
- イントロダクション:宇宙的なきらめきと90年代オルタナティブのざらつき
- アーティストの背景と歴史
- 音楽スタイルと影響:グラムロックの華やかさとオルタナティブの重量感
- 代表曲の解説
- アルバムごとの進化
- Resident Alien:異邦人として鳴らしたグラム・オルタナティブの名刺
- The Chinese Album:成功後のひねくれた野心
- The Hogyssey:ロックンロールへの回帰とタフな響き
- As It Is on Earth:時間を経た再会と成熟
- Royston Langdonのボーカル:中性的な艶とグラムの血統
- Langdon兄弟とバンドの化学反応
- グラムロックとの関係:Bowie、T. Rex、Queenの影
- オルタナティブロックとの関係:90年代における異物としての輝き
- 同時代のバンドとの比較:Oasis、Suede、The Verve、Jellyfishとの違い
- 影響を受けた音楽とアーティスト
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- 歌詞世界:宇宙、異邦人、愛、皮肉、ロックンロールの夢
- ライブパフォーマンス:ロックンロールの芝居と身体性
- Spacehogの美学:異邦人が鳴らす、きらびやかな孤独
- まとめ:Spacehogが残した、90年代のグラム・オルタナティブな閃光
- 関連レビュー
イントロダクション:宇宙的なきらめきと90年代オルタナティブのざらつき
Spacehog(スペースホッグ)は、1990年代半ばのオルタナティブロック・シーンに現れた、英国出身メンバーによるロックバンドである。ニューヨークを拠点に活動しながら、サウンドの核には明らかに英国ロックの血が流れていた。グラムロック、ブリットポップ、サイケデリックロック、ハードロック、オルタナティブロックを混ぜ合わせ、派手で少し退廃的、しかし驚くほどメロディアスな音楽を鳴らした。
代表曲In the Meantimeは、1990年代ロックの中でも特に印象的な一曲である。うねるベースライン、宇宙船が浮上するようなシンセの響き、Royston Langdon(ロイストン・ラングドン)の中性的で艶のあるボーカル。曲はグラムロックの華やかさを持ちながら、90年代オルタナティブ特有の重さと孤独も抱えている。まさにSpacehogというバンドの名刺である。
Spacehogの魅力は、時代の隙間にある。1990年代半ばは、アメリカではグランジ以後のオルタナティブロックが巨大な市場を作り、英国ではブリットポップが盛り上がっていた。Spacehogは、そのどちらにも接続しながら、完全にはどちらにも属さなかった。彼らは英国的なグラムロックの血統を持ちつつ、アメリカのオルタナティブ・ラジオで鳴る重いギターサウンドにも対応した。
彼らの音楽には、David Bowie、T. Rex、Queen、The Beatles、Mott the Hoople、Led Zeppelin、そして90年代オルタナティブの感覚が重なっている。宇宙、孤独、愛、自己演出、ロックンロールの夢。Spacehogはそれらを、少し大げさに、少し皮肉っぽく、そして非常に美しいメロディで表現したバンドである。
アーティストの背景と歴史
Spacehogは、1990年代前半にニューヨークで結成された。中心人物は、イギリス・リーズ出身のLangdon兄弟、Royston LangdonとAntony Langdonである。そこにJonny Cragg、Richard Steelが加わり、バンドの形が固まった。メンバーは英国出身でありながら、活動拠点はアメリカという点が非常に重要である。
彼らの音楽は、アメリカのオルタナティブロックの中で受け入れられたが、その美学はかなり英国的だった。グラムロック的な華やかさ、少し芝居がかった歌い方、メロディへの強いこだわり、そしてロックを単なる怒りではなく「スタイル」として鳴らす感覚。これらは、1990年代アメリカの生々しいグランジとはかなり違うものだった。
