
発売日:2012年11月13日
ジャンル:オルタナティヴ・メタル、グランジ、ハードロック、ヘヴィ・ロック、サイケデリック・ロック
概要
King Animalは、Soundgardenが2012年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、1996年のDown on the Upside以来、約16年ぶりとなるオリジナル・アルバムである。Soundgardenは1980年代半ばのシアトルで結成され、グランジ/オルタナティヴ・ロックの形成に大きく関わったバンドである。Nirvana、Pearl Jam、Alice in Chainsと並び、1990年代初頭のシアトル・シーンを代表する存在として語られるが、彼らの音楽性はその中でも特にヘヴィメタル、ハードロック、サイケデリック・ロック、変拍子、暗いブルース感覚を濃く含んでいた。
1988年のUltramega OK、1989年のLouder Than Loveで地下的なヘヴィ・ロックの個性を確立し、1991年のBadmotorfingerでは複雑なリズムと重厚なリフをさらに研ぎ澄ませた。1994年のSuperunknownでは「Black Hole Sun」「Spoonman」などを通じて世界的成功を収め、ヘヴィさ、メロディ、サイケデリア、実験性を高い次元で融合した。続くDown on the Upsideでは、より内省的で荒涼としたサウンドへ移行したが、その後バンドは解散した。
King Animalは、そうした長い空白を経て作られた復帰作である。再結成後のアルバムにありがちな単なる過去の再現ではなく、Soundgardenがもともと持っていた複雑さ、重さ、暗さ、奇妙なリズム感を、年齢を重ねたバンドとして再構成した作品になっている。クリス・コーネルのヴォーカル、キム・セイルの重くうねるギター、ベン・シェパードの不穏なベース、マット・キャメロンの精密で変則的なドラムが再び揃ったことで、Soundgarden特有の不均衡な重量感が戻っている。
ただし、本作はBadmotorfingerのような鋭い攻撃性や、Superunknownのような巨大な時代性を持つ作品ではない。むしろ、過去の激しさをそのまま再現するのではなく、バンドの持つ重力をより乾いた、成熟した形で鳴らしている。リフは重いが過度に派手ではなく、メロディは暗いが過剰に感傷的ではない。全体には、砂埃、荒野、老いた獣、古い呪術、崩れかけたアメリカ的風景のような質感が漂う。
アルバム・タイトルのKing Animalは、直訳すれば「動物の王」となる。そこには野性、権力、身体性、生存本能、老いた支配者のようなイメージがある。Soundgardenの音楽は初期から、理性で整えられたロックというより、歪んだ本能、重い身体、暗い夢を音にしたような性格を持っていた。本作でもその野性は残っているが、若い衝動ではなく、長い時間を経てなお消えない本能として響いている。
全曲レビュー
1. Been Away Too Long
オープニング曲「Been Away Too Long」は、アルバムの状況をそのまま言葉にしたような楽曲である。タイトルは「長く離れすぎていた」という意味を持ち、約16年ぶりに新作を発表したSoundgarden自身の復帰宣言として機能している。直接的なタイトルながら、単なる挨拶ではなく、長い不在の後に戻ってくることの違和感と自覚が込められている。
サウンドは比較的ストレートで、重いギター・リフと力強いリズムが前面に出る。Soundgardenの楽曲としては分かりやすいロック・ナンバーであり、アルバムの入口として聴き手を引き込む役割を担う。キム・セイルのギターは鋭く、しかし過去の作品よりもやや乾いた音色で鳴る。長い空白を経たバンドが、まず自分たちの基本的なヘヴィ・ロック感覚を確認しているような曲である。
クリス・コーネルのヴォーカルは、若い頃の突き抜けるようなハイトーンとは質感が異なるが、表現力は非常に強い。声には年齢を重ねたざらつきがあり、それがタイトルの意味とよく合っている。戻ってきた者の声として、若作りではなく、時間の経過を背負った響きを持つ。
歌詞では、不在、帰還、居場所の感覚が扱われる。長く離れていた場所へ戻ることは、完全な回復ではない。そこには歓迎だけでなく、時間のずれ、自分自身の変化、周囲の変化がある。この曲は復帰作の冒頭として、バンドの再始動を力強く示しながら、その背後にある不安もにじませている。
2. Non-State Actor
