アルバムレビュー:Loveless by My Bloody Valentine

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

  • 発売日: 1991年11月4日
  • ジャンル: シューゲイザー、ドリーム・ポップ、オルタナティヴ・ロック、ノイズ・ポップ、エクスペリメンタル・ロック

概要

My Bloody Valentineの2作目のスタジオ・アルバム『Loveless』は、1990年代以降のオルタナティヴ・ロック、シューゲイザー、ドリーム・ポップ、ノイズ・ミュージックの歴史において、決定的な転換点となった作品である。1991年という年は、Nirvanaの『Nevermind』、Primal Screamの『Screamadelica』、Talk Talkの『Laughing Stock』など、ロックの形が大きく変化した年として知られる。その中で『Loveless』は、ギター・ロックの可能性を「リフ」や「ソロ」ではなく、「音響そのもの」へ拡張したアルバムとして、独自の位置を占めている。

My Bloody Valentineは、ケヴィン・シールズを中心に、ビリンダ・ブッチャー、デビー・グッギ、コルム・オコーサクによって構成されたバンドである。彼らは1980年代後半の英国インディー・シーンの中で、The Jesus and Mary Chain以降のノイズ・ポップ、Cocteau Twins的な浮遊感、パンク以後のギター・ノイズ、そしてポップ・ソングの甘さを結びつける方向へ進んだ。前作『Isn’t Anything』でその独自性はすでに明確だったが、『Loveless』ではそれが極端なまでに洗練され、抽象化され、他に類を見ない音響世界へ到達している。

本作の最大の特徴は、ギターの扱い方にある。ケヴィン・シールズは、トレモロ・アームを細かく揺らしながらコードを鳴らす奏法を多用し、音程がわずかに揺らぎ続ける独特のギター・サウンドを作り出した。これにより、ギターは硬い輪郭を持つ楽器ではなく、波のように揺れ、膨張し、溶け合う音響の層となる。通常のロックでは、ギターはコード、リフ、メロディ、ソロを担う明確な構造物である。しかし『Loveless』においてギターは、空間そのものを変形させる音の塊として機能している。

ヴォーカルの扱いも重要である。ケヴィン・シールズとビリンダ・ブッチャーの歌声は、前面に出てメッセージを伝えるというより、ギターの層の中に溶け込むように配置されている。歌詞は聴き取りにくく、意味よりも音色、息遣い、母音の響きが重視される。これは歌詞の重要性を否定しているのではなく、言葉を音響の一部として扱う方法である。日本のリスナーにとっては、歌詞の意味を追うより、声がギターやリズムとどのように混ざり合うかに耳を向けると、本作の本質がより理解しやすい。

『Loveless』は、制作過程の伝説性でもよく語られる。長期間にわたる録音、複数のスタジオ、細部への徹底したこだわり、予算超過などがアルバムの神話化に拍車をかけた。しかし、重要なのは制作の困難そのものではなく、その結果として生まれた音が、従来のロック・アルバムとは明らかに異なる時間感覚と空間感覚を持っていることだ。曲はポップ・ソングとしての骨格を保ちながらも、聴き手の意識を輪郭の曖昧な夢の中へ引き込む。

シューゲイザーというジャンル名は、演奏中に足元のエフェクターを見つめるバンドの姿から生まれたやや皮肉な呼称である。しかし『Loveless』は、その言葉を単なるスタイル名から一つの音楽美学へ押し上げた。SlowdiveRideLush、Chapterhouseなど同時代のバンドと並びつつも、My Bloody Valentineはその中でも最も極端に音響そのものを追求した。後のM83、DeerhunterBeach HouseA Place to Bury Strangers、Sigur Rós、さらには一部のエレクトロニカ、ポストロック、アンビエント・ポップにも、本作の影響は広く及んでいる。

『Loveless』は、激しいアルバムでありながら、同時に非常に甘美なアルバムでもある。ノイズは攻撃ではなく陶酔として機能し、歪みは破壊ではなく包み込む質感になる。ロックの音量を使いながら、そこで表現されるのは怒りではなく、夢、記憶、身体感覚、恋愛の曖昧さ、眠りに落ちる直前の意識の揺れである。この二重性こそが、本作を単なるギター・ノイズの名盤ではなく、ポップ・ミュージックの歴史に残る特異な作品にしている。

