
発売日:2023年3月24日
ジャンル:ポップ・パンク、オルタナティヴ・ロック、ポップ・ロック、エモ、アリーナ・ロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Love From the Other Side
- 2. Heartbreak Feels So Good
- 3. Hold Me Like a Grudge
- 4. Fake Out
- 5. Heaven, Iowa
- 6. So Good Right Now
- 7. The Pink Seashell (feat. Ethan Hawke)
- 8. I Am My Own Muse
- 9. Flu Game
- 10. Baby Annihilation
- 11. The Kintsugi Kid (Ten Years)
- 12. What a Time to Be Alive
- 13. So Much (For) Stardust
- 総評
- おすすめアルバム
概要
Fall Out Boyの『So Much (For) Stardust』は、彼らのディスコグラフィーの中でもとりわけ重要な“帰還”のアルバムである。ただし、ここでいう帰還とは、単純に昔のサウンドへ戻ったという意味ではない。むしろ本作が特別なのは、2000年代のFall Out Boyを形作ったエモ/ポップ・パンク的な衝動、Patrick Stumpのドラマティックなメロディ・センス、Pete Wentzの過剰に比喩的で自己破壊的な言語感覚を、2010年代を経たバンドがいまの年齢と視点で組み直している点にある。
そのため『So Much (For) Stardust』は懐古作ではない。むしろ、長い回り道の末に“自分たちは何者だったのか”をもう一度引き受け直した作品として聴くべき一枚である。
このアルバムの位置づけを考えるには、再結成後の流れを振り返る必要がある。『Save Rock and Roll』以降のFall Out Boyは、ポップのど真ん中に大きく舵を切り、『American Beauty / American Psycho』ではサンプリングや巨大なシングル志向を前面化し、『M A N I A』ではさらにエレクトロ・ポップ、トラップ以後の感触、ハイパーな人工性を推し進めた。これらの作品は、2000年代のポップ・パンク・バンドが2010年代のポップ市場で生き残るための大胆な変身として意味があったが、一方で“Fall Out Boyらしさ”がどこにあるのかをめぐる議論も絶えなかった。
『So Much (For) Stardust』は、そうした議論に対するもっとも見事な応答になっている。ここで彼らは、ただギターを増やしたり、テンポを速くしたりして“昔っぽく”振る舞うのではない。代わりに、かつてのFall Out Boyを成立させていた感情の回路そのもの――若さの自意識、ナルシシズム、自己嫌悪、ドラマティックな破滅願望、世界に対する斜めの視線――を、今のバンドとして再起動している。
タイトルもまた象徴的だ。“So Much (For) Stardust”という言葉には、夢や栄光やきらめきに対する、諦念と皮肉が同時に含まれている。スターダストとは、ロックスターの夢、青春の魔法、ポップ文化のきらびやかさのことだろう。しかし、そこに “So Much For…” が付くことで、それらに対する冷めた視線が生まれる。
つまりこのアルバムは、若い頃に信じていたドラマや運命を完全には信じられなくなった大人たちが、それでもなおその言葉を使ってしまう作品なのである。そこが非常にFall Out Boyらしい。彼らは昔から、ロマンティックな比喩とその自己破壊的な裏返しを同時に扱ってきた。本作は、その資質を年齢相応の深みで鳴らしている。
音楽的には、プロデューサーとしてNeal Avronが再び関わっていることも大きい。2000年代の名作群を支えた彼の存在によって、本作はギター、ドラム、ベース、ボーカルのバランスが非常に良く、しかも単なる“バンドの生っぽさ礼賛”に留まらない。ストリングスやシンセ、コーラスの広がりも巧みに使われ、曲は一曲ごとに劇的な起伏を持ちながら、過度に肥大化しすぎない。
その結果、『So Much (For) Stardust』は、初期のエモ的な緊張感と、後年のアリーナ・ポップ的なスケール感を両立させることに成功している。言い換えれば、これは“昔のFall Out Boy”と“再結成後のFall Out Boy”が初めて本当にひとつに溶け合ったアルバムなのだ。
