理解するうえで重要なのは、ABBAが単なるユーロヴィジョン優勝グループではなかったという点である。確かに「Waterloo」の成功は、彼らにとって大きな突破口だった。しかし、その成功は偶然の一曲によるものではなく、すでに彼らが持っていたポップ職人的な能力、国際的な市場感覚、そして視覚的なインパクトを伴うショー性によって準備されていた。本作には、グラムロック的な派手さ、1960年代ポップへの敬意、スウェーデンのシュラーガー的な親しみやすさ、ロックンロール風の勢い、バラードの叙情が混在している。
アルバム全体としては、後年のABBAに比べるとまだ統一感は弱い。『Arrival』以降のABBAは、精密なスタジオ・ポップとしての完成度、コーラスの厚み、感情の複雑さを高めていくが、『Waterloo』ではより雑多で、若々しく、実験的な試行錯誤が目立つ。これは欠点であると同時に魅力でもある。ここには、世界的ポップ・グループへ変貌する直前のABBAが、自分たちの可能性をさまざまな方向へ試している姿がある。
表題曲「Waterloo」は、その象徴である。ナポレオンのワーテルローの敗北を恋愛における降伏の比喩として用いるという発想は、非常に印象的である。歴史的な敗北をポップな恋愛ソングに変換することで、楽曲はユーモア、ドラマ性、キャッチーさを同時に獲得している。音楽的にはグラムロックの影響が濃く、サックス、ピアノ、力強いビート、派手なコーラスが一体となり、ユーロヴィジョンの舞台にふさわしい即効性を持っている。
この時期のABBAには、英国のグラムロック、特にT. RexやSlade、Sweetなどの影響を感じさせる要素がある。派手な衣装、明快なリフ、観客を一瞬でつかむサビ、少し大げさなステージ性は、1970年代前半のポップ環境と深く結びついている。ただしABBAは、単に英国グラムを模倣したわけではない。そこに欧州ポップの旋律感、男女混声コーラス、北欧的なメロディの透明感を加えることで、独自のポップを作り上げていった。
歌詞の面では、本作は恋愛、別れ、誘惑、自由、旅、自己主張を扱う。後年のABBAに見られる離婚、成熟した喪失、名声の孤独といったテーマに比べると、まだ明るく軽いものが多い。しかし、その中にもすでにABBAらしい「ポップな表面の裏にある切なさ」が見え始めている。「Hasta Mañana」では別れを穏やかに受け入れようとする心が描かれ、「Dance (While the Music Still Goes On)」では音楽が鳴っている間だけでも踊り続けようとする儚い願いが表現される。ABBAの音楽では、喜びはしばしば時間の有限性と隣り合わせにある。
AgnethaとFridaのヴォーカルは、本作でも大きな魅力である。まだ後年ほど緻密に磨き上げられてはいないが、二人の声が重なる瞬間には、ABBA特有の輝きがすでにある。Agnethaの明るく鋭い透明感、Fridaの温かく深い響きが重なることで、楽曲に華やかさと感情の厚みが加わる。また、BjörnとBennyの男性ヴォーカルが前面に出る曲もあり、グループとしての多様性が示されている。
『Waterloo』は、ABBAが世界へ向けて「到着する前」のアルバムである。後年の完成度を基準にすれば、曲ごとのばらつきや時代的な軽さもある。しかし、そこにはABBAの本質である、強いメロディ、華やかなコーラス、ポップへの徹底した信頼、そしてヨーロッパ発の音楽が世界市場で機能し得るという確信が存在する。日本のリスナーにとっても、本作はABBAの原点を知るために重要な一枚である。
全曲レビュー
1. Waterloo
「Waterloo」は、ABBAの国際的ブレイクを決定づけた楽曲であり、グループの歴史において最も重要な曲の一つである。ナポレオンがワーテルローの戦いで敗北した歴史的出来事を、恋愛における降伏の比喩として用いる発想は非常に巧みである。語り手は相手への恋に抗えず、自分の「ワーテルロー」を迎える。敗北は悲劇ではなく、恋に落ちることの快感として歌われる。