1995年、デビューアルバムResident Alienを発表。このアルバムは、Spacehog最大の成功作となる。特にIn the Meantimeのヒットによって、バンドは一気に注目を集めた。タイトルのResident Alienは「居住外国人」を意味する言葉であり、英国人としてアメリカで活動する彼ら自身の立場とも重なる。異邦人でありながら、そこに住み、音を鳴らす。その感覚がSpacehogの音楽にはよく表れている。
1998年にはセカンドアルバムThe Chinese Albumを発表。前作ほどの商業的成功は得られなかったものの、音楽的には野心的で、より多彩な作品となった。2001年にはThe Hogysseyを発表し、よりストレートなロックンロール色を見せる。その後は活動が断続的になり、2013年には再結成後のアルバムAs It Is on Earthをリリースした。
Spacehogは、巨大なディスコグラフィを残したバンドではない。しかし、Resident AlienとIn the Meantimeによって、1990年代ロック史の中に確かな痕跡を刻んだ。彼らは一発屋のように語られることもあるが、実際には非常に豊かな音楽的背景と、独自の美意識を持ったバンドである。
音楽スタイルと影響:グラムロックの華やかさとオルタナティブの重量感
Spacehogの音楽スタイルは、グラムロックとオルタナティブロックの融合として語ることができる。彼らのサウンドには、1970年代英国ロックの影響が色濃い。David Bowieの宇宙的なイメージ、T. Rexの妖しいポップ感覚、Queenの劇的なコーラス、Mott the Hoopleのロックンロール的な華やかさ。こうした要素が、90年代のギターサウンドで再構築されている。
特にRoyston Langdonのボーカルは、Spacehogの個性を決定づけている。彼の声は高めで、少し鼻にかかったような響きがあり、中性的な艶を持つ。グランジのように喉をつぶして叫ぶのではなく、メロディをしなやかに歌い上げる。その歌い方には、BowieやFreddie Mercury、Marc Bolanに通じる演劇性がある。
一方で、サウンドは決して懐古的なグラムロックの再現ではない。ギターは重く、ベースは太く、ドラムは90年代ロックらしい強い押し出しを持つ。In the MeantimeやCruel to Be Kindなどには、オルタナティブロックの厚みがある。グラムロックのきらびやかさを、90年代の歪んだアンプで鳴らしているのだ。
また、Spacehogにはビートルズ的なメロディ感覚もある。サビの強さ、コーラスの広がり、少しひねったコード進行。派手な見た目や宇宙的なイメージの裏に、非常に堅実なポップソングの技術がある。そこが彼らを単なるスタイル先行のバンドにしなかった。
彼らの音楽は、ロックの「演じる楽しさ」を思い出させる。90年代のオルタナティブロックはしばしば本音、傷、怒り、内面のリアリティを重視した。Spacehogはそこに、仮面、華やかさ、ロマンティックな大げささを持ち込んだ。だからこそ、彼らは異物感を持ちながらも魅力的だった。
代表曲の解説
In the Meantime
In the Meantimeは、Spacehog最大の代表曲であり、1990年代オルタナティブロックの中でも非常に記憶に残る楽曲である。冒頭の浮遊するようなシンセ、すぐに入る印象的なベースライン、そしてRoyston Langdonの艶やかなボーカル。曲が始まった瞬間に、どこか宇宙的で、どこか懐かしい世界が立ち上がる。
この曲の魅力は、グラムロック的な華やかさと、90年代らしい孤独感が同居している点である。タイトルの「In the Meantime」は「その間に」という意味を持つ。何かが始まるまでの時間、何かが終わった後の空白、その中間にある不確かな時間。曲には、その浮遊した感覚がよく表れている。
歌詞には、愛や存在、自己確認のようなテーマがにじむ。だが、重く語られるのではなく、大きなサビとグルーヴの中で開放される。孤独を歌いながら、曲は祝祭的である。そこが素晴らしい。
In the Meantimeは、一度聴けば忘れがたい曲である。ベースラインは身体に残り、サビは空へ広がる。Spacehogのすべてが凝縮された名曲だ。
Space Is the Place
