※本記事は、TuneSightに登場する架空のライターによる創作対談です。
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Soundgardenの最高傑作として最も広く挙げられるのは、1994年の『Superunknown』だろう。「Black Hole Sun」「Spoonman」「Fell on Black Days」「The Day I Tried to Live」を収録し、グランジという枠を越えて世界的なロック・バンドへ進んだ作品でもある。しかしSoundgardenを本当に特徴づけるのは、90年代Seattleの空気だけではない。Black Sabbath的な重さ、Led Zeppelin的なダイナミクス、サイケデリア、変拍子、70年代ハードロックの巨大さを、パンク以後の感覚で組み直していたところにある。1989年の『Louder Than Love』、1991年の『Badmotorfinger』、そして『Superunknown』を並べると、Soundgardenはグランジの一員でありながら、同時にロック史全体を引き受けるようなバンドだったことが見えてくる。今回はAlex、David、Marcusの3人が、最高傑作論とともに、彼らがなぜ90年代の中でこれほど「古いロック」と「新しいロック」を同時に鳴らせたのかを考える。
- Soundgardenは本当に「グランジのバンド」だったのか
- 『Louder Than Love』には、まだ危険な未整理さがある
- 『Badmotorfinger』はSoundgardenが最も「バンド」だった作品か
- Chris Cornellはなぜ「クラシック・ロックの声」を90年代に持ち込めたのか
- Kim Thayilはなぜギター・ヒーローにならなかったのか
- Ben Shepherd加入後、Soundgardenの低音はどう変わったのか
- 『Superunknown』で何が決定的に変わったのか
- 「Black Hole Sun」はなぜ代表曲なのにSoundgardenらしくないようで、最もSoundgardenらしいのか
- 「Fell on Black Days」はChris Cornellの作家性が最も裸になった曲か
- 「Spoonman」は変拍子をなぜポップにできたのか
- 『Superunknown』はグランジの「拡張」だったのか
- 『Down on the Upside』は『Superunknown』の後でどこへ行こうとしたのか
- 最高傑作は『Superunknown』か『Badmotorfinger』か
- 過小評価された曲を選ぶなら「4th of July」
- 対談を終えて
- 関連レビュー
Soundgardenは本当に「グランジのバンド」だったのか
Soundgardenをグランジの代表格として括るのは当然なんだけど、それだけだとかなり狭いと思うんです。ギターの音は重いし、Seattleのシーンから出てきた。でも「Outshined」や「Rusty Cage」を聴くと、Nirvanaのようなパンク由来の簡潔さとは明らかに違う。Kim Thayilのギターには70年代ハードロックの重さがあるし、Matt Cameronのドラムは変拍子でも平然と進む。最初から「三コードを荒く鳴らす」バンドではなかった。
そうですね。私はSoundgardenを初めて聴いたとき、Black Sabbathとの関係がまず耳に入ります。低く重いリフ、半音階的な不穏さ、曲が地面を引きずる感覚。ただしTony Iommiのリフをそのまま90年代化したのではない。Thayilはもっとノイズや奇妙な音程を使うし、コードそのものを少し濁らせる。だから古典的なハードロックを知っている耳にも懐かしいのに、同時にかなり異物なんです。
僕はリズムから聴くと、グランジの中でもかなり特殊だと思います。Ben ShepherdのベースもMatt Cameronのドラムも、単純な重さに行かない。「Spoonman」みたいに変則的な拍でも、カウントを意識させるより身体で押してくる。ここはファンクやジャズとは違うけれど、「ロックは四拍子で直線的に進むもの」という感覚をかなり崩しています。
しかもChris Cornellがいるでしょう。彼の声は完全にクラシック・ロック級のスケールなんですよ。Robert PlantやIan Gillanのような高音域の系譜に入る。でも歌い方は80年代メタルの誇示とは違って、もっと苦しそうで、内向きで、時には声そのものが崩れる。その矛盾がSoundgardenを90年代のバンドにしている。
だから「グランジ」という言葉は彼らの時代と場所を説明するには便利だけれど、音楽的な系譜を説明するには足りないんです。Soundgardenはパンク以後の感覚で、70年代ハードロックを再発明したバンドだと思います。