音楽的には、グラムロック的な勢いが強い。力強いピアノ、サックス、明快なドラム、覚えやすいコーラスが一体となり、聴き手をすぐにつかむ。ユーロヴィジョンで勝利したことも納得できる即効性がある。曲は短く、無駄がなく、イントロからサビまでの流れが非常に明快である。
AgnethaとFridaのヴォーカルは、明るく、力強く、ステージ映えする。二人の声が重なることで、恋愛の降伏が個人的な出来事であると同時に、祝祭的なポップ・イベントへ変わる。歌詞はユーモラスだが、メロディと演奏の勢いによって、非常に大きなドラマとして響く。
この曲の重要性は、ABBAが世界へ向けて自分たちのポップを提示する名刺になった点にある。「Waterloo」は、ロック的な勢い、欧州ポップの明快さ、歴史的な比喩、派手な視覚性を一つにまとめた楽曲であり、1970年代前半のポップの空気を鮮やかに捉えている。
「Waterloo」は、ABBAの出発点でありながら、すでに彼らの本質を示している。敗北を勝利の歌に変える。この反転の巧さこそ、ABBAのポップの魔法である。
2. Sitting in the Palmtree
「Sitting in the Palmtree」は、アルバムの中でも軽快でユーモラスな曲であり、南国的なイメージとコミカルな語り口が特徴である。タイトルは「ヤシの木に座っている」という意味で、どこか寓話的で、現実逃避的な情景を思わせる。
音楽的には、ポップロックと軽いカリプソ風の感覚が混ざったような楽曲である。後年のABBAの精密なサウンドに比べると、かなり素朴で遊び心が強い。リズムは軽く、メロディも親しみやすく、アルバムの中で気楽なアクセントになっている。
歌詞では、ヤシの木に座る語り手が、周囲を眺めたり、少し現実から離れた視点を持ったりする。これは深刻な物語というより、ユーモラスなキャラクターソングに近い。ABBAの初期には、このような軽いノベルティ的な曲も多く、後年の洗練されたイメージとは異なる魅力がある。
Björnのヴォーカルが中心になっており、女性ヴォーカル中心の代表曲とは違う表情を見せる。グループとして、まだどの方向へ進むかを試している段階の楽曲といえる。
「Sitting in the Palmtree」は、ABBAの完成形を示す曲ではないが、初期の自由な遊び心を感じさせる。アルバムの雑多な魅力を象徴する一曲である。
3. King Kong Song
「King Kong Song」は、タイトルからしてB級映画的で、グラムロック的な馬鹿馬鹿しさと勢いを持つ楽曲である。巨大な怪獣キングコングを題材にしたこの曲は、ABBAのディスコグラフィの中でも特に異色で、後年の洗練されたポップからはかなり遠い。しかし、その荒さと奇妙さが初期ABBAの試行錯誤をよく示している。
音楽的には、ロック色が強く、ギターとドラムの勢いが前面に出る。メロディの優雅さよりも、リフとエネルギーが重視されている。ABBAがこの時期にグラムロックやロックンロール的な方向も試していたことが分かる。
歌詞はコミカルで、キングコングをモチーフにした遊びの感覚が強い。深い心理描写や感情の複雑さはない。むしろ、ポップソングにおけるナンセンス、怪獣映画的な誇張、ステージ上の楽しさを狙った曲である。
この曲は、アルバム全体の中で評価が分かれやすい。後年のABBAの名曲群と比べると粗さが目立つが、バンドがまだロック的な勢いやユーモラスな題材を大胆に取り込んでいたことを示す資料としては興味深い。
「King Kong Song」は、完成度よりも初期ABBAの実験的な幅を楽しむ曲である。後年の完璧なポップ職人像からはこぼれ落ちる、若いバンドの勢いが刻まれている。
4. Hasta Mañana
「Hasta Mañana」は、本作の中でも特に美しいバラードであり、ABBAの叙情性が早くもはっきり表れた楽曲である。タイトルはスペイン語で「また明日」を意味するが、歌詞の中では、別れや再会へのかすかな希望が込められている。明るい言葉でありながら、曲全体には深い切なさが漂う。
音楽的には、ゆったりとしたテンポ、柔らかなメロディ、穏やかなアレンジが特徴である。カントリーやラテン風の淡い色合いも感じられ、ABBAのメロディメーカーとしての才能がよく出ている。派手な「Waterloo」とは対照的に、ここでは感情の抑制と旋律の美しさが中心になる。