Space Is the Placeは、バンド名にも通じる宇宙的なイメージを前面に出した楽曲である。タイトルはSun Ra的な宇宙思想を思わせる言葉でもあり、Spacehogのサイケデリックな側面を感じさせる。
曲には、地球上の現実から少し離れたいという願望がある。宇宙は、単なるSF的な舞台ではない。現実からの逃避であり、自己を拡張する場所であり、ロックが夢を見るための空間である。
Spacehogの音楽における宇宙は、BowieのZiggy Stardust的な系譜にある。異邦人、スター、孤独、演劇性。Space Is the Placeは、その美学を分かりやすく示す曲である。
Starside
Starsideは、Resident Alienに収録された楽曲で、Spacehogのメロディアスな側面と宇宙的なロマンティシズムがよく出ている。タイトルは「星の側」とでも訳せる言葉で、夜空や遠い場所への憧れを感じさせる。
この曲は、In the Meantimeほど派手なヒット性はないが、アルバム全体の世界観を支える重要な曲である。Spacehogの音楽には、地上のロックンロールと、空の彼方への憧れが同時にある。Starsideは、その後者を美しく表している。
Cruel to Be Kind
Cruel to Be Kindは、Nick Loweの名曲と同名だが、Spacehogの楽曲としてはよりヘヴィで、ひねりのあるロック感覚を持つ。タイトルは「優しくするために残酷になる」という矛盾を含んでいる。
Spacehogの歌詞には、こうした感情のねじれが似合う。愛と拒絶、優しさと自己防衛、ロマンティックな願望と皮肉。曲のサウンドも、甘いメロディと重いギターがぶつかることで、その二面性を表現している。
Candyman
Candymanは、Spacehogの遊び心とグラムロック的な猥雑さが感じられる楽曲である。タイトルには甘さ、誘惑、怪しさがある。キャンディのように甘いが、どこか危険な存在。そのイメージは、Spacehogの音楽そのものにも通じる。
曲はポップでありながら、どこか毒がある。彼らのメロディは親しみやすいが、完全に健全ではない。少し退廃的で、少し芝居がかっている。そのバランスがSpacehogらしい。
Mungo City
Mungo Cityは、セカンドアルバムThe Chinese Albumを代表する楽曲である。タイトルからして奇妙で、架空の都市、異国的な風景、グラムロック的な想像力を感じさせる。
曲は前作のヒット曲群よりも、ややひねりが強く、実験的な印象もある。Spacehogはこの時期、単にIn the Meantimeの成功をなぞるのではなく、より広い音楽世界を作ろうとしていた。Mungo Cityは、その野心を象徴する曲である。
Carry On
Carry Onは、Spacehogの持つポップな強さがよく表れた楽曲である。タイトルは「続けていく」「持ちこたえる」という意味を持つ。華やかなサウンドの奥に、どこか励ましや再生の感覚がある。
Spacehogの音楽は、退廃的でありながら、完全な絶望には向かわない。むしろ、傷や孤独を抱えながらも、少し大げさに笑って進んでいくような明るさがある。Carry Onは、その感覚をよく示している。
Perpetual Drag
Perpetual Dragは、Spacehogらしいロックンロールの気だるさと華やかさが混ざった曲である。タイトルは「永続する重荷」や「終わらない退屈」といったニュアンスを持つ。
グラムロックには、しばしば退屈と装飾の関係がある。日常が退屈だからこそ、派手な衣装を着て、星や宇宙を夢見る。Spacehogもまた、現実の重さをきらびやかな音で包むバンドだった。Perpetual Dragは、その感覚をよく表している。
At Least I Got Laid
At Least I Got Laidは、タイトルからしてSpacehogらしい皮肉と軽薄さがある楽曲である。「少なくとも寝た」というような身も蓋もない言葉には、ロックンロール的な馬鹿馬鹿しさと自己嘲笑がある。
この曲の面白さは、グラムロック的な性的ユーモアを、90年代的なだらしなさと結びつけている点である。ロマンティックでありたいが、現実はもっと滑稽で、情けない。Spacehogはその滑稽さを隠さない。
