アルバムレビュー:Eat the Elephant by A Perfect Circle

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2018年4月20日

ジャンル:オルタナティヴ・ロック、アート・ロック、プログレッシヴ・ロック、エレクトロニック・ロック、ポスト・インダストリアル

概要

A Perfect Circleの4作目のスタジオ・アルバム『Eat the Elephant』は、前作『eMOTIVe』から約14年ぶりに発表された作品であり、2000年代初頭のオルタナティヴ・ロックを代表するスーパーグループが、2010年代後半の政治的・社会的混乱の中で再び声を上げたアルバムである。A Perfect Circleは、Toolのボーカリストとして知られるMaynard James Keenanと、ギタリスト/ソングライターのBilly Howerdelを中心に結成され、2000年のデビュー作『Mer de Noms』で重厚なロック、ゴシックな陰影、メロディアスな歌唱、精神的な緊張を融合させた独自のサウンドを確立した。

2003年の『Thirteenth Step』では、依存症、回復、自己破壊をテーマにしたコンセプチュアルな作品性を強め、バンドは単なるToolのサイド・プロジェクトではなく、独自の美学を持つ存在として評価された。2004年の『eMOTIVe』は反戦・政治的カバー集という特殊な作品であり、それ以降A Perfect Circleは長く沈黙することになる。そのため『Eat the Elephant』は、単なる新作ではなく、バンドが長い時間を経てどのように時代と向き合うのかを問われる作品だった。

本作の大きな特徴は、従来のギター主導の重厚なロックよりも、ピアノ、シンセサイザー、電子音、抑制されたリズムを中心にした曲が多いことである。過去作にあった硬質なギター・リフや攻撃的なロックの爆発は後退し、代わりに、冷たく広い音響空間、沈黙を活かしたアレンジ、緊張を内側に抱え込むような構成が目立つ。これは、A Perfect Circleが年齢を重ねて単に穏やかになったというより、怒りを即座に爆発させるのではなく、より不気味で持続的な不安として表現する方向へ進んだことを意味している。

アルバム・タイトルの『Eat the Elephant』は、「大きすぎる問題にどう取り組むのか」という比喩として解釈できる。象を食べるには一口ずつ食べるしかない、という考え方があるように、本作では圧倒的な社会問題、政治的分断、情報過多、無関心、暴力、信仰の崩壊、精神的疲弊といった巨大な問題が扱われている。ただし、A Perfect Circleはそれらを単純なスローガンとして提示しない。Maynard James Keenanの歌詞は、皮肉、怒り、失望、嘲笑、祈りのような響きを混ぜ合わせながら、現代社会の病理を断片的に照らし出す。

2018年という時代背景も重要である。SNSによる言論の過熱、政治的な分断、陰謀論やフェイクニュースの拡散、銃暴力、宗教的・道徳的価値観の衝突、気候変動への不安など、アメリカ社会は極度に緊張していた。『Eat the Elephant』は、そのような時代の空気を直接吸い込んだ作品である。過去のA Perfect Circleが個人の内面や依存、罪悪感、精神的な回復を主題にしていたとすれば、本作では個人の不安が社会全体の狂気と結びついている。

音楽的な影響としては、Nine Inch Nails以降のインダストリアル/電子ロック、Radiohead的な不安定な電子音響、Pink Floyd的な空間性、David Bowie後期のアート・ロック、さらに従来のオルタナティヴ・メタルの重さが遠くに残っている。A Perfect Circleの過去作と比べると、即効性のあるギター・アンセムは少ないが、その分、音の隙間や声のニュアンスが重要になっている。Maynardの声は依然として圧倒的な存在感を持つが、本作では叫びよりも抑制、断罪よりも疲労、怒号よりも冷たい観察が目立つ。

『Eat the Elephant』は、A Perfect Circleのキャリアにおいて賛否が分かれやすい作品である。初期の重厚なギター・ロックを期待するリスナーには、淡白で地味に感じられる部分もある。しかし、本作は過去の再現を目指したアルバムではない。むしろ、世界が大きく変わった後に、A Perfect Circleが自分たちの音楽をどのように更新できるかを示した作品である。暴力的な音を鳴らすことよりも、暴力的な時代を冷たく見つめることに重点を置いた、後期A Perfect Circleの重要作である。

