
イントロダクション
A Perfect Circleは、オルタナティブロックの中でも特に深く、暗く、美しい影を持つバンドである。ToolのMaynard James Keenanが参加していることから、しばしばToolとの比較で語られる。しかしA Perfect Circleの本質は、Toolの別働隊というだけでは説明できない。彼らの音楽は、よりメロディアスで、より官能的で、よりゴシックで、より人間の弱さに近い場所へ沈んでいく。
中心にいるのは、ギタリスト/ソングライターのBilly Howerdelと、ボーカリストのMaynard James Keenanである。Howerdelが作る重く陰影のある楽曲に、Keenanの声が触れると、音楽はただのヘヴィロックではなく、祈りと毒が混ざったような深いドラマになる。そこにPaz Lenchantin、Troy Van Leeuwen、Josh Freese、Jeordie White、James Iha、Matt McJunkins、Jeff Friedlら、時期ごとに優れたミュージシャンが加わり、A Perfect Circleは流動的でありながら強い美学を持つバンドとして歩んできた。
A Perfect Circleは1999年、ロサンゼルスでBilly HowerdelとMaynard James Keenanによって結成されたアメリカのロックバンドである。初期にはPaz Lenchantin、Troy Van Leeuwen、Tim Alexanderらが参加し、のちにJosh FreeseやJames Ihaらも関わる。バンドは2000年のMer de Noms、2003年のThirteenth Step、2004年のeMOTIVe、そして14年ぶりとなった2018年のEat the Elephantを発表している。(en.wikipedia.org)
彼らの音楽は、オルタナティブロック、アートロック、プログレッシブロック、ハードロック、ゴシックな質感を横断する。だが、何より重要なのは「深淵を覗き込む感覚」である。愛、依存、罪、怒り、戦争、幻滅、祈り、救済の不可能性。A Perfect Circleは、そうしたテーマを重厚なギター、繊細なピアノ、緊張感のあるリズム、そしてKeenanの声によって、美しくも不穏な音楽へ変えてきた。
A Perfect Circleの背景と結成
A Perfect Circleの始まりは、Billy Howerdelの楽曲と、Maynard James Keenanとの出会いにある。Howerdelは、Nine Inch Nails、The Smashing Pumpkins、Fishbone、Toolなどのギターテックとして活動していた人物である。ステージの裏側で音を支えながら、彼自身も曲を書き続けていた。
HowerdelとKeenanは1990年代前半に出会い、のちにHowerdelがKeenanの家に滞在した際、彼が作っていたデモをKeenanに聴かせた。Keenanはその楽曲に自分の声が乗る可能性を感じ、A Perfect Circleの構想が動き出す。もともとHowerdelはCocteau TwinsのElizabeth Fraserをボーカルに想定していたともされるが、最終的にKeenanが歌うことで、A Perfect Circleの個性は決定的なものになった。(en.wikipedia.org)
この背景は非常に重要である。A Perfect Circleは、ToolのMaynardが新たに始めたバンドというより、Billy Howerdelの内面世界にMaynardが声を与えたプロジェクトとして始まった。Toolでは複雑なリズム、哲学的な構造、長大な楽曲が中心になることが多い。一方、A Perfect Circleでは、よりメロディ、空気感、感情の陰影が重視される。
初期ラインナップには、ベース/ヴァイオリンのPaz Lenchantin、ギターのTroy Van Leeuwen、ドラムのTim Alexanderが参加した。のちにTim Alexanderに代わってJosh Freeseが加入し、デビューアルバムMer de Nomsの録音とツアーを支えた。Pazのベースと弦楽的な感性、Van Leeuwenのギター、Freeseの緻密なドラムが、Howerdelの楽曲に立体感を与えた。
A Perfect Circleのデビューは、当時のオルタナティブロックの流れの中でも独特だった。1990年代末から2000年代初頭のロックシーンでは、ポストグランジ、ニュー・メタル、インダストリアル、オルタナティブメタルが混ざり合っていた。その中でA Perfect Circleは、ヘヴィでありながら過剰に攻撃的ではなく、暗いが繊細で、知的だが感情的なバランスを持っていた。そこが彼らを特別な存在にしたのである。