歌詞の面でも本作はかなり充実している。Pete Wentzの書く言葉は、以前のように機知に富んだ長い曲名や、ブログ時代的な引用の乱舞へ戻るわけではない。しかし、短くても刺さるフレーズ、感情を一度ねじってから差し出す感覚、自意識の痛みをユーモアのように見せる癖はしっかり残っている。
しかもここでは、それらが若い頃の“世界に傷ついた少年”の言葉ではなく、一度成功し、一度遠回りし、それでもまだ感情を持て余している大人の言葉として響く。そこが本作の深みである。
ディスコグラフィー全体の中で見るなら、『So Much (For) Stardust』は『From Under the Cork Tree』や『Infinity on High』と並ぶ“核のアルバム”として将来的に評価される可能性が高い。なぜなら本作には、単なるファンサービスや復古ではない、“Fall Out Boyというバンドが長いキャリアのあとに自分たちを再定義した瞬間”が刻まれているからだ。
それは衰えのない再現ではなく、むしろ、変わってしまった自分たちが、変わる前から持っていた感情にどうもう一度触れるかという試みである。だからこのアルバムは、若さの代用品ではなく、成熟の作品としてこそ価値が高い。
全曲レビュー
1. Love From the Other Side
オープニングにして、本作が“本気で戻ってきた”ことを宣言するような一曲。イントロからギターとドラマ性が強く、Patrick Stumpのボーカルもかなり張っている。
タイトルの“あの世からの愛”にも似たニュアンスは、ロマンティックでありながら不穏で、まさにFall Out Boyらしい。ここで歌われる愛は救済ではなく、むしろ危険や執着や破滅を帯びている。
何より重要なのは、この曲が初期のエネルギーを思わせつつ、単なる焼き直しにはまったくなっていないことだ。展開は現代的で、音像も大きく、サビはアリーナ級に開けている。それでも曲の根にあるのは、世界が壊れそうなときほど感情が過剰になるFall Out Boyの核である。導入曲として見事だ。
2. Heartbreak Feels So Good
本作の中でもっともわかりやすくキャッチーな曲のひとつ。タイトルの時点で、失恋と快感を逆説的に結びつけるFall Out Boyらしい皮肉がある。
サウンドは比較的ストレートなロック寄りで、サビの開放感も大きい。だがその“気持ちよさ”は健全な幸福ではなく、傷つくことに慣れすぎた人間が痛みすら高揚へ変えてしまうような感覚に近い。
この曲が優れているのは、ポップな即効性を持ちながら、感情の中身はかなりややこしいことだ。痛みをポップソングのフックへ変えるのは彼らの得意技だが、ここではそれが再び鮮やかに機能している。
3. Hold Me Like a Grudge
タイトルがまず非常に良い。“恨みのように抱きしめてくれ”というねじれた親密さは、Fall Out Boyの恋愛観の核心に近い。
音楽的には跳ねるようなリズム感があり、どこかファンキーですらあるが、曲の中心にあるのは執着と距離感の歪みだ。愛されたいのか、憎まれたいのか、その境界が曖昧なまま進んでいく。
再結成後の彼らが獲得したポップな整理の良さと、初期からの感情のねじれが、かなり自然に同居している曲である。キャッチーなのに少し不穏。このバランスがとても良い。
4. Fake Out
アルバム中でも屈指の名曲。サウンドはきらびやかで明るく、疾走感もあるのに、歌われている感情はかなり切ない。
“フェイクアウト”、つまり見せかけやフェイントというタイトルが示す通り、この曲では感情の本音と表面のふるまいがずれている。うまくやっているように見えて、本当は全然うまくやれていない。その感じがメロディの高揚感と見事に噛み合っている。
Fall Out Boyの魅力は、こういう曲で最もよく出る。泣きたくなるような感情を、思わず歌いたくなるポップソングにしてしまうところだ。本作のハイライトのひとつである。
5. Heaven, Iowa
タイトルだけで強いイメージを持つ曲。天国とアイオワという取り合わせが、広大なアメリカの内陸と、届かない理想の場所を同時に思わせる。
曲自体はかなりドラマティックで、Patrickのボーカルも感情の振幅が大きい。ここで歌われるのは、何かを強く求めながら、それが地上の現実には存在しないかもしれないという感覚だろう。