「Non-State Actor」は、政治的な響きを持つタイトルの楽曲である。「非国家主体」という言葉は、国家ではないが政治的・軍事的・社会的影響力を持つ存在を指す。テロ組織、多国籍企業、武装勢力、メディア、金融権力など、現代社会における力の所在が曖昧になっている状況を連想させる。
音楽的には、Soundgardenらしい変則的なリズム感と重いリフが特徴である。曲は単純な直線的ロックではなく、ギターとドラムの絡みが少しずつ聴き手の足場をずらす。マット・キャメロンのドラミングは、ヘヴィでありながら非常に知的で、拍の感覚を微妙にずらしながら曲に緊張を与える。
歌詞では、権力や支配の構造に対する皮肉が感じられる。Soundgardenは明快なプロテスト・ソングを多く作るバンドではないが、社会の不穏さや権力への不信を、抽象的で暗い言葉として表現することがある。本曲では、誰が支配しているのか、誰が責任を負うのかが見えにくい現代の構造が、重く歪んだ音の中で表現されている。
この曲は、復帰作としてのKing Animalが単なる懐古ではなく、2010年代の不安定な世界にも反応していることを示す。Soundgardenのヘヴィネスは、個人的な苦悩だけでなく、社会構造の重苦しさとも結びついている。
3. By Crooked Steps
「By Crooked Steps」は、本作の中でも特にSoundgardenらしい不穏なリズムと重厚なグルーヴを持つ楽曲である。タイトルは「曲がった歩みで」という意味を持ち、まっすぐ進むことのできない人生、歪んだ道、道徳的に不確かな選択を連想させる。
サウンドは重く、リフは低くうねる。曲は四角く整ったロックではなく、少し傾いた建物のように不安定である。この不安定さこそSoundgardenの大きな魅力であり、彼らはヘヴィメタル的な重量感に、ポストパンクやサイケデリック・ロックの歪んだ構造を結びつけることに長けている。
クリス・コーネルのヴォーカルは、暗いメロディを力強く歌い上げるが、そこには勝利感よりも苦い決意がある。歌詞では、曲がった道を進む人物が描かれる。これは堕落や罪の道であると同時に、正しい道が存在しない世界で生き延びるための歩みとも解釈できる。
この曲は、アルバムの中でも復帰後のSoundgardenの重さを最も明確に示す一曲である。若いバンドの勢いではなく、暗い経験を積み重ねた者がなお前進するような重量感がある。曲がったステップであっても、止まらずに進む。その感覚が本作の精神と深く結びついている。
4. A Thousand Days Before
「A Thousand Days Before」は、本作の中でもサイケデリックな色彩が強い楽曲である。タイトルは「千日前」を意味し、遠い過去、記憶、予兆、時間のずれを感じさせる。Soundgardenはヘヴィ・ロック・バンドでありながら、しばしば中東的、サイケデリック的、変則的な旋律感を取り入れてきたが、この曲にもその特徴がよく表れている。
ギターは重く歪みながらも、リフにはどこか呪術的な旋回感がある。直線的に突き進むのではなく、円を描くように進む曲であり、聴き手を少しずつ別の時間感覚へ引き込む。マット・キャメロンのドラムも、単純なビートではなく、曲の浮遊感を支える複雑な動きを見せる。
歌詞では、過去と現在が重なり合うような感覚が描かれる。千日前という具体的でありながら象徴的な時間表現は、何か重要な出来事がすでに過去に起きており、その余波が現在に及んでいることを示しているように響く。Soundgardenの歌詞には、悪夢や記憶が現実と混ざるような感覚が多いが、この曲もその一例である。
本曲は、King Animalが単なるハードロック復帰作ではなく、Soundgardenの持つサイケデリックで神秘的な側面も受け継いでいることを示している。重さの中に幻覚的な揺らぎがあり、その組み合わせがバンド独自の暗い魅力を作っている。
5. Blood on the Valley Floor
「Blood on the Valley Floor」は、タイトルからして暴力的で映像的な楽曲である。「谷底の血」というイメージは、戦闘、死、犠牲、自然の中に残された暴力の痕跡を連想させる。Soundgardenの音楽において、自然はしばしば癒しではなく、死や闇を抱えた場所として描かれる。
サウンドは非常に重く、スローで、圧迫感がある。ギター・リフは地面を引きずるように鳴り、ベースとドラムが低く沈む。これは初期Soundgardenから続くドゥーム的な側面を思わせる。Black Sabbathの影響を受けた重さが、シアトルの湿った暗さと結びついたような楽曲である。
