
発売日:2020年11月27日
ジャンル:ポップ、ダンス・ポップ、ユーロポップ、シンセ・ポップ、ディスコ・ポップ、アダルト・ポップ
概要
StepsのWhat the Future Holdsは、2020年に発表された6作目のスタジオ・アルバムであり、1990年代末から2000年代初頭の英国ポップ・シーンを象徴したグループが、現代的なダンス・ポップの文脈へ再接続した作品である。Stepsは、Claire Richards、Faye Tozer、Lisa Scott-Lee、Lee Latchford-Evans、Ian “H” Watkinsによる5人組で、1997年のデビュー以降、ABBA以降のユーロポップ的な明快さ、ダンス・ルーティンと一体化したキャッチーな楽曲、親しみやすいメロディ、華やかなステージ性によって英国を中心に大きな人気を獲得した。
彼らの音楽は、しばしば「軽い」「明るい」「懐かしい」ポップとして受け取られがちである。しかしStepsの本質は、単なるノスタルジーにとどまらない。明快なサビ、劇的な転調、強いメロディ、シアトリカルな歌唱、集団で歌える親しみやすさを重視する点で、彼らは英国ポップのショービジネス的伝統を継承している。ABBA、Stock Aitken Waterman期のポップ、ユーロヴィジョン的な派手さ、ミュージカル的な感情表現が、Stepsの音楽には常に流れている。
What the Future Holdsは、そうしたStepsの持ち味を保ちながら、2020年代のポップ・プロダクションへ自然に更新したアルバムである。前作Tears on the Dancefloorで復活を印象づけた彼らは、本作でさらに現代的なシンセ・ポップ、ディスコ・リバイバル、エレクトロ・ポップの感覚を取り入れた。特にタイトル曲「What the Future Holds」は、Siaが関わった楽曲としても注目され、Stepsのドラマティックなポップ性と現代的なソングライティングが強く結びついている。
アルバム・タイトルのWhat the Future Holdsは、「未来が何をもたらすのか」という意味を持つ。これは復活後のStepsにとって非常に象徴的な言葉である。1990年代のポップ・スターとして成功し、解散や再結成、メンバーそれぞれの活動を経た彼らにとって、未来は単純な上昇だけを意味するものではない。過去の栄光、ファンの期待、年齢を重ねたアーティストとしての立場、そしてポップ・ミュージックの変化。そのすべてを抱えたうえで、「これから何が待っているのか」を歌うことは、単なるラブソング以上の意味を持つ。
本作の大きな特徴は、懐かしさと新しさのバランスである。Stepsは、自分たちの90年代的な明るさを無理に否定しない。むしろ、そこを誇りとして残している。しかし、音作りは単なる復古趣味ではない。シンセサイザーの質感、ビートの太さ、ミックスのクリアさ、ディスコ・ポップ的なグルーヴは、明らかに2020年代のポップとして整えられている。これは、往年のファンに安心感を与えながら、新しいリスナーにも古すぎない形で届く作りである。
歌詞面では、愛、別れ、未来への不安、自己回復、人生の選択、再出発が中心になる。Stepsの歌詞は、抽象的な詩よりも、はっきりとした感情表現を重視する。恋愛の痛みも、希望も、迷いも、リスナーがすぐに共有できる言葉で提示される。その分、歌唱とメロディのドラマ性が重要になる。Claire Richardsを中心とした力強いボーカル、メンバーのコーラス、サビでの大きな開放感が、歌詞の感情をポップ・エンターテインメントへと昇華している。
日本のリスナーにとって本作は、ABBA、Kylie Minogue、Pet Shop Boys、Bananarama、S Club 7、Spice Girls、Girls Aloud、そして近年のディスコ・ポップ復興に親しむ層にとって聴きやすい作品である。洋楽ポップにおいて、シリアスな内省やR&B的な抑制が主流になる時期もあるが、Stepsはあくまで明快なサビ、華やかなアレンジ、踊れるビート、そして人生を少し大きな舞台のように見せるポップの力を信じている。What the Future Holdsは、その信念が現代的に再構築されたアルバムである。
全曲レビュー
1. What the Future Holds
タイトル曲「What the Future Holds」は、アルバムの幕開けにふさわしい壮大なダンス・ポップであり、本作全体のテーマを明確に示す楽曲である。Siaが関わったことでも知られるこの曲は、Stepsらしい劇的なサビと、現代的なシンセ・ポップの音像が結びついている。冒頭から未来への不安と期待が提示され、復活後のグループが次の段階へ進もうとする姿勢が強く感じられる。