音楽スタイルと特徴
A Perfect Circleの音楽は、重さと美しさの均衡によって成り立っている。ギターは厚く歪み、ドラムは力強く、曲の空気は暗い。しかし、そこには常にメロディがある。破壊だけではなく、優雅さがある。怒りだけではなく、諦念や祈りがある。
第一の特徴は、Billy Howerdelの作曲である。彼の楽曲は、メタル的なリフに依存しすぎない。アルペジオ、ピアノ、浮遊するギター、重く沈むコード、静と動のコントラストによって、映画的な空間を作る。「3 Libras」や「The Noose」のような曲では、メロディと緊張感が非常に美しく組み合わされている。
第二の特徴は、Maynard James Keenanの声である。彼の声は、叫びだけで勝負するタイプではない。むしろ、抑制された歌唱、長く伸びる旋律、低く囁くような表現、突然の感情の爆発によって、曲の奥行きを作る。ToolでのKeenanが儀式的で哲学的な存在なら、A Perfect Circleでの彼は、より人間的な弱さや苦しみに近い。
第三の特徴は、陰影のあるプロダクションである。A Perfect Circleの音は、単純にラウドではない。楽器の隙間、残響、低音の沈み込み、声の配置が丁寧に作られている。暗い部屋で光が少しずつ差し込むような音だ。だから、彼らの曲は大音量で聴いてもよいが、夜に一人で聴くとさらに深く響く。
第四の特徴は、テーマの重さである。Mer de Nomsでは個人的な関係性や内面の影、Thirteenth Stepでは依存と回復、eMOTIVeでは政治と反戦、Eat the Elephantでは現代社会への幻滅と成熟した怒りが扱われる。A Perfect Circleは、感情の暗い部分を避けない。むしろ、その暗さの中に美しさを探す。
代表曲の楽曲解説
「Judith」
「Judith」は、A Perfect Circleを一気に知らしめた代表曲である。2000年のMer de Nomsに収録され、激しいギターリフとKeenanの怒りを帯びたボーカルが強烈な印象を残す。
この曲のタイトルは、Keenanの母親Judithに由来するとされる。彼女は信仰を持ち続けながら長年の病に苦しんだ人物であり、曲には信仰、怒り、無力感、愛憎が複雑に絡んでいる。単なる反宗教ソングではない。むしろ、愛する人が苦しむ姿を前に、神や信仰へぶつけるどうしようもない怒りの歌である。
音楽的には、Howerdelのギターが非常に鋭く、曲全体を前へ押し出す。Keenanの声は、抑えきれない感情を吐き出すように響く。A Perfect Circleの中でも特に攻撃的な曲だが、その奥には深い個人的痛みがある。そこがこの曲を単なるヘヴィロック以上のものにしている。
「3 Libras」
「3 Libras」は、A Perfect Circleの美しさを象徴する名曲である。Mer de Nomsの中でも特にメロディアスで、繊細で、深い悲しみを持つ楽曲だ。
タイトルの「3 Libras」は、天秤座を意味するLibraに由来すると考えられる。曲の中心には、見てもらえないこと、理解されないこと、愛が届かないことへの痛みがある。Keenanの声は非常に柔らかく、しかし言葉の奥には強い孤独がある。
この曲の魅力は、静かな始まりから徐々に感情が高まっていく構成にある。ギターはきらめき、弦のような響きが加わり、最後には胸の奥に溜まった感情が広がる。A Perfect Circleの音楽が、暗さだけでなく優美さを持つことを示す代表曲である。
「The Hollow」
「The Hollow」は、A Perfect Circleのデビューアルバム冒頭を飾る楽曲であり、バンドの世界観への入口である。タイトルは「空洞」。欲望や衝動で埋めようとしても満たされない内側の空白を感じさせる。
曲はタイトで、緊張感があり、ギターとリズムが鋭く絡む。Keenanの歌は、欲望と自己嫌悪の間を揺れるように響く。A Perfect Circleの音楽にしばしば現れる「欠落を埋めようとする人間」の姿が、この曲にははっきり表れている。
「The Hollow」は、彼らが単なる暗いロックバンドではなく、人間の内面にある空白を音楽で描くバンドであることを示した。
「Rose」
「Rose」は、Mer de Nomsの中でも比較的しなやかなグルーヴを持つ曲である。タイトルは薔薇。美しさと棘、愛と痛みが同時に連想される。
この曲では、ベースとドラムの動きが重要だ。ヘヴィではあるが、どこか浮遊感もあり、曲全体に官能的な揺れがある。Keenanの声は、冷たさと熱を同時に帯びている。
