発売日: 1991年9月24日
ジャンル: パワーポップ、ポップ・ロック、オルタナティブ・ロック
『Blow Up』は、The Smithereensが1991年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、
前作『11』の成功を受けてメジャー志向をさらに強めた、最も“ポップ”な作品である。
タイトルはアントニオーニの映画『欲望(Blow-Up)』に由来し、
視覚的、心理的、そして音楽的な“拡張”というテーマが背景にある。
だがその一方で、本作はバンドのキャリアの中でも特に評価が分かれたアルバムでもあり、
“ポップに寄りすぎた”という声と、“緻密で洗練されたポップ・ロックの完成形”という意見が真っ向からぶつかる興味深い位置にある。
プロデューサーには前作に続きエド・ステイシアムを起用。
ブラス、シンセ、ストリングスなどの装飾を多用し、
これまでの60sガレージロック的な質感からは一歩引いた、80s後期的AOR×オルタナ的感傷へとシフトしている。
その結果、ラジオフレンドリーな楽曲が増えた一方で、バンドのコアだった“陰り”や“内省性”が希薄になったとする向きもある。
全曲レビュー
1. Top of the Pops
痛快なポップ・ロック・ナンバーで、タイトルどおり“ヒット曲志向”を自虐的に歌った楽曲。
キャッチーなコーラスと皮肉たっぷりの歌詞が、バンドの立ち位置をユーモラスに表現している。
まるで自らの“商業化”を逆手に取ったような幕開け。
2. Too Much Passion
本作随一のヒット曲で、Billboard Hot 100でもTOP40入りを果たしたスムースなミドルテンポ・バラード。
カーティス・メイフィールド的なソウル・ポップの影響も感じさせる、異色ながら美しい一曲。
管楽器とコーラスが印象的な、夜に似合う一曲。
3. Tell Me When Did Things Go So Wrong
恋愛の崩壊を問いかける、哀愁を帯びたポップ・ロック。
ビートルズのようなメロディラインとシンセを加えたアレンジが、
バンドの新たなサウンド志向を感じさせる。
4. If You Want the Sun to Shine (Put Your Hand on the Line)
まるでThe MonkeesやThe Byrdsのような、サイケポップ風味の楽曲。
シタール風のギターやバックコーラスがレトロフューチャー感を強調。
5. Now and Then
アルバム中もっともオーセンティックなThe Smithereens節を感じさせるナンバー。
メロディとコード進行の美しさが際立ち、パット・ディニツィオの感情表現が活きる。
6. It’s Alright
シンプルなロックンロール・ナンバー。
軽快でラジオ映えするが、やや軽さが先行する印象も否めない。
7. If You Don’t Love Me
タイトル通りのダイレクトな失恋ソング。
ハーモニカやオルガンが加わり、ややカントリー/アメリカーナ風味もある。
8. Shakin’
ガレージ・ロック的な衝動を残した、数少ない“攻め”の曲。
ファズギターとドラムの力強さが、『11』以前のバンド像を思い出させる。
9. Elaine (reprise)
『Green Thoughts』に収録されていた“Elaine”の再演/変奏版。
過去との接続がテーマの本作において、象徴的な仕掛けとなっている。
10. Get a Hold of My Heart
ピアノを中心にしたロマンティックなバラード。
本作中でも特にAOR色が強く、70sシンガーソングライター的な空気を纏っている。
11. World Keeps Going Round
ラストを飾るのは、やや実験的でサイケデリックなムードをもった曲。
世界がどうあれ続いていく、という苦味と希望の入り混じった締めくくり。
総評
『Blow Up』は、The Smithereensが“ポップ・ロック・バンド”としての自らを最大限に拡張しようとした転換点であり実験作である。
音楽的には多彩で完成度が高く、演奏もアレンジも洗練されている。
だが、まさにその“洗練”によって、これまでバンドの魅力だった**“荒さ”“直情性”“陰り”**が後退し、
ファンの間では意見の分かれるアルバムとなった。
それでも「Too Much Passion」や「Top of the Pops」など、メロディとストーリーテリングの力は衰えておらず、
バンドとしての柔軟性と職人的ポップ・センスは健在である。
90年代初頭という時代背景——オルタナティブ・ロックの隆盛とMTV的ポップの終焉——を考えると、
本作は“その狭間でもがいた良心的なポップ・ロック”の記録として、
再評価に値するメジャー・レーベル下の佳作である。
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