発売日: 1996年6月18日
ジャンル: サイケデリック・ロック、ラウンジ、ラーガロック、ガレージ、ワールド・ミュージック
- 幻覚的綺想の迷宮——“悪魔的セカンドリクエスト”と名乗る60年代夢幻のトリビュート
- 全曲レビュー
- 1. All Around You (Intro)
- 2. Cold to the Touch
- 3. Don’t Ever Tell Anyone Anything
- 4. Baby (Prepraise)
- 5. This Is Why You Love Me
- 6. David Bowie I Love You (Since I Was Six)
- 7. Love of My Life
- 8. Monkey Puzzle
- 9. Servo
- 10. The Devil May Care (Mom & Dad Don’t)
- 11. Their Satanic Majesties’ Second Request (Repeat)
- 12. Feelers
- 13. Bad Baby
- 14. Cause I Love Her
- 15. All Around You (Outro)
- 総評
- おすすめアルバム
幻覚的綺想の迷宮——“悪魔的セカンドリクエスト”と名乗る60年代夢幻のトリビュート
The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が1996年にリリースした本作『Their Satanic Majesties’ Second Request』は、
タイトルからして明白な通り、Rolling Stonesの1967年作『Their Satanic Majesties Request』への皮肉と愛に満ちた返答である。
だがこれは単なるオマージュやパロディではない。
Anton Newcombeを中心とするBJMが、60年代サイケデリックの“夢と狂気”を21世紀的な眼差しで再構築した実験的交響詩なのだ。
フルート、サズ、タンブーラ、マラカス、ストリングス、そして多重録音されたコーラス……
その豊富な楽器編成は、ラウンジ・サイケ、イースタン・ラーガ、スペース・ポップ、アシッド・フォークまでを自在に行き来する。
と同時に、それらを“ローファイなDIY精神”でまとめ上げるという矛盾が、この作品の最もサイケな点かもしれない。
全曲レビュー
1. All Around You (Intro)
環境音と多重コーラスに導かれる儀式的なオープニング。
まるで1967年の幻影が1996年にチューニングされて甦ったようなトランス誘導。
2. Cold to the Touch
ストーンズ風R&Bにファズをまぶしたミッドテンポナンバー。
“感情の喪失”をポップに歌い上げる逆説的快感。
3. Don’t Ever Tell Anyone Anything
サズと東洋音階によるラーガ・サイケ。
神秘主義とポップメロディが奇妙に絡み合うエキゾチックな浮遊感。
4. Baby (Prepraise)
シンプルなアコギとメロディが心地よい短編。
本作では珍しい裸の音像に近い。
5. This Is Why You Love Me
アルバムの中でも異例のキャッチーさを誇る、ラブソング風のミニマル・サイケポップ。
反復の快感が癖になる。
6. David Bowie I Love You (Since I Was Six)
前作からの再録。
メロディアスでありながらアイドル崇拝とアイデンティティ形成の哀しみがにじむ。
7. Love of My Life
甘ったるいメロトロンとコーラスが渦巻く、ラウンジ的陶酔。
1960年代のB級ポップスの過剰美学。
8. Monkey Puzzle
混沌と即興性のインスト。
破壊と構築が同時進行するようなノイズとグルーヴの連打。
9. Servo
スペースポップのようなスケール感と、キーボード主体のアンサンブル。
“機械的な快楽”を祝福するサイケ讃歌。
10. The Devil May Care (Mom & Dad Don’t)
反体制的なユーモアが効いたリリックに、ルーズで祝祭的なビートが乗る。
まさに“悪魔的”な遊戯性の象徴。
11. Their Satanic Majesties’ Second Request (Repeat)
タイトル曲にして、サイケ要素をすべて“見世物小屋”のように詰め込んだ異形の楽曲。
まるでアルバム全体を要約し、再び混ぜ返すようなメタ構成。
12. Feelers
催眠的コード進行とぼんやりしたヴォーカルの交差。
感情の輪郭が溶けていくような感覚を生む。
13. Bad Baby
ビートルズ的“おもちゃ箱ポップ”の解体再構築。
かわいらしさの裏に潜む不穏さが心地よい違和感を残す。
14. Cause I Love Her
アシッド・フォーク的な響きとメロトロンが交錯。
幻視の中で恋を語るような儚さが美しい。
15. All Around You (Outro)
オープニングと対になる構造。
曲というより音の残響そのもの。
このアルバム全体が夢だったと気づいた頃に、音だけが残っている。
総評
『Their Satanic Majesties’ Second Request』は、60年代のサイケデリアをサンプリングしながら、現代的な虚構として再構築したポストモダン・サイケの金字塔である。
そのすべては本気であり、ふざけており、自己陶酔的で、同時にメタ的でもある。
Anton Newcombeの狙いは単純なレトロ趣味ではなく、“幻覚の歴史”そのものに手を突っ込み、それを再演することだったのだ。
このアルバムを聴くという行為そのものが、擬似的な幻覚体験=音のLSDトリップであり、
それはいつの時代に聴いても、“あの頃”の記憶を更新するように作用する。
おすすめアルバム
- The Rolling Stones – Their Satanic Majesties Request
元ネタにして原典。“サイケ期ストーンズ”の特異点。 - The Olivia Tremor Control – Music from the Unrealized Film Script: Dusk at Cubist Castle
実験とポップの交差点で作られた90年代のサイケ名盤。 - Spiritualized – Lazer Guided Melodies
トランスとサイケの静謐な融合。『Servo』や『Feelers』に通じる快感。 - The United States of America – s/t (1968)
電子音と社会批評が融合した初期サイケの異端。 - Tame Impala – Innerspeaker
現代における“夢のリバイバル”。このアルバムの血を今に継ぐ子孫のひとつ。
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