
発売日:1991年10月22日
ジャンル:Alternative Rock / Power Pop
概要
Blow Upは、The Smithereensが1991年に発表した4作目のスタジオ・アルバムである。Pat DiNizioのボーカルとギター、Jim Babjakのギター、Mike Mesarosのベース、Dennis Dikenのドラムという編成で制作され、前作11に続いてEd Stasiumがプロデュースを担当した。1960年代のBritish Invasionやガレージ・ロックに根差した簡潔なメロディと、1980年代以降のオルタナティヴ・ロックにも通じる太いギターを組み合わせる彼らの方法は本作でも変わらない。一方、キーボードやホーン、女性コーラスなども取り入れ、従来の4人組ロックから少し外へ音を広げている。
1991年という発売時期は、米国のロック市場が大きく変化していた時期でもある。The Smithereensはグランジへ方向転換するのではなく、短く覚えやすい曲、硬いギター・リフ、DiNizioの低く少し陰りのある声という自分たちの強みを押し進めた。歌詞では恋愛の破綻や執着、孤独といった題材が多いものの、演奏は必ずしも暗くない。むしろ明るいメロディと苦い感情のずれが作品の特徴になっている。ヒットした「Too Much Passion」を含め、パワー・ポップとしての即効性と、アルバム後半に見られる幅広いアレンジを両立させた一枚である。
全曲レビュー
1. 「Top of the Pops」
太いギター・リフと強く打つドラムで始まり、アルバムの入口からThe Smithereensらしい硬質なパワー・ポップを押し出す。題名は華やかな成功を思わせるが、歌詞にはポップ・スターをめぐる名声や欲望への皮肉が混じり、単純な成功賛歌にはならない。DiNizioの低い声が明快なメロディを歌うことで、キャッチーなのにどこか醒めた感触が残る。短いフレーズを反復するギターも含め、1960年代的なポップ感覚を1990年代初頭の厚いロック・サウンドへ置き換えた曲だ。
2. 「Too Much Passion」
本作を代表するシングルで、歪んだギターの力よりもメロディとリズムの滑らかさを前に出している。ホーンを加えたアレンジにはソウルや1960年代ポップの感触があり、サビではコーラスも広がって、普段のSmithereensより華やかに聞こえる。題名どおり過剰な情熱に振り回される関係を扱うが、DiNizioは感情を叫ぶのではなく、低い声で抑えて歌う。そのため明るい曲調の裏側にある執着や不安が浮かび上がり、ポップな表面と苦い歌詞の組み合わせがよく機能している。
3. 「Tell Me When Did Things Go So Wrong」
タイトルそのものが示すように、すでに壊れかけた関係を前にして、その原因を振り返る歌である。ギターは細かな装飾よりコードを力強く鳴らすことを優先し、リズム隊もまっすぐ進むため、DiNizioの問いかけが曲の中心に残る。相手を一方的に非難するというより、いつから二人の関係が変わったのかを理解できずにいる感覚が強い。甘いメロディを持ちながら歌詞には解決の見えない焦りがあり、The Smithereensが得意とする失恋ソングの型を簡潔にまとめている。
4. 「Evening Dress」
前3曲の直接的なロックから少し力を抜き、メロディの陰影を聴かせる方向へ移る。DiNizioの歌唱には、目の前の人物に引き寄せられながら距離も感じているような曖昧さがあり、題名の「イブニング・ドレス」という視覚的なイメージがその人物への視線を強める。ギターも常に大きく鳴るのではなく、歌の周囲へ短いフレーズを置いて空間を作る。恋愛感情を大げさなドラマにせず、視線や記憶の断片から組み立てるDiNizioの作詞が生きた曲である。
5. 「Get a Hold of My Heart」
ビートをはっきり前へ出し、簡潔なコードと反復するフレーズで勢いを作る。恋愛を扱う言葉は率直で、複雑な比喩よりも相手に自分の感情をつかんでほしいという切迫感が中心になる。その単純さを支えているのがバンドの演奏で、MesarosとDikenのリズム隊が一定の推進力を保ち、その上でギターが厚みを加える。前曲の少し内向きな雰囲気を引きずらず、アルバム前半を再び身体的なロックへ戻す役割も果たしている。
6. 「Indigo Blues」
題名に「Blues」とあるものの、伝統的なブルース形式をそのまま演奏する曲ではない。暗めの色合いを持つメロディとDiNizioの低い声によって憂鬱さを作り、ギターも派手なソロより曲の陰影を深めることに使われる。The Smithereensの音楽には、明快なポップ・メロディと沈んだ感情が共存することが多いが、ここでは後者がより前に出ている。アルバム中盤でテンションを落とすことで、前半のシングル志向の曲と後半の幅広いアレンジをつなぐ位置にある。
7. 「Now and Then」
過去と現在の距離を意識したDiNizioらしい題材を、比較的穏やかなポップ・ソングへまとめている。失われた関係や時間を振り返る視線には懐かしさがあるものの、過去を完全に美化しているわけではない。演奏も感情を過剰に強調せず、ギターとリズム隊が歌の輪郭を支えることでメロディを前に出す。大きなリフで押す曲とは対照的に、The Smithereensの源流にある1960年代ポップの「短い時間で感情を整理する」作曲感覚がよく表れている。
8. 「Girl in Room 12」
タイトルが具体的な人物と場所を示すことで、抽象的な失恋歌とは異なる物語性を持たせている。バンドはコンパクトなロックンロールを基礎にし、ギターがボーカルへ短く応答するため、曲は会話のようなテンポで進む。DiNizioの歌詞では女性がしばしば手の届かない存在として描かれるが、ここでも語り手の視点だけですべてを説明せず、相手について分からない部分を残している。その曖昧さが短い曲に想像の余地を与えている。
9. 「Anywhere You Are」