歌詞では、谷底に残された血が、過去の暴力や敗北の証拠として機能している。具体的な物語は明示されないが、戦争、殺人、自然災害、個人的な破滅など、複数のイメージへ広がる。重要なのは、血が消えずにそこに残っているということだ。時間が経っても、場所は記憶を保持する。
この曲は、アルバムの中でも最も暗く重い部類に入り、Soundgardenの原始的なヘヴィネスを再確認させる。派手なスピードではなく、遅さと圧力によって聴き手を押しつぶすタイプの楽曲である。
6. Bones of Birds
「Bones of Birds」は、本作の中でも特に詩的で、陰影の深い楽曲である。タイトルは「鳥の骨」を意味し、軽さ、死、壊れやすさ、空を飛ぶ存在の残骸を連想させる。鳥は自由や上昇の象徴になりやすいが、ここでは骨として残されることで、自由の終わりや生命の脆さが強調される。
音楽的には、重さとメロディのバランスが取れている。ギターは暗く沈みながらも、曲には強い旋律性がある。クリス・コーネルのヴォーカルは、本作の中でも特に感情的で、深い哀しみを帯びている。若い頃の叫びとは異なり、ここでは声の傷や疲れが曲のテーマとよく合っている。
歌詞では、子ども、成長、喪失、壊れやすさを感じさせるイメージが浮かぶ。鳥の骨という比喩は、守りたいものがいかに簡単に壊れてしまうかを示しているように読める。Soundgardenの楽曲にはしばしば暗い外部世界が描かれるが、この曲ではその暗さがより個人的で、親密な痛みとして響く。
「Bones of Birds」は、King Animalの中でも感情的な深みを持つ重要曲である。重いリフのバンドとしてのSoundgardenだけでなく、脆さや喪失を静かに描くバンドとしての側面が表れている。
7. Taree
「Taree」は、ベン・シェパードが書いた曲であり、本作の中でも荒涼とした感覚が強い楽曲である。タイトルの意味は明確に固定しにくいが、場所や人物名のようにも響き、どこか個人的な記憶や距離を感じさせる。
サウンドは重く、やや乾いた質感を持つ。ベースの存在感が強く、曲全体に地を這うようなグルーヴを与えている。Soundgardenにおけるベン・シェパードの役割は重要で、彼のベースは単なる低音の支えではなく、曲の荒々しさや不安定さを作り出す。この曲ではその個性がよく表れている。
歌詞には、失われた場所や関係、記憶の断片が漂う。明確な物語よりも、遠くから呼びかけるような感覚があり、聴き手はその意味を完全には掴めない。この曖昧さが、曲に独特の寂しさを与えている。
「Taree」は派手な代表曲ではないが、アルバムの中で重要な温度を持つ。復帰後のSoundgardenが、ただ重いだけでなく、くすんだ記憶や荒れた風景を音にできるバンドであることを示している。
8. Attrition
「Attrition」は、「消耗」「摩耗」「長期的な損耗」を意味するタイトルを持つ楽曲である。Soundgardenの音楽には、急激な爆発だけでなく、時間をかけて心身が削られていく感覚がしばしば表れるが、この曲ではそれがタイトルとして明示されている。
サウンドは比較的テンポがあり、重いながらも前進感がある。リフはタイトで、バンドの演奏も引き締まっている。長いキャリアを持つバンドの復帰作であることを考えると、「消耗」というテーマは、個人の人生だけでなく、バンド自身の歴史にも重なる。
歌詞では、争い、疲弊、耐久、削られていく感覚が描かれる。ここでの消耗は一瞬の破滅ではなく、長く続く圧力によって少しずつ壊れていく状態である。これは人間関係、社会、戦争、精神状態のいずれにも当てはまる。Soundgardenの重い音は、その持続的な摩耗を身体的に感じさせる。
本曲は、アルバム中盤から後半に向けて再びエネルギーを高める役割を担う。派手なフックよりも、硬いリフとグルーヴで押すタイプの楽曲であり、Soundgardenの骨太な魅力がよく出ている。
9. Black Saturday
「Black Saturday」は、本作の中でも比較的アコースティックな質感を持つ楽曲である。タイトルは「黒い土曜日」を意味し、宗教的には復活祭前日の聖土曜日を連想させる一方、個人的な暗い日、喪失の日としても解釈できる。
サウンドは穏やかで、ギターの響きにもフォーク的な要素がある。Soundgardenのヘヴィな側面を期待すると意外に感じられるかもしれないが、彼らは過去にも「Fell on Black Days」や「Like Suicide」などで、暗いメロディを持つ内省的な曲を作ってきた。本曲もその系譜にある。
クリス・コーネルのヴォーカルは、ここでは力で押し切るのではなく、静かに語るように響く。歌詞では、暗い日を通過すること、過去を振り返ること、苦い受容が描かれる。黒い土曜日は終わりのようでありながら、宗教的文脈では復活の前日でもある。そのため、曲には完全な絶望ではなく、かすかな再生の可能性も漂う。