I Want to Live
I Want to Liveは、2001年のThe Hogysseyに収録された楽曲で、よりストレートなロックの感覚がある。タイトルは「生きたい」という非常に直接的な言葉である。
この曲では、Spacehogの華やかさよりも、生命への衝動が前に出る。グラムロック的な仮面を脱ぎ、より素朴なロックバンドとしての姿を見せているようにも聞こえる。
Earthquake
Earthquakeは、The Hogysseyに収録された楽曲で、タイトル通り揺れ動くようなロックの力を持つ。地震というイメージは、安定した地面が崩れる感覚を呼び起こす。
Spacehogの音楽には、宇宙的な浮遊感と地上的な揺れが同時にある。空へ飛びたいが、足元は崩れる。その矛盾が、彼らのロックの魅力になっている。
Try to Remember
Try to Rememberは、再結成後の作品As It Is on Earthに収録された楽曲である。タイトルは「思い出そうとして」という意味を持ち、過去の記憶や失われた時間を見つめるような響きがある。
若い頃のSpacehogには、派手な勢いと演劇的な自信があった。再結成後の楽曲では、そこに時間の重みが加わる。Try to Rememberには、過去の自分たちと向き合うような穏やかな成熟がある。
アルバムごとの進化
Resident Alien:異邦人として鳴らしたグラム・オルタナティブの名刺
1995年のデビューアルバムResident Alienは、Spacehogの決定的な作品である。タイトルは、アメリカで暮らす外国人を意味する言葉であり、英国出身の彼らがニューヨークで活動していた状況と重なる。同時に、宇宙的な異邦人というイメージもある。
このアルバムには、In the Meantime、Space Is the Place、Starside、Cruel to Be Kindなど、バンドの美学を示す曲が並ぶ。サウンドは、グラムロックの華やかさ、90年代オルタナティブの厚み、ビートルズ的なメロディ、宇宙的なサイケ感覚が見事に融合している。
特にIn the Meantimeの存在は大きい。この一曲によってSpacehogは時代の記憶に残った。しかし、アルバム全体を聴くと、彼らが単なる一曲のバンドではなく、明確な世界観を持っていたことが分かる。
Resident Alienは、グランジ以後のアメリカのロックシーンに、英国グラムの色気を持ち込んだ作品である。90年代半ばという時代の中で、非常に個性的な輝きを放っている。
The Chinese Album:成功後のひねくれた野心
1998年のThe Chinese Albumは、Spacehogのセカンドアルバムである。デビュー作の成功後、彼らは単純な続編を作るのではなく、より多彩で、少しひねくれた作品へ向かった。
Mungo City、Carry Onなどに表れているように、サウンドはより広がりを持ち、曲の構成も少し複雑になっている。グラムロック的な要素は残りつつ、よりサイケデリックで、よりポップで、時に実験的でもある。
ただし、商業的には前作ほどの成功を得られなかった。これは、In the Meantimeのような圧倒的な一曲を期待したリスナーにとって、アルバムが少し捉えにくかったことも関係しているかもしれない。
しかし、音楽的には興味深い作品である。Spacehogが自分たちを単なる90年代オルタナティブのヒットバンドで終わらせず、もっと奇妙で多面的なロックバンドとして見せようとしたアルバムである。
The Hogyssey:ロックンロールへの回帰とタフな響き
2001年のThe Hogysseyは、タイトルからして遊び心がある。ホーマーのOdysseyをもじったような響きであり、Spacehogらしい大げさでユーモラスな感覚がある。
このアルバムでは、前作よりもストレートなロック色が強い。I Want to Live、Earthquakeなどには、よりタフで、ギター中心のサウンドがある。グラム的な装飾性はやや抑えられ、バンドとしてのロックンロール感が前に出ている。
