Iron Lung by ARXX（2023）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.08

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 呼吸すること、それ自体が闘いである夜に
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1. 歌詞の概要

「Iron Lung」は、イギリスのポップ・ロックデュオARXX（ハンナ・ペイジとクララ・タウンゼンド）が2023年にリリースしたデビューアルバム『Ride or Die』に収録された楽曲であり、アルバムの最後を飾る、非常に内省的で重厚なナンバーである。

この曲は、圧倒的な不安、自己崩壊の危機、そしてその中でどうにか呼吸を続けようとする切実な感情を描いている。
「Iron Lung（鉄の肺）」というタイトルは、かつてポリオ患者の呼吸を助けるために使われた人工呼吸器を指しており、「自力では呼吸できない状態」というメタファーを通して、自分自身ではどうにもできない苦しみや抑圧の感覚を表現している。

感情の極限を静かに、しかし容赦なく描くこの楽曲は、『Ride or Die』というアルバム全体のテーマ──支え合うこと、そして自己を保とうとする闘い──を集約する、圧倒的なクライマックスとなっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

ARXXは「Iron Lung」について、自らのメンタルヘルスの闘いと、自己を押し潰しそうなプレッシャーに対する苦しい戦いを率直に描いたと語っている。

「この曲は、もがきながらも何とか生き延びようとする気持ちについて書いた。
誰かに助けてもらわないと、自分ではもうどうにもならないと感じることがある──でもそれでも、何とか前に進もうとする、その瞬間の歌だ」と、ハンナはインタビューで述べている。

サウンド面では、ミニマルなギターのリフと、抑えたリズムセクションが中心となり、楽曲が進行するにつれて静かに、しかし確実にエモーションが蓄積していく構成が採られている。
その抑制されたダイナミズムが、歌詞に込められた絶望と希望の狭間の感情をさらに強く際立たせている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元：Genius Lyrics

“I’m breathing through an iron lung”
私は鉄の肺を通して呼吸している

“It’s not enough, but it keeps me alive”
足りないけど、それでも生きている

“I can’t move, but I’m holding on”
動けないけれど、それでも必死にしがみついている

“Waiting for the air to arrive”
空気が届くのを、ただ待っている

これらのラインは、絶望的な状況下でもなお生を手放さずに耐え続ける──そんな極限の心情を、静かでありながら深く響く言葉で表現している。

4. 歌詞の考察

「Iron Lung」は、自己崩壊寸前の人間の心情を、極めてリアルに、そして恐ろしいほど繊細に描いた楽曲である。

「I’m breathing through an iron lung」というメタファーは、自分自身ではもはやどうすることもできない状況に陥ったときの、無力感とかすかな希望を象徴している。
それは、生きるために外部からの助けを必要とする状態であり、同時に、「それでも生きようとする」という意志の証でもある。

また、「It’s not enough, but it keeps me alive」というラインには、現状が満たされないものであっても、それでも「生き延びる」こと自体に意味があるのだという静かな誓いが込められている。
完璧な救いなどない。
それでも、ほんのわずかな支えでもいいから、呼吸を続ける。
この極限のリアリティが、リスナーの心にずしりと響いてくる。

サウンド面でも、ギターとドラムが生み出す緊張感のある空気は、まるで窒息しそうな閉塞感を音そのもので表現している。
そして、曲が進むにつれてわずかに開けるサウンドの隙間が、「まだ終わっていない」「まだ生きている」という小さな光を象徴しているようにも感じられる。

「Iron Lung」は、希望と絶望、光と闇の狭間で揺れる心の極限を、ARXXが真正面から見据え、静かに、しかし力強く描ききった楽曲である。