音楽的には、シンセサイザーの広がり、力強いビート、ドラマティックなコード進行が印象的である。サビでは大きくメロディが開け、リスナーを一気に感情の高まりへ連れていく。Stepsの最大の魅力である「歌えるポップ」の力が、現代的なプロダクションの中でしっかり機能している。
歌詞では、未来が何をもたらすか分からないという不安が描かれる。しかし、それは単なる恐れではない。分からないからこそ進む、予測できないからこそ信じる、という前向きな意志がある。これは恋愛の歌としても、人生の再出発の歌としても、Steps自身のキャリアの歌としても聴くことができる。
「What the Future Holds」は、アルバムの宣言として非常に強い曲である。90年代のポップ・グループが過去に留まるのではなく、未来へ向けてもう一度大きなサビを鳴らす。その姿勢が、この曲に凝縮されている。
2. Something in Your Eyes
「Something in Your Eyes」は、アルバムの中でも特にABBA的なユーロポップの魅力が強く表れた楽曲である。タイトルは「あなたの瞳の中に何かがある」という意味で、恋愛の直感、言葉にできない予感、相手の表情から読み取る感情をテーマにしている。
音楽的には、きらびやかなシンセ、跳ねるリズム、明快なコーラスが中心で、Stepsの王道に近いダンス・ポップである。メロディは非常にキャッチーで、サビでは一気に開放される。ユーロポップの伝統にある、少し切ないメロディと明るいビートの組み合わせがうまく機能している。
歌詞では、相手の瞳に見える何かを信じようとする語り手の感情が描かれる。はっきりした言葉ではなく、目の奥にあるサインを読み取るというテーマは、ポップソングとして非常に分かりやすい。同時に、恋愛における不確かさも含んでいる。相手の気持ちを完全に知ることはできないが、そこに何かを感じてしまう。
「Something in Your Eyes」は、Stepsが最も得意とする華やかなポップの形を現代的に再現した曲である。懐かしさはあるが、単なる過去の模倣ではなく、現在のダンス・ポップとして十分に機能している。
3. Clouds
「Clouds」は、タイトル通り雲をテーマにした楽曲であり、心の曇り、迷い、あるいはその先にある光を連想させる。Stepsの楽曲では、明るいサウンドの中に感傷的なテーマが含まれることが多いが、この曲もその流れにある。
音楽的には、ややミドルテンポ寄りのポップ・ソングで、アルバム序盤の華やかな流れの中に少し落ち着いた空気を加える。シンセの柔らかな質感と、コーラスの広がりが印象的で、曲全体に浮遊感がある。タイトルの雲のイメージと音作りが自然に結びついている。
歌詞では、心の中にかかる雲や、不安定な感情が描かれる。雲は太陽を隠すが、永遠にそこにあるわけではない。つまり、この曲には一時的な迷いや悲しみを通過して、再び光へ向かう感覚がある。Stepsらしく、悲しみを暗く沈めるのではなく、ポップなメロディの中で希望へ変えている。
「Clouds」は、アルバム全体に柔らかな陰影を与える楽曲である。大きなダンス・アンセムではないが、感情の幅を広げる重要な曲である。
4. To the Beat of My Heart
「To the Beat of My Heart」は、心臓の鼓動とダンス・ビートを重ねた、非常にStepsらしいダンス・ポップである。タイトルは「私の心の鼓動に合わせて」という意味で、恋愛、身体性、音楽そのものが一体化する感覚を示している。
音楽的には、ビートが明確で、クラブ・ポップ的な推進力が強い。シンセサイザーは明るく、サビではコーラスが大きく広がる。Stepsの音楽において、踊ることは単なる娯楽ではなく、感情を表現し、自己を解放する行為である。この曲では、その感覚が非常に分かりやすく表れている。
歌詞では、心の鼓動に従って動くこと、相手との関係を理屈ではなく感覚で受け入れることが歌われる。ビートと心臓の鼓動が重なることで、音楽と恋愛が同じリズムを持つものとして描かれる。これはダンス・ポップの王道的なテーマだが、Stepsの明るい歌唱によって非常に自然に響く。
「To the Beat of My Heart」は、本作の中でも特に身体性のある楽曲である。聴くというより、リズムに乗ることで魅力が伝わる。Stepsのダンス・グループとしての本質を示す一曲である。
5. Father’s Eyes