そしてその「再発明」があったから、彼らはグランジの流行が終わっても古びにくい。流行の音を作ったのではなく、ロックの古い言語を別の文法で話していたんです。
『Louder Than Love』には、まだ危険な未整理さがある
1989年の『Louder Than Love』は、最高傑作ではないかもしれないけれど、Soundgardenの原型がかなり生々しく残っています。「Hands All Over」「Loud Love」「Gun」と、ギターのリフが巨大なのに、まだサウンドが完全に整理されていない。Thayilのギターが少し荒くて、バンド全体がアンプの音量に引っ張られている感じがするんです。
私はこの時期のSoundgardenに、70年代の重いロックを再発見した若いバンドの興奮を感じます。リフを大きく鳴らすことに迷いがない。でも曲構成は意外に変で、「Hands All Over」なんかも単純なハードロックにはならない。Cornellのヴォーカルが高く上がる一方、リズムは低く粘る。その上下の幅がすでに大きい。
ただ、リズム面ではまだ後の洗練には達していないと思います。『Badmotorfinger』になると、変拍子やアクセントのズレがもっと自然に曲の中へ入る。『Louder Than Love』では「重い」という印象が先に来る。そこが若さでもあるんですけど。
「Big Dumb Sex」みたいな曲も含めて、まだ悪趣味さを面白がっているところがあるんですよね。後のSoundgardenはもっと内省的で暗くなるけど、この時期には馬鹿馬鹿しさもある。パンクやガレージから来た感覚がまだ強い。
その未整理さは大事ですね。もし最初から『Superunknown』のように完成されていたら、Soundgardenはもっと優等生的なハードロック・バンドに見えたかもしれない。初期には「こんな重いリフをどう扱うか、まだ自分たちでも分かっていない」感じがある。
だから『Louder Than Love』は、90年代のオルタナティブが生まれる直前の音として面白い。メタル、パンク、ノイズ、変なリズムがまだ一つの名前に整理されていないんです。
『Badmotorfinger』はSoundgardenが最も「バンド」だった作品か
私は『Badmotorfinger』をかなり高く評価しています。1991年という時代も大きいですが、「Rusty Cage」「Outshined」「Jesus Christ Pose」という序盤だけでバンドの異常な強さが分かる。『Superunknown』より音が荒く、曲も攻撃的で、四人が一つの塊として鳴っている。
僕は最高傑作を選ぶとき、いつも『Badmotorfinger』と『Superunknown』で迷います。ギターだけなら前者の方が好きなんです。「Rusty Cage」のリフなんて、どうやったらあんなに変なのにキャッチーになるのか。普通のパワーコードではなく、弦の開放や不協和な響きを使って、曲の足場そのものをずらしている。
「Outshined」もリズムがすごいですよね。重いリフを持ちながら、拍の感じが少し引っかかる。その引っかかりがあるから、単純なメタルの重量感ではなく、身体が少し傾く。Soundgardenの変拍子って、数学的に「何拍子です」と見せるためではなく、気持ち悪さを作るために使われることが多い。
Matt Cameronがそこを自然にしているんですよ。複雑な拍でも大げさに叩かず、ロックの推進力を保つ。70年代のプログレでは変拍子そのものが聴きどころになることもあるけれど、Soundgardenでは「なぜか乗りにくい」という違和感として残る。
そしてCornellの声がこのアルバムではかなり攻撃的です。「Jesus Christ Pose」なんて、あの高音をきれいに響かせるより、ほとんど喉を焼くように使う。技術はあるけど、技術を美しく見せない。そこが80年代メタルとの決定的な違いだと思います。
僕は『Badmotorfinger』を「グランジの中で最もメタルに近い作品」とは思わないんです。むしろ、メタルの重さをパンク的な不快さと複雑なリズムで壊した作品。だからジャンルの境界にいる。
その意味でバンドとしての純度は非常に高い。『Superunknown』ではスタジオや作曲の幅が広がるけれど、『Badmotorfinger』は四人の演奏そのものが前に出る。ライブ・バンドとしてのSoundgardenを一枚で聴くなら、こちらでしょう。
Chris Cornellはなぜ「クラシック・ロックの声」を90年代に持ち込めたのか
Chris Cornellを考えると、Soundgardenがなぜ「ロック史的」に見えるかが分かりやすいと思います。彼の声は明らかに70年代ハードロックの大きなヴォーカルの系譜にある。でも彼自身は、そのスター性を古い形では演じなかった。長髪で高音を出しても、勝利や快楽を歌う英雄ではなく、内側で何かに押し潰されている人物に聞こえる。
