アルバムレビュー:Revelation by The Brian Jonestown Massacre

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発売日: 2014年5月19日
ジャンル: サイケデリック・ロック、ガレージロック、クラウトロック、ドローン・ロック


“啓示”という名の終わらない旅路——内省と更新が交差するモノクローム・サイケの地平

Revelation』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2014年に放った通算14作目のスタジオ・アルバムである。
バンドの首謀者Anton Newcombeが、ベルリンに設立した自らのスタジオで初めて全編をレコーディングした本作は、
その名の通り、“啓示”——だが宗教的ではなく、内面的な気づきと再生を意味する作品となっている。

Bravery, Repetition and Noise』や『Aufheben』で提示された瞑想的サイケ路線をさらに推し進めつつ、
ここではクラウトロックのミニマリズムやドローン的感性、そして東欧滞在による感覚の変化までもが取り込まれている。
モノトーンのサウンド、抑制されたリズム、繰り返されるフレーズ——
それらは、サイケデリックの“爆発”ではなく、“持続”によって得られる恍惚を志向している。


全曲レビュー

1. Vad Hände Med Dem?

スウェーデン語による不思議なタイトル(「彼らに何が起こったのか?」)。
シンプルなコード進行の中で繰り返されるメロディとリズムが、問いそのものを宙吊りにしたまま進行する
クラウトロック的トランスの幕開け。

2. What You Isn’t

本作の中でも比較的キャッチーな構成を持つ一曲。
“You are what you love, not what loves you”という逆説的真理の言い換えが主題のように響く。

3. Unknown

空間をたっぷり使ったリヴァーブと、曖昧なコード感。
“わからない”という状態をそのまま音で描いたような、中空に浮かぶ楽曲

4. Memory Camp

ループするベースとギターが、記憶の断片を反復するように絡む。
“記憶のキャンプ”とは、過去に逃避する場所か、それとも脱出不能の迷宮か。

5. Days, Weeks and Moths

ミニマルな構造の中に、時間感覚のずれや変容が静かに仕込まれている。
“日々、週、そして蛾”という詩的タイトルが示すように、時間と変態(メタモルフォーゼ)を巡る小宇宙。

6. Duck and Cover

軽快なビートとアシッドなギター。
冷戦時代の避難訓練(Duck and Cover)をモチーフに、不安定な時代のサバイバル術をロックで皮肉る。

7. Food for Clouds

「雲の糧」——まるで詩の一節のようなタイトル。
この曲自体も、意図的に形を成さない“気体の音楽”であり、漂うだけでどこにもたどり着かない。

8. Second Sighting

サイケデリック・フォーク的なメロディと、電子音の軽やかな混入。
“再び目撃する”という行為の中にある、デジャヴュと違和感を音像化。

9. Memorymix

前半の「Memory Camp」と地続きのコンセプト・トラック。
その名の通り、記憶の“混線”や再構成がリズミカルに展開される。

10. Fist Full of Bees

攻撃的なタイトルに反して、曲調はスロウで浮遊感のあるドリーミーなトラック。
痛みと甘さが同時に押し寄せるような、感覚的ねじれが心地よい。

11. Nightbird

夜に羽ばたく鳥のように、静かに、しかし意志を持って進む。
音数の少なさが余韻を最大限に引き出す、アンビエントに近い美学

12. Xibalba

マヤ神話に登場する“死者の国”の名を冠した曲。
暗く、ゆっくりと沈み込むような音像が、アルバム後半の精神的な深部を形成する。

13. Goodbye (Butterfly)

ラストを飾るバラッド的スロウ・ナンバー。
“さようなら、蝶よ”というタイトルが象徴するように、変化と喪失、そして優雅な諦観が漂う。


総評

Revelation』は、爆発のないサイケデリック、叫びのない啓示である。
それは決して耳を刺すことなく、神経と記憶に静かに浸透していく音の滴
Anton Newcombeはここで、ロックの形式よりも“音と意識の状態”そのものに焦点を当て、
聴く者に“気づき”というより“気づいていたことに気づく感覚”をもたらす。

派手さはない。
だがこのアルバムは、日常と夢の境界を揺らがせながら、
静かに“現代のサイケデリックとは何か”を問い直す一枚となっている。


おすすめアルバム

  • Can – Future Days
    クラウトロックの静的美学と持続性が、『Revelation』の感性と通底。
  • Spacemen 3 – Recurring
    ループとミニマリズムをロックに昇華した音のトランス。
  • Broadcast – Ha Ha Sound
    ノスタルジアと未来像が交錯する音の夢幻。
  • Sun Araw – On Patrol
    ドローン、レゲエ、サイケが混ざる現代トリップ・サウンド。
  • Tame ImpalaLonerism
    個人の内面を音響で描き出す、ポップでありながら意識拡張的な一枚。

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