「Father’s Eyes」は、アルバムの中でも特に感情的で、家族や記憶に関わるテーマを感じさせる楽曲である。タイトルは「父の瞳」を意味し、親子関係、受け継がれるもの、過去へのまなざしを連想させる。Stepsのアルバムの中では、恋愛曲だけではない深い感情を担う曲として重要である。
音楽的には、比較的落ち着いたバラード寄りのポップ・ソングで、派手なダンス・ビートよりもメロディと歌唱が前面に出ている。ボーカルの表情が重要で、歌詞の持つ個人的な感情を丁寧に伝える構成になっている。シンセやストリングス的な響きも、曲に温かい広がりを与える。
歌詞では、父親の目を通して自分自身や過去を見つめるような感覚がある。家族の記憶は、恋愛とは異なる種類の重みを持つ。自分の中に受け継がれたもの、見守られていた感覚、失った後に気づく存在の大きさが、この曲の背景にある。
「Father’s Eyes」は、アルバムに感情的な深みを与える曲である。華やかなダンス・ポップのイメージが強いStepsだが、こうしたバラードでは、年齢を重ねたグループならではの説得力が表れる。
6. One Touch
「One Touch」は、タイトル通り、たった一度の接触が感情を変えてしまうことを歌ったダンス・ポップである。触れること、身体的な近さ、恋愛の瞬間的な高まりが中心テーマになっている。Stepsらしい華やかさと、現代的なクラブ・ポップの感覚が組み合わされた曲である。
音楽的には、ビートがしっかりしており、シンセ・ベースや電子的な音色が曲を支える。サビでは大きなメロディが広がり、グループのコーラスが曲に厚みを与える。過去のStepsのユーロポップ的な明るさよりも、少し洗練された現代的ダンス・ポップの雰囲気が強い。
歌詞では、相手の一度のタッチによって心が動かされる感覚が描かれる。恋愛の始まりは、長い説明ではなく、一瞬の身体的な反応で決まることがある。この曲は、その瞬間をストレートにポップ化している。シンプルなテーマだからこそ、ビートとメロディの力が重要になる。
「One Touch」は、本作の中で踊れるポップとして機能する楽曲である。Stepsの明るいエネルギーを保ちながら、音作りは過去よりも洗練されている。復活後のグループの現代性を感じさせる一曲である。
7. Under My Skin
「Under My Skin」は、相手の存在が自分の内側に入り込み、忘れられなくなる感覚を歌った楽曲である。タイトルは「私の皮膚の下に」という意味で、恋愛の執着、記憶、身体に残る感情を示している。Stepsのポップな表面の下にある、少し濃い感情が表れた曲である。
音楽的には、シンセ・ポップ的な質感が強く、メロディにはややミステリアスな雰囲気がある。過度に明るい曲ではなく、少し陰影を持ったダンス・ポップとして構成されている。サビでは感情が広がるが、全体のトーンはやや大人びている。
歌詞では、相手を忘れようとしても忘れられない状態が描かれる。愛は時に、心だけでなく身体にまで刻まれる。相手がいなくなっても、記憶や感覚が皮膚の下に残り続ける。このテーマは、Stepsの明快なポップ性の中では比較的切実に響く。
「Under My Skin」は、本作の中で大人の恋愛感情を担う曲である。華やかなサウンドの裏に、執着や未練の感覚があり、アルバムに奥行きを与えている。
8. Heartbreak in This City
「Heartbreak in This City」は、都市の中での失恋をテーマにした楽曲であり、本作の中でも特にドラマティックなポップ・ソングである。タイトルは「この街での失恋」という意味で、恋愛の痛みが都市の風景と結びついている。後にMichelle Visageを迎えた別バージョンでも知られるが、アルバム版でも十分に強い存在感を持つ。
音楽的には、ディスコ・ポップ的なビートとシンセの華やかさがあり、失恋の歌でありながら非常に踊れる。これはStepsの得意とする「悲しい内容を明るいビートで包む」手法である。サビは大きく、メロディは非常にキャッチーで、ライブやステージで映える構成になっている。
歌詞では、街の中で失恋を経験する人物が描かれる。都市は人が多く、光も多いが、その中で感じる孤独はかえって強い。誰かと過ごした場所、別れた場所、思い出が残る通り。そのすべてが失恋の風景になる。この曲は、その感情を明るいダンス・ポップへ変換している。
「Heartbreak in This City」は、本作のハイライトのひとつである。悲しみと華やかさが共存し、Stepsのポップ・エンターテインメントとしての強みがよく出ている。
9. Come and Dance with Me