声域だけなら本当にクラシック・ロック的ですよ。高音に上がっても芯があるし、低いところではかなり暗い。ただ、彼はRobert Plantのような官能や、Paul Rodgersのような安定したブルース感とは違う。もっと緊張している。声が開けば開くほど、自由になるより苦しさが増す。
それが「Fell on Black Days」みたいな曲でよく分かります。あれは絶叫する曲じゃないけれど、声の中に常に張力がある。サビも完全に解放されない。Cornellって、本当に大きな声を持っているのに、「大きな声を出せば問題が解決する」というロックのルールを信じていないんですよ。
歌詞もそうですよね。自己認識、孤立、不安、死、精神的な閉塞を扱うけれど、Nirvanaのような会話的な直接性とは違う。Cornellはもっと象徴的で、少し古典的なロック詩の大きさがある。それでも意味が壮大な神話に行かず、自分の内側へ戻る。
だから彼は70年代のヴォーカル技術と90年代の感情を接続したんだと思います。80年代末までなら、高音を出せる男性ロック・シンガーには強さや性的自信が求められることが多かった。Cornellはその声を、不安と矛盾のために使った。
そこがSoundgardenを「古いロックの復活」から救っています。声もギターも古典的な力を持っているけれど、その力に対する信頼がない。90年代的なのはそこです。
Kim Thayilはなぜギター・ヒーローにならなかったのか
Thayilはもっと評価されるべきギタリストだと思います。彼は明らかに独自の音を持っているのに、ギター・ヒーローの文脈ではあまり語られない。理由は簡単で、ソロを「曲の頂点」として扱わないからです。むしろ変なコード、不協和音、フィードバック、ワウの異常な使い方で曲全体を汚す。
そうですね。Tony Iommiとの共通点はリフの重さですが、Thayilの方が音の輪郭をわざと曖昧にする。「Black Hole Sun」でもギターは非常に重要ですが、典型的なハードロックのリフではない。音が溶け、揺れ、サイケデリックな空間を作る。
僕は彼のギターをリズム楽器として聴くことも多いです。変拍子の曲では、コードのアクセントそのものがグルーヴを作る。ベースやドラムの上にギターが乗るのではなく、ギターも拍をずらす側にいる。
しかもソロがきれいじゃないんですよ。「Like Suicide」でも、もっとメロディックに弾けば感動的にできるところを、少しざらついた音を残す。そこが好きです。90年代のオルタナティブでは「上手いことを隠す」ギタリストが増えるけど、Thayilは隠すというより、上手さの用途を変えている。
これは70年代との違いでもあります。70年代のギター・ヒーローは、ソロで自分の人格を提示することが多かった。Thayilは逆に、ソロでも曲の不安定さを増やす。自己表現というより、環境を壊す役割なんです。
だからSoundgardenのギターは大きいのに、中心が一つに見えない。Cornellの声、Thayilのギター、Cameronのドラム、Shepherdのベースがそれぞれ曲を歪める。その複数の圧力がバンドの重さになっているんです。
Ben Shepherd加入後、Soundgardenの低音はどう変わったのか
Ben Shepherdの加入は『Badmotorfinger』以降のSoundgardenにかなり大きいと思います。彼のベースは単にギターを補強するのではなく、少し荒くて、独立して動く。しかも曲作りにも貢献することで、バンドの重心自体が変わった。
そうですね。初期のHiro Yamamotoも重要だったけれど、Shepherdが入るとバンドの音がもっと野性的になる。「Face Pollution」や「Slaves & Bulldozers」みたいな曲では、ベースが下で安定させるより、ギターと一緒に地面を揺らす。
『Superunknown』になると、その役割がさらに広がりますね。「Half」のような異色曲まで入るし、バンド全体の作曲者が一人ではないことがアルバムの多様性につながっている。SoundgardenはCornellのワンマン・バンドではないんです。
そこが重要です。グランジの代表バンドって、フロントマンの人格で語られやすい。NirvanaならCobain、Alice in ChainsならLayne Staley、Pearl JamならEddie Vedder。でもSoundgardenはCornellの存在感が巨大なのに、リズムと作曲の構造を見るとかなり集団的です。
だから『Superunknown』があれだけ多様でもバラバラにならない。誰か一人のソングライターのアルバムではなく、四人の違う癖がSoundgardenという音に収束している。