時代的には、2000年代初頭に入り、90年代オルタナティブの空気は変わりつつあった。ガレージロック・リバイバルやニューメタル、ポップパンクなどが台頭する中で、Spacehogは自分たちの居場所を探していたようにも聞こえる。
The Hogysseyは、大きな商業的成功にはつながらなかったが、バンドのロックンロール精神を感じられる作品である。
As It Is on Earth:時間を経た再会と成熟
2013年のAs It Is on Earthは、Spacehogの再結成後のアルバムである。長い時間を経て戻ってきた彼らは、若い頃の派手なグラム感だけでなく、成熟したメロディと落ち着いた音を聴かせる。
Try to Rememberなどには、過去を振り返る視線がある。かつての宇宙的な浮遊感は残っているが、そこに人生の時間が加わっている。若い頃のSpacehogが星の方を見ていたとすれば、この時期の彼らは地上に立ちながら空を見上げている。
このアルバムは、バンドの巨大な復活劇というより、長年のファンに向けた静かな再会のような作品である。Spacehogという名前に宿るロマンティックな響きが、まだ消えていないことを示している。
Royston Langdonのボーカル:中性的な艶とグラムの血統
Spacehogを語るうえで、Royston Langdonのボーカルは欠かせない。彼の声は、90年代オルタナティブロックの中ではかなり異質だった。グランジの低く荒れた声とも、ブリットポップの自然体の歌唱とも違う。もっと高く、艶があり、少し演劇的で、グラムロックの血を感じさせる。
In the Meantimeでの彼の歌は、まさにSpacehogの顔である。ベースとギターが重く鳴っていても、声は上へ浮かび上がる。地上の重力に縛られず、少し宇宙的な高さを持っている。
Roystonの歌唱は、David BowieやFreddie Mercury、Marc Bolanの系譜にある。男性的なロックの荒々しさだけではなく、中性的な美しさ、芝居がかった表現、メロディを大きく見せる力がある。その声が、Spacehogを普通のオルタナティブバンドではなく、グラムの遺伝子を持つバンドにしている。
Langdon兄弟とバンドの化学反応
Spacehogの中心には、Royston LangdonとAntony Langdonという兄弟の存在がある。兄弟バンドには独特の緊張感と近さがある。言葉にしなくても分かる部分と、近すぎるからこそぶつかる部分。その両方が音楽に現れる。
Antony Langdonはギターやボーカル面でバンドに重要な色を加えた。Spacehogのサウンドは、Roystonだけのものではなく、バンド全体のグルーヴとアンサンブルによって成立している。Jonny Craggのドラム、Richard Steelのギターも含め、彼らの演奏には90年代ロックらしい厚みと、英国的なメロディ感覚が同時にある。
Spacehogは、スター性のあるボーカリストを中心にしたバンドでありながら、実際にはアンサンブルのバンドでもある。In the Meantimeの成功も、あのベースライン、リズム、ギター、シンセ的な空気があってこそ成立している。
グラムロックとの関係:Bowie、T. Rex、Queenの影
Spacehogは、1990年代のバンドでありながら、1970年代グラムロックの影響を強く感じさせる。David Bowieからは、宇宙的なイメージ、異邦人感覚、中性的なボーカル表現を受け継いでいる。T. Rexからは、妖しいポップ感覚とロックンロールの軽やかな色気。Queenからは、劇的なコーラスや大きなメロディの感覚を感じることができる。
グラムロックは、ロックに演劇性と人工性を持ち込んだジャンルである。リアルであることより、演じること。等身大であることより、少し大げさな夢を見ること。Spacehogはその精神を90年代に持ち込んだ。
1990年代のオルタナティブロックは、しばしば「本物らしさ」を重視した。グランジの破れた服、内面の痛み、反スター的な姿勢。Spacehogはそこに、スター性、装飾、宇宙的な冗談を持ち込んだ。だからこそ、彼らは少し浮いていた。しかし、その浮き方こそが魅力だった。