A Perfect Circleの楽曲では、愛は単純に救いではない。美しいものには棘があり、触れることで傷つく。「Rose」は、その感覚を象徴する曲である。
「Magdalena」
「Magdalena」は、宗教的なイメージと官能性が混ざり合う楽曲である。タイトルはマグダラのマリアを連想させ、聖性と欲望、崇拝と執着の境界が曖昧になる。
曲は重く、妖しく、緊張感がある。A Perfect Circleの音楽には、しばしば宗教的な言葉や雰囲気が現れるが、それは信仰の肯定というより、聖なるものと人間の欲望がぶつかる場所を描くためである。
「Magdalena」は、A Perfect Circleのゴシックで神秘的な側面をよく示している。
「Orestes」
「Orestes」は、Mer de Nomsの中でも特に深い悲劇性を持つ楽曲である。タイトルはギリシャ神話のオレステスを思わせ、家族、罪、宿命、断絶といったテーマが漂う。
曲は静かに始まり、徐々に感情の重みを増していく。Keenanの歌は抑制されているが、その抑制がかえって痛みを深くする。A Perfect Circleの魅力は、叫ばずとも深く傷つけるメロディを作れるところにある。
この曲には、何かを断ち切らなければならない苦しさがある。愛しているからこそ離れなければならない、あるいは自分を守るために関係を切る。その痛みが、曲全体に沈んでいる。
「Weak and Powerless」
「Weak and Powerless」は、2003年のThirteenth Stepを代表する楽曲である。依存、無力感、自己喪失をテーマにした同アルバムの中心的な曲のひとつである。
タイトルは「弱く、無力」。しかし曲は単に沈み込むだけではない。ベースラインはうねり、リズムは静かに前へ進み、Keenanの声は誘惑と苦悩の間を漂う。依存症の感覚を、説教ではなく身体的なグルーヴとして表現している点が鋭い。
Thirteenth Stepは、依存と回復のステップをテーマにした作品として語られることが多い。「Weak and Powerless」は、その中でも「自分では制御できないものに引きずられる感覚」を見事に音にしている。
「The Noose」
「The Noose」は、A Perfect Circleの中でも最も美しく、同時に恐ろしい楽曲のひとつである。タイトルは「首吊り縄」。救済と罪、赦しと欺瞞が絡み合う曲である。
曲は静かに始まり、少しずつ大きくなっていく。Keenanの歌は、相手を問い詰めるようでありながら、どこか悲しんでいる。歌詞には、救われたふりをする者、罪を浄化したつもりでいる者への冷たい視線がある。
音楽的には、Howerdelの作るコード感と空間が非常に美しい。だが、その美しさの中心には絞首刑のイメージがある。A Perfect Circleらしい、優美さと残酷さの共存が極まった名曲である。
「Blue」
「Blue」は、Thirteenth Stepの中でも特に印象的なメロディを持つ楽曲である。タイトルの青は、冷たさ、沈黙、死、麻痺した感情を連想させる。
曲は美しく、どこか夢の中のように進む。しかし歌詞には、誰かが壊れていくのを見つめるような不穏さがある。感情を失った状態、あるいは薬物によって現実感が薄れていく状態を感じさせる。
「Blue」は、A Perfect Circleが依存や破滅を直接的に叫ぶのではなく、美しいメロディの中に沈めることができるバンドであることを示している。
「Pet」
「Pet」は、Thirteenth Stepの中でも特に不穏で政治的にも読める楽曲である。表面上は子どもを守るような言葉が使われるが、その裏には支配、洗脳、恐怖による管理が感じられる。
この曲の怖さは、優しい言葉が支配の言葉に変わるところにある。「安心して眠っていなさい」というような語りかけが、実は目を開かせないためのものに聞こえる。個人の依存にも、政治的プロパガンダにも読める多層的な曲である。
A Perfect Circleは、感情の深淵だけでなく、社会的な操作や権力の問題も描く。「Pet」は、その代表例である。
「The Outsider」
「The Outsider」は、Thirteenth Stepの中でも最も攻撃的で、ライブでも強い存在感を放つ楽曲である。依存や自己破壊に陥る人物への怒り、苛立ち、無力感が込められている。
この曲では、Keenanの声が鋭く、バンドの演奏も非常にタイトだ。悲しみというよりも、見ていられないほどの怒りがある。助けたいが、助けられない。相手が自分を壊していくのを止められない。その感情が曲を駆動している。
「The Outsider」は、A Perfect Circleのヘヴィな側面を代表する曲であると同時に、依存症をめぐる周囲の人間の苦しみも描いた曲である。
「Gravity」