これは昔のバンドにも通じる美点ですね。Led Zeppelinも一人の作曲者だけでは説明できない。Soundgardenにはそういう「バンドそのものが作曲装置」という古典的な強さがあったと思います。
『Superunknown』で何が決定的に変わったのか
『Superunknown』で一番変わったのは、重さの種類が増えたことだと思います。『Badmotorfinger』では攻撃的な重さが中心だった。でも『Superunknown』では「Black Hole Sun」のサイケデリア、「Fell on Black Days」の沈み込み、「My Wave」の変則的なグルーヴ、「Mailman」の遅い圧力まで全部違う。
その通りです。ヘヴィという言葉が音量だけではなくなる。「4th of July」なんて非常に重いけれど、速さも技巧も必要ない。低いギターと遅いテンポ、Cornellの声の重なりだけで、空気そのものが暗くなる。Black Sabbathからの系譜を感じる曲ですが、より心理的ですね。
「My Wave」も重要です。リズムがかなり変則的なのに、曲としてはすごくキャッチー。Soundgardenはここで、複雑さを聴き手へ説明しなくなったと思います。変拍子でも普通にサビへ行く。『Badmotorfinger』では「変なリズムだ」と感じる瞬間が多いけれど、『Superunknown』では身体化されている。
そしてギターの音色も広い。「Black Hole Sun」の回転するようなサイケ感から、「Spoonman」の乾いたリフ、「Fresh Tendrils」の不穏な響きまで、同じ機材で押し切らない。アルバムとしてかなり色彩がある。
私は『Superunknown』が最高傑作候補として強いのは、過去のロック史を参照しながら、それが引用に聞こえないことだと思います。Sabbath、Zeppelin、サイケ、アートロックの影はある。でもどの曲も「70年代風」にならない。
それは90年代のリズム感と歌詞の感情が入っているからでしょうね。古いロックのスケールを持ちながら、勝利の物語がない。むしろ成功したバンドがさらに暗くなる。その逆説が『Superunknown』です。
「Black Hole Sun」はなぜ代表曲なのにSoundgardenらしくないようで、最もSoundgardenらしいのか
「Black Hole Sun」はSoundgardenを知らない人にも届いた曲ですが、一聴すると「Outshined」や「Jesus Christ Pose」のような典型的なヘヴィさとは違う。だからポップ寄りの例外にも見える。でも実際には、Soundgardenのかなり多くの要素が入っているんですよね。
特にサイケデリアです。ギターの揺れ、和声の不穏さ、Cornellのメロディー。明るいようで気持ち悪い。60年代末のサイケデリック・ロックにも通じるけれど、もっと重く、夢が腐っている感じがする。
ギターもすごく変なんです。あれを普通のクリーン・ギターで弾いたら、かなり美しい曲になる。でもThayilは音を揺らして、景色を安定させない。だからサビが大きく開いても、解放される感じがしない。
リズムも意外に重要です。曲全体がすごく滑らかに聞こえるけれど、Cameronのドラムが単純なバラードのビートにしない。細かなフィルや重心移動があって、夢の中で地面が少し動いている。
そして映像的なイメージとも相性が良かった。90年代MTV時代のサイケデリックな悪夢という形で、曲の不気味さが視覚化された。でも曲そのものが強いから、映像を離れても残る。
私は「Black Hole Sun」を、Soundgardenが70年代サイケを90年代の感覚で再発明した曲だと思っています。昔のサイケが意識の拡張や陶酔へ向かうとすれば、こちらは意識が崩れる方へ向かう。
だから代表曲なのに、バンドのヘヴィさを薄めた曲ではない。むしろ彼らの「重さはリフだけではない」ということを証明した曲なんです。
「Fell on Black Days」はChris Cornellの作家性が最も裸になった曲か
僕は「Fell on Black Days」をSoundgardenで最も重要な曲の一つだと思っています。歌詞は非常に個人的で、説明的ではないけれど、ある日突然世界の見え方が暗くなる感覚を扱っている。大きな政治や物語ではなく、内側の変化を歌っている。
音もそれに合わせて抑えていますよね。リフは重いけれど「Outshined」のように殴らない。ギターが少し後ろに下がって、Cornellの声が前へ出る。だけどバラードにもならない。
私はあの曲のブルース感が好きです。形式的な12小節ではないけれど、声の揺れやコードの暗さにブルース的な苦さがある。Cornellは70年代ロックの影響を持ちながら、ここではもっと古い感情へ戻っているように聞こえる。
そしてタイトル自体が強いですよね。具体的な原因を言わないから、聞き手が自分の経験を入れられる。Cornellの歌詞は象徴的だけれど、抽象的すぎない。その距離がいい。