全曲レビュー

1. Only Shallow

アルバム冒頭の「Only Shallow」は、『Loveless』という音響世界への入り口として圧倒的な力を持つ楽曲である。冒頭のドラムの短い合図の後、巨大なギターの波が一気に押し寄せる。その音は通常のロック・ギターの歪みとは異なり、硬い壁というより、揺れ続ける厚い霧のように感じられる。聴き手は曲の中へ入るというより、音の海に飲み込まれる。

音楽的には、ドラムのビートは比較的明確で、曲の骨格はポップ・ソングとして成立している。しかし、その上に重ねられるギターは、コードの輪郭を曖昧にし、音程を揺らし、曲全体を現実から少しずらしていく。ケヴィン・シールズのトレモロ・アームを用いた奏法が、ここで最も分かりやすく示される。ギターが鳴っているというより、空間そのものが揺れているような感覚が生まれる。

ビリンダ・ブッチャーのヴォーカルは、ノイズの中に柔らかく埋め込まれている。歌声は前面に出て言葉を伝えるのではなく、ギターの質感と一体化して、楽曲に官能的な浮遊感を与える。歌詞は断片的で聴き取りにくいが、それが曲の魅力を損なうことはない。むしろ言葉が完全に明確でないことによって、聴き手は声を意味ではなく感触として受け取る。

「Only Shallow」は、シューゲイザーの代表的な美学を凝縮している。巨大な音量、曖昧な輪郭、甘いメロディ、身体を包み込むノイズ。それらが一曲目から提示されることで、アルバムは従来のロックの聴き方を一度解体する。ここで重要なのは、ノイズが曲を壊していないことである。むしろノイズこそがメロディを支え、感情を増幅している。

2. Loomer

「Loomer」は、「Only Shallow」の圧倒的な幕開けに続き、より内側へ沈み込むような楽曲である。タイトルの「loom」には、ぼんやり現れる、不気味に迫るといった意味があり、この曲の音像にも、何かが霧の中からゆっくり浮かび上がるような感覚がある。

音楽的には、ギターの層が厚く重ねられているが、前曲ほど爆発的ではなく、より濁った夢の中を漂うような質感がある。リズムは明確に刻まれつつも、全体の音響は柔らかく溶けており、曲の境界が曖昧に感じられる。これは『Loveless』全体の特徴でもある。各曲は独立したポップ・ソングでありながら、アルバム全体として一つの連続した夢のようにも聴こえる。

ヴォーカルはここでも音響の一部として扱われる。ビリンダ・ブッチャーの声は、遠くから届く記憶のように響き、歌詞の具体的な意味よりも、響きの柔らかさが前面に出る。My Bloody Valentineの音楽では、声は物語を語る中心ではなく、ギター・ノイズと同じように空間を作る素材である。

「Loomer」は、アルバムの冒頭部に深い眠気のような質感を与える曲である。激しいノイズを使っていながら、聴こえてくる感情は攻撃ではなく陶酔に近い。音が重く、濁っているにもかかわらず、どこか甘く、柔らかい。この矛盾した感触が『Loveless』の大きな魅力である。

3. Touched

「Touched」は、コルム・オコーサクによる短いインストゥルメンタル曲であり、アルバムの中でも異質な存在である。曲の長さは短いが、その役割は大きい。「Only Shallow」と「Loomer」で提示されたギター・ノイズの海から一度離れ、より抽象的で不安定な音響空間へ聴き手を導く。

音楽的には、通常のロック・ソングの構造を持たず、ストリングスのような響きや不穏な音の揺れが中心となる。これは曲というより、夢の場面転換に近い。『Loveless』は一曲ごとの完成度だけでなく、アルバム全体の流れが非常に重要な作品であり、「Touched」はその流れの中で間奏、あるいは意識の裂け目のように機能している。

この曲には歌詞がないため、意味は音そのものから立ち上がる。タイトルの「Touched」は、触れられた、感化された、あるいは少し狂気を帯びたという複数のニュアンスを持つ。短い音響の断片が、聴き手の感覚に一瞬触れて消える。その儚さが、アルバムの夢幻性を強めている。

「Touched」は、My Bloody Valentineがギター・バンドでありながら、単なるギター・ロックの枠に収まっていないことを示す曲である。アンビエント、映画音楽、実験音楽に近い感覚がここにはあり、アルバム全体に奥行きを与えている。