「Gravity」は、Thirteenth Stepのラストを飾る楽曲であり、アルバムの中で最も救いに近い場所にある曲である。重力というタイトルは、引き戻す力、地上へ帰る力、現実へ戻る力を感じさせる。
曲は静かで、穏やかで、深い余韻を持つ。依存と破壊をテーマにしたアルバムの最後に、この曲が置かれることで、完全な救済ではないにせよ、回復へ向かう微かな光が見える。
Keenanの歌は、祈りのように響く。A Perfect Circleは暗いバンドだが、闇だけを描くわけではない。闇の中でかすかに残る重力、つまり生へ引き戻す力を描くこともできる。「Gravity」は、その美しい証明である。
「Imagine」
「Imagine」は、John Lennonの名曲をA Perfect Circleが大胆に再解釈したカバーである。2004年のeMOTIVeに収録された。
原曲は平和への希望を歌う美しいバラードだが、A Perfect Circle版は暗く、重く、不穏である。希望の歌が、まるで希望を失った世界で鳴らされているように聞こえる。このアレンジによって、歌詞の理想主義は逆に痛ましく響く。
eMOTIVeは、政治的なカバーアルバムであり、戦争や社会不安への反応として作られた。「Imagine」は、そのコンセプトを最も象徴する曲である。平和を願う言葉が、暗いサウンドの中で問いとして浮かび上がる。
「Passive」
「Passive」は、eMOTIVeの中でもオリジナルに近い重要曲であり、もともとはTapewormという未完のプロジェクトに由来する楽曲として知られる。A Perfect Circle版では、怒りと失望が鋭く表現されている。
タイトルは「受動的」。曲の中では、相手の無反応や死んだような態度への苛立ちが感じられる。Keenanの声は冷たく、しかし内側に怒りを抱えている。
「Passive」は、A Perfect Circleの中でも非常に力強いロックナンバーであり、eMOTIVeの政治的文脈を超えて、個人的な怒りの歌としても響く。
「Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums」
「Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums」は、「Pet」を再構成した楽曲であり、eMOTIVeの中でも特に不気味で政治的な曲である。
タイトルは非常に強烈だ。羊を数えるように、戦争の太鼓のリズムに合わせて死体を数える。戦争、プロパガンダ、国民の眠り、恐怖による支配が一つに絡み合う。
サウンドはインダストリアル的で、機械的で、圧迫感がある。「Pet」にあった支配のテーマが、ここではより露骨に戦争と政治の文脈へ変換されている。A Perfect Circleの社会批評的側面を代表する曲である。
「By and Down」
「By and Down」は、2013年のベスト盤Three Sixtyに収録された新曲であり、長い沈黙の中で届けられた重要な楽曲である。
この曲は、初期の激しいA Perfect Circleよりも、より成熟し、浮遊感のある音を持っている。メロディは陰影に富み、Keenanの声も落ち着いている。時間を経たバンドが、自分たちの深い空気を再び呼び戻したような曲である。
この曲は、2018年のEat the Elephantへ向かう橋渡しとしても重要である。A Perfect Circleがまだ終わっていないことを示した楽曲だった。
「The Doomed」
「The Doomed」は、2018年のEat the Elephantを代表する楽曲である。タイトルは「運命づけられた者たち」「破滅する者たち」。現代社会への怒りと幻滅が込められている。
曲は、ピアノの緊張感と重いバンドサウンドが交錯する。Keenanの歌詞には、弱者が切り捨てられ、慈悲が失われていく社会への批判がある。A Perfect Circleの怒りは、若い頃の個人的な痛みから、より広い社会的な倫理へ向かっている。
Pitchforkは、Eat the ElephantがA Perfect Circleにとって14年ぶりのスタジオアルバムであり、「The Doomed」などを含む作品として発表されたことを報じている。(pitchfork.com)
「Disillusioned」
「Disillusioned」は、Eat the Elephantの中でも特に現代的なテーマを持つ楽曲である。タイトルは「幻滅した」。スマートフォン、画面、消費、注意力の崩壊といった現代社会の病を感じさせる。
曲は穏やかに始まり、徐々に広がっていく。A Perfect Circleらしい暗さはあるが、ここでは怒号ではなく、疲れた警告のような響きがある。Keenanの声は、現代人が自分の意識を奪われていることへの嘆きのように聞こえる。