ギター・バンドとしても自制がある。「ここで大きなソロを入れよう」とならない。曲全体がずっと低い雲の中にいる。その抑制が『Superunknown』の成熟だと思います。
『Badmotorfinger』なら感情を外へ押し出したかもしれない。でも『Superunknown』では、押し出さないこと自体が強さになる。そこが二枚の大きな違いですね。
「Spoonman」は変拍子をなぜポップにできたのか
「Spoonman」はSoundgardenのリズム感を一曲で説明しやすいですね。変則的な拍の感覚があるのに、サビは非常に分かりやすい。普通なら拍子の複雑さが「実験性」として前に出るところを、彼らはグルーヴとして使う。
Thayilのリフも完全にリズムです。音程よりアクセントが重要で、Cameronと噛み合うことで曲が前へ進む。ギター・リフなのにドラムの一部みたいに聞こえる。
そこへ実際のスプーン演奏が入るのも面白い。普通なら奇抜な装飾になりそうですが、曲のリズムの考え方と一致しているから違和感がない。金属音をパーカッションとして使う発想自体は古くからあるけれど、Soundgardenではそれが曲の人格になる。
僕はこの曲を聴くと、Soundgardenはリズム面でかなり「ロック史的」だと思うんです。Led Zeppelinも変拍子やアクセントのズレを自然に使っていたけれど、Soundgardenはそれを90年代の重いギターの中へ入れ直した。
そして「難しい曲」に聞こえないのが最大の強みですね。ギターを始めた人がリフを聴いて「弾きたい」と思える。でも実際に合わせると少し変。技巧を見せずに複雑なんです。
そこがプログレとの違いでしょう。複雑さを鑑賞させるのではなく、曲の野蛮さに変換する。Soundgardenの変拍子は知性ではなく身体の違和感として働いています。
『Superunknown』はグランジの「拡張」だったのか
1994年という時点も重要だと思います。グランジがすでに巨大な市場になり、「Seattle sound」というイメージも世界的に定着していた。その中でSoundgardenは、グランジらしい音をさらに純化するのではなく、むしろそこから外へ広がった。
そうですね。もし『Badmotorfinger』の続編を作るなら、もっと速く、もっと重く、もっと攻撃的にできた。でも『Superunknown』ではサイケ、バラード、変拍子、スローなドゥーム感、奇妙な小品まで入れる。自分たちで作った「Soundgardenらしさ」を狭めなかった。
これは70年代の大きなロック・バンドがアルバムごとに音を広げていった感覚に近いです。Led Zeppelinがブルースだけに留まらなかったように、Soundgardenもヘヴィなリフだけを自分たちの看板にしなかった。
だから僕は「最もロック史的」という表現に納得します。彼らは90年代の流行の一部であると同時に、ロック・アルバムが本来持っていた多様性を引き受けている。速い曲、遅い曲、変な曲、長い曲、ポップな曲が一枚にある。
しかもそれが保守的なクラシック・ロック回帰ではない。歌詞の感情は90年代的な不安や自己疑念に満ちているし、音色もかなり荒い。古い形式を使いながら、価値観は新しい。
だからSoundgardenはグランジを「完成」させたというより、グランジから再びロック全体へ出たんだと思います。『Superunknown』はその出口なんですよ。
『Down on the Upside』は『Superunknown』の後でどこへ行こうとしたのか
1996年の『Down on the Upside』も過小評価できないです。『Superunknown』の成功をもう一度やるのではなく、さらに乾いて、少し実験的になる。「Pretty Noose」「Burden in My Hand」「Blow Up the Outside World」と強い曲はあるけれど、アルバム全体はもっと不安定です。
私はこの作品に、バンドがスタジアム・ロックの完成形へ行くことを拒んだ感じを受けます。『Superunknown』で十分に大きくなれたのに、次では音を少し痩せさせる。ギターも厚く重ねるより、生々しい質感が増える。
リズムも面白いですよ。「Burden in My Hand」はかなり開放的なアコースティック感があるけれど、歌詞は暗い。Soundgardenは最後まで音と感情を一致させない。
そして「Never the Machine Forever」みたいな曲では、変な拍子と攻撃性がまだ残っている。商業的な成功後に自分たちの奇妙さを薄めなかったんです。
ただしアルバムとしては『Superunknown』ほど均衡していないと思います。各メンバーの方向性が少しずつ離れ始めているようにも聞こえる。その摩擦が魅力でもあり、崩壊の兆候でもある。