4. To Here Knows When

「To Here Knows When」は、『Loveless』の中でも特に抽象度が高く、My Bloody Valentineの音響美学が極限まで推し進められた楽曲である。初めて聴くと、曲の輪郭をつかむこと自体が難しい。リズム、ギター、声が溶け合い、まるで水中で音楽を聴いているような感覚をもたらす。

音楽的には、ギターはもはやコード楽器というより、持続する揺らぎの層として存在している。音程は安定せず、全体が微妙に歪みながら流れていく。ドラムやリズムも明確なロックの推進力ではなく、遠くで鳴る脈拍のように感じられる。曲は進行しているが、同時にどこにも進んでいないようにも聴こえる。この時間感覚の曖昧さが、非常に重要である。

ヴォーカルは、言葉としての機能をほとんど失い、完全に音響の中へ溶け込んでいる。ビリンダ・ブッチャーの声は、ギターの揺れに重なり、甘く、遠く、現実感のない響きを作る。歌詞を明確に把握することは難しいが、その不明瞭さこそが曲の主題といえる。恋愛、記憶、身体感覚、眠り、夢のようなものが、言葉になる前の状態で漂っている。

「To Here Knows When」は、ポップ・ソングの解体と再構築である。メロディは存在するが、輪郭は溶けている。リズムは存在するが、身体を直線的に動かすものではない。ギターは激しく歪んでいるが、攻撃的ではない。この曲は、ロックの音響がどこまで抽象的になりながらも感情を保てるかを示した、非常に重要な楽曲である。

5. When You Sleep

「When You Sleep」は、『Loveless』の中でも比較的ポップな輪郭を持ち、アルバムの入口としても聴きやすい楽曲である。タイトルが示す通り、眠り、夢、無意識、近くにいる相手を見つめる感覚が中心にある。My Bloody Valentineの音楽において、眠りは単なる休息ではなく、現実と幻想の境界が曖昧になる場所である。

音楽的には、キャッチーなメロディと厚いギター・ノイズが見事に共存している。曲の骨格は明快で、サビにあたる部分も比較的分かりやすい。しかし、ギターの揺らぎとヴォーカルの重なりによって、通常のポップ・ソングのような明瞭さは意図的にぼかされている。聴きやすいが、同時に手触りは曖昧である。

ヴォーカルはケヴィン・シールズとビリンダ・ブッチャーの声が溶け合うように重なり、性別や個人の輪郭も曖昧になる。これは本作の重要な特徴である。歌っている主体が明確に前へ出るのではなく、声が一つの柔らかい層となって音の中に浮かぶ。恋愛の歌でありながら、具体的な関係よりも、相手の存在が夢の中でぼやけていく感覚が表現されている。

「When You Sleep」は、My Bloody Valentineがただの実験的なノイズ・バンドではなく、優れたポップ・ソングを作るバンドであることを示している。美しいメロディがあるからこそ、ノイズの海が単なる混沌にならない。甘い中心があり、その周囲を歪んだ音が包んでいる。この構造が、本作の魅力を非常に分かりやすく示している。

6. I Only Said

「I Only Said」は、ゆったりとしたグルーヴと、波打つようなギターの層が印象的な楽曲である。曲全体が大きくうねりながら進み、聴き手を徐々に音の中へ沈めていく。タイトルの「ただ言っただけ」という言葉には、恋愛や会話の中にある曖昧さ、言葉が意図以上の意味を持ってしまう不安が感じられる。

音楽的には、ベースとドラムが比較的しっかりとした土台を作り、その上でギターが揺れ続ける。ギターの音は分厚いが、リズムの流れがあるため、曲は浮遊するだけでなく、身体的な動きも持っている。My Bloody Valentineの音楽はしばしば夢幻的と評されるが、その基礎には意外なほどグルーヴがある。

ヴォーカルは、ここでも音響の奥に配置されている。歌詞の細部ははっきりしないが、声の抑制された響きが、言葉にしきれない感情を伝える。恋愛において、言葉はしばしば誤解され、過剰に解釈され、あるいは十分に届かない。「I Only Said」というタイトルは、そのようなコミュニケーションの不安定さを象徴している。

