Stepsは、1997年に結成されたイギリスのポップ・グループである。メンバーは、Claire Richards、Faye Tozer、Lisa Scott-Lee、Lee Latchford-Evans、Ian “H” Watkinsの5人。男女混合のポップ・グループとして、90年代末から2000年代初頭の英国チャートを席巻し、“5,6,7,8”、“One for Sorrow”、“Heartbeat”、“Tragedy”、“Love’s Got a Hold on My Heart”、“Deeper Shade of Blue”などのヒットを生んだ。
Stepsの音楽を一言で表すなら、“振付まで含めて完成する、英国式ユーロポップ/ダンス・ポップ”である。曲は明るい。メロディは大きい。サビはすぐ歌える。振付は誰でも真似できる。だが、その分かりやすさを軽く見るべきではない。Stepsは、ポップソングが持つ“みんなで同じ動きをする楽しさ”を、90年代末の英国で最大限に広げたグループだ。
彼らはしばしば“cheesy”、つまりベタで甘いポップとして語られる。しかしStepsのすごさは、そのベタさを恐れないところにある。悲しいバラードも、ABBA風のメロディも、ユーロダンスも、ラインダンスも、全部まっすぐやる。照れずにやる。だからこそ、聴き手も踊れる。Stepsの音楽には、ポップを信じ切った人たちだけが作れる強さがある。
近年もStepsの人気は続いている。2020年のアルバムWhat the Future Holds、2021年のWhat the Future Holds Pt. 2、2022年のベスト盤Platinum Collectionで再評価を広げ、2025年から2026年にはStepsの楽曲を用いたジュークボックス・ミュージカルHere & Nowが英国・アイルランドをツアーしている。公式サイトでも、Here & Nowのツアー日程が2025年から展開されていることが告知されている。Steps | Official
アーティストの背景と歴史:オーディションから始まった“踊れるポップ職人集団”
Stepsは1997年に結成された。90年代後半の英国は、Spice Girls、Boyzone、Take That後期、All Saints、S Club 7など、ポップ・グループが大きな存在感を持っていた時代である。その中でStepsは、男女混合、ダンス重視、ユーロポップ寄りのサウンドという特徴を持って登場した。
最初のシングル“5,6,7,8”は、カントリー・ラインダンスとユーロダンスを組み合わせたかなり異色の曲だった。タイトルからして振付のカウントである。つまりStepsは、最初から“聴くポップ”であると同時に、“踊るポップ”だった。
この曲で彼らは一気に注目される。しかもStepsの強みは、単に一曲当てたことではない。その後、“Last Thing on My Mind”、“One for Sorrow”、“Heartbeat”、“Tragedy”と、次々にキャッチーな曲を出し、英国の家族向けポップ、クラブ、学校のディスコ、テレビ番組を横断する存在になった。
90年代末のStepsは、ある意味で“国民的ポップの便利な魔法”だった。子どもも踊れる。大人も知っている。結婚式でも流せる。テレビにも合う。ライブでは全員が振付を真似できる。ポップ・グループとして、これほど強い武器はない。
音楽スタイルと影響:ABBA、ユーロビート、Hi-NRG、英国ポップの幸福な混合
Stepsの音楽には、いくつもの要素がある。
まず大きいのは、ABBA的なメロディである。明るい曲でも、どこか切ない。サビは華やかだが、コードには少し影がある。“One for Sorrow”や“Deeper Shade of Blue”を聴くと、そのABBA的な哀愁がよく分かる。
次に、ユーロダンス/Hi-NRGのビートである。90年代末のStepsは、打ち込みのリズム、きらびやかなシンセ、手拍子したくなるビートを多用した。クラブミュージックほど硬派ではないが、ダンスフロアの快楽をポップに翻訳している。
さらに、振付と一体化したポップである。Stepsの曲は、音だけでは完結しない。“5,6,7,8”や“Tragedy”は、振付を含めて記憶されている。サビの手の動き、ステップ、ポーズ。これらが曲の一部になっている。
そして、ミュージカル的な明るさもある。Stepsの曲には、舞台上で大人数が一斉に歌って踊るような華やかさがある。後に彼らの楽曲がミュージカルHere & Nowとして展開されたのも自然だ。公式ミュージカルサイトは、同作をStepsのヒット曲を用いた“feel-good celebration of love and friendship”として紹介している。Steps the Musical
“One for Sorrow”は、Stepsの代表曲の一つであり、彼らのメロディの良さが最も分かる曲だ。タイトルはイギリスの古い数え歌を思わせる響きがあり、どこか物語的である。