でもその不均一さが、彼らが流行に合わせて延命するバンドではなかった証拠でしょう。Soundgardenは最後まで、重いロックをどう変形できるかを考えていたんです。
最高傑作は『Superunknown』か『Badmotorfinger』か
一枚だけなら僕は『Badmotorfinger』です。『Superunknown』の方が完成度も幅もある。でもSoundgardenという四人の演奏が一番剥き出しなのはこっちだと思う。「Rusty Cage」「Outshined」「Jesus Christ Pose」「Slaves & Bulldozers」まで、ギター、ベース、ドラム、声が全部ぶつかっている。バンドの危険性で選びます。
私は『Superunknown』です。理由はロック・アルバムとしての広がりですね。Black Sabbath的な重さ、サイケデリア、ブルース、変拍子、ポップなメロディーが一枚の中で統合されている。しかも「Black Hole Sun」のような大きなヒットが全体を軽くしない。Soundgardenの歴史だけでなく、ロック史全体へ接続できる作品だと思います。
僕も『Superunknown』です。ただし「Black Hole Sun」があるからではなく、リズムと感情の幅を評価したい。「My Wave」「Spoonman」「Fell on Black Days」「4th of July」が同じアルバムにある。身体をずらす曲、沈む曲、圧迫する曲が全部違う方法で重いんです。
初心者向けなら『Superunknown』で異論ないです。Soundgardenが単なる重いバンドではないことがすぐ分かる。そのあと『Badmotorfinger』へ戻ると、あの完成度の前にどれだけ荒いエネルギーがあったか見える。
一曲だけなら私は「Black Hole Sun」ではなく「Fell on Black Days」を選びます。Cornellの声、Thayilのギター、バンドの抑制、歌詞の普遍性が一番自然にまとまっている。
僕は「Spoonman」です。複雑なリズムをポップにし、ギターとドラムを一体化し、変なパーカッションまで入れる。それでも数分のロック・シングルとして成立する。Soundgardenの知性をいちばん身体的に聞ける曲です。
過小評価された曲を選ぶなら「4th of July」
過小評価された曲なら僕は「4th of July」です。『Superunknown』の中でも特に遅くて重い。リフ自体はシンプルなのに、音程の濁りとCornellの声で、ほとんど地面が沈むように聞こえる。
私もあの曲は非常に高く評価しています。Black Sabbathとのつながりが最も明確な一曲ですが、模倣ではない。Sabbathのリフにはブルースの骨格があるけれど、「4th of July」はもっと曖昧で、サイケデリックで、終末的です。
リズムの遅さも重要です。重い音楽は速くても成立するけれど、この曲は遅いから逃げ場がない。一打ごとの間が長く、その隙間まで圧力になる。
Thayilも弾きすぎないんですよ。こんな曲ならもっと巨大なソロを入れたくなるけれど、音の壁を維持する方を選ぶ。だから曲全体が一つの物体みたいに聞こえる。
これはSoundgardenが「70年代の重さ」を最も深く理解していた証拠だと思います。重さは歪みの量ではなく、時間を遅くして、一音を逃げられない場所に置くことでも作れる。
そして『Superunknown』の中にこういう曲があるから、アルバムがヒット・シングル集にならない。大衆性の中心に、かなり不穏な穴が開いている。その穴が作品全体を深くしているんです。
対談を終えて
『Superunknown』をSoundgardenの最高傑作とする評価は、単なる売上や代表曲の多さではなく、バンドが持っていた複数の歴史を最も広く統合した作品だという点に根拠がある。Black Sabbath的な低い重さ、Led Zeppelinを思わせるダイナミクス、サイケデリア、変拍子、ブルース、そして90年代オルタナティブ特有の自己不信。そのどれか一つを看板にするのではなく、一枚の中で自然に共存させた。
一方で『Badmotorfinger』には、完成される前の四人の衝突がより剥き出しに残る。Soundgardenの本質を「危険なバンド演奏」と考えるなら、こちらを最高傑作に選ぶ理由も強い。彼らがグランジの中で最も「ロック史的」だったのは、過去のハードロックを懐古的に再現したからではない。70年代ロックが持っていた重さ、技術、巨大さを、パンク以後の疑いと90年代の不安の中へ置き直したからだ。『Superunknown』はその再構築が最も豊かに成功したアルバムであり、Soundgardenがグランジの一バンドから、ロック史全体の文脈で語れる存在へ進んだ地点だった。

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