
- 発売日: 2016年1月8日
- ジャンル: アート・ロック、エクスペリメンタル・ロック、ジャズ・ロック、アヴァンギャルド・ジャズ、アート・ポップ、エレクトロニック・ロック
概要
David Bowieの25作目にして生前最後のスタジオ・アルバム『Blackstar』は、ロック史において極めて特異な位置を占める作品である。2016年1月8日、Bowieの69歳の誕生日に発表され、そのわずか2日後の1月10日に彼は死去した。結果として本作は、単なる晩年作ではなく、死を目前にしたアーティストが自らの消滅を作品化したアルバムとして受け取られることになった。しかし『Blackstar』の重要性は、死の直前に作られたという事実だけにあるわけではない。むしろ、最後の最後までBowieが過去の自己を反復するのではなく、新しい音楽的言語へ踏み込んだことに、この作品の本質がある。
Bowieはキャリアを通じて、常に変身を繰り返してきた。Ziggy Stardust、Aladdin Sane、Thin White Duke、ベルリン期の実験的作家、1980年代のポップスター、1990年代のインダストリアル/ドラムンベースへの接近、2000年代以降の内省的なロック・アーティスト。彼は一つのイメージに安住することを避け、時代ごとに自らを作り替えてきた。『Blackstar』は、その変身の最終形である。ただし、ここでの変身は新しいキャラクターを作ることではなく、死そのものをひとつの芸術的形態へ変えることだった。
音楽的には、本作はBowieのディスコグラフィの中でも最も大胆な部類に入る。従来のロック・バンド的な編成よりも、ニューヨークのジャズ・ミュージシャンたちとの緊張感ある演奏が中心となっている。サックス奏者のDonny McCaslinを中心とするバンドは、現代ジャズ、フュージョン、エレクトロニカ、アヴァンギャルドな即興性を持ち込み、Bowieの声と楽曲構造に新しい質感を与えた。ドラムはしばしば複雑で、ベースは不穏にうねり、サックスはメロディの装飾ではなく、精神的な不安や異界性を表す重要な声として機能している。
本作には、Kendrick Lamarの『To Pimp a Butterfly』からの影響も指摘される。ジャズ、ヒップホップ、ブラック・ミュージック、社会的緊張が複雑に組み合わされた同作に触発され、Bowieは従来のロックの枠を超えたサウンドへ向かった。ただし『Blackstar』はヒップホップ作品ではない。むしろ、ジャズの流動性とロックの構成力、エレクトロニックな暗さ、宗教的・神秘的なイメージを融合させた、Bowie独自の終末的アート・ロックである。
タイトルの『Blackstar』は、多義的で象徴的である。黒い星とは、光を放つ星の否定であり、死んだ星、見えない中心、重力の穴、宗教的な徴、あるいはスターとしてのBowie自身の消滅を意味するようにも読める。ポップ・スターは光を放つ存在である。しかしBlackstarは、その光が消えた後に残るもの、あるいは光を吸い込むものとして存在する。Bowieはここで、自分が「スター」であることを最後まで意識しながら、そのスター性の終わりを神秘的な記号へ変換している。
歌詞面では、死、身体の衰え、宗教的イメージ、遺言、芸術家としての自己認識、過去の罪、後継者、消滅後に残る痕跡が中心となる。『Blackstar』の歌詞は非常に暗示的で、直接的な告白だけではない。むしろ、聖書的な言葉、近代的な都市の断片、犯罪や監視のイメージ、個人的な別れの言葉が混ざり合っている。Bowieは自分の死をそのまま説明するのではなく、複数の象徴と物語の中に分散させている。
本作は、直前のアルバム『The Next Day』とも対照的である。『The Next Day』は、過去のBowie作品の記憶を参照しながら、ロック・アルバムとしての力強さを再提示した作品だった。一方、『Blackstar』は過去の自己への参照をさらに抽象化し、Bowieの音楽を未知の領域へ押し出した。過去を振り返るのではなく、死の直前に未来を向いている。その姿勢が、本作を単なる遺作以上のものにしている。
日本のリスナーにとって『Blackstar』は、Bowie入門としては決して聴きやすい作品ではない。『Ziggy Stardust』や『Let’s Dance』のような明快なポップ性は少なく、曲は長く、構成は不穏で、歌詞は象徴的である。しかし、Bowieというアーティストが最後まで「変化すること」を止めなかったことを理解するうえで、本作は避けて通れない。死を前にしても、彼は過去のヒット曲の影に隠れず、新しい音で自分を消していった。その事実が『Blackstar』を圧倒的な作品にしている。