Agnethaのリード・ヴォーカルは非常に重要である。彼女の声は透明で、少し震えるような切なさを持ち、別れの歌に強い説得力を与える。後年の「The Winner Takes It All」へつながるような、ABBAの失恋バラードの原型がここにある。
歌詞では、別れを前にしながらも、完全な終わりではなく「また明日」と言おうとする語り手の心が描かれる。これは希望なのか、自己慰めなのか、未練なのか。その曖昧さが曲を美しくしている。
「Hasta Mañana」は、『Waterloo』の中で最も後年のABBAらしい情緒を感じさせる曲の一つである。華やかなポップだけでなく、喪失を美しいメロディへ変える能力がすでに備わっていたことを示している。
5. My Mama Said
「My Mama Said」は、母親の言葉、家庭内の規範、若者の反発をテーマにした楽曲である。タイトルは「母が言った」という意味で、親世代の価値観と若い世代の行動の間にある緊張をコミカルかつ軽快に描いている。
音楽的には、リズムが印象的で、ややファンキーな要素も感じられる。ABBAの初期作品の中では比較的グルーヴ感があり、後年のユーロポップ的な整い方とは違う、少し実験的な表情を持つ。ベースやリズムの動きが曲に軽い緊張を与えている。
歌詞では、母親が語り手に対して注意や忠告をするが、語り手はその言葉に対してどこか反発している。これは単なる家庭の小話ではなく、若者が親の価値観から離れていく過程としても読める。1970年代のポップにおいて、世代間の違和感は重要なテーマだった。
AgnethaとFridaのヴォーカルは、軽快で少し挑発的に響く。深刻な反抗ではなく、日常の中の小さな抵抗として歌われるため、曲にはポップな親しみやすさがある。
「My Mama Said」は、『Waterloo』の中でリズム面の面白さと、世代的なテーマを持つ楽曲である。ABBAが後年のバラードやディスコだけでなく、初期にはさまざまなポップ形式を試していたことが分かる。
6. Dance (While the Music Still Goes On)
「Dance (While the Music Still Goes On)」は、タイトルの通り、音楽が鳴っている間は踊り続けようというテーマを持つ楽曲である。しかし、その言葉には単純な楽しさだけでなく、時間の有限性、別れの予感、今この瞬間を大切にしようとする切実さが含まれている。
音楽的には、1960年代のガール・グループやフィル・スペクター的なポップへの敬意を感じさせる、厚みのあるサウンドが特徴である。コーラスは豊かで、メロディはノスタルジックな響きを持つ。ABBAがアメリカン・ポップの伝統を吸収し、自分たちの欧州的な感覚と結びつけようとしていることが分かる。
歌詞では、音楽が終わる前に踊ろうと呼びかける。ここでのダンスは単なる娯楽ではなく、終わりを先延ばしにする行為である。関係が終わるかもしれない。夜が終わるかもしれない。だからこそ、音楽が続く間だけでも踊る。この感覚は、後年の「Dancing Queen」にも通じる。
ヴォーカルとコーラスは非常に華やかだが、曲の根底には儚さがある。ABBAのポップにおける重要な特徴である「明るさと切なさの同居」が、ここでもはっきり表れている。
「Dance (While the Music Still Goes On)」は、『Waterloo』の中で見逃せない名曲である。初期ABBAが、ダンスと時間の儚さをすでに結びつけていたことを示している。
7. Honey, Honey
「Honey, Honey」は、『Waterloo』の中でも特にキャッチーで親しみやすいポップソングである。甘い呼びかけをタイトルにしたこの曲は、恋愛のときめき、身体的な魅力、軽い誘惑を明るく歌っている。ABBAの初期のポップセンスが非常に分かりやすく出た楽曲である。
音楽的には、軽快なリズム、覚えやすいサビ、明るいコーラスが特徴である。曲は非常にコンパクトで、ラジオ向けの即効性がある。後年のABBAほど複雑な構成ではないが、メロディの親しみやすさはすでに高い。
