
発売日:2012年11月13日 ジャンル:Alternative Metal / Hard Rock / Grunge
概要
Soundgardenの6作目King Animalは、1996年のDown on the Upside以来、約16年ぶりとなったスタジオアルバムである。バンドは1997年に解散し、Chris Cornellはソロ活動やAudioslave、Matt CameronはPearl Jamなど、それぞれ別の道を歩んだ。2010年に再結成した後、過去曲の演奏だけに留まらず新曲制作へ進み、長い空白期間を経て完成させたのが本作である。プロデュースはバンドとAdam Kasperが担当した。
1990年代のSoundgardenを特徴づけた重いギター、変則的な拍子、低くうねるベース、Cornellの強いボーカルは健在だが、過去の代表作をそのまま再現してはいない。Kim Thayilのギターは巨大なコードを鳴らすだけでなく、不穏な短いフレーズやノイズを細かく配置し、曲によってはホーンも加わる。メンバーが長い活動歴を経たことで演奏には以前より余裕があり、速さや音圧だけに頼らず奇妙なリズムと音の隙間で緊張を作る。再結成という事情を前面に押し出すより、Soundgardenというバンドの作曲法を2010年代にもう一度動かした作品である。
全曲レビュー
1. 「Been Away Too Long」
タイトルから長い活動休止を思わせるが、歌詞は帰る場所への違和感を描いたものとしても読める。硬く刻むギターと素早いドラムで始まり、Cornellも高い音域を強く押し出すため、アルバムでは特に即効性のある曲だ。「帰還」を感傷的に演出せず、久しぶりに戻った場所が以前とは違って見える落ち着かなさをロックンロールの勢いへ変えている。16年の空白を説明する代わりに、まずバンドが実際に動いていることを演奏で示すオープニングである。
2. 「Non-State Actor」
Ben Shepherdによる太く歪んだベースとギターが絡み、まっすぐ進んでいるようで微妙に足場が揺れるSoundgardenらしいリズムを作る。政治や権力を思わせる言葉が使われるが、具体的な主張へ一本化せず、制度の外側から力を行使する存在を不穏に描いている。Cornellの旋律は重いリフの動きをなぞらず、その上を大きく上下する。グランジという呼び名より、Black Sabbath以後のヘヴィロックを独特のリズム感覚で変形してきたバンドの個性がよく聞こえる。
3. 「By Crooked Steps」
Matt Cameronのドラムが曲の重心をずらし続けるため、強烈なリフを使いながら簡単には拍をつかませない。変拍子を技巧として目立たせるのではなく、歩いている地面が少し傾いているような違和感として自然に組み込んでいるところが巧い。ギターも低音だけで押すのではなく、高い音のフレーズを挟んで空間を作る。サビではCornellの声が大きく広がり、複雑なリズムと覚えやすいボーカルを同時に成立させている。
4. 「A Thousand Days Before」
Thayilのギターには東洋的にも聞こえる旋律感があり、通常のハードロックとは少し違う響きを作る。そこへホーンが加わることで、厚いディストーションだけでは得られないざらついた色彩が生まれている。リズム隊は同じ場所を回り続けるような反復を重視し、Cornellの声だけがその上で伸びていく。Soundgardenが過去の定番サウンドを再現するのではなく、従来の癖を残したまま新しい音色を探していたことが分かる曲だ。
5. 「Blood on the Valley Floor」
低いギターリフが地面を引きずるように進む、アルバムでも特に重量感のある一曲。速さを上げず、ドラムの一打とベースの低音の間に十分な空間を置くことで、実際の音数以上に巨大に聞こえる。Cornellも高音を連発せず、低めの声から徐々に力を加えてリフと対抗する。初期Soundgardenが持っていたBlack Sabbath的な重さを思わせながら、録音は濁りすぎず、各楽器の輪郭を残している。
6. 「Bones of Birds」
ここでは音量を抑え、ギターの余韻とCornellの声を中心に暗い空間を作る。鳥の骨という壊れやすいイメージを通して、守りたいものがいつか失われる恐怖や、人間の脆さを考える歌として読める。親になることや時間の経過を思わせる視点もあり、若い時期の怒りとは違う種類の不安が表れている。大きなリフを連続させる前半から距離を取り、年齢を重ねたSoundgardenだからこそ自然に扱える題材を静かに置いた曲である。
7. 「Taree」
Shepherdが中心となって書いた曲で、低いベースとギターが湿った空気を作り、演奏全体がゆっくり沈み込む。タイトルはShepherdが幼少期を過ごした場所に由来し、歌詞には土地や記憶への結びつきが感じられるが、具体的な回想を順序立てて語るわけではない。Cornellの長く伸ばす声が重い伴奏の上に浮き、近づきたい場所と遠ざかった時間の両方を感じさせる。中盤の内向的な流れをさらに深める一曲だ。
8. 「Attrition」
2分台という短さを生かし、余計な導入を置かず荒いギターとリズムを一気に押し出す。前の数曲が重くゆっくり進んできただけに、この簡潔な攻撃性がアルバムの流れを大きく切り替える。演奏には初期のパンク的な性急さもあり、長い展開や巨大なサビを作ることより、短い時間で勢いを残すことを優先している。Soundgardenのヘヴィネスが必ずしも遅いテンポだけから生まれるものではないと示す曲でもある。
9. 「Black Saturday」
アコースティックギターを軸に始まり、暗いフォークソングのような手触りを持つ。そこへリズム隊やホーンが加わっても派手なハードロックには変わらず、不穏な静けさを保ったまま音の層だけが増えていく。Cornellの歌も叫ぶより物語を語るような調子を重視し、タイトルの暗さに対して演奏は意外なほど繊細だ。アルバム後半で編成の幅を広げると同時に、バンドのルーツがメタルだけではないことを聞かせる。