「Come and Dance with Me」は、タイトルそのままに、相手をダンスへ誘う楽曲である。Stepsの音楽において、ダンスは重要なコミュニケーション手段である。言葉で説明しきれない感情を、身体を動かすことで共有する。この曲は、そのシンプルなポップの喜びに満ちている。
音楽的には、明るくリズミカルなダンス・ポップで、アルバムの中でも軽快な位置を占める。ビートは分かりやすく、サビも非常に親しみやすい。複雑な構成よりも、聴いた瞬間に身体が動くことを重視している。
歌詞では、相手に一緒に踊ろうと呼びかける。これは恋愛の誘いであると同時に、人生の重さから一時的に離れるための呼びかけでもある。踊ることによって、二人の距離は縮まり、悲しみや不安は一時的に忘れられる。Stepsの音楽におけるダンスの肯定が、非常に分かりやすく表れている。
「Come and Dance with Me」は、アルバムの中で明るい社交性を担う曲である。深刻なメッセージよりも、ポップ・ミュージックの基本的な楽しさを前面に出している。
10. Don’t You Leave Us Halfway
「Don’t You Leave Us Halfway」は、途中で去らないでほしいという切実な願いを歌った楽曲である。タイトルからは、恋愛関係、友情、信頼、あるいは人生の旅の途中で相手に見捨てられる不安が感じられる。アルバム後半に置かれることで、感情の重みを増す曲である。
音楽的には、ミドルテンポのポップ・ソングで、メロディには少し切なさがある。Stepsらしいコーラスはあるが、派手なダンス曲というより、言葉と歌唱を聴かせる方向に寄っている。感情の訴えが中心になるため、ボーカルの表現力が重要である。
歌詞では、関係の途中で相手が離れてしまうことへの恐れが描かれる。人は誰かと一緒に未来へ向かうつもりでも、その相手が最後まで一緒にいるとは限らない。この曲は、その不安を非常に直接的な言葉で伝える。Stepsのポップ性は、こうした分かりやすい感情表現と相性がよい。
「Don’t You Leave Us Halfway」は、アルバム後半の感情的な支柱のひとつである。明るい曲が多い中で、関係の不安や見捨てられる恐れを扱い、作品に人間的な奥行きを与えている。
11. To the One
「To the One」は、特定の誰かへ向けた愛や感謝を歌う楽曲である。タイトルは「その人へ」という意味で、アルバム終盤にふさわしい献辞のような響きを持つ。Stepsのバラード的な側面が出た曲として聴くことができる。
音楽的には、比較的穏やかで、メロディを中心にしたポップ・ソングである。派手なビートよりも、ボーカルの重なりと感情の表現が前面に出る。グループで歌うことの強みが、ここでは特に温かく響く。個人の感情でありながら、複数の声によって普遍的なメッセージへ広がっていく。
歌詞では、自分にとって大切な一人へ向けた思いが描かれる。その相手は恋人とも、支えてくれた人とも、ファンとも解釈できる。Stepsのように長いキャリアを持つグループにとって、この種の曲は、聴き手との関係性にも重なりやすい。
「To the One」は、アルバムに感謝と温かさをもたらす楽曲である。ダンス・ポップの華やかさだけでなく、グループの成熟した人間味を示している。
12. Hold My Heart
「Hold My Heart」は、心を支えてほしい、心を抱きしめてほしいという願いを歌ったバラード寄りの楽曲である。タイトルは非常に直接的で、恋愛における脆さ、信頼、守られたい気持ちを表している。アルバムの終盤に置かれることで、感情のまとめとして機能する。
音楽的には、落ち着いたテンポで、シンセやピアノ的な響きがボーカルを支える。サウンドは過度に派手ではなく、歌の感情に焦点が当てられている。Stepsのようなグループにおいて、こうした曲はメンバーの声の個性やハーモニーを確認できる場でもある。
歌詞では、相手に自分の心を預けることへの不安と願いが描かれる。心を差し出すことは、信頼の行為であると同時に、傷つく可能性を受け入れることでもある。この曲は、その弱さを隠さずに表現する。Stepsのポップは明るいだけでなく、こうした感情の素直さを持っている。
「Hold My Heart」は、アルバムの感情的な余韻を深める曲である。派手なハイライトではないが、Stepsの大人のポップ・グループとしての側面を示す重要な一曲である。
総評
What the Future Holdsは、Stepsが過去のポップ・グループとしてのイメージを保ちながら、現代のダンス・ポップへ見事に接続したアルバムである。1990年代末の明るいユーロポップ的な魅力、ABBA的なドラマ性、ステージで映えるコーラスとダンスの要素を残しつつ、サウンドは2020年代のシンセ・ポップやディスコ・ポップの質感へ更新されている。復活後のStepsにとって、本作は単なる懐古ではなく、現在進行形のポップ作品として成立している。