この曲は、アルバム中盤の重心を支える重要なナンバーである。派手な展開は少ないが、反復とうねりによって聴き手の感覚を変えていく。ギターの歪みがリズムと一体化し、音楽が身体の中で揺れるように感じられる。『Loveless』の陶酔的な側面を代表する楽曲である。

7. Come in Alone

「Come in Alone」は、アルバムの中でも特にメロディの哀愁が際立つ楽曲である。タイトルには「一人で入ってくる」「孤独に入り込む」といったニュアンスがあり、親密さと孤独が同時に存在する本作のテーマに深く関わっている。

音楽的には、ギターの音は分厚く歪んでいるが、メロディにはどこか切なさがある。My Bloody Valentineの曲は、ノイズの激しさに注目されがちだが、その内部には非常に美しい旋律が隠れている。「Come in Alone」は、そのことがよく分かる曲である。ノイズはメロディを覆い隠すのではなく、メロディの感情をより曖昧で深いものにしている。

ヴォーカルは、内向的で遠い。歌詞は明瞭ではないが、声の響きには孤独、ためらい、近づきたいのに完全には近づけない感覚がある。タイトルにある「alone」は、単なる孤立ではなく、誰かと関係しようとする時にもなお残る孤独を示しているように響く。

この曲は、シューゲイザーの核心にある感情をよく示している。大音量で鳴っているにもかかわらず、音楽は外へ向かって叫ぶのではなく、内側へ沈み込む。巨大なギターの壁は、世界に対する攻撃ではなく、自分を包み込む殻のようにも感じられる。「Come in Alone」は、その内向性と美しさが見事に結びついた楽曲である。

8. Sometimes

「Sometimes」は、『Loveless』の中でも最も美しく、感情的に深い楽曲のひとつである。アコースティック・ギター的な響きにも近い厚いギターのストロークが、曲全体を包み込み、その上にケヴィン・シールズの控えめなヴォーカルが乗る。ノイズの洪水というより、柔らかい音の毛布の中に沈み込むような曲である。

音楽的には、リズムが前面に出てこないため、時間がゆっくり引き伸ばされたように感じられる。ギターは分厚く重ねられているが、攻撃性はほとんどない。むしろ、静けさに近い轟音である。この「静かな轟音」という矛盾した感覚が、「Sometimes」の魅力である。

歌詞は非常に断片的で、失われた関係、曖昧な感情、言葉にできない距離を思わせる。タイトルの「Sometimes」は、断定ではなく揺らぎを示す言葉である。いつもではなく、時々。完全な愛でも完全な別れでもなく、ふとした瞬間に戻ってくる感情。この曖昧さが、曲の音響と深く結びついている。

「Sometimes」は、後に映画でも印象的に使用されたことで、より広いリスナーにも知られるようになった。だが、その本質は、映像的な美しさ以前に、音だけで記憶の曖昧さを表現している点にある。My Bloody Valentineの音楽が、激しいギター・ノイズの中に非常に繊細な感情を宿していることを示す名曲である。

9. Blown a Wish

「Blown a Wish」は、ビリンダ・ブッチャーのヴォーカルが印象的な、夢のように柔らかな楽曲である。タイトルには、願いが吹き飛ばされる、あるいは願いを息で飛ばすような繊細なニュアンスがある。アルバム後半に置かれることで、作品全体に淡い光を差し込ませるような役割を果たしている。

音楽的には、ギターの音は厚いが、曲全体の印象は軽やかで透明感がある。ノイズの層は存在するものの、それは重圧ではなく、柔らかい霞のように広がる。ビリンダの声はその中に溶け込み、メロディは子守歌のような優しさを持つ。

歌詞は明確な物語を提示しないが、願望、喪失、夢の儚さが感じられる。My Bloody Valentineの音楽では、恋愛や欲望ははっきりしたドラマとしてではなく、眠りや記憶の中で薄れていく感覚として描かれる。「Blown a Wish」も、何かを強く求めながら、その願いが形になる前に消えてしまうような曲である。

この曲は、アルバムの中で特にドリーム・ポップ的な性格が強い。Cocteau Twins以降の浮遊感あるギター・ポップとも接点を持ちながら、My Bloody Valentine特有の歪んだ音響によって、より不安定で官能的な世界を作っている。甘く、儚く、輪郭のない美しさが際立つ楽曲である。

