発売日: 2020年3月13日
ジャンル: インディーロック、ポストロック、アートポップ、リイマジネーション作品
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概要
『Say Goodbye to Pretty Boy』は、Bartees Strangeが2020年に発表したカバー・アルバムであり、The Nationalの楽曲を独自の解釈で再構築した意欲作である。
単なるトリビュートやリスペクトの枠を超え、これは“白人中心のインディーロックの文脈に、黒人アーティストが自身の声を差し挟む行為”であり、その試み自体が政治的であり、かつ個人的な声明でもある。
アルバムタイトルにある“Pretty Boy”は、The Nationalのフロントマン、Matt Berningerの象徴的な存在像を想起させると同時に、“白人男性的美学”の脱構築とも読める。“Goodbye”は別れではなく、再解釈の宣言である。
原曲の持つ陰鬱で知的なメロディーに、ソウル、ヒップホップ、ポストロック、ゴスペルなどの文脈を注ぎ込み、Barteesならではの感情の起伏と声のグラデーションが光る、リイマジネーション作品の傑作である。
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全曲レビュー
1. About Today
The Nationalの名バラードを、静寂と高揚のコントラストで再構築。原曲のメランコリーに加え、Barteesの声が持つスピリチュアルな余韻が深く沁みる。
2. Lemonworld
ファズギターとラップ的なリズム感で大胆にアレンジ。原曲の倦怠感を保ちつつ、黒人青年の視点を重ねたような語り口が新鮮。
3. Mr. November
ノイズとシャウトの応酬。The Nationalの中でも攻撃的なこの曲を、さらに“破壊の美学”として極端化。Barteesのエモーショナルな爆発が痛烈に響く。
4. The Geese of Beverly Road
淡いシンセとドリーミーな構成。原曲よりも柔らかく、祈るようなトーンが加えられ、喪失と希望の混ざった響きに。
5. Looking for Astronauts
ビートを際立たせたR&B的アプローチ。繊細な声の揺らぎが、リリックの空虚さに新たな感情の陰影を与える。
6. All the Wine
エレクトロニカを基調にしたグルーヴィーなアレンジで、原曲の“ナルシスティックな強がり”を逆手にとった、アイロニカルなカバー。
7. A Reasonable Man (I Don’t Mind)
唯一のオリジナル楽曲。カバーとオリジナルをつなぐ“架け橋”として機能し、Barteesの作家性とこの作品の意味を内在的に語る。
8. Going Going
ボーナストラック的位置づけの短編。反復的なコードと多重コーラスによって、静かにアルバムの幕を引く。
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総評
『Say Goodbye to Pretty Boy』は、Bartees Strangeという存在が「インディーロックをただ愛している」以上に、“そこに居場所を作ろうとする行為”であることを示した、誠実で野心的なプロジェクトである。
The Nationalのリスナーにとっては驚きの再構築であり、原曲のファンでなくともこの作品単体で楽しめるほどに完成されたアートワーク。特に注目すべきは、Barteesが自分の声に一切嘘をついていないことだ。
これはただのカバー集ではない。ジャンルとジェンダー、人種と声の政治性をめぐる、音楽的エッセイなのだ。
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おすすめアルバム（5枚）
- The National『Boxer』
本作の原曲群の多くが収録された、憂鬱の名盤。 - Moses Sumney『Aromanticism』
ジャンルを超えた黒人アーティストによる、感情の再定義。 - Sufjan Stevens『Carrie & Lowell』
個人的な記憶と再解釈のプロセスが響き合う傑作。 - Bon Iver『22, A Million』
再構築と電子的崩壊の手法において共通する野心。 - Anohni『Hopelessness』
ポリティカルで声の力が前面に出るアートポップ作品。
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文化的文脈と解釈
Bartees Strangeのこのアルバムは、“白人男性中心のインディーロックの聖典”を、異なる身体と声で語り直すことによって新たな解釈を生む試みであり、音楽的な行為であると同時に社会的介入でもある。
彼はThe Nationalを愛しながらも、その音楽の中に“自分のための空間がなかったこと”に気づいた。その空白を自らの声で埋めようとしたこの作品は、インディー文化の再編と、誰が“美しい男”と見なされるのかという問いへの返答でもある。
これは、Bartees Strangeが“Pretty Boy”という神話に「さようなら」を告げ、その代わりに“Real Boy”として自分を歌った記録なのだ。
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