
発売日: 2020年7月10日(配信限定)
ジャンル: ライブ・アルバム、インディーロック、ベッドルームポップ、オルタナティヴロック
⸻
概要
『Live in London』は、Beabadoobeeが2020年にロンドンで行ったライブ音源を収録した初のライブ・アルバムであり、彼女のスタジオ作品とは異なる“バンドとしての側面”が堪能できる一作である。
本作は、デビュー・アルバム『Fake It Flowers』のリリース直前に発表されており、すでにその制作を終えていた彼女が、「ライブバンドとしてのBeabadoobee」を世界に示す意図を持って構成された。
コロナ禍によって世界中のツアーが中止になる中、Beaはこのライブ音源を「ステージに立てなかった一年の代わりに」と語り、ファンとの新しい形の“接触”としてこの作品を届けた。ライブ音源ならではの臨場感、荒削りな演奏、そしてスタジオ版では聴けないヴォーカルの感情のうねりが、Beabadoobeeのもうひとつの顔を鮮明に浮かび上がらせる。
⸻
全曲レビュー
1. Care (Live)
『Fake It Flowers』の幕開けとしても知られる一曲。ライブではギターの輪郭がより明瞭で、Beaの声にも気迫が込められている。観客の歓声がなくとも、その熱量は十分に伝わってくる。
2. She Plays Bass (Live)
EP『Space Cadet』の人気曲。バンド編成による疾走感が心地よく、ガレージロック的な熱量が爆発する。曲中でのドラムとベースの対話が、原曲よりもダイナミックに展開される。
3. Sun More Often (Live)
穏やかなテンポの中にじんわりと滲み出る感情が印象的。Beaのヴォーカルが原曲以上に浮遊感を持ち、静かな時間の流れを生む。
4. Disappear (Live)
初期代表曲のひとつ。ライブアレンジによりギターの音圧が増し、内省的なリリックにバンドの抑揚が寄り添うことで、原曲とは異なるカタルシスを生んでいる。
5. If You Want To (Live)
ベッドルームポップの素朴さをそのままライブへ持ち込んだかのような一曲。空気感を崩さずに再現されており、親密さのある演奏が魅力。
6. I Wish I Was Stephen Malkmus (Live)
ライブ映えするポップ・パンク的トラック。Beaが自らのルーツを明るく開陳する姿に、オーディエンス不在でも思わず拳を振り上げたくなる。
7. Tired (Live)
演奏のテンポ感はあえて崩され、Beaのヴォーカルが感情を導く形に。ライブならではの“間”の妙味が光るスロー・バラード。
8. Soren (Live)
エモーショナルなギターアルペジオと、切実なリリックがライブの空間に染み渡る。Beabadoobeeという存在の「声の物語性」が最も顕著に表れた一曲。
⸻
総評
『Live in London』は、Beabadoobeeが“スタジオの産物”ではなく“ステージに立つ実在のアーティスト”であることを証明した作品である。
スタジオ録音では見えにくかった彼女の声の力強さ、演奏の生々しさ、そして観客不在の空間をも越えて伝わってくる真摯なエネルギーが、このアルバムには記録されている。
パンデミック下という特異な状況の中でリリースされたことも相まって、音楽そのものの物理性、つまり「そこに誰かがいて、鳴らしている」という実感が、リスナーにとって大きな救いとなった作品でもある。
Beabadoobeeの音楽は、ただ静かで繊細なだけではない。叫び、歪み、重なり合うことで、より広い空間へと届く。それを体現したこの『Live in London』は、まさにその“広がり”のはじまりに位置するライブアルバムなのである。
⸻
おすすめアルバム(5枚)
- Snail Mail『Valentine (Live at Electric Lady)』
スタジオでは聴けない、ギターと声の躍動感が共通するライブ録音。 - Phoebe Bridgers『Copycat Killer EP』
弦楽器を加えた再演シリーズ。Beaのライブ音源と同じく、感情の輪郭がくっきりと現れる。 - Wolf Alice『Blue Weekend (Live at Alexandra Palace)』
女性ボーカルのオルタナティヴロックをライブで体感するという点で共通。 - The 1975『DH00278 (Live from the O2)』
同じDirty Hit所属で、音と視覚の空間設計に長けたライブ音源。 - Julien Baker『Red Door / Conversation Piece (Live)』
内省的な歌詞とライブの生々しさが共振する作品。
⸻
ファンや評論家の反応
『Live in London』は、ライブ文化が停止した2020年において、「Beabadoobeeの音楽を“体験”できる数少ない手段」として高く評価された。
NME、Dork、Clashといった音楽メディアは、「彼女の音楽が生き物として動き出した瞬間」や「観客不在でも成立する圧倒的な親密さ」に注目。
SNSでもファンからの「この音源がなければロックダウンを越えられなかった」「ヘッドフォン越しにライブ会場が蘇った」といった声が多く寄せられ、まさに“音だけで心を繋ぐ”というテーマを体現した作品であった。
コメント