サウンドは明るいダンス・ポップだが、メロディには切なさがある。ここがStepsの重要な魅力だ。ただ楽しいだけではない。サビは華やかなのに、心の奥には少し寂しさが残る。まさにABBA的な“泣けるディスコ”の系譜である。
この曲を聴くと、Stepsが単なる振付グループではなく、良いメロディを持ったポップ・グループだったことが分かる。
“Love’s Got a Hold on My Heart”は、Stepsらしい明るいユーロポップの名曲である。ビートは軽快で、サビは大きく、全体に夏のフェスやテレビ番組に似合う開放感がある。
この曲では、恋の高揚がストレートに表現されている。複雑な心理よりも、好きという感情に身体ごと持っていかれるような感覚。Stepsのポップは、この分かりやすさが気持ちよい。
“Deeper Shade of Blue”:Stepsのダンス・ポップ美学の完成形
“Deeper Shade of Blue”は、Stepsの中でも特に完成度の高いダンス・ポップ曲である。タイトルは「より深い青」。明るいビートの中に、心の沈みや失恋の影がある。
この曲の魅力は、まさに“踊れる悲しみ”である。ビートは前へ進む。サビは強い。だが、歌われている感情は少し暗い。Stepsの音楽が単なる子ども向けポップではなく、ユーロポップの哀愁をしっかり持っていたことを示す代表曲だ。
“Scared of the Dark”は、2017年の復活アルバムTears on the Dancefloorを象徴する曲である。イントロからドラマチックで、サビは大きく、Stepsの魅力が現代的なプロダクションで蘇っている。
この曲の素晴らしさは、過去の模倣ではなく、Stepsらしさを現在の音で鳴らした点にある。ユーロポップの哀愁、ディスコ的な高揚、Claireの強いボーカル、全員で歌えるサビ。再結成ポップとしては理想的な一曲だ。
“What the Future Holds”:大人になったStepsの未来志向
“What the Future Holds”は、2020年の同名アルバムを代表する曲である。Apple MusicではWhat the Future Holdsが2020年リリースの13曲入りアルバムとして掲載されている。Apple Music – Web Player
この曲では、Stepsのサウンドがより洗練され、大人のポップとして成立している。タイトル通り、未来に何があるか分からないという不安と期待がテーマだ。90年代の若いグループだったStepsが、人生経験を重ねてから歌うことで、曲に別の説得力が生まれている。
“Something in Your Eyes”:再結成後のABBA愛が輝く名曲
“Something in Your Eyes”は、近年のStepsの中でも特にファン人気の高い曲である。ABBA的なメロディ、きらびやかなシンセ、切ないサビ。まさにStepsの得意分野である。
この曲を聴くと、Stepsは今も“泣けるダンス・ポップ”を作れるグループだと分かる。懐かしいだけではなく、楽曲として強い。再結成後のStepsが評価された理由は、こういう新曲の完成度にある。
アルバムごとの進化
Step One:ラインダンスから国民的ポップへ
1998年のStep Oneは、Stepsのデビューアルバムである。“5,6,7,8”、“Last Thing on My Mind”、“One for Sorrow”、“Heartbeat”、“Tragedy”など、初期代表曲が詰まっている。
このアルバムは、Stepsの基本形を作った。明るいユーロポップ、分かりやすい振付、少し切ないメロディ、家族向けの親しみやすさ。90年代末の英国ポップが持っていた幸福感が、そのまま詰め込まれている。
Steptacular:勢いを最大化した第2作
1999年のSteptacularは、Stepsの人気がさらに広がった時期の作品である。タイトルからして自信に満ちている。“Step”と“spectacular”をかけた言葉で、彼らのショー的な魅力をよく表している。
“Love’s Got a Hold on My Heart”、“After the Love Has Gone”、“Say You’ll Be Mine”など、よりポップで華やかな曲が並ぶ。Stepsはこの時点で、単なる企画グループではなく、英国ポップの中心にいた。
Buzz:ディスコ、ユーロポップ、成熟のバランス
2000年のBuzzは、Stepsのオリジナル期における完成度の高いアルバムである。“Stomp”、“Deeper Shade of Blue”、“Summer of Love”などを収録し、初期よりもサウンドが少し洗練されている。
このアルバムでは、Stepsがよりディスコ、クラブ、ユーロポップの方向へ広がる。子ども向けの明るさだけでなく、大人も楽しめるダンス・ポップとしての完成度が上がっている。
2012年のLight Up the Worldは、再結成後の作品であり、クリスマス/冬の空気を持つアルバムである。派手なユーロポップというより、より穏やかで、温かいStepsが聴ける。