「Black Saturday」は、アルバムに陰影と息継ぎを与える楽曲である。重いリフが続く中で、Soundgardenのメロディアスで内省的な側面を明確に示している。
10. Halfway There
「Halfway There」は、本作の中でも最も明るく、クラシック・ロック的なメロディを持つ楽曲である。クリス・コーネルのソロ作品に近い開放感も感じられ、アルバム全体の暗く重い流れの中では異色の存在である。
タイトルは「途中まで来ている」という意味を持つ。そこには、完全な到達ではないが、まったくの迷子でもないという中間的な感覚がある。人生、再出発、関係、精神的な回復の途中にいる人物の視点として読める。復帰作である本作の文脈では、Soundgarden自身が過去と未来の中間地点に立っていることとも重なる。
サウンドは比較的シンプルで、ギターも重厚というよりメロディを支える役割が強い。Soundgardenの中では軽めの楽曲だが、その軽さがアルバムに必要な変化を与えている。全体が重くなりすぎることを避け、クリス・コーネルのソングライターとしてのポップな側面を示している。
歌詞は前向きに聞こえる部分もあるが、単純な楽観ではない。途中まで来たということは、まだ先があり、まだ不完全であるということでもある。この曖昧な希望が、本曲の魅力である。
11. Worse Dreams
「Worse Dreams」は、タイトル通り「さらに悪い夢」を意味する楽曲であり、Soundgardenらしい悪夢的な感覚が強く出ている。彼らの音楽はしばしば夢と現実の境界が歪むような雰囲気を持つが、この曲はその後期的な表現といえる。
サウンドは重く、リズムには不安定な揺れがある。ギターは暗い渦のように鳴り、曲全体に心理的な圧力を与える。明確なホラーではないが、悪い夢から目覚めてもまだ不安が残るような感覚がある。
歌詞では、眠り、悪夢、精神的な追跡、逃れられない恐怖が示唆される。悪い夢は単に夜に見るものではなく、現実そのものが悪夢化する感覚として響く。Soundgardenの暗さは、社会的でも個人的でもあり、この曲では内面の不穏さが音の構造に直接反映されている。
「Worse Dreams」は、アルバム後半に再び暗い重力を戻す重要曲である。過去のSoundgardenが得意とした、サイケデリックで不安なヘヴィ・ロックが、復帰後の質感で再構築されている。
12. Eyelid’s Mouth
「Eyelid’s Mouth」は、タイトルからして非常に奇妙なイメージを持つ楽曲である。「まぶたの口」という不可能な身体の組み合わせは、視覚と発話、眠りと語り、夢と身体の境界が混ざり合う感覚を生む。Soundgardenらしいシュールで不気味なタイトルである。
音楽的には、重さの中にサイケデリックな揺らぎがある。ギターは鋭いリフというより、暗い波のように広がり、曲全体に幻覚的な質感を与える。リズムもどこか不安定で、曲は明確なロックの直線性から少し外れている。
歌詞では、身体の異常感覚、夢の中のイメージ、言葉にならない視覚的な不安が漂う。目と口が結びつくことで、見ることと語ること、沈黙と表現が混乱する。Soundgardenの歌詞には、こうした身体的で不条理なイメージがよく現れるが、この曲はその代表例といえる。
本曲は、King Animalの中でもバンドの実験的な側面を担う。ヘヴィ・ロックの枠内にありながら、単純な力押しではなく、奇妙な感覚のズレによって聴き手を不安にさせる楽曲である。
13. Rowing
アルバムを締めくくる「Rowing」は、本作の中でも特に異色で、深い余韻を持つ楽曲である。タイトルは「漕ぐこと」を意味し、船を漕ぎ続ける行為が、人生、労働、持続、生存の比喩として機能している。アルバムの終幕にふさわしい、重く反復的な楽曲である。
サウンドはブルース的な反復と、重いロックのグルーヴが結びついている。ベースとドラムが低く反復し、その上にギターとヴォーカルが乗る。派手なクライマックスへ向かうのではなく、同じ動作を繰り返しながら前へ進むような構造が特徴である。この反復は、タイトルの「rowing」と完全に対応している。
歌詞では、漕ぎ続けること、止まらないこと、生き延びることが描かれる。そこには勝利の高揚ではなく、疲労と忍耐がある。人生は走るものではなく、重い水を相手に少しずつ漕ぐものとして表現されている。この感覚は、長い空白を経て再び活動したSoundgardenの姿とも深く重なる。