全曲レビュー

1. Eat the Elephant

表題曲「Eat the Elephant」は、アルバムの幕開けとして非常に象徴的な楽曲である。従来のA Perfect Circleのイメージにある重いギター・リフではなく、ピアノを中心とした静かなアレンジから始まる点が、本作の方向性を明確に示している。曲は大きく爆発するというより、慎重に言葉を置きながら進んでいく。ここには、巨大な問題を前にした人間の戸惑いと、それでも何かを始めなければならないという意志がある。

歌詞では、圧倒的な課題を前にして立ちすくむ状態が描かれる。象を食べるという比喩は、実現不可能に見える問題に対して、ひとつずつ取り組むしかないという現実的な姿勢を示している。これは社会問題にも、個人の精神的問題にも当てはまる。世界は複雑で、怒りだけでは変えられない。しかし、何もしなければ何も進まない。その緊張が曲全体に漂っている。

音楽的には、Maynardの歌唱が非常に抑制されている。彼は激しく叫ぶのではなく、静かな語りかけのように歌う。そのため、曲には説教的な強さではなく、重い現実を見つめる沈痛な感触がある。オープニングとしては意外なほど控えめだが、この控えめさこそが『Eat the Elephant』というアルバムの成熟した不穏さを印象づけている。

2. Disillusioned

「Disillusioned」は、本作を代表する楽曲のひとつであり、現代社会における情報依存、デジタル疲れ、共同体の喪失を鋭く扱っている。タイトルは「幻滅した」という意味を持ち、理想や信念が崩れた後の空虚を示している。A Perfect Circleはここで、スマートフォンやスクリーンに支配された人々の姿を、冷たくも哀しげに描き出す。

曲は静かなピアノとボーカルから始まり、次第に厚みを増していく。メロディは美しく、Maynardの声には深い憂いがある。過去のA Perfect Circleのような劇的な重さはあるが、それはギターの圧力ではなく、感情の蓄積によって生まれる。サビでは広がりのある旋律が現れ、個人の孤独と社会的な喪失感が大きなスケールで響く。

歌詞では、画面に吸い込まれ、現実のつながりを失っていく人々への批判が込められている。しかし、その批判は単なる上から目線ではない。語り手自身もまた、その時代の中にいる。人々はつながるための道具によって孤立し、情報を得るほど現実感を失う。「Disillusioned」は、2010年代後半のデジタル社会への不安を、A Perfect Circleらしい荘厳なロック・バラードとして表現した名曲である。

3. The Contrarian

「The Contrarian」は、タイトル通り「反対ばかりする人」「逆張りの人物」をテーマにした楽曲である。現代の言論空間では、真実や倫理よりも、注目を集めるための挑発、他者を混乱させるための逆張り、議論そのものを破壊するような態度がしばしば目立つ。この曲は、そのような人物像を冷ややかに描いている。

音楽的には、不穏なリズムと暗いメロディが特徴である。曲は派手に爆発するのではなく、じわじわと聴き手を追い詰める。Maynardの歌唱は、まるで危険な人物を観察し、その手口を暴いていくように響く。A Perfect Circleらしいゴシックな陰影は残っているが、本作特有の電子的で抑制された質感が強い。

歌詞では、表面的には魅力的に見えるが、実際には他者を操り、混乱させ、破壊へ導く人物が描かれる。「Contrarian」は単なる反抗者ではない。信念を持って権力に逆らう人物ではなく、逆らうこと自体を目的化し、周囲を疲弊させる存在である。この視点は、政治的な扇動者、メディア上の挑発者、インターネット時代の有害な言論人など、さまざまな対象に重ねることができる。

この曲は、『Eat the Elephant』が個人の内面だけでなく、現代社会の言葉の壊れ方にも注目していることを示す重要な一曲である。

4. The Doomed

「The Doomed」は、アルバムの中でも特に攻撃性と宗教的イメージが強い楽曲である。シングルとして先行公開されたこともあり、本作の社会批評的側面を強く印象づけた曲である。タイトルは「運命づけられた者」「滅びに向かう者」を意味し、現代社会が自ら破滅へ向かっているという感覚が込められている。

音楽的には、アルバム序盤の静かな流れから一転して、より鋭いリズムと緊張感を持つ。ギターやドラムの存在感も増し、A Perfect Circleらしい重さが表れる。ただし、過去作のような直線的なオルタナティヴ・メタルというより、電子音や不穏な空間処理を交えた現代的なロックとして構成されている。