全曲レビュー
1. Blackstar
オープニング曲「Blackstar」は、約10分に及ぶ大曲であり、アルバム全体の世界観を一挙に提示する楽曲である。冒頭から不穏なビート、呪術的なメロディ、サックスの異様な響き、低く漂うBowieの声が重なり、聴き手は通常のロック・ソングとは異なる儀式的な空間へ導かれる。曲は一つの形式に留まらず、前半の暗く宗教的な部分から、中盤のメロディアスで浮遊感のあるセクションへと変化し、再び謎めいた雰囲気へ戻っていく。
音楽的には、現代ジャズとアート・ロック、エレクトロニックな暗さが融合している。ドラムは直線的なロックのビートではなく、細かく揺れながら曲全体に不安定な推進力を与える。ベースは低く蠢き、サックスは不協和な空気を作る。Bowieの声は、物語の語り手であり、司祭であり、死者であり、最後の舞台に立つ俳優でもある。
歌詞では、処刑、宗教的儀式、死体、村、孤立した存在、そして「Blackstar」という謎めいた自己定義が登場する。「I’m a blackstar」というフレーズは、Bowieが最後に自分自身をどのような存在として提示するかを示している。彼は輝くスターではなく、黒い星である。見えるようで見えず、光を放つのではなく、光を吸い込む存在である。
中盤の「Something happened on the day he died」というフレーズは、本作がBowieの死後に聴かれることを予感していたかのように響く。ここで彼は、自分の死を出来事としてではなく、神話的な場面として構築している。死は単なる終わりではなく、何かが起こる日であり、何かが別の形へ移る日である。
「Blackstar」は、アルバムの入口でありながら、すでに一つの総括でもある。Bowieは自分のスター性、宗教性、演劇性、音楽的実験性をすべてこの曲に集約し、最後の作品の最初に置いた。この配置は極めて重要である。『Blackstar』は、始まった瞬間からすでに死後の世界のように鳴っている。
2. ’Tis a Pity She Was a Whore
「’Tis a Pity She Was a Whore」は、タイトルからして挑発的な楽曲である。17世紀イギリスの劇作家ジョン・フォードの悲劇『’Tis Pity She’s a Whore』を連想させるタイトルであり、近親相姦、罪、暴力、道徳の崩壊といったテーマを呼び起こす。Bowieはここで、古典的な悲劇の響きを借りながら、現代的で混乱した音響へ変換している。
音楽的には、アルバムの中でも特に激しく、混沌とした楽曲である。ドラムは暴れるように打ち鳴らされ、サックスは悲鳴のように鳴り、ギターと電子音は曲全体を不安定にする。ここでのジャズは洗練された都会的な音楽ではなく、身体が崩壊していくような暴力性を持つ。
Bowieのヴォーカルも鋭く、どこか追い詰められている。歌詞では、戦争、性、罪、暴力、傷ついた身体が断片的に示される。タイトルに含まれる侮蔑的な言葉は、女性の身体や欲望を道徳的に裁く社会の暴力も示しているように聞こえる。Bowieはその言葉を単純に再現するのではなく、むしろその不快さを曲全体の混乱に接続している。
この曲の重要性は、『Blackstar』が単に静かな死のアルバムではないことを示す点にある。ここには怒り、性、暴力、歴史的な罪がある。死を前にしたBowieは、穏やかな達観だけを歌っているわけではない。身体はまだ騒ぎ、世界はまだ醜く、音楽はまだ不安定に暴れている。
3. Lazarus
「Lazarus」は、『Blackstar』の中でも最も直接的にBowieの死と結びつけられる楽曲であり、アルバムの中心的なバラードである。タイトルのラザロは、新約聖書でイエスによって死から蘇らされた人物である。このタイトルによって、曲は死、復活、身体の拘束、霊的な移行といったイメージを強く帯びる。
冒頭の「Look up here, I’m in heaven」という一節は、Bowieの死後に聴かれることで、非常に強い衝撃を持った。だが、この曲は単なる別れのメッセージではない。むしろ、死を舞台化し、死後の自分を語り手として配置する、極めてBowieらしい演劇的な作品である。