「Disillusioned」は、A Perfect Circleが2010年代後半の社会状況に反応した曲として重要である。彼らの深淵は、内面だけでなく、デジタル社会にも広がっている。
「TalkTalk」
「TalkTalk」は、Eat the Elephantの中でも特に鋭い批判性を持つ楽曲である。言葉だけで行動が伴わない人間、信仰や道徳を語りながら実践しない人々への怒りが感じられる。
曲はヘヴィで、リズムにも圧力がある。Keenanは、言葉の空虚さを突きつける。A Perfect Circleの歌詞において、偽善は重要な敵である。「TalkTalk」は、そのテーマを現代的に更新した曲である。
「So Long, and Thanks for All the Fish」
「So Long, and Thanks for All the Fish」は、Douglas AdamsのThe Hitchhiker’s Guide to the Galaxyを思わせるタイトルを持つ楽曲である。Eat the Elephantの中では比較的明るく、奇妙なポップ感を持つ。
しかし、明るいサウンドの裏には、終末的な感覚や文化への皮肉がある。有名人の死、社会の混乱、娯楽と破滅の共存。A Perfect Circleはこの曲で、軽快さと不穏さを同時に鳴らしている。
「Eat the Elephant」
「Eat the Elephant」は、2018年作のタイトル曲であり、アルバムの幕開けを飾る楽曲である。過去のA Perfect Circleよりもピアノが前面に出ており、静かで内省的な雰囲気を持つ。
「象を食べる」という表現は、大きすぎる問題も一口ずつ向き合うしかないという意味を連想させる。長い沈黙を経て戻ってきたバンドが、自分たち自身の重荷、世界の重荷、創作の重荷に向き合う曲として響く。
Eat the Elephantは2018年4月20日にBMGからリリースされ、2004年のeMOTIVe以来14年ぶりのスタジオアルバムとなった。(en.wikipedia.org)
アルバムごとの進化
Mer de Noms
2000年のデビューアルバムMer de Nomsは、A Perfect Circleの美学を一気に確立した作品である。タイトルはフランス語で「名前の海」を意味し、収録曲にも人名や象徴的なタイトルが並ぶ。
「The Hollow」、「Magdalena」、「Rose」、「Judith」、「3 Libras」、「Orestes」など、初期の代表曲が集中している。このアルバムでは、ヘヴィなギター、耽美的なメロディ、宗教的なイメージ、個人的な怒りと悲しみが美しく結びついている。
この作品の魅力は、デビュー作でありながら完成度が非常に高いことだ。Billy Howerdelが長年温めていた曲が中心になっているため、楽曲の輪郭が明確で、バンドの初期衝動と熟成された作曲が同居している。
Thirteenth Step
2003年のThirteenth Stepは、A Perfect Circleの最高傑作として語られることも多い作品である。タイトルは、依存症回復プログラムの12ステップを連想させつつ、その先にある危うい領域を示している。
「Weak and Powerless」、「The Noose」、「Blue」、「Pet」、「The Outsider」、「Gravity」など、依存、回復、支配、無力感をめぐる楽曲が並ぶ。サウンドは前作よりも洗練され、より深く、より暗い。
このアルバムでは、A Perfect Circleは単なるオルタナティブロックバンドから、感情とテーマをアルバム全体で構築するアートロックバンドへ進化した。痛みを直接叫ぶのではなく、構成と空気によって聴き手を沈めていく作品である。
eMOTIVe
2004年のeMOTIVeは、政治的なカバーアルバムである。John Lennonの「Imagine」、Marvin Gayeの「What’s Going On」、Depeche Modeの「People Are People」、Nick Lowe/Elvis Costelloで知られる「(What’s So Funny ’Bout) Peace, Love and Understanding」などを、A Perfect Circleらしい暗く重い形で再解釈した。
このアルバムは、当時のイラク戦争やアメリカ社会の政治的状況に対する反応として聴かれた。単なるカバー集ではなく、既存の平和や抵抗の歌を、より不穏な時代に合わせて変形させた作品である。