歌詞では、弱者への共感や慈悲が失われ、富や権力を持つ者が正当化される社会への怒りが込められている。宗教的な言葉や終末的なイメージを用いながら、倫理が逆転した世界が描かれる。救われるべき者が見捨てられ、責められるべき者が称えられる。その倒錯こそが、この曲の中心的な批判である。

「The Doomed」は、『Eat the Elephant』の中でも最も明確に政治的で、怒りを前面に出した曲である。しかし、その怒りは単なる党派的な主張ではなく、社会が人間性を失っていくことへの根本的な危機感として響く。

5. So Long, and Thanks for All the Fish

「So Long, and Thanks for All the Fish」は、アルバムの中で最もポップで皮肉な楽曲である。タイトルはDouglas Adamsの『銀河ヒッチハイク・ガイド』に由来するフレーズとして知られ、地球の終わりや人類の愚かさをユーモラスに扱う響きを持つ。A Perfect Circleはこの言葉を用いて、終末的な時代感覚を軽妙かつ毒のあるポップ・ソングに変換している。

音楽的には、明るく弾むようなメロディとリズムが特徴で、アルバムの中では異色の開放感を持つ。しかし、その明るさは純粋な幸福ではなく、ブラックユーモアとして機能している。世界が崩れていく中で、あえて陽気に別れを告げるような感覚がある。Maynardの歌唱もどこか芝居がかっており、祝祭と諦念が同居している。

歌詞では、著名人の死、文化的記憶、終末感、現代社会の軽薄さが混ざり合う。深刻な時代に対して、深刻な顔で語るのではなく、あえて軽い調子で歌うことで、かえって不気味さが際立つ。この曲のポップさは、A Perfect Circleが単に暗いだけのバンドではなく、皮肉や風刺をポップの形式へ変換できるバンドであることを示している。

「So Long, and Thanks for All the Fish」は、本作の重苦しさの中で異彩を放つが、その軽さはアルバム全体の批評性を弱めるものではない。むしろ、笑うしかないほど壊れた時代の感覚を、最も鮮やかに表現している。

6. TalkTalk

「TalkTalk」は、宗教的偽善、言葉だけの信仰、行動を伴わない道徳への批判を扱った楽曲である。タイトルは、話すことだけが先行し、実際には何も変えようとしない態度を示している。A Perfect Circleはここで、祈りや信念を口にしながら、現実の苦しみに対して無関心な人々へ強い怒りを向けている。

音楽的には、静かなパートと激しいパートの対比が印象的である。曲は抑制された緊張から始まり、次第に重さを増していく。Maynardの声は、最初は冷静に響くが、曲が進むにつれて非難の色を強める。ギターとリズムの圧力も高まり、言葉だけの空虚さに対する怒りが音として噴き出す。

歌詞の中心には、「祈るだけでなく行動せよ」というメッセージがある。特に、暴力や社会問題が起きるたびに「祈り」を口にしながら、具体的な変化を拒む態度への批判として読むことができる。これは銃暴力、貧困、差別、政治的無責任など、現代アメリカのさまざまな問題に接続される。

「TalkTalk」は、本作の中でも特に鋭い社会批評を持つ曲である。宗教を単純に否定しているのではなく、信仰の言葉が倫理的行動を伴わないとき、それは空虚な自己満足になるという点を突いている。

7. By and Down the River

「By and Down the River」は、本作の中でも比較的A Perfect Circleの従来の美学に近い、重く美しい楽曲である。もともとライブや過去のリリースで知られていた「By and Down」が再構成された曲であり、アルバムの中では長い時間をかけて成熟したトラックとして位置づけられる。

音楽的には、流れるようなギター、重いリズム、広がりのあるメロディが特徴である。曲は一気に爆発するのではなく、ゆっくりと積み上がり、内側から圧力を増していく。Maynardの歌唱は哀しみと怒りの中間にあり、曲全体に深い陰影を与えている。

歌詞では、欺瞞、失望、精神的な堕落、流されていく感覚が描かれる。川というイメージは、時間、運命、浄化、あるいは制御不能な流れを象徴する。語り手はその流れに沿って進むのか、それとも流されてしまうのか。明確な答えは示されないが、曲全体には避けられない喪失感が漂う。