離れた場所にいる相手への思いを中心にした曲で、力強いギターと切実なメロディの組み合わせが際立つ。距離を埋めようとする歌詞に合わせ、サビでは演奏の幅が広がり、ヴァースで抑えていた感情が一段前へ出る。DiNizioの声は高音へ無理に伸びず、低い音域を保つため、感傷的なメロディでも甘くなりすぎない。The Smithereensのハードなバンド・サウンドと、古典的なラブソングの書き方が自然に接続した一曲である。
10. 「Over and Over Again」
同じ感情や行動を繰り返してしまう状態を、タイトルどおり反復感の強い曲作りで表現する。ギターとリズム隊は大きく方向を変えず、一定のパターンを押し続けることで、抜け出せない心理を音楽にも反映させている。DiNizioのメロディはその硬い土台より柔らかく、演奏と歌の温度差が曲を単調にしない。恋愛における執着を扱ってきたアルバムの中でも、反復という発想を構成そのものへ結びつけた曲だ。
11. 「It’s Alright」
タイトルの肯定的な響きに合わせ、後半の中では比較的開放的な空気を持つ。ギター中心という基本は変わらないが、演奏には余裕があり、前曲までの恋愛上の緊張から少し距離を取るように進む。DiNizioの歌も重い感情を抱え込むより、状況を受け入れようとする方向へ聞こえるため、アルバム終盤で心理的な色合いが変わる。派手な転換ではなく、メロディと歌唱の温度を変えることで流れを作るSmithereensらしい配置である。
12. 「If You Want the Sun to Shine」
終曲では、アルバム前半の硬いギター・ロックとは違う、より装飾的で明るいポップ感覚が表に出る。題名にある太陽のイメージを生かした前向きな響きがあり、それまで繰り返されてきた失恋や執着から距離を置いて作品を締める。The Smithereensの根にある1960年代ポップへの愛情も感じられ、重いギターだけでは説明できないバンドの作曲範囲がよく分かる。最後を暗い余韻ではなく比較的軽やかな音で終えることで、アルバム全体にも必要以上の深刻さを残していない。
総評
Blow Upの中心にあるのは、The Smithereensが以前から得意としていた「甘いメロディを重いギターで演奏する」という組み合わせである。DiNizioの作曲は1960年代のポップやBritish Invasionから受け継いだ明快さを持ち、曲の核だけを取り出せばかなり伝統的だ。しかしBabjakのギター、Mesarosの太いベース、Dikenの力強いドラムが加わると、ノスタルジックな再現ではなく1991年のロックとして十分な重量が生まれる。DiNizioの低い声も、明るいメロディを必要以上に甘く聞かせない重要な要素である。
本作ではそこに、従来より幅を持たせたアレンジが加わった。「Too Much Passion」のようにホーンやコーラスを生かす曲がある一方、基本的な4人の演奏だけで押し切る曲もあり、アルバムを単一のギター音で埋め尽くしてはいない。The Smithereensは技巧的な複雑さを売りにするバンドではなく、数分間の曲の中でリフ、ヴァース、サビをどれだけ効率よく配置するかを重視する。その簡潔さが本作では洗練につながっている。
歌詞にはDiNizioの持続的な関心である、うまくいかない男女関係が何度も現れる。特徴的なのは、恋愛を幸福な状態よりも、失った後、届かない時、相手の気持ちが分からなくなった時から描くことが多い点だ。そのため曲調が明るくても、歌には嫉妬や執着、後悔が残る。この少し暗い視点が、単純に爽快なパワー・ポップとは違うThe Smithereensの個性になっている。
1991年の米国ロックという文脈では、Blow Upは新しい潮流へ大胆に乗り換えた作品ではない。むしろ1960年代のポップ、ガレージ・ロック、1970年代以降のパワー・ポップから作り上げてきた自分たちの語法を、より幅のあるプロダクションで仕上げている。時代の変化を直接反映していないことは商業的には不利にもなり得たが、作品として聴けば、流行とは別のところで磨かれた作曲の強さがよく分かる。大きな実験より、一つのメロディ、一つのリフ、一つの失恋を簡潔なロック・ソングへ変える能力を集中的に味わえるアルバムである。
おすすめアルバム
11 by The Smithereens
1989年の前作で、「A Girl Like You」を含む彼らの代表作の一つ。Blow Up以上にギター・リフの重量を前面へ出しており、1960年代ポップ由来のメロディをハードなロックへ変換するバンドの基本形がよく分かる。
A Date with The Smithereens by The Smithereens
1994年の次作。Blow Upの比較的広がりのあるアレンジから、より生々しくギター中心の演奏へ戻っている。1990年代のオルタナティヴ・ロックが主流になった後も、彼らが独自のパワー・ポップをどう維持したかを確認できる。
Marshall Crenshaw by Marshall Crenshaw
1982年作。British InvasionやBuddy Holly以後の簡潔なポップソングを1980年代へ更新した作品である。The Smithereensよりギターの音は軽いが、古典的なメロディを単なる懐古趣味にせず現代化する作曲姿勢が共通する。
Especially for You by The Smithereens
1986年のデビュー作。後年より音は軽く、ガレージ・ロックや1960年代ポップとのつながりが直接的に聞こえる。Blow Upと比較すると、同じメロディ志向を維持しながらバンドの音がどれほど太くなったかが分かりやすい。
Girlfriend by Matthew Sweet
同じ1991年に発表されたパワー・ポップの代表的作品。失恋を題材にした鋭い歌詞と覚えやすいメロディを、荒々しいエレクトリック・ギターと結びつけている。Blow Upとは異なる方法で、1960年代的なポップ感覚を1990年代のギター・ロックへ接続した一枚である。

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