「Imagine」の暗い再解釈や、「Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums」は、このアルバムの姿勢をよく示している。理想が失われた世界で、理想の歌をどう鳴らすのか。その問いがeMOTIVeにはある。
Three Sixty
2013年のThree Sixtyは、A Perfect Circleのベストアルバムであり、活動の節目を示す作品である。新曲「By and Down」が収録され、長い沈黙の中でもバンドが完全に終わっていないことを示した。
ベスト盤として聴くと、彼らの楽曲がどれほど多面的かがよくわかる。「Judith」の怒り、「3 Libras」の美しさ、「The Noose」の罪、「The Outsider」の攻撃性、「Imagine」の政治性。A Perfect Circleの音楽は、単なる暗いロックではなく、さまざまな深淵を持っている。
Eat the Elephant
2018年のEat the Elephantは、A Perfect Circleの14年ぶりのスタジオアルバムである。「The Doomed」、「Disillusioned」、「TalkTalk」、「So Long, and Thanks for All the Fish」などを収録し、バンドは現代社会への幻滅と成熟した怒りを鳴らした。
この作品は、初期のA Perfect Circleよりもピアノや静かなアレンジが目立つ。年齢を重ねたバンドが、かつてのようにただ激しく鳴らすのではなく、より冷静に世界の崩壊を見つめている印象がある。
Eat the Elephantは、アメリカのBillboard 200で3位に初登場し、バンドにとって4作連続でトップ4に入るアルバムとなった。(en.wikipedia.org) 長い空白を経ても、A Perfect Circleの存在感は衰えていなかった。
Billy Howerdelの美学
A Perfect Circleを語るうえで、Billy Howerdelの存在は決定的である。Maynard James Keenanの名前が大きいため、バンドがToolの派生のように誤解されることもあるが、A Perfect Circleの音楽的な骨格を作ったのはHowerdelである。
彼のギターは、メタル的な速弾きや派手なソロよりも、空間と感情を重視する。暗いコード、浮遊するアルペジオ、重く沈む歪み、ピアノやキーボードの導入。彼の作る音は、傷ついた建築物のようだ。壊れかけているが、美しい。
Howerdelの美学は、耽美的でありながら過剰に装飾的ではない。曲の中心には常に感情がある。彼は、ヘヴィロックにおいて「美しさ」と「脆さ」を重要な要素にした人物のひとりである。
Maynard James Keenanの声
Maynard James Keenanは、Tool、Puscifer、A Perfect Circleという三つの異なる表現の場を持つボーカリストである。その中でA Perfect Circleにおける彼の声は、最もメロディアスで、最も人間の弱さに近い。
Toolでは、彼の声はしばしば巨大な構造物の一部として機能する。Pusciferでは、より演劇的で皮肉っぽい表現が目立つ。一方、A Perfect Circleでは、痛みや怒り、悲しみがより直接的に響く。
「3 Libras」や「The Noose」での彼の歌唱は、激しく叫ばずとも人を深く揺さぶる。「Judith」や「The Outsider」では、怒りが鋭く噴き出す。彼の声は、A Perfect Circleの深淵に光と影を与える最も重要な要素である。
Toolとの違い
A Perfect Circleは、Toolと比較される宿命を持つ。しかし、両者は明確に異なる。Toolは、複雑な拍子、長大な構成、哲学的・神秘的なテーマ、儀式的なリズムが特徴である。一方、A Perfect Circleは、より歌を中心にし、感情の輪郭を明確にする。
Toolが巨大な迷宮だとすれば、A Perfect Circleは暗い聖堂である。Toolでは聴き手は構造の中を探索する。A Perfect Circleでは、聴き手は感情の深い井戸を覗き込む。
もちろん、Maynardの声によって共通する空気はある。しかし、Billy Howerdelの作曲が中心にあることで、A Perfect CircleはToolとは違う種類の美しさを持つ。よりメロディアスで、よりロマンティックで、よりゴシックである。
同時代アーティストとの比較
A Perfect CircleをNine Inch Nailsと比較すると、両者には暗さ、インダストリアルな緊張、自己破壊的なテーマが共通する。しかしNine Inch Nailsが機械的な怒りと電子音の暴力を前面に出すのに対し、A Perfect Circleはより有機的で、メロディアスで、耽美的だ。