「By and Down the River」は、『Eat the Elephant』の中で、過去のA Perfect Circleと現在のA Perfect Circleをつなぐ役割を果たしている。初期作品のファンにも受け入れやすい重厚さを持ちながら、本作の抑制された音響にも自然に溶け込んでいる。

8. Delicious

「Delicious」は、タイトルの甘美さとは裏腹に、皮肉と毒を含んだ楽曲である。「おいしい」「魅力的」という言葉は、快楽や欲望を連想させるが、A Perfect Circleの文脈では、他者の失敗や苦痛を消費するような残酷さにもつながる。現代社会において、人々は他者の破滅や炎上を娯楽として味わうことがある。この曲は、そのような感覚を思わせる。

音楽的には、リズムとメロディの配置に不穏な軽さがある。重厚すぎず、どこかひねったポップ感覚を持ちながら、曲の空気は冷たい。Maynardの歌唱は、相手をからかうようでもあり、距離を置いて観察するようでもある。Billy Howerdelの音作りは、ギターの重さよりも、曲の持つ不気味な質感を優先している。

歌詞では、痛みや破滅が一種の快楽として扱われる構造が示唆される。これは個人間の関係にも、メディアやSNSの文化にも当てはまる。人は他者の苦しみを見て優越感を得たり、道徳的な怒りを装いながら実際にはその光景を楽しんだりする。「Delicious」は、そのような人間の暗い欲望を、タイトルの甘さによって逆説的に表現している。

9. DLB

「DLB」は短いインストゥルメンタル的なトラックであり、アルバム全体の流れの中で間奏のような役割を果たしている。曲名は抽象的で、明確な物語やメッセージを持つというより、音響的な移行として機能している。『Eat the Elephant』は歌詞の批評性が強いアルバムだが、このような短いトラックがあることで、作品全体の緊張に呼吸が生まれている。

音楽的には、静かで不穏な空気が中心である。派手な展開はなく、音の質感や余白が重視される。これは、A Perfect Circleが本作でロック・バンドの演奏だけでなく、音響設計にも重きを置いていることを示す。沈黙に近い空間や、断片的な響きが、次の曲への心理的な準備を作る。

「DLB」は単体で強い印象を残すタイプの曲ではない。しかし、アルバム全体を通して聴くと、重いテーマが続く中で意識を一度沈める役割を持っている。映画的な転換点のように、聴き手を別の暗い部屋へ案内するトラックである。

10. Hourglass

「Hourglass」は、アルバム後半で特に電子的な質感が強い楽曲である。タイトルの「砂時計」は、時間の有限性、崩れていく秩序、避けられない終わりを象徴する。『Eat the Elephant』全体が現代社会の終末感を扱っていることを考えると、この曲はその時間意識をより直接的に表現している。

サウンドは機械的で、不穏な電子音と硬質なビートが印象的である。従来のギター・ロックというより、インダストリアルやエレクトロニック・ロックに近い質感を持つ。Maynardの声も、冷たく加工された空間の中で響き、感情の温度が意図的に下げられている。

歌詞では、時間切れの感覚、警告が無視される状況、人間が自らの破滅へ向かって進んでいく姿が描かれる。砂時計は、残された時間が目に見える形で減っていく装置である。しかし、人々はその砂が落ち続けていることを知りながら、行動を変えない。この曲は、環境問題、政治的崩壊、社会的分断など、さまざまな現代的危機に重ねて聴くことができる。

「Hourglass」は、本作の中でも最も冷たく、機械的な楽曲のひとつである。A Perfect Circleが重さをギターだけでなく、電子音の硬さと反復によって表現している点が重要である。

11. Feathers

「Feathers」は、アルバム終盤において比較的叙情的な広がりを持つ楽曲である。タイトルの「羽」は、軽さ、解放、脆さ、上昇、そして壊れやすさを連想させる。『Eat the Elephant』の中では、暗い社会批評や皮肉が多くを占めるが、この曲ではより内面的で、傷ついた人間の回復や浄化を思わせる雰囲気がある。

音楽的には、静かな導入から徐々に広がっていく構成が特徴である。ピアノやシンセの柔らかな響き、抑制されたリズム、Maynardの伸びやかな歌唱が、アルバム後半に感情的な深みを与えている。過去のA Perfect Circleのバラード的な美しさに近いが、サウンドはより透明で、やや冷たい。