オルタナティブロックとの関係:90年代における異物としての輝き
Spacehogは、アメリカのオルタナティブロック・ラジオで受け入れられたバンドである。しかし、NirvanaやPearl Jam、Soundgardenのようなグランジ勢とは明らかに違った。彼らの音には、自己破壊的な暗さよりも、演劇的な浮遊感がある。
それでも、Spacehogが90年代オルタナティブの一部として成立したのは、サウンドに十分な重さがあったからである。ギターは厚く、リズムは強く、楽曲には当時のロックシーンに通じるざらつきがある。もし彼らが完全に1970年代風のグラム再現だけをしていたなら、90年代のラジオには届かなかったかもしれない。
Spacehogの魅力は、古いロックのロマンを、新しい時代の音圧で鳴らしたことにある。グラムロックとオルタナティブロックの間に橋を架けたバンドと言える。
同時代のバンドとの比較:Oasis、Suede、The Verve、Jellyfishとの違い
Spacehogは、同時代の英国系バンドと比較すると個性が分かりやすい。
Oasisは、The BeatlesやT. Rexの影響を巨大なアンセムへ変えたバンドである。Spacehogも英国ロックの影響を持つが、Oasisほど労働者階級的な直線性はない。もっと宇宙的で、グラム的で、少しひねくれている。
Suedeは、英国グラムの妖しさを90年代に更新したバンドであり、Spacehogと共通する部分がある。ただし、Suedeが英国の都市的な退廃や性的曖昧さをより文学的に描いたのに対し、Spacehogはアメリカのオルタナティブロックの厚みと、より大きなポップ感覚を持っていた。
The Verveは、サイケデリックな広がりと英国的な悲壮感を持つバンドである。Spacehogにもサイケデリックな浮遊感はあるが、The Verveほど深刻な精神性ではなく、もっと遊び心とロックンロールの華やかさがある。
Jellyfishとは、70年代ロックやQueen的なコーラスへの愛という点で近い。だが、Jellyfishがより緻密なパワーポップ職人だったのに対し、Spacehogはもっとグラムで、少しだらしなく、ロックバンドとしての荒さを持っていた。
影響を受けた音楽とアーティスト
Spacehogの音楽には、David Bowie、T. Rex、Queen、The Beatles、Mott the Hoople、Led Zeppelin、The Rolling Stones、Pink Floyd、Cheap Trick、The Kinks、グラムロック、サイケデリックロック、ハードロック、ブリットポップ、90年代オルタナティブロックの影響がある。
特にBowieの影響は大きい。バンド名や曲の宇宙的なイメージ、Royston Langdonの歌唱、アルバム全体の異邦人感覚には、明らかにBowie的な系譜がある。ただし、Spacehogは単なるBowieフォロワーではない。彼らはそこに90年代のギターサウンドと、アメリカで暮らす英国人としての感覚を加えた。
また、Queen的な大きなメロディとコーラス感覚も重要である。Spacehogの曲には、サビで一気に空が開けるような瞬間がある。これは、グラムロックとスタジアムロックの両方を受け継いだものだ。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
Spacehogは、巨大なムーブメントを作ったバンドではない。しかし、90年代以降のグラム・リバイバル的なロックや、英国的なメロディを持つオルタナティブバンドにとって、独特の位置を占めている。
彼らは、90年代のオルタナティブロックが必ずしも暗く、反スター的である必要はないことを示した。派手でもよい。ロマンティックでもよい。宇宙を夢見てもよい。少し大げさに歌ってもよい。その姿勢は、後のグラム感覚を持つインディーロックや、レトロな70年代ロックを再解釈するバンドたちに通じる。
また、In the Meantimeは、長年にわたって映画、テレビ、プレイリストなどで再発見され続けている。楽曲単位での影響力は非常に強い。90年代ロックの中でも、時代を超えて残る一曲を持っていることは、Spacehogの大きな財産である。