Deftonesと比べると、両者にはヘヴィさと美しさの共存がある。Deftonesがより官能的でシューゲイズ的な轟音へ向かうのに対し、A Perfect Circleはより構築的で、劇的で、陰影のあるアートロックへ向かう。
Smashing Pumpkinsと比較すると、Troy Van LeeuwenやJames Ihaの関わりも含め、90年代オルタナティブの系譜が感じられる。Smashing Pumpkinsが夢想的なギターの壁と青春の痛みを鳴らしたのに対し、A Perfect Circleはもっと成熟した闇と精神的な重さを持つ。
Toolと比べると、A Perfect Circleはより短く、より歌心があり、より直接的な感情表現を持つ。Toolが宇宙的・精神的な構造物なら、A Perfect Circleは人間関係、依存、罪、社会的幻滅をめぐる暗い肖像画である。
後世への影響
A Perfect Circleは、2000年代以降のオルタナティブロック、アートロック、プログレッシブメタル、ポストグランジ以降のヘヴィミュージックに大きな影響を与えた。彼らが示したのは、ヘヴィでありながら美しく、暗くありながらメロディアスで、知的でありながら感情的なロックの形である。
特にMer de NomsとThirteenth Stepは、2000年代オルタナティブロックの重要作として今も聴かれている。ヘヴィロックが単なる怒りや攻撃性に流れがちな時代に、A Perfect Circleは美学と構成力を持ち込んだ。
また、彼らは「サイドプロジェクト」という言葉の意味も変えた。A Perfect Circleは、Toolの空き時間に作られた軽いプロジェクトではない。独自の美学とディスコグラフィーを持つ、完全なバンドである。
A Perfect Circleの魅力とは何か
A Perfect Circleの魅力は、暗さの中に美しさを見つけるところにある。彼らの音楽は、明るく励ますタイプのロックではない。むしろ、傷、依存、喪失、怒り、偽善、幻滅を見つめる。だが、その見つめ方が美しい。
人間は弱い。愛は救いにも毒にもなる。信仰は慰めにも怒りの対象にもなる。社会はしばしば残酷で、言葉は空虚になり、テクノロジーは人間を眠らせる。A Perfect Circleは、そうした不快な現実を音楽にする。
しかし、彼らの音楽には完全な絶望だけがあるわけではない。「Gravity」のように、かすかな救いもある。「3 Libras」のように、届かない愛の美しさもある。「The Noose」のように、罪を見つめることで生まれる緊張もある。A Perfect Circleは、深淵を覗き込みながら、その中に反射する光を探すバンドである。
まとめ
A Perfect Circleは、オルタナティブの深淵を探るバンドである。1999年にロサンゼルスでBilly HowerdelとMaynard James Keenanによって結成され、Toolとは異なるメロディアスで耽美的なヘヴィロックの世界を作り上げた。(en.wikipedia.org)
「Judith」、「3 Libras」、「The Hollow」、「Orestes」、「Weak and Powerless」、「The Noose」、「Blue」、「Pet」、「The Outsider」、「Gravity」、「Imagine」、「Passive」、「The Doomed」、「Disillusioned」といった楽曲には、彼らの多面的な魅力が刻まれている。怒り、祈り、依存、罪、救済、政治的幻滅、そして美しい暗闇。そのすべてが、A Perfect Circleの音楽にはある。
Mer de Nomsで耽美的なオルタナティブロックの美学を確立し、Thirteenth Stepで依存と回復をめぐる深いコンセプトを描き、eMOTIVeで政治的なカバー作品へ踏み込み、Eat the Elephantで14年ぶりに現代社会への成熟した怒りを鳴らした。Eat the Elephantは2018年4月20日にリリースされ、前作から14年ぶりのスタジオアルバムとして大きな注目を集めた。(en.wikipedia.org)
A Perfect Circleの音楽は、闇に沈むためのものではない。闇を見つめるためのものだ。人間の弱さ、社会の欺瞞、愛の痛み、信仰への怒り、救いへの渇望。それらを美しいメロディと重厚な音で包みながら、彼らは聴き手を深い場所へ連れていく。
その深淵は怖い。しかし、そこには確かに美がある。A Perfect Circleは、オルタナティブロックが持ち得る最も暗く、最も優雅な可能性を示したバンドなのである。

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