
1. 楽曲の概要
「The Real」は、アメリカのサイケデリック・ロック・バンド、The Brian Jonestown Massacreによる楽曲である。2022年発表のアルバム『Fire Doesn’t Grow on Trees』の冒頭曲として収録された。アルバムに先行して10インチ・シングルとしてもリリースされ、同作の出発点を示す重要な曲である。
The Brian Jonestown Massacreは、Anton Newcombeを中心に1990年にサンフランシスコで結成された。バンド名は、The Rolling StonesのBrian Jonesと、1978年のJonestown集団自殺事件を組み合わせたものである。音楽的には、1960年代サイケデリック・ロック、ガレージ・ロック、The Velvet Underground、The Rolling Stones、Spacemen 3、The Jesus and Mary Chainなどの影響を取り込み、多作かつ独自の活動を続けてきた。
「The Real」が収録された『Fire Doesn’t Grow on Trees』は、The Brian Jonestown Massacreにとって2022年の重要作である。Anton Newcombeはベルリンを拠点に制作を続けており、この時期のBJMは単なる1990年代インディー・サイケの生き残りではなく、現在進行形のバンドとして新作を発表していた。同年には次作にあたる『The Future Is Your Past』へつながる楽曲群も制作され、2020年代のBJMの創作力を示す時期となった。
「The Real」は、アルバム冒頭曲らしく、すぐにバンドの核心へ入る。中速のリズム、うねるギター、反復する低音、抑制されたボーカルが一体となり、BJMらしいサイケデリック・ロックを作っている。初期の『Methodrone』のようなシューゲイザー的な霞や、1996年の『Take It from the Man!』のガレージ的な粗さとは異なり、この曲では長年の経験を経たバンドの重心が感じられる。音は荒くても、構成は的確である。
題名の「The Real」は、「本物」「現実」「真実」を意味する。歌詞の内容と合わせると、この曲は現実を見失わせる情報、無意味な思考、眠り込んだ意識に対する警告として聴くことができる。BJMの楽曲には恋愛や人間関係の曖昧さを扱うものが多いが、「The Real」はより外向きで、精神的・社会的な覚醒を促すような性格を持っている。
2. 歌詞の概要
「The Real」の歌詞は、現実を見失った状態から目を覚ませというメッセージを含んでいる。冒頭では、子どもたちに十分なことを語れるはずなのに、頭の中が役に立たない情報で満たされているという趣旨の言葉が出てくる。これは、個人の内面だけでなく、現代社会の情報過多にも重ねて読むことができる。
語り手は、ただ現状を嘆いているわけではない。そこには「道があるはずだ」という感覚があり、眠りから覚めること、あるいは強制的にでも目を覚ますことが歌われる。BJMの歌詞としては、比較的直接的な警告のトーンを持つ曲である。ただし、説教的な言葉だけで構成されているわけではない。祈り、怒り、諦め、抵抗が混ざっている。
曲の中では、「人生は公平ではない」という認識も示される。しかし、その不公平を理由に停止するのではなく、気づいていることが重要だと語られる。ここでの「the real」は、楽観的な真実ではない。むしろ、不公平や暴力性を含んだ現実そのものである。それを直視したうえで、内側や外側にいる「獣」と戦うことが求められている。
この曲の語り手は、優しく慰める人物ではない。むしろ、眠っている相手に強い言葉を投げる。現実を見ろ、目を覚ませ、戦えという態度がある。BJMの中でも、「The Real」は比較的ストレートに覚醒と抵抗を扱った曲といえる。
3. 制作背景・時代背景
『Fire Doesn’t Grow on Trees』は、2022年6月にA Recordingsから発表されたアルバムである。The Brian Jonestown Massacreは1990年代から多作で知られてきたが、2020年代に入ってもそのペースは衰えていない。ベルリンを拠点にしたAnton Newcombeは、録音、制作、プロデュースを主導し続けており、このアルバムもその流れの中にある。
同作は、2020年から2021年にかけてベルリンおよびリモート環境で録音されたとされる。参加メンバーには、Ricky Maymi、Ryan Carlson Van Kriedt、Hákon Aðalsteinsson、Hallberg Daði Hallbergsson、Uri Rennertらが含まれる。BJMは長いキャリアを通じてメンバーが流動的なバンドであり続けてきたが、Anton Newcombeの作曲・録音の軸があるため、作品ごとの音楽的な連続性は保たれている。