AgnethaとFridaのヴォーカルは、甘く、少し誘惑的で、曲のテーマに合っている。二人の声が重なることで、歌詞の軽い官能性が明るくポップに処理される。重い情念ではなく、若々しい恋愛の楽しさとして響く。
歌詞では、相手への強い魅力や、恋に落ちた時の高揚が歌われる。タイトルの反復は非常に効果的で、聴き手の記憶に残る。ABBAはこのようなシンプルなフレーズを、強力なポップ・フックへ変える能力に優れていた。
「Honey, Honey」は、初期ABBAの愛らしさと商業的なポップ感覚を象徴する楽曲である。深いドラマではなく、軽やかな恋の甘さを楽しむ曲として完成度が高い。
8. Watch Out
「Watch Out」は、ロック色の強い楽曲であり、アルバム後半に勢いを与える一曲である。タイトルは「気をつけろ」という意味で、警告や挑発のニュアンスを持つ。ABBAの中では比較的ワイルドな側面が前面に出ている。
音楽的には、ギター主体のロックンロール/グラムロック的なアレンジが特徴である。リフは力強く、リズムも直線的で、後年のABBAの精密なポップとは異なる荒さがある。この曲もまた、1970年代前半のグラムロックの影響を感じさせる。
歌詞は、恋愛や誘惑における危険な雰囲気を持つ。相手に対する警告、あるいは自分自身の魅力や危険性を示すような内容として聴ける。深い物語よりも、ロック的な勢いと態度が重要な曲である。
男性ヴォーカルが前面に出ることで、アルバムに変化が生まれる。ABBAの代表的な魅力は女性ヴォーカルにあるが、この時期はまだ男性主導のロック曲もアルバムに含まれており、グループの方向性が固まりきっていないことが分かる。
「Watch Out」は、『Waterloo』の中でロック的なエネルギーを担う楽曲である。後年のABBAのイメージとは異なるが、初期の雑多で活発な姿を示している。
9. What About Livingstone
「What About Livingstone」は、探検家David Livingstoneへの言及を含む楽曲であり、冒険、未知の世界、歴史的ロマンへの関心を感じさせる。タイトルは「リヴィングストンはどうなのか」という問いかけであり、ポップソングとしては少し変わった題材である。
音楽的には、明るいポップロックで、メロディは親しみやすい。題材はやや奇抜だが、曲自体は軽快に進む。ABBAの初期作品には、このような少し教育的、あるいは歴史的な話題をポップに処理する曲が見られる。
歌詞では、過去の探検家や冒険の精神が取り上げられる。現代の人々が失った好奇心や行動力への問いとしても読める。ABBAの後年の代表曲には少ないタイプのテーマだが、BjörnとBennyの作詞的な遊び心が感じられる。
この曲は、アルバムの統一感を考えるとやや異質だが、初期ABBAの雑多な魅力を示している。恋愛曲だけでなく、歴史や冒険を題材にしたポップソングを作ろうとする姿勢は興味深い。
「What About Livingstone」は、『Waterloo』の中で好奇心と冒険のテーマを担う楽曲である。大きな代表曲ではないが、初期ABBAの幅広い試みを示す一曲である。
10. Gonna Sing You My Lovesong
「Gonna Sing You My Lovesong」は、タイトル通り、自分の愛の歌を相手に届けようとするバラードである。アルバム後半に置かれたこの曲は、ABBAのソフトで叙情的な側面を示している。派手な「Waterloo」やロック調の曲とは対照的に、ここでは素直な恋愛感情が中心になる。
音楽的には、穏やかなテンポ、柔らかなメロディ、控えめなアレンジが特徴である。ABBAのバラードとしてはまだ後年ほどドラマティックではないが、メロディの美しさとヴォーカルの温かさが感じられる。
歌詞では、語り手が愛の歌を通じて自分の気持ちを伝えようとする。音楽そのものが愛の表現手段になるというテーマは、ポップソングとして非常に基本的だが、ABBAのハーモニーによって自然な魅力を持つ。
AgnethaとFridaの声は、ここでも大きな役割を果たす。二人のハーモニーは、単純な愛の告白に奥行きを与え、曲を柔らかく包む。後年の成熟したバラードと比べると控えめだが、ABBAの叙情性の萌芽は明確である。