音楽的には、ゆったりとしたテンポ、重いベース、控えめなドラム、哀しげなサックスが中心となる。曲は大きく爆発せず、静かに進む。その分、Bowieの声のかすれや言葉の重みが際立つ。彼の声は衰えを隠していないが、その衰えが表現の一部になっている。若い頃の劇的な歌唱とは異なり、ここでは身体の限界そのものが歌になっている。
歌詞では、天国、傷、自由、ニューヨークでの生活、そして「I’ll be free」という言葉が登場する。自由とは何か。肉体からの解放なのか、名声からの解放なのか、過去のキャラクターからの解放なのか。Bowieにとって死は恐怖であると同時に、最後の変身でもある。この曲の「自由」は、単純な救済ではなく、肉体とイメージから離れていく不気味な解放として響く。
「Lazarus」は、Bowieの遺言のように聴かれるが、それ以上に重要なのは、彼が死を最後の演目として構築している点である。彼はただ消えるのではなく、消える自分を見せる。その自己演出の強度が、この曲を歴史的な作品にしている。
4. Sue (Or in a Season of Crime)
「Sue (Or in a Season of Crime)」は、もともと2014年のコンピレーション『Nothing Has Changed』に新曲として発表された楽曲だが、『Blackstar』ではより緊張感ある形で再録されている。タイトルは「スー、あるいは犯罪の季節に」と訳せる。ノワール的な物語、裏切り、病、死、犯罪の気配が漂う楽曲である。
音楽的には、アルバムの中でも特にジャズ・ロック的な緊張が強い。複雑なドラム、鋭いギター、サックスの不穏な響きが、追跡劇のようなスピード感を生む。曲は非常に動的であり、静かな内省ではなく、何かが暴かれていくようなドラマを持っている。
歌詞では、Sueという人物との関係、病気、裏切り、手紙、暴力的な結末が断片的に語られる。物語は完全には説明されないが、聴き手は断片から不穏な事件を想像することになる。Bowieはここで、従来のポップ・ソングの感情表現ではなく、犯罪小説や映画のような語りを音楽へ持ち込んでいる。
「Sue」は、『Blackstar』の死のテーマを個人的な身体の問題だけでなく、物語的な犯罪や裏切りへ拡張する楽曲である。死は静かに訪れるだけではなく、暴かれる秘密、壊れた関係、都市の暗部としても現れる。この曲の緊張感は、アルバム全体に鋭い陰影を与えている。
5. Girl Loves Me
「Girl Loves Me」は、本作の中でも最も奇妙で、言語的に異物感の強い楽曲である。歌詞には、Anthony Burgessの小説『A Clockwork Orange』に登場するナッドサット語や、英国のポラリと呼ばれる隠語文化を思わせる言葉が混ざり合っている。そのため、意味はすぐには掴めず、言葉そのものが音響的・文化的な暗号として機能する。
音楽的には、重く、反復的で、催眠的である。ビートは鈍く進み、Bowieの声は低く、呪文のように響く。曲全体に不気味な閉塞感があり、未来的でありながら古い地下文化の匂いもある。『Blackstar』の中でも特に異様な質感を持つ曲である。
歌詞の中で特に印象的なのは、「Where the fuck did Monday go?」というフレーズである。時間が消えたことへの驚き、曜日の感覚の喪失、現実の崩れが、この一節に凝縮されている。死を前にした人間にとって、時間は通常の連続性を失う。月曜日はどこへ行ったのか。昨日はどこへ行ったのか。人生はどこへ消えたのか。この問いは、俗っぽい言葉遣いでありながら、非常に深い時間感覚を含んでいる。
「Girl Loves Me」は、Bowieの言語的実験精神を最後まで示す楽曲である。彼は晩年においても、分かりやすい感傷に逃げず、隠語、反復、暗号のような言葉を使って、聴き手を不安定な場所へ連れていく。死のアルバムの中で、言葉そのものが壊れ、変形し、意味を逃れていくのである。
6. Dollar Days
「Dollar Days」は、『Blackstar』の中でも特に叙情的で、Bowieの過去のバラード的な魅力に近い楽曲である。タイトルには金、アメリカ、資本、日々の消費といったイメージがあるが、曲そのものは非常に切なく、別れの歌として響く。前曲までの暗号的・不穏な世界から、ここではより人間的な哀しみが表に出る。
音楽的には、穏やかなテンポ、柔らかなピアノ、サックス、そしてBowieのメロディアスな歌唱が中心である。サックスはここでも重要だが、「’Tis a Pity She Was a Whore」や「Sue」のような暴力的な鳴り方ではなく、哀悼の声として機能している。曲全体には、過ぎ去った時間への深い郷愁がある。