Fall Out Boyは昔から“地名”や“具体的な固有名”をロマンと崩壊の装置にするのがうまいが、この曲でもそれが機能している。理想郷の名前を呼ぶこと自体が、届かなさの証明になるような、美しい曲である。
6. So Good Right Now
この曲では少し60年代ポップやソウルの軽快さも感じられ、アルバムの中で良いアクセントになっている。
タイトルは前向きだが、Fall Out Boyの文脈ではその種の断言はしばしば不安定だ。いまはすごくいい、その“いま”がどれほど一時的かを彼らはよく知っている。
音楽的には非常に開けていて、再結成後のポップ感覚の上手さも出ている。一方で、単なる明るい曲で終わらないのは、やはり歌詞の後味に少し影があるからだ。アルバムに呼吸を与える役割も大きい。
7. The Pink Seashell (feat. Ethan Hawke)
Ethan Hawkeの語りを中心としたインタールード的なトラック。最初は異物にも感じられるが、アルバム全体の文脈では非常に重要だ。
この短いパートが持ち込むのは、人生の偶然性、若さの喪失、タイミングの取り返しのつかなさといった、かなり大きな感覚である。
『So Much (For) Stardust』は青春の再現ではなく、青春を通り過ぎたあとになおその言葉でしか話せない人たちのアルバムだが、その性格をこのトラックが強く補強している。若さのあとに残る哲学的な空白のような役割を果たしている。
8. I Am My Own Muse
ここでアルバムは一気にスケールを大きくする。ストリングスも含めたシネマティックなアレンジが印象的で、本作の中でもっとも劇場的な曲のひとつ。
タイトルの“自分自身が自分のミューズだ”という宣言には、ナルシシズムと自嘲が同時にある。Fall Out Boyは昔から自己愛を美徳ではなく、むしろ必要悪や病理として扱ってきたが、この曲でもそれが強く出ている。
音の大きさ、言葉の大げささ、感情の昂りがすべて一気に押し寄せるが、それが嫌味になりきらないのは、彼らがその誇大さをちゃんと滑稽さごと引き受けているからだ。非常にFall Out Boy的な大曲である。
9. Flu Game
タイトルはNBA由来の勝負の比喩だが、曲自体は単なるスポーツ引用に留まらない。弱っていてもやるしかない、崩れかけていてもパフォーマンスしなければならない、という感覚が背後にある。
この曲ではバンドのエッジが少し強く出ており、アルバム後半の中でリズムを引き締める役割がある。
“調子が悪いのにやる”という主題は、キャリアの長いバンドにとってかなり意味深い。若い頃の勢いとは違う、消耗と根性が混ざった継続の感覚がここにある。
10. Baby Annihilation
タイトルからして物騒だが、実際の内容もかなり崩壊的で、インタールード的な性格を持つ。
ここではストレートな楽曲というより、感情やイメージの断片が前面に出ており、アルバムの不穏さを補強する役割が大きい。可愛らしい“Baby”と終末的な“Annihilation”の組み合わせも、Fall Out Boyらしいブラックユーモアだ。
本作は全体としてかなりメロディアスだが、こうした短い歪みがあることで、単なる良質ロック作に収まらない。感情の壊れた破片のようなトラックである。
11. The Kintsugi Kid (Ten Years)
本作でもっとも深く刺さる曲のひとつ。金継ぎというモチーフが示すように、壊れたものをただ元に戻すのではなく、壊れた跡を抱えたまま別の形で生き延びる感覚が中心にある。
“Ten Years”という副題も重要で、時間の蓄積、傷の長さ、回復の遅さを感じさせる。
これは若い頃のFall Out Boyには書けなかった曲だろう。痛みそのものではなく、痛みを抱えたまま年を重ねることを歌っているからだ。歌詞も主題も非常に成熟しており、それでいて曲としての高揚も失っていない。アルバムの核心に近い。
12. What a Time to Be Alive
タイトルだけ見ると祝祭的だが、実際には皮肉と高揚が半々に混ざったような曲。
Fall Out Boyは昔からこういう“ポジティブな言葉を少し歪めて使う”のがうまいが、この曲もまさにそうだ。いまを生きていることは確かにすごい。しかしそれは、混乱や疲労や破滅願望も含めての“すごさ”である。
サウンドはかなり明るく、ライブ映えもしそうだが、その明るさが100%の祝福に聞こえないところが良い。祝祭の顔をしたサバイバル・ソングとして機能している。
