
発売日: 2008年4月
ジャンル: エクスペリメンタル・ロック、ノイズロック、アヴァン・サイケデリア、アートロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1曲目:Bring Me the Head of Paul McCartney on Heather Mills’ Wooden Peg (Dropping Bombs on the White House)
- 2曲目:Infinite Wisdom Tooth / Envisioning the Face of Violence
- 3曲目:Who Cares Why
- 4曲目:We Are the Niggers of the World
- 5曲目:Teleflower
- 6曲目:Yeah-Yeah
- 7曲目:Auto-Matic-Faggot for the People
- 8曲目:Darkwave Driver / Big Drill Car
- 9曲目:Monkey Powder
- 10曲目:Black Hole Symphony
- 11曲目:One for Sorrow
- 12曲目:The ’Oh’
- 13曲目:Ljakso
- 総評
- おすすめアルバム(5枚)
概要
『My Bloody Underground』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2008年に発表したアルバムであり、
バンド史でも最も実験度が高く、最も破壊的で、最もカオティックな作品
として知られている。
タイトルは当然
- My Bloody Valentine
- The Velvet Underground
への言及であり、
“轟音シューゲイズ × アンダーグラウンド的退廃”
を暗示しているが、実際の中身はさらにラディカルだ。
この時期の Anton Newcombe は、
アイスランドでの滞在、精神的混乱、創作への強い衝動が入り混じり、
“制御不能な音の奔流を、そのままレコーディングした”
ような異様なテンションに包まれている。
構成美や整合性はほぼ皆無。
メロディのある曲と、崩壊したノイズ実験が突然切り替わる。
録音の粗さすら意図的で、
“崩れ落ちる音楽”
という感覚がアルバム全体を覆う。
しかし、これがただの混沌で終わらないのは、
Anton の天才性がこの狂気の中でも鮮烈に光っているからだ。
BJMのディスコグラフィーにおいてももっとも“攻撃的”かつ“リスナーを試す”作品だが、
同時に 最も芸術性の高い問題作 として評価されている。
全曲レビュー
1曲目:Bring Me the Head of Paul McCartney on Heather Mills’ Wooden Peg (Dropping Bombs on the White House)
挑発的なタイトルの長尺ノイズ曲。
反復ノイズ、崩壊気味のギター、呟きのような声。
アルバムの“理性の崩壊”を予告する衝撃的オープニング。
2曲目:Infinite Wisdom Tooth / Envisioning the Face of Violence
不穏なドローンとサイケなギターレイヤーが交差。
空間がゆがむような感触があり、まるで音で作る悪夢のよう。
3曲目:Who Cares Why
ミニマルフォーク寄りの楽曲。
奇妙な音響だが、メロディの優しさがかすかに残っており、狂気の中の救済のように響く。
4曲目:We Are the Niggers of the World
John Lennon & Yoko Ono の問題作カバーだが、精神性はさらに過激。
ローファイで荒れた演奏が、反抗と絶望を同時に孕む。
5曲目:Teleflower
ドリーミーで歪んだサイケポップ。
本作でもっともメロディックな瞬間であり、霞の中で美しさがふっと光る。
6曲目:Yeah-Yeah
無造作なギターノイズの波。
BJMの“音で殴るサイケデリア”を象徴するトラック。
7曲目:Auto-Matic-Faggot for the People
挑発的なタイトル通り、音も攻撃的で暴力的。
クラッシュ寸前のノイズとリズムのズレが、混乱の美学を生む。
8曲目:Darkwave Driver / Big Drill Car
比較的まとまりのあるポストパンク/ダークウェイブ風。
この曲があることで、アルバムに“現実”の質感が戻る。
9曲目:Monkey Powder
緊張感の強い実験的トラック。
幻覚のようなギタートーンが延々と続く。
10曲目:Black Hole Symphony
まさに“ブラックホール”の名の通り、吸い込まれるようなサウンドスケープ。
ノイズが音楽的構造を飲み込み、純粋な“音の現象”へ変わる。
11曲目:One for Sorrow
静かなフォーク曲。
アルバムの狂気の中で突然訪れる“美しい沈黙”。
心が痛むほど繊細で、BJMの別の側面を強烈に示す。
12曲目:The ’Oh’
曖昧なメロディと反復。
崩れ落ちる寸前のバランスで成立する奇妙な魅力がある。
13曲目:Ljakso
アイスランドの空気が感じられるアンビエント。
吹雪の音のように冷たく、遠くへ消えていく。
総評
『My Bloody Underground』は、
The Brian Jonestown Massacre の最も過激で、最も芸術的で、最も難解な作品
である。
このアルバムの中心にあるのは “破壊” だ。
しかし、それは破壊衝動というより、
創作のために一度すべてを壊し、ゼロから音の本質を掴み直そうとする行為
に近い。
2008年のBJMは、商業性やバンドの体裁を気にする余裕はなく、
Anton はただ“音のビジョン”に突き動かされていた。
その結果生まれた本作は、
- 美しい瞬間は突然訪れ、
- ノイズは暴力のように襲いかかり、
- メロディは崩壊し、
- 現実と幻覚の境界が曖昧になる。
この作品は、
“BJMのディスコグラフィーの中で最も純粋に芸術的なアルバム”
と断言できる。
好みは激しく分かれるが、
ここまで振り切った実験は二度と作れない。
混沌の極北にありながら、奇妙な美しさを持つ唯一無二の作品だ。
おすすめアルバム(5枚)
- And This Is Our Music (2003)
美しいサイケ・ポップ期の代表作。『My Bloody Underground』の対極にある成熟。 - Thank God for Mental Illness (1996)
ローファイ × 狂気。内面的カオスが音に直結するBJMの原点。 - Give It Back! (1997)
ガレージ × サイケ × 無秩序。混沌期の頂点。 - The Brian Jonestown Massacre / Aufheben (2012)
実験性と美しさがバランスよく融合した、後期の完成形。 - My Bloody Valentine / Loveless (1991)
ノイズと美の極地として、タイトルの元ネタ的文脈を理解するのに最適。



コメント