「Rowing」は、本作の総括として非常に優れた楽曲である。若い頃の爆発的な衝動ではなく、重い身体でなお進み続けること。これがKing Animalの最終的なテーマである。アルバムは華やかに終わるのではなく、暗い水面を漕ぎ続けるように閉じられる。
総評
King Animalは、Soundgardenにとって約16年ぶりの復帰作でありながら、過去の栄光を単純になぞる作品ではない。Badmotorfingerの鋭さ、Superunknownの巨大な完成度、Down on the Upsideの荒涼とした内省をすべて背景に持ちながら、年齢を重ねたバンドとしての重さと落ち着きを備えている。これは若い怒りの再現ではなく、長い沈黙を経た後のヘヴィ・ロックである。
本作の最大の魅力は、Soundgarden固有の不均衡なグルーヴが戻っている点である。彼らの音楽は、単純な4拍子のハードロックではない。変拍子、拍のズレ、重くうねるリフ、サイケデリックな旋律が組み合わされ、聴き手の身体感覚を少しずつ狂わせる。King Animalでも「Non-State Actor」「By Crooked Steps」「Worse Dreams」「Eyelid’s Mouth」などで、その独特の不安定さがしっかりと保たれている。
クリス・コーネルのヴォーカルは、本作において非常に重要である。若い頃の彼の声は、圧倒的なハイトーンと獣のような力によって知られていた。本作では、その声に時間の重みが加わっている。かつてのような無敵感ではなく、傷、疲労、経験を含んだ声として響く。これは復帰作において欠点ではなく、むしろ作品のテーマと深く結びつく要素である。
歌詞面では、帰還、消耗、血、骨、悪夢、曲がった道、漕ぎ続けることといったイメージが繰り返される。これらはすべて、生存の感覚と関係している。King Animalは、若者が世界に怒りをぶつけるアルバムではなく、すでに多くのものを失い、摩耗し、それでもなお動き続ける者たちのアルバムである。タイトルにある「Animal」は、洗練された理性ではなく、最後に残る本能を示している。
音楽的には、Soundgardenの過去作と比べて即効性のある代表曲は少ないかもしれない。Superunknownのような時代を象徴するスケールや、Badmotorfingerのような鋭利な衝撃を期待すると、本作はやや地味に感じられる可能性がある。しかし、その地味さは、再結成バンドが無理に若さを演じなかった結果でもある。重さを誇張するのではなく、自分たちの音の重力を自然に鳴らしている点に、本作の誠実さがある。
日本のリスナーにとって、King AnimalはSoundgarden入門の第一候補ではないかもしれない。最初に聴くならSuperunknownやBadmotorfingerの方が、バンドの代表的な魅力を掴みやすい。しかし、Soundgardenというバンドが一時代のグランジ・バンドに留まらず、長い時間を経てもなお独自のヘヴィネスを持ち続けていたことを理解するには、本作は非常に重要である。
King Animalは、復活を派手に祝うアルバムではない。むしろ、長く離れていた場所へ戻り、そこに残る血や骨や悪夢を見つめながら、再び重い舟を漕ぎ出すアルバムである。若い獣の咆哮ではなく、傷を負った王の低い唸り。その重く乾いた響きこそが、本作の核心である。
おすすめアルバム
- Superunknown by Soundgarden
Soundgarden最大の代表作。ヘヴィ・ロック、サイケデリア、メロディ、実験性が高い次元で融合し、バンドの全体像を理解するうえで必聴。
– Badmotorfinger by Soundgarden
変拍子、重いリフ、鋭いヴォーカルが前面に出た初期の重要作。King Animalに残る複雑なヘヴィネスの原点が確認できる。
– Down on the Upside by Soundgarden
解散前最後のアルバム。より内省的で荒涼としたサウンドを持ち、King Animalの乾いた質感とつながりが深い。
– Black Gives Way to Blue by Alice in Chains
同じく長い空白を経たシアトル系バンドの復帰作。喪失、重さ、成熟したヘヴィネスという点で比較できる重要作。
– Songs for the Deaf by Queens of the Stone Age
砂漠的な乾いたヘヴィ・ロック、反復するリフ、暗いユーモアが特徴の作品。King Animalの荒野的な質感と響き合う。

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