歌詞世界:宇宙、異邦人、愛、皮肉、ロックンロールの夢
Spacehogの歌詞には、宇宙、異邦人、愛、孤独、自己演出、皮肉、ロックンロールの夢が登場する。彼らの言葉は、グランジのように剥き出しの告白ではない。もっと芝居がかっていて、少し距離がある。
Resident Alienというアルバムタイトルに象徴されるように、Spacehogには異邦人感覚がある。彼らは英国人でありながらアメリカで活動した。その状況は、彼らの音楽に「ここにいるが、完全には属していない」という感覚を与えている。
また、宇宙のイメージは重要である。宇宙は現実逃避であり、自己拡張であり、ロックンロールの大げさな夢の舞台である。Spacehogの歌詞は、地上の情けなさと宇宙的なロマンを行き来する。そのギャップが面白い。
ライブパフォーマンス:ロックンロールの芝居と身体性
Spacehogのライブには、グラムロック的な演劇性と、オルタナティブロックの生々しいバンド感が同居していた。Royston Langdonのボーカルはステージでより艶を増し、バンドの演奏はスタジオ音源よりもラフで力強くなる。
In the Meantimeのような曲は、ライブで特に映える。ベースラインが会場を動かし、サビで観客が一体となる。Spacehogの音楽は、録音では宇宙的に聞こえるが、ライブではもっと肉体的でロックンロールなものになる。
グラムロックは本来、視覚と身体の音楽でもある。Spacehogもまた、音だけでなく姿勢や雰囲気によってロックの夢を演じるバンドだった。そこに彼らの楽しさがある。
Spacehogの美学:異邦人が鳴らす、きらびやかな孤独
Spacehogの美学を一言で表すなら、「きらびやかな孤独」である。彼らの音楽は華やかで、メロディアスで、時に祝祭的である。しかし、その奥には、自分がどこにも完全には属していないという感覚がある。
英国人でありながら、アメリカで鳴るバンド。70年代グラムを愛しながら、90年代オルタナティブの中で聴かれたバンド。派手なロックを鳴らしながら、どこか寂しさを抱えたバンド。Spacehogは、そうした矛盾の中で輝いた。
彼らの音楽は、現実の地面から少し浮いている。だが、完全に宇宙へ消えてしまうわけではない。重いギターと太いベースが、しっかり地上につなぎ止めている。浮遊と重力、その両方を持つことがSpacehogの魅力である。
まとめ:Spacehogが残した、90年代のグラム・オルタナティブな閃光
Spacehogは、グラムロックとオルタナティブの融合を体現したバンドである。英国ロックの華やかな血統を受け継ぎながら、ニューヨークを拠点に90年代アメリカのオルタナティブシーンへ飛び込み、独自のサウンドを作り上げた。
Resident Alienでは、異邦人としての感覚、宇宙的なロマン、グラムロックの艶、オルタナティブロックの重さを結びつけた。In the Meantimeは、そのすべてが完璧に結晶した名曲であり、今も90年代ロックの中で強く輝いている。The Chinese Albumではよりひねりのある音楽的野心を見せ、The Hogysseyではストレートなロックンロールへ接近した。再結成後のAs It Is on Earthでは、時間を経た成熟と回想の感覚を加えた。
Royston Langdonの中性的で艶やかな声、Langdon兄弟を中心としたバンドの化学反応、グラムロックへの深い愛、そして90年代の音圧。Spacehogは、短い成功だけで片づけるには惜しいバンドである。
彼らは、ロックがもう一度派手な夢を見てもよいことを教えてくれた。グランジ以後の時代に、宇宙やスターや仮面やロマンを持ち込んだ。だが、それは単なる懐古ではなく、90年代の孤独を抱えた新しいグラムだった。
Spacehogの音楽を聴くと、星空の下でアンプが鳴っているような感覚になる。足元にはニューヨークのアスファルトがあり、頭上にはBowie的な宇宙が広がる。その中間で、彼らは歌う。In the Meantime、つまり「その間」に。Spacehogは、その宙ぶらりんな時間を、最高にメロディアスで、最高にロックな瞬間へ変えたバンドである。

コメント