歌詞では、どこかへ帰れないこと、遠い場所への思い、故郷や過去への未練が示される。「I’m dying to」というフレーズは、「したくてたまらない」という慣用表現であると同時に、文字通り「死に向かっている」という意味を帯びる。本作の文脈では、この二重性が非常に重く響く。Bowieは何かをしたい、戻りたい、伝えたい。しかし、その言葉の中にはすでに死が含まれている。
「Dollar Days」は、アルバム終盤で感情的な開口部を作る楽曲である。『Blackstar』は全体として神秘的で難解な作品だが、この曲ではBowieの声がより直接的に別れを告げているように聞こえる。抽象的な死の儀式から、個人的な哀しみへと近づく重要な瞬間である。
7. I Can’t Give Everything Away
ラスト曲「I Can’t Give Everything Away」は、David Bowieの生前最後のアルバムを締めくくる楽曲として、極めて象徴的である。タイトルは「すべてを明かすことはできない」「すべてを与えることはできない」という意味を持つ。これはBowieというアーティストの本質を表している。彼は多くの仮面を見せ、多くの物語を語り、多くの変身を遂げた。しかし、最後まで自分のすべてを説明し尽くすことはなかった。
音楽的には、比較的明るさを持つメロディと、穏やかなリズムが特徴である。だが、その明るさは完全な救済ではなく、透明な諦念に近い。ハーモニカのような音色は、『Low』の「A New Career in a New Town」を想起させ、Bowieの過去と最後の地点をつなぐように響く。これは明確な自己引用というより、キャリア全体の記憶が最後にふっと浮かび上がる瞬間である。
歌詞では、秘密、心、裏切り、仮面、そしてすべてを明かせないという宣言が繰り返される。Bowieは最後に、自分の意味を完全には解かせない。死を作品化しながらも、死の意味をすべて説明しない。これは非常にBowieらしい終わり方である。彼は聴き手に手がかりを与えるが、答えは残さない。
「I Can’t Give Everything Away」は、遺言であると同時に、拒絶でもある。すべてを見せることはできない。すべてを渡すことはできない。アーティストとしてのBowieは、最後まで謎を保持する。だからこそ、彼の死後も作品は解釈され続ける。この曲は、Bowieが最後に残した扉であり、その扉は完全には開かれない。
総評
『Blackstar』は、David Bowieの遺作であるという事実を抜きにしても、極めて高い完成度を持つアルバムである。晩年のアーティストが過去のスタイルを再現するのではなく、現代ジャズ、アート・ロック、電子音楽、神秘的な歌詞を組み合わせ、新しい表現へ到達した点で、本作は驚くべき作品である。Bowieは最後に、過去の自分を保存するのではなく、もう一度変化した。
本作の最大のテーマは死である。しかし、『Blackstar』は単純な死の告白ではない。死はここで、宗教的儀式、犯罪劇、身体の崩壊、時間の喪失、秘密、解放、そして最後の演劇として描かれる。Bowieは自分の死を私的な出来事としてだけでなく、芸術作品の構造として扱った。これは極めて大胆であり、同時に彼のキャリア全体にふさわしい行為である。
音楽的には、Donny McCaslinらのジャズ・ミュージシャンとの共同作業が決定的である。彼らの演奏は、単なるバックバンドではなく、Bowieの最後の変身を支える重要な身体である。サックスはしばしば声のように鳴り、ドラムは不安定な生命活動のように響き、ベースは死の重力を思わせる。ロックの枠を超えたこの音響が、本作を単なるシンガーの最終作ではなく、ひとつの実験的音楽作品として成立させている。
Bowieのヴォーカルも非常に重要である。若い頃の華やかさや鋭さは後退しているが、その代わりに、声には時間と身体の重みが刻まれている。彼は衰えを隠さず、むしろそれを表現に変えている。特に「Lazarus」「Dollar Days」「I Can’t Give Everything Away」では、声そのものが別れの質感を持つ。歌唱技術の誇示ではなく、存在が消えていく過程が声に現れている。