「Gonna Sing You My Lovesong」は、初期ABBAの素朴なラブバラードとして重要である。華やかなポップの陰にある、メロディと声の美しさを確認できる楽曲である。
11. Suzy-Hang-Around
「Suzy-Hang-Around」は、アルバムの締めくくりに置かれた楽曲であり、Benny Anderssonがリード・ヴォーカルを担当している点でも興味深い。タイトルの「Suzy」は人物名であり、日常的な人物スケッチのような雰囲気を持つ。
音楽的には、比較的素朴で、軽いポップロック調である。後年のABBAらしい華麗なコーラスや大きなドラマは控えめで、むしろ60年代ポップやフォークロックの影響を感じさせる。アルバムの終曲としては大きなカタルシスを作るタイプではなく、やや肩の力を抜いた形で終わる。
歌詞では、Suzyという女性に関する人物描写が中心となる。彼女は周囲に付きまとう、あるいはどこか扱いにくい存在として描かれているように聴こえる。深い心理描写よりも、軽いキャラクターソングとしての性格が強い。
この曲は、ABBAの完成形を求めるリスナーにはやや地味に感じられるかもしれない。しかし、初期ABBAが4人のメンバーそれぞれの個性を試しながらアルバムを作っていたことを示す点では重要である。
「Suzy-Hang-Around」は、『Waterloo』を軽く締めくくる曲であり、初期ABBAの多様で未整理な側面をよく表している。
総評
『Waterloo』は、ABBAのキャリアにおける決定的な出発点であり、1970年代ポップ史においても重要なアルバムである。表題曲「Waterloo」のユーロヴィジョン優勝によって、ABBAはスウェーデンのグループから国際的なポップ・アクトへと飛躍した。本作は、その瞬間を記録している。後年の『Arrival』『The Album』『Voulez-Vous』『Super Trouper』のような洗練された完成度にはまだ達していないが、ABBAの核となる要素はすでに明確に存在している。
本作の最大の魅力は、若々しいエネルギーとポップへの強い信頼である。「Waterloo」は、歴史的敗北を恋愛の降伏へ変えるという見事な発想、グラムロック的な勢い、耳に残るサビによって、世界のリスナーにABBAを印象づけた。これは単なるユーロヴィジョン向けの派手な曲ではなく、ABBAが持つ「大きな題材を親しみやすいポップへ変換する力」を示した楽曲である。
一方で、アルバム全体はかなり多様である。「Sitting in the Palmtree」や「King Kong Song」のような軽くコミカルな曲、「Watch Out」のようなロック色の強い曲、「What About Livingstone」のような奇抜な題材の曲、「Hasta Mañana」や「Gonna Sing You My Lovesong」のようなバラードが並ぶ。この雑多さは、後年のABBAを知る耳には散漫に感じられる可能性がある。しかし、それはABBAがまだ自分たちの国際的な音楽像を模索していたことの証でもある。
本作で特に重要なのは、「Hasta Mañana」と「Dance (While the Music Still Goes On)」である。これらの曲には、後年のABBAに通じる切ない叙情がすでに表れている。「Hasta Mañana」では、別れを前にしながらも再会への希望を口にする語り手の心が美しく描かれる。「Dance」では、音楽が鳴っている間だけでも踊り続けようとする儚い願いが歌われる。ABBAの音楽では、喜びやダンスはしばしば別れや時間の終わりと隣り合わせである。その感覚は、本作の時点で芽生えている。
AgnethaとFridaのヴォーカルは、本作の大きな魅力である。まだ後年のような完璧なハーモニー処理には至っていないが、二人の声が重なる瞬間には、ABBA特有の輝きがある。Agnethaの透明で切ない声、Fridaの温かく深い声が重なることで、楽曲に華やかさと感情の奥行きが生まれる。この女性ヴォーカルの力が、ABBAを他のグラムロック系ポップ・アクトとは異なる存在にした。