歌詞では、過去の痛みや重荷を脱ぎ捨てるようなイメージが描かれる。ただし、それは完全な救済ではない。羽は軽やかで美しいが、同時に壊れやすい。人は傷から回復しようとするとき、強くなるだけでなく、むしろ自分の脆さを認めなければならない。この曲は、アルバム・タイトルにもある「Vulnerable」ではないが、それに近い脆さの美学を持っている。

「Feathers」は、本作の中で感情的な救いに最も近い曲である。しかし、A Perfect Circleは安易な希望を提示しない。ここでの解放は、暗闇が消えたことではなく、暗闇の中でわずかに浮上する感覚として表現されている。

12. Get the Lead Out

クロージング曲「Get the Lead Out」は、アルバムを奇妙で皮肉な余韻の中で終わらせる楽曲である。タイトルは「急げ」「ぐずぐずするな」という意味を持つ表現であり、行動を促す言葉として機能する。『Eat the Elephant』全体が、巨大な問題を前にした無力感と行動の必要性を扱ってきたことを考えると、このタイトルはアルバムの結論にもつながる。

音楽的には、派手なクライマックスではなく、やや乾いた、不気味なグルーヴで進む。終幕にふさわしい壮大な爆発を期待すると肩透かしを受けるかもしれないが、その肩透かし自体が本作らしい。A Perfect Circleはここで、解決や勝利を提示するのではなく、問題がまだ残されたままであることを示している。

歌詞では、行動しない人々への苛立ち、停滞への拒否、現実を直視する必要性が示唆される。世界は壊れているが、人々は先延ばしを続ける。怒りはあるが、行動は遅い。理想は語られるが、身体は動かない。「Get the Lead Out」は、その停滞に対する最後の皮肉な呼びかけとして響く。

アルバムの最後にこの曲が置かれることで、『Eat the Elephant』は明確な救済ではなく、未解決の課題を残して終わる。象はまだ食べ終わっていない。問題はまだ巨大なままだ。しかし、少なくとも一口目を始める必要がある。その感覚が、このクロージングには込められている。

総評

『Eat the Elephant』は、A Perfect Circleのディスコグラフィの中で最も静かで、最も政治的で、最も賛否を呼びやすい作品のひとつである。『Mer de Noms』や『Thirteenth Step』にあったゴシックで重厚なギター・ロックの即効性は、本作ではかなり抑えられている。そのため、初期のA Perfect Circleに特有のダークでメロディアスなオルタナティヴ・メタルを求めるリスナーには、物足りなく感じられる可能性がある。しかし、本作の狙いは過去の再現ではなく、2010年代後半の不安を別の音楽的言語で表現することにある。

本作の中心にあるのは、巨大な問題を前にした人間の無力感と、それでも行動しなければならないという矛盾である。表題曲「Eat the Elephant」はその姿勢を明確に示し、「Disillusioned」ではデジタル社会の孤立を、「The Doomed」では倫理の崩壊を、「TalkTalk」では行動なき信仰の空虚を、「Hourglass」では時間切れの危機感を描く。A Perfect Circleはここで、個人の心の闇だけでなく、社会全体が病んでいる状態を扱っている。

音楽的には、ピアノ、シンセサイザー、電子音、抑制されたドラム、空間的なアレンジが重要な役割を果たしている。Billy Howerdelの作曲は、ギター・リフ中心から、よりテクスチャー重視の方向へ広がっている。過去作のような鋭いリフや爆発的なダイナミズムは少ないが、その代わりに、冷たい空気、持続する緊張、静かな怒りが作品全体を支配している。この変化は、単なる音量の低下ではなく、表現方法の成熟である。

Maynard James Keenanの歌唱も、本作の重要な軸である。彼はToolやPusciferでも異なる表現を見せてきたが、A Perfect Circleにおいては、叙情性と批評性を結びつける役割を担っている。『Eat the Elephant』では、彼の声は叫びよりも語り、怒りよりも失望、断罪よりも冷静な観察に重点を置いている。その抑制が、アルバム全体の不気味さを強めている。感情を大きく爆発させないからこそ、現代社会への疲労と苛立ちがじわじわと伝わる。

歌詞面では、A Perfect Circleがもともと持っていた精神的・倫理的なテーマが、より明確に社会批評へ接続されている。『Thirteenth Step』が依存症や自己回復を中心にした内面的なアルバムだったとすれば、『Eat the Elephant』はその視点を社会全体へ広げた作品である。ここでは、人々が何に依存しているのかが変わっている。薬物や個人的な破壊だけでなく、画面、情報、怒り、宗教的言葉、政治的アイデンティティ、消費される悲劇に依存している。現代人の中毒は、より見えにくく、より日常化している。