13. So Much (For) Stardust
タイトル曲にしてクロージング。ここでアルバムは非常に美しく、しかしやや投げやりな感触も残して閉じる。
サウンドには壮大さがあり、ある種の総決算めいた響きもあるが、歌われているのは勝利ではない。むしろ、夢やきらめきにそれほどの意味はなかったのかもしれない、それでもまだその言葉を使ってしまう、という複雑な感情だ。
この曲が素晴らしいのは、ノスタルジーにもシニシズムにも完全には傾かないことだ。若い頃の自分を笑い飛ばしきれず、かといってそのまま美化もしない。そのあいだで、なお歌うことを選ぶ。
つまりこの曲は、Fall Out Boyが自分たちの青春神話をいったん解体したあと、それでもまだ残っている破片を抱えて歌うような作品なのである。終曲として見事だ。
総評
『So Much (For) Stardust』は、Fall Out Boyの再結成後における最高到達点であり、同時にキャリア全体を見渡しても非常に上位に置かれるべきアルバムである。
その理由は単純に、“昔っぽい音に戻ったから”ではない。本作が優れているのは、かつてのエモ/ポップ・パンク的な衝動と、再結成後に身につけた巨大ポップの構築力を、ようやく矛盾なくひとつの作品にしたからだ。
昔のファンが求めていた“感情のねじれ”もある。再結成後に広げた“アリーナ級のスケール”もある。そして、そのどちらもただ再現されるのではなく、いまのFall Out Boyとして更新されている。そこが決定的に重要である。
アルバム全体を通して印象的なのは、若さの残像を扱いながら、それを若作りにしないことだ。ここでの感情は、青春の真ん中にいる人間のものではない。青春を通り過ぎ、成功も失敗も経験し、それでもなお昔の言葉や比喩や音の響きに縛られている人間のものだ。
だからこそ本作のロマンティシズムは、以前よりずっと切ない。かつては世界の終わりのように感じたことが、いまは単なる中年の疲れにも見える。それでもなお、その疲れを大きなサビで歌ってしまう。この大人のエモーションこそが、『So Much (For) Stardust』の価値である。
また、本作はFall Out Boyというバンドの核心が何だったのかをあらためて思い出させる。
それは単にポップ・パンクの速さでも、エモのファッションでもない。Pete Wentzの自意識とPatrick Stumpのメロディが結びついたときに生まれる、ドラマティックで少し自己嫌悪的なポップソングこそが彼らの本質だった。本作はそれを、かなり久しぶりに、しかも非常に高い純度で聴かせてくれた。
入門盤としては、『From Under the Cork Tree』や『Infinity on High』の方が文脈をつかみやすいかもしれない。だが、現在のFall Out Boyがどれほど説得力を持っているかを知るには、本作は最良の一枚である。
そして長年のファンにとっては、これは単なる“良い復活作”ではない。むしろ、遠回りしたからこそ書けたもう一つの代表作として響くだろう。
『So Much (For) Stardust』は、スターダストにそれほど意味はなかったかもしれないと歌いながら、それでも最後にはちゃんと星屑のようにきらめいてしまう。そこが、どうしようもなくFall Out Boyらしい。
おすすめアルバム
- Fall Out Boy – Infinity on High
バンドの劇的なポップ感覚とエモ的自意識が最も美しく結実した代表作。本作との連続性も強い。
– Fall Out Boy – From Under the Cork Tree
初期の核を知るための重要作。歌詞のひねりと感情の過剰さの原点がある。
– Fall Out Boy – Save Rock and Roll
再結成後の出発点。本作に至るポップ化と自己再定義の流れを理解するうえで必須。
– Panic! at the Disco – Vices & Virtues
劇的なポップ・ロックとシアトリカルな感情の処理という点で相性が良い。
– My Chemical Romance – The Black Parade
直接の作風は異なるが、エモ以後のロックが“大きな物語性”をどう抱えたかを考える上で並べて聴く価値が高い。


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