BennyとBjörnの作曲・プロダクションも、本作ではまだ発展途上ながら、すでに強いメロディ感覚を示している。特に、短い時間で聴き手をつかむフック作り、サビの明快さ、曲ごとのキャラクター設定は優れている。後年のABBAでは、これがより緻密なスタジオ・ワーク、転調、コーラス構築、音響の厚みへと発展していく。本作はその出発点である。
『Waterloo』は、時代の産物でもある。1970年代前半のグラムロック、ユーロヴィジョン的なショー性、英語ポップ市場への憧れ、欧州ポップの国際化が背景にある。ABBAはこの環境の中で、派手な衣装、強いメロディ、男女混声の視覚的・音楽的魅力を使い、スウェーデン発のポップを世界へ届けた。これは後のヨーロッパ発ポップの国際的成功を考えるうえでも重要な出来事である。
ただし、本作は完全な名盤というより、重要な転換点として聴くべき作品である。曲ごとの完成度には差があり、「King Kong Song」や「Suzy-Hang-Around」などは、後年のABBAの完成度と比較すると粗い。しかし、その粗さを含めて、本作にはABBAがまだ自由に試行錯誤していた時期の面白さがある。完成されたポップ彫刻ではなく、これから世界的な形を取る前の原石である。
日本のリスナーにとって『Waterloo』は、ABBAの原点を理解するための重要作である。「Dancing Queen」以降の洗練されたABBAだけを知っていると、本作のグラムロック的な勢いやコミカルな曲調に驚くかもしれない。しかし、表題曲の強さ、「Hasta Mañana」の叙情、「Honey, Honey」の親しみやすさを通じて、ABBAがなぜ世界的ポップ・グループへ成長できたのかが見えてくる。
総じて『Waterloo』は、ABBAが国際舞台に登場した瞬間を刻んだ歴史的アルバムである。まだ未完成で、雑多で、時に奇妙だが、その中には後のABBAを形作るすべての種がある。華やかな勝利の裏にある切なさ、明快なメロディ、男女ヴォーカルの輝き、ポップを世界共通語にする力。『Waterloo』は、ABBAが自分たちの戦いに勝利したアルバムである。
おすすめアルバム
1. ABBA – ABBA(1975)
『Waterloo』の次作であり、「SOS」「Mamma Mia」を収録した重要作である。初期の雑多さを残しながらも、ABBAらしい哀愁あるポップがより明確になっている。『Waterloo』から『Arrival』へ向かう過程を理解するうえで欠かせない。
2. ABBA – Arrival(1976)
ABBAが世界的ポップ・グループとして完全に確立された名盤である。「Dancing Queen」「Money, Money, Money」「Knowing Me, Knowing You」を収録し、メロディ、コーラス、プロダクションが飛躍的に洗練されている。『Waterloo』の可能性が完成形へ近づいた作品である。
3. ABBA – The Album(1977)
『Arrival』後のABBAが、より大きな構成と成熟したポップ表現へ進んだ作品である。「The Name of the Game」「Take a Chance on Me」を収録し、ミュージカル的な発想や長尺の構成も含まれる。初期のショー性がより洗練された形で展開されている。
4. Sweet – Desolation Boulevard(1974)
1970年代前半のグラムロック/ポップロックの空気を理解するうえで関連性の高い作品である。『Waterloo』のロック的な勢いや派手なサウンドの背景にある英国グラムの文脈を知るために有効である。
5. Brotherhood of Man – Love and Kisses(1976)
ユーロヴィジョン出身のポップ・グループとして、ABBAと比較されることの多い存在である。より軽いポップ寄りだが、1970年代の欧州ポップが英語市場を意識していた流れを理解するうえで参考になる。



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