10. What You Want

「What You Want」は、アルバム後半に再びリズムの推進力を持ち込む楽曲である。タイトルは「君が欲しいもの」を意味し、欲望、期待、相手に求めるものの不確かさを示している。曲全体には、浮遊感と同時にわずかな焦燥感がある。

音楽的には、ドラムとベースの動きが比較的明確で、その上にギターの層が重なる。ギターは相変わらず揺れ、歪み、輪郭をぼかしているが、リズムの存在によって曲は前へ進む力を持つ。『Loveless』は全体として夢のようなアルバムだが、その中には身体を動かすグルーヴも隠れている。

ヴォーカルは遠く、歌詞の意味は明確には掴みにくい。しかし、タイトルが示すように、欲望の対象がはっきりしないこと自体が重要である。何が欲しいのか、相手が何を求めているのか、自分が何を失っているのか。それらが曖昧なまま、曲は音の渦の中を進んでいく。

終盤のサウンドには、ややサイケデリックな感覚もある。ギター・ロックでありながら、反復によって意識を変容させるような効果があり、アルバムの終盤へ向けて聴き手をさらに深い音響空間へ導く。「What You Want」は、ポップ・ソングと音響実験のバランスが非常に高いレベルで成立した曲である。

11. Soon

アルバムを締めくくる「Soon」は、『Loveless』の中でも特にダンス・ミュージックとの接点を感じさせる楽曲である。マンチェスター以降のインディー・ダンス、アシッド・ハウス、ロックとクラブ・ミュージックの融合が進んでいた時代背景を考えると、この曲のリズム感は非常に重要である。

音楽的には、ドラム・ループ的なビートと、揺れ続けるギター・ノイズが組み合わされている。ここでのMy Bloody Valentineは、ロック・バンドでありながら、クラブ・ミュージックの反復性と陶酔感に接近している。ギターはリフを刻むのではなく、ビートの上を漂う巨大な音響の膜として機能する。

ヴォーカルは柔らかく、言葉は音の中に溶け込んでいる。タイトルの「Soon」は、未来への予感を示す言葉である。何かがもうすぐ起こる。だが、それが何であるかは明確ではない。この曖昧な期待感が、曲の反復するビートと結びつき、終わりではなく次の夢へ向かうような感覚を生む。

「Soon」は、アルバムの終曲として非常に重要である。『Loveless』はここで閉じられるが、その終わりは完結ではなく、音が遠くまで続いていくような印象を残す。ギター・ノイズ、ポップ・メロディ、ダンス・ビート、夢のようなヴォーカルが一体となり、My Bloody Valentineがロックの未来を別の方向へ開いていたことを示している。

この曲は、後のシューゲイザーだけでなく、インディー・ダンス、エレクトロニカ、ポストロックにも影響を与えた。ロック・バンドがクラブ的な反復と音響の陶酔を取り込む方法として、「Soon」は非常に先駆的な楽曲である。

総評

『Loveless』は、ギター・ロックの歴史において最も重要な作品のひとつである。ここでMy Bloody Valentineは、ギターをリフやソロのための楽器ではなく、空間を変形させる音響装置として扱った。トレモロ・アームによる揺らぎ、厚く重ねられた歪み、曖昧に配置されたヴォーカル、反復するリズム、甘いメロディ。これらが一体となり、従来のロックとは異なる、夢の中で鳴っているような音楽を作り出している。

本作の中心にあるのは、輪郭の喪失である。ギターの輪郭、声の輪郭、歌詞の輪郭、時間の輪郭、感情の輪郭がすべて曖昧になる。だが、それは単なる不明瞭さではない。輪郭が溶けることで、音楽はより身体的で、感覚的で、記憶に近いものになる。恋愛や欲望、孤独、眠り、夢といったテーマは、明確な物語としてではなく、音の質感として表現される。

『Loveless』は、しばしば制作費や録音の伝説とともに語られるが、作品の本質はそこにはない。重要なのは、このアルバムがポップ・ソングの構造を保ちながら、その表面を徹底的に溶かしている点である。「When You Sleep」や「Sometimes」には明確なメロディがあり、「Soon」には踊れるビートがある。しかし、それらは通常のポップスのようには提示されず、歪みと揺らぎの中に沈められている。聴き手は曲を聴くというより、曲の中で漂う。