本作の中心にあるのは、「未来」と「再出発」である。タイトル曲「What the Future Holds」は、未来への不安と期待を同時に歌い、アルバム全体のテーマを設定する。その後、「Something in Your Eyes」「To the Beat of My Heart」「One Touch」などで、Stepsらしい華やかなダンス・ポップが展開される。一方で、「Father’s Eyes」「Don’t You Leave Us Halfway」「To the One」「Hold My Heart」では、年齢を重ねたグループだからこそ表現できる感情の深みが示される。
音楽的には、ディスコ・ポップ復興の流れと相性がよい。2020年前後には、Dua LipaやKylie Minogueなどによって、ディスコや80年代シンセ・ポップの要素が再びポップの中心に戻っていた。Stepsもその流れに自然に接続しているが、彼らの場合はそこにユーロポップ的な大仰さと英国ポップらしい明快なメロディが加わる。そのため、本作は流行に合わせたアルバムでありながら、Stepsらしさを失っていない。
歌詞面では、極端に難解な表現は少なく、感情は非常に分かりやすく提示される。これは批判されるべき単純さではなく、Stepsというグループのポップ哲学である。大きなサビで歌われる言葉は、誰もが共有しやすくなければならない。未来への不安、恋愛の高揚、失恋、家族への思い、相手に離れないでほしいという願い。これらは普遍的なテーマであり、Stepsはそれを迷わず真正面から歌う。
ボーカル面では、Claire Richardsの力強い歌唱を中心に、グループ全体のハーモニーが楽曲を支えている。Stepsはソロ・アーティストではなく、あくまでグループであることが重要である。複数の声が重なることで、個人的な感情がより大きな共同体的なポップへ変わる。これはライブやステージでの魅力にも直結している。
日本のリスナーには、90年代から2000年代の英国ポップに親しんできた人はもちろん、近年のディスコ・ポップやシンセ・ポップを好む人にも聴きやすい。重い内省や実験性よりも、明快なメロディ、踊れるリズム、前向きな感情表現を求めるリスナーに向いている。ポップ・ミュージックが持つ「分かりやすく、華やかで、少し大げさだからこそ人を救う」力を、本作はしっかりと示している。
What the Future Holdsは、Stepsが過去の栄光に閉じこもらず、自分たちのポップ美学を現代へ持ち込んだ成功作である。未来が何をもたらすかは分からない。しかし、その不確かさを大きなサビとダンス・ビートで受け止めることができる。Stepsは本作で、懐かしさと現在性、明るさと切なさ、ダンスと感情を結びつけ、復活後のキャリアにおける重要な一枚を作り上げた。
おすすめアルバム
1. Steps – Tears on the Dancefloor
復活後のStepsを決定づけた重要作。ダンス・ポップ、ユーロポップ、ディスコ的な華やかさが強く、What the Future Holdsの直接的な前段階として聴ける。復活後のStepsの音楽性を理解するうえで欠かせない作品である。
2. Steps – Steptacular
1999年発表の代表作で、初期Stepsの明るくキャッチーな魅力が詰まっている。ユーロポップ的なメロディ、ダンス・ルーティンと一体化した楽曲、90年代英国ポップの空気を知るために重要である。
3. Kylie Minogue – DISCO
2020年発表のディスコ・ポップ作品。現代的な音作りで70年代から80年代のディスコを再構築しており、What the Future Holdsと同時代的なポップの流れを共有している。華やかで踊れる大人のポップを求めるリスナーに適している。
4. ABBA – Voulez-Vous
Stepsの音楽的背景を理解するうえで重要なABBAのディスコ期作品。明快なメロディ、ドラマティックなコーラス、ダンス・ビートと切ない歌詞の組み合わせは、Stepsのポップ美学に大きく通じる。
5. Girls Aloud – Tangled Up
2000年代英国ガール・グループ・ポップの名盤。エレクトロ・ポップ、ダンス、実験的なプロダクション、強いメロディが結びついている。Stepsよりも鋭く現代的だが、英国ポップの華やかさと完成度を比較して聴ける作品である。

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