この時期の『Fire Doesn’t Grow on Trees』は、Anton Newcombeが一時的な停滞を経た後、集中的に曲を書き録音した時期の成果として語られることが多い。アルバム全体には、「内側の火を使うこと」「自分の道を進むこと」「抑圧的な力に対して立つこと」といった主題がある。「The Real」はその冒頭に置かれているため、アルバム全体の宣言としても機能する。
2022年の音楽環境では、1960年代サイケデリアやガレージ・ロックの再解釈はすでに珍しいものではなくなっていた。しかしBJMは、流行としてそれを取り入れたバンドではない。1990年代から一貫して同じ源流を掘り続け、その都度異なる形で作品化してきた。「The Real」は、彼らが過去の様式を再演するだけではなく、現在の不安や怒りを自分たちの古典的なサイケデリック・ロック語法へ流し込んだ曲である。
また、アルバムの1曲目に「The Real」を置いたことは大きい。曲名そのものが「本物」や「現実」を指すため、聴き手はアルバム冒頭から、単なる夢見心地のサイケデリアではなく、現実への直面を求められる。BJMの音楽には酩酊感があるが、この曲ではその酩酊から目を覚ます方向へ力が向いている。
4. 歌詞の抜粋と和訳
There has got to be a way
和訳:
きっと道はあるはずだ
この一節は、曲の中にある抵抗の感覚を端的に示している。語り手は現実が厳しいことを認識しているが、それでも出口や方法が存在するはずだと考えている。絶望ではなく、苦しい状況の中で道を探す態度がある。
No one said life would be fair
和訳:
人生が公平だなんて、誰も言っていない
この言葉は、曲の現実認識を表している。ここで語られる「the real」は、理想化された真実ではない。人生の不公平さ、社会の理不尽さ、精神的な混乱を含んだ現実である。語り手はそれを美化せず、むしろ厳しい前提として提示している。
歌詞の引用は、批評・解説の目的に必要な最小限の範囲にとどめている。歌詞の権利は作詞者および権利管理者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
「The Real」のサウンドは、The Brian Jonestown Massacreの2020年代的な姿をよく示している。曲は中速で進み、強いドラムと低音の反復が土台を作る。派手な転調や複雑な構成よりも、一定のグルーヴを維持しながら音を積み重ねる。これはBJMが長く得意としてきた手法であり、反復によって聴き手を引き込むサイケデリック・ロックの基本でもある。
ドラムは曲の推進力を決める。ビートは急がないが、重く、前へ進む力がある。『Fire Doesn’t Grow on Trees』のレビューでは、この曲についてパーカッションとドローンが重要だと指摘されることもあるが、実際に聴いてもリズムの存在感は大きい。曲は浮遊するだけではなく、足元で確実に進んでいく。
ギターはBJMらしいざらつきを持つ。音は完全に磨かれているわけではなく、どこか粗く、揺れている。だが、その粗さは雑さではない。むしろ、曲の主題である「本物」や「現実」と結びついている。過度に整った音ではなく、少し歪み、ざらつき、余白を残したギターが、現実の不完全さをそのまま引き受けているように聴こえる。
低音は曲の重心を作る。ベースは単にコードの下を支えるだけでなく、反復によって曲全体を固定する。BJMの楽曲では、ギターやオルガンのサイケデリックな響きに注目されがちだが、「The Real」のような曲では、低音の持続が聴き手を曲の中に引き込む役割を持つ。これによって、歌詞の警告が抽象的なスローガンではなく、身体的な圧力として響く。
Anton Newcombeのボーカルは、感情を大きく爆発させない。声はやや平坦で、冷静さを保っている。しかし、その抑制がかえって歌詞の厳しさを際立たせる。もしこの曲が熱唱されていれば、メッセージは過剰な説教に聞こえたかもしれない。Newcombeは言葉を淡々と置くことで、現実を突きつけるような効果を作っている。
歌詞とサウンドの関係で重要なのは、曲が「覚醒」を扱いながら、音としては夢のようなサイケデリアを保っている点である。BJMの音楽には、聴き手を酩酊させる反復がある。しかし「The Real」の歌詞は、その酩酊から抜け出せと言っているようにも聴こえる。この矛盾が曲の面白さである。サイケデリックな音楽によって、サイケデリックな逃避ではなく、現実への直面を促している。
同じ『Fire Doesn’t Grow on Trees』の中では、「Ineffable Mindfuck」がモーターリックな感覚を持ち、「It’s About Being Free Really」は自由への志向をより明示する。「What’s in a Name?」では社会的な疲弊や諦めが表れ、「Before and Afterland」ではより遅く、暗い空気が強くなる。「The Real」はそれらの前に置かれ、アルバム全体の問題意識を最初に提示している。