シューゲイザーというジャンルにおいて、本作は到達点であると同時に、出発点でもある。『Loveless』以前にもノイズ・ポップやドリーム・ポップは存在したが、本作はそれらを極限まで推し進め、音響そのものを主役にした。以後の多くのバンドがこのアルバムを参照したが、完全に同じ地点へ到達することは容易ではなかった。それほどまでに、本作の音は特異であり、制作技術と感覚の両方が不可分に結びついている。

日本のリスナーにとって『Loveless』は、最初は捉えどころのない作品に感じられる可能性がある。歌詞は聞き取りにくく、曲の輪郭も曖昧で、一般的なロックのような分かりやすいリフやサビが前面に出てこない。しかし、音量、音色、声の溶け方、ギターの揺れに耳を向けると、このアルバムが非常に緻密に作られたポップ・ミュージックであることが分かる。ノイズの下には、甘く美しいメロディが常に存在している。

また、本作はヘッドフォンで聴くことで特に真価が分かりやすい。音の層が左右に広がり、ギターの揺れやヴォーカルの位置が、通常のロック・アルバムとは異なる空間を作っている。音量を上げると暴力的になるのではなく、むしろ音の中に包み込まれる感覚が強まる。この「包み込むノイズ」こそ、『Loveless』が他のロック・アルバムと大きく異なる点である。

評価としては、『Loveless』は1990年代のオルタナティヴ・ロックを代表する名盤であり、シューゲイザーというジャンルを越えて、現代音楽的な音響感覚を持つポップ・アルバムとしても重要である。激しいが優しく、歪んでいるが美しく、曖昧だが強烈に記憶に残る。こうした矛盾をすべて抱え込んだ作品であり、ロックが音響芸術としてどこまで拡張できるかを示した決定的な一枚である。

『Loveless』は、愛を直接語るアルバムではない。むしろ、愛や欲望や記憶が言葉になる前の状態、眠りの中で形を失っていく感情を音にした作品である。タイトルの「Loveless」は、愛の不在を示すようでいて、実際には愛の輪郭が溶け、音そのものになった状態を示しているとも考えられる。My Bloody Valentineはこのアルバムで、ロックの表面を破壊し、その奥にある甘く不安定な夢を露出させた。

おすすめアルバム

1. Isn’t Anything by My Bloody Valentine

『Loveless』の前作であり、My Bloody Valentineがシューゲイザー的な音響へ本格的に向かう過程を記録した重要作である。『Loveless』ほど抽象化されてはいないが、ノイズ・ポップ、インディー・ロック、夢幻的なヴォーカルの融合がすでに明確に表れている。バンドの進化を理解するために欠かせない作品である。

2. Souvlaki by Slowdive

シューゲイザーを代表するもう一つの名盤であり、『Loveless』よりも透明感とメランコリーが強い作品である。ギターの層と浮遊するヴォーカルを用いながら、より静かで内省的なドリーム・ポップへ向かっている。My Bloody Valentineの轟音的な陶酔と比較すると、シューゲイザーの幅広さがよく分かる。

3. Nowhere by Ride

1990年代初頭の英国シューゲイザーを代表する作品であり、My Bloody Valentineよりもバンド・サウンドとしての疾走感やロック的な輪郭が強い。ギター・ノイズとポップなメロディの融合という点で関連性が高く、『Loveless』の音響的な極端さとは異なる、より青春的で開放的なシューゲイザーを味わえる。

4. Heaven or Las Vegas by Cocteau Twins

ドリーム・ポップの重要作であり、浮遊するギター、抽象的なヴォーカル、言葉の意味より響きを重視する美学という点で『Loveless』と深くつながる。My Bloody Valentineがノイズと歪みによって夢を作ったのに対し、Cocteau Twinsは透明な音響と声の美しさによって夢の世界を構築している。

5. Psychocandy by The Jesus and Mary Chain

ノイズ・ポップの原点的作品であり、甘いポップ・メロディと激しいギター・ノイズを結びつけた重要作である。My Bloody Valentineの『Loveless』が音響をさらに溶かし、抽象化した到達点であるなら、『Psychocandy』はその前段階として、ポップとノイズの衝突をより粗く直接的に提示している。シューゲイザーの源流を知るうえで重要なアルバムである。

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