この作品は、彼らが単に昔の振付を再現するだけではなく、大人になったグループとして歌えることを示した。大きな復活作というより、再会の挨拶のようなアルバムである。
Tears on the Dancefloor:完全復活の名盤
2017年のTears on the Dancefloorは、再結成後のStepsにとって決定的な作品である。“Scared of the Dark”を筆頭に、ユーロポップ、ディスコ、ABBA的メロディが現代的な音で鳴っている。
このアルバムのタイトルは非常にStepsらしい。「ダンスフロアの涙」。つまり、踊りながら泣く。Stepsの本質をこれほどよく表す言葉はない。明るいビートと切ないメロディ、その両方を持つ彼らの復活にふさわしい作品である。
What the Future Holds:未来へ向かう大人のSteps
2020年のWhat the Future Holdsは、Stepsの再結成後の勢いをさらに強めたアルバムである。Apple Musicでは2020年リリース、13曲入りのアルバムとして確認できる。Apple Music – Web Player
この作品では、Stepsのサウンドがより現代的になっている。過去の明るさを保ちながら、プロダクションは洗練され、歌詞にも大人の視点が入る。未来が不確かでも、踊り続ける。そんなメッセージがある。
What the Future Holds Pt. 2:復活期の拡張版
2021年のWhat the Future Holds Pt. 2は、前作の世界をさらに広げた作品である。リリース情報では、2021年9月17日にBMG/Fascinationから発表され、ジャンルとしてポップ、シンセポップ、ユーロポップなどが挙げられている。groovespin.com
このアルバムでは、Stepsが再結成後も単なるノスタルジーではなく、新曲で勝負し続けていることが分かる。“Take Me for a Ride”や“The Slightest Touch”など、クラシックなSteps感と現代ポップのバランスが取れている。
Claire Richardsは、Stepsのボーカル面の中心である。伸びやかで力強い声を持ち、バラードでもダンス曲でも曲の核を作る。“Heartbeat”や“Scared of the Dark”のような曲では、Claireの声があるからこそドラマが生まれる。
Stepsが“ただのダンスグループ”で終わらなかった理由の一つは、Claireの歌唱力にある。彼女の声には、ポップソングを大きくする力がある。
他アーティストとの比較:ABBA、S Club 7、Spice Girls、Bananaramaとの違い
StepsはABBAと比較されることが多い。ABBAが70年代〜80年代初頭のヨーロッパ・ポップの完成形だとすれば、Stepsはその哀愁と華やかさを90年代末のダンス・ポップへ移植した存在である。
S Club 7と比べると、どちらも明るい英国ポップだが、S Club 7はテレビ番組や青春ドラマ的な展開と強く結びついていた。一方Stepsは、よりダンス、振付、ユーロポップ寄りである。
Spice Girlsと比べると、Spice Girlsは個性とキャラクターの爆発で時代を変えた。Stepsはそこまで社会的なスローガン性は強くないが、楽曲と振付の反復性では非常に強い。
Bananaramaと比べると、どちらも英国ポップの楽しさを持つが、Stepsはより劇場的で、男女混合コーラスと振付の比重が大きい。
Stepsは、1997年に登場し、90年代末から2000年代初頭の英国ポップを代表する存在となったグループである。彼らは“5,6,7,8”で振付の楽しさを提示し、“One for Sorrow”で哀愁あるユーロポップを響かせ、“Tragedy”で世代を超える振付アンセムを作った。
Step Oneは、Stepsの基本形を作ったデビュー作である。
Steptacularは、彼らの勢いと華やかさを最大化したアルバムである。
Buzzは、ディスコとダンス・ポップの成熟を示した作品である。
Tears on the Dancefloorは、再結成後の完全復活を告げた名盤である。
What the Future HoldsとWhat the Future Holds Pt. 2は、大人になったStepsが未来へ向かう姿を示した作品である。
Platinum Collectionは、25周年の祝祭として彼らの軌跡をまとめたベスト盤である。
そしてHere & Nowは、Stepsの楽曲がミュージカルとして新しい命を得た展開である。
Stepsの音楽は、難しくない。
だが、強い。
サビを覚えられる。
振付を真似できる。
少し泣ける。
そして最後には笑顔になる。
Stepsとは、英国ポップが持つ“ベタだけど最高”という魔法を、最も分かりやすく、最も楽しく体現したグループである。
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