10. 「Halfway There」
Cornellが書いた曲で、アコースティックな響きと明瞭なメロディが前に出るため、本作の中では異色に聞こえる。人生の途中まで来た人物が、自分の進んできた方向を振り返るような歌詞であり、長いキャリアを経た時期の作品という背景とも自然に重なる。ただし成功や成熟を誇る歌ではなく、現在地が正しいのかを問い続けている。重いリフの代わりにメロディそのものを中心に置き、終盤へ柔らかな変化を与えている。
11. 「Worse Dreams」
ギターとリズムが同じ地点を巡回するように反復し、その上へ音を少しずつ追加することで緊張を高めていく。明快なヴァースとサビの対比より、曲全体が一つの不安な状態を維持しながら形を変える構成が特徴だ。Cornellのボーカルにも空間が多く残され、ギターの奇妙な響きが前面へ出る。後半になって再びSoundgarden特有の捻れたアンサンブルを強調し、終盤2曲の重い流れへつないでいる。
12. 「Eyelid’s Mouth」
Shepherdのベースが太い反復を作り、ギターはその周囲で鋭いノイズやフレーズを飛ばす。ホーンも加わることで、ヘヴィロックでありながら音の表面には奇妙な華やかさが生まれている。Cameronのドラムは単純にリフへ合わせず、アクセントの位置を動かして演奏を揺らす。各メンバーが同じフレーズを一斉に強調するのではなく、それぞれ別方向へ動きながら一つのグルーヴを作るという、このバンドの演奏面の強みがよく表れている。
13. 「Rowing」
最後はShepherdのベースを中心とした反復から始まり、同じ動きを保ちながら少しずつ演奏を巨大化させる。タイトルの「漕ぐ」という動作のように、一定の運動を何度も繰り返して前進する構造で、派手な速度変化ではなく蓄積によってクライマックスへ向かう。Cornellの声も次第に強さを増し、最後には楽器と一体になって押し寄せる。復活を祝って華々しく終えるのではなく、前へ進む作業そのものを延々と続けるような終わり方が本作にはよく似合っている。
総評
King Animalの強みは、16年ぶりという事情を作品の最大の売りにせず、Soundgardenが元々持っていた奇妙な作曲法を自然に再起動したところにある。Thayilのギターは巨大なリフを作る一方、ノイズや短い旋律で曲の隙間を埋め、ShepherdとCameronは単純な四拍子のロックから意識的にはみ出す。そこへCornellがリズムとは別の大きな旋律を乗せることで、重いのに簡単には身体の動きを予測できないSoundgarden独特の感触が戻っている。
ただし、BadmotorfingerやSuperunknownの再現ではない。若い頃の攻撃性を競う代わりに、テンポを落とした曲やアコースティックな音を多く置き、ホーンのような以前なら中心ではなかった楽器も使う。特に「Bones of Birds」「Taree」「Halfway There」では、時間の経過、記憶、人生の現在地といった題材が似合うようになったバンドの変化が聞こえる。年齢を隠して若いバンドのように振る舞うのではなく、年月そのものを音楽の重さへ変えている。
一方で、1990年代の代表作ほど一曲ごとの輪郭が即座に立つアルバムではない。中盤以降には低いテンポと暗い音色が続く部分もあり、「Black Hole Sun」や「Spoonman」のような強烈なポップ性を期待すると地味に感じられる。しかし繰り返し聴くと、ベースの位置、拍子のずれ、ギターの響かせ方、ホーンの配置などに曲ごとの差が見えてくる。即効性よりアンサンブルの細部を重視した作りである。
再結成バンドの新作は、過去の音を再現するか、反対に現代風の音へ無理に合わせるかのどちらかになりやすい。King Animalはその両方を避け、Soundgardenが休止せず年齢を重ねていたならどのような音を鳴らしていたかを想像させる自然な続編になった。結果的に本作はCornell存命中に完成した最後のSoundgardenのスタジオアルバムとなったが、その後の出来事を抜きにしても、再結成を懐古で終わらせず新しい楽曲へ結びつけた作品として十分な存在感を持っている。
おすすめアルバム
Down on the Upside by Soundgarden
1996年発表の前作で、重いリフだけでなくアコースティックな響きや変則的なアレンジへ領域を広げている。King Animalがどこから再出発したのかを確認するには最も直接的な比較対象である。
Superunknown by Soundgarden
Soundgardenのヘヴィネス、変拍子、Cornellの強烈なメロディ感覚が高い水準でまとまった代表作。本作より曲ごとの色彩が鮮明で、バンドの基本的な作曲法が1990年代にどう完成したかを理解できる。
Audioslave by Audioslave
Soundgarden解散後のCornellがRage Against the Machineのメンバーと組んだ作品。より直線的なハードロックの中で彼の声と作曲がどう変化したかを知ると、King AnimalでSoundgardenへ戻った際の違いが見えやすい。
Yield by Pearl Jam
Matt Cameronが加入した時期のPearl Jamを代表する作品の一つ。Soundgardenより開放的なギターロックだが、1990年代後半以降のシアトル勢が初期の爆発的な勢いから成熟したアンサンブルへ移った流れを比較できる。
13 by Black Sabbath
King Animalの翌年に発表された、長い空白を経たヘヴィロックの再始動作という点でも興味深い比較対象である。低く反復するリフと遅いテンポが生む重量感を聴けば、Soundgardenが受け継ぎ、独自の変拍子や旋律へ変えてきたヘヴィロックの源流も見えやすい。

コメント