歌詞面では、Bowieらしい多義性が最後まで保たれている。彼は自分の病や死について直接的に語るだけではなく、Blackstar、Lazarus、Sue、隠語、宗教的イメージ、時間の消失といった複数の象徴を使う。これによって、アルバムは単なる自伝的告白ではなく、解釈を誘う神話的な作品になる。Bowieは最後まで、自分自身を一つの物語に固定させなかった。
『Blackstar』は、Bowieのキャリア全体を踏まえると、非常に美しい終着点である。彼は常に仮面を作り、仮面を捨て、新しい仮面をまとってきた。しかし本作では、最後の仮面は死そのものになっている。Ziggy Stardustが架空のロックスターの死を演じたとすれば、『Blackstar』ではBowie本人が、現実の死を芸術的な演目へ変えた。これは残酷なほど自己意識的であり、同時に圧倒的に誠実でもある。
本作の影響は大きい。リリース後、多くのアーティストやリスナーは、アルバムという形式がまだこれほど強い意味を持ち得ることを再認識した。ストリーミング時代において、アルバムは単なる曲の集合になりがちである。しかし『Blackstar』は、曲順、タイトル、音響、歌詞、発表日、アーティストの死までもが一つの作品体験として結びついた。これは、アルバムという形式の力を最後にもう一度示した作品でもある。
日本のリスナーにとって本作は、歌詞や背景を知ることで理解が大きく深まる作品である。音だけを聴いても、不穏で美しいアート・ロックとして成立している。しかし、Bowieが死を目前にしていたこと、ラザロや黒い星の象徴、過去作との接続、ジャズ・ミュージシャンとの共同作業を踏まえると、本作はまったく違った重みを持つ。とはいえ、背景だけに頼る作品ではない。音楽そのものが、最後まで未知の方向を向いている。
『Blackstar』は、聴きやすいアルバムではない。ポップなBowieを期待すると、暗く、長く、抽象的に感じられるかもしれない。しかし、Bowieというアーティストの核心が「変化すること」「仮面を作ること」「時代の音を取り込みながら自分を更新すること」にあったなら、本作はその最終証明である。死の直前に過去へ戻らず、未来へ進んだこと。それが何よりもBowieらしい。
総じて『Blackstar』は、David Bowieの最後の作品であるだけでなく、彼の芸術観そのものを凝縮したアルバムである。死、秘密、変身、スター性、演劇性、音楽的冒険。そのすべてが黒い星の中へ吸い込まれていく。Bowieはすべてを与えたわけではない。すべてを明かしたわけでもない。だからこそ、彼の不在は今もなお光ではなく、深い重力として残っている。
おすすめアルバム
1. David Bowie – Station to Station
1976年発表の重要作。ソウル、ファンク、クラウトロック、アート・ロックを結びつけ、Thin White Dukeという冷たいキャラクターを提示したアルバムである。『Blackstar』の不穏な実験性や、キャラクターを通じて自己を変形させるBowieの方法を理解するうえで重要である。
2. David Bowie – Low
1977年発表のベルリン期の代表作。ロック、電子音楽、アンビエント、断片的な歌を大胆に組み合わせた作品であり、『Blackstar』に通じる実験精神を強く持つ。特に「I Can’t Give Everything Away」に響く過去の記憶を理解するためにも重要な一枚である。
3. David Bowie – The Next Day
2013年発表の前作。長い沈黙を経て復帰したBowieが、過去の自分自身の記憶と対話した作品である。『Blackstar』ほど抽象的ではないが、晩年のBowieがどのように自分の歴史を見つめ直していたかを知るうえで重要である。
4. Donny McCaslin – Beyond Now
2016年発表のアルバム。『Blackstar』に参加したDonny McCaslinが、Bowieの死後に発表した作品であり、ジャズ、ロック、エレクトロニカを横断する音響が特徴である。『Blackstar』の演奏面に惹かれたリスナーにとって、非常に関連性の高い作品である。
5. Scott Walker – Tilt
1995年発表の実験的アート・ロック作品。従来のポップ・ソングから大きく離れ、声、沈黙、不協和、暗いオーケストレーションを使って極限的な音楽世界を構築している。『Blackstar』の暗さ、演劇性、晩年の実験精神に関心があるリスナーに強く関連する作品である。

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