過去のBJM作品と比較すると、「The Real」は1990年代の混沌をそのまま再現していない。「Vacuum Boots」のようなガレージ・ロックの若い勢いとも、「That Girl Suicide」のようなシューゲイザー的な霞とも違う。むしろ、2014年の『Revelation』以降に強まった、整理されたサイケデリック・ロックの流れに近い。音はまとまっているが、BJMらしいざらつきと反復は失われていない。
また、「Who?」や「Nevertheless」が人間関係の不確かさを扱った曲だとすれば、「The Real」はもっと広い現実への問いを扱う。相手が誰なのか、関係がどうなるのかという問いではなく、自分たちは何を見ているのか、何を信じているのか、どのように目を覚ますのかが問われている。その意味で、この曲はBJMの中でも比較的社会的・精神的な射程を持つ曲である。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- It’s About Being Free Really by The Brian Jonestown Massacre
同じ『Fire Doesn’t Grow on Trees』に収録された楽曲で、題名通り自由への意識が前面に出ている。「The Real」の覚醒や抵抗の感覚が好きな人には、アルバム全体の主題をより直接的に感じられる曲である。
- Ineffable Mindfuck by The Brian Jonestown Massacre
同アルバムの2曲目で、モーターリックなビートとサイケデリックなギターのうねりが印象的である。「The Real」の反復的な推進力が好きな人には、続けて聴くことで2022年のBJMの音像を理解しやすい。
- Who? by The Brian Jonestown Massacre
2014年の『Revelation』収録曲で、反復される問いが中心にある。「The Real」が現実への覚醒を問う曲だとすれば、「Who?」は相手の正体を問う曲である。どちらも短い言葉の反復によって不安を作っている。
- Nevertheless by The Brian Jonestown Massacre
2001年の『Bravery, Repetition and Noise』収録曲で、疲弊した関係の中で「それでもなお」続いてしまう感覚を描く。「The Real」より内向的だが、反復と抑制されたボーカルの使い方に共通点がある。
- Revolution by Spacemen 3
BJMの背景を理解するうえで重要なサイケデリック・ロックの系譜にある曲である。反復、ドローン、現実への不信や抵抗の感覚という点で、「The Real」と並べて聴く価値がある。
7. まとめ
「The Real」は、The Brian Jonestown Massacreの2022年のアルバム『Fire Doesn’t Grow on Trees』を開く楽曲である。10インチ・シングルとしてもリリースされ、2020年代のBJMがどのような音と問題意識を持っていたかを示す重要な曲である。
歌詞は、情報や無意味な思考に満たされた状態から目を覚ませという警告を含んでいる。人生は公平ではないという認識、道はあるはずだという祈り、内外の獣と戦えという抵抗の感覚が重なる。題名の「The Real」は、快適な真実ではなく、厳しく不完全な現実を指している。
サウンド面では、中速のリズム、持続する低音、ざらついたギター、抑制されたボーカルが組み合わされている。曲は派手に爆発しないが、反復によってじわじわと圧力を増す。BJMらしいサイケデリックな酩酊感を持ちながら、その歌詞はむしろ目覚めを促している。
「The Real」は、初期BJMの荒々しさとは違う成熟した強度を持つ曲である。Anton Newcombeが長いキャリアを経てもなお、自分の音楽的な核を保ちつつ、現代の不安や怒りを曲に変えていることが分かる。『Fire Doesn’t Grow on Trees』の冒頭曲として、The Brian Jonestown Massacreの現在形を示す一曲といえる。
参照元
- Spotify – The Real by The Brian Jonestown Massacre
- Apple Music – Fire Doesn’t Grow on Trees by The Brian Jonestown Massacre
- Discogs – The Brian Jonestown Massacre – The Real
- Dork – The Real Lyrics — The Brian Jonestown Massacre
- musicOMH – The Brian Jonestown Massacre – Fire Doesn’t Grow On Trees
- Louder – Brian Jonestown Massacre: Fire Doesn’t Grow On Trees review
- PAN M 360 – The Brian Jonestown Massacre – Fire Doesn’t Grow on Trees

コメント