本作が興味深いのは、単に時事的な怒りを音楽にしただけではない点である。政治的な題材を扱いながらも、アルバムは特定のニュースや人物に限定されない普遍性を持つ。なぜ人は行動しないのか。なぜ人は他者の苦しみに鈍感になるのか。なぜ真実よりも快い嘘を選ぶのか。なぜ祈りや言葉だけで満足してしまうのか。『Eat the Elephant』は、そうした問いを繰り返し投げかける。

一方で、アルバムとしての弱点もある。曲によってはテンポや音色の変化が少なく、過去作に比べるとダイナミックな展開に欠ける部分がある。また、社会批評的な歌詞が前面に出るため、初期作品のような神秘的で個人的な曖昧さを好むリスナーには、やや直接的に感じられるかもしれない。しかし、その直接性は時代への応答として必要なものでもあった。2018年のA Perfect Circleが、2000年のA Perfect Circleと同じ音を鳴らすことには大きな意味がない。本作は、バンドが年齢を重ね、社会が変化した後に、どのような不安を音にできるのかを示している。

『Eat the Elephant』は、派手な復活作ではない。むしろ、復活という言葉に伴う祝祭感を拒むようなアルバムである。戻ってきたバンドが鳴らしたのは、勝利のロックではなく、疲れ切った時代への警告だった。静かで、冷たく、皮肉で、重い。その重さは音量の大きさではなく、問いの重さである。

日本のリスナーにとって本作は、ToolやNine Inch Nails、Radiohead、Depeche Mode以降の暗い電子ロック、あるいは政治性を帯びたオルタナティヴ・ロックに関心がある場合に聴き応えがある作品である。初期A Perfect Circleの入門盤としては『Mer de Noms』や『Thirteenth Step』の方が適しているが、バンドの成熟と2010年代後半の空気を理解するには、本作は欠かせない。

『Eat the Elephant』は、巨大な問題を前にした現代人のためのアルバムである。怒り、幻滅、皮肉、疲労、そしてわずかな行動への呼びかけが、抑制された音像の中に刻まれている。A Perfect Circleは本作で、過去の重さを繰り返すのではなく、現在の重さを鳴らした。その意味で『Eat the Elephant』は、バンドの歴史における異色作でありながら、非常に誠実な作品である。

おすすめアルバム

1. A Perfect Circle『Mer de Noms』

2000年発表のデビュー・アルバム。A Perfect Circleの基本的な美学である、重厚なギター、陰影の深いメロディ、Maynard James Keenanの叙情的な歌唱が最も鮮烈に表れている。『Eat the Elephant』の静かな方向性と比較することで、バンドがどれほど音楽的に変化したかが分かる。

2. A Perfect Circle『Thirteenth Step』

2003年発表のセカンド・アルバム。依存症、回復、自己破壊をテーマにした作品で、A Perfect Circleの最高傑作のひとつとされることが多い。『Eat the Elephant』が社会全体の病理を扱うのに対し、本作は個人の内面の病理を深く掘り下げている。両作を並べて聴くと、バンドの主題の変化が見えやすい。

3. Tool『Fear Inoculum』

2019年発表のToolのアルバムで、Maynard James Keenanのもうひとつの重要な表現を知るうえで関連性が高い。長尺で複雑なプログレッシヴ・メタルとして構築されており、『Eat the Elephant』よりも演奏面の構造性が強い。Maynardの声が、異なる音楽的文脈でどのように機能するかを比較できる。

4. Nine Inch Nails『Year Zero』

2007年発表のコンセプト・アルバムで、政治的ディストピア、電子音、インダストリアル・ロックを結びつけた作品である。『Eat the Elephant』の社会批評性や冷たい電子音響に関心があるリスナーに適している。怒りを単なるギターの爆発ではなく、電子的な不安として表現する点で関連性が高い。

5. Radiohead『A Moon Shaped Pool』

2016年発表のアルバム。音楽性は異なるが、静かな不安、政治的・環境的な影、ピアノやストリングスを含む抑制された音響という点で『Eat the Elephant』と共鳴する。直接的なロックの爆発ではなく、沈み込むような空気の中で現代の不安を表現する作品として比較しやすい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました