アルバムレビュー：Flowers of Evil by Mountain

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1971年11月
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、ライヴロック

概要
全曲レビュー
ライヴパート（収録：フィルモア・イースト、1971年）
- 6. Dream Sequence
- 7. Mississippi Queen
総評
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概要

『Flowers of Evil』は、Mountainが1971年に発表した3作目のアルバムであり、スタジオ録音とライヴ録音を組み合わせた構成が特徴的な作品である。
前作『Nantucket Sleighride』で芸術的な深みを見せた彼らは、本作でより生々しいロック・バンドとしてのダイナミズムと即興性を強調する方向へと舵を切った。
アルバム前半はスタジオ音源、後半はフィルモア・イーストでの白熱したライヴ演奏によって構成され、Mountainの二面性――詩的なロマンと荒々しい現場主義――が対比的に描かれている。

タイトルの『Flowers of Evil（悪の華）』は、シャルル・ボードレールの詩集からの引用であり、耽美と堕落、神聖と背徳といったテーマが音楽的にも象徴的に表現されている。
特にパパラルディによるプロデュースと、レスリー・ウェストの轟音ギターは、本作で一層エッジを増しており、ライヴ・パートの過激さは彼らの“本質”を捉える最良の記録でもある。

全曲レビュー

1. Flowers of Evil

タイトル・トラックにして、都会の堕落や暴力をテーマとしたヘヴィでダークなロック・ナンバー。
“汚れた花”という比喩が、60年代の理想が崩れた70年代初頭のアメリカの心象風景を写し出す。
ギターとヴォーカルの緊張感が、物語性を強調。

2. King’s Chorale

重厚なハーモニーによる短いインストゥルメンタル。
中世的なムードを持ち、続く「One Last Cold Kiss」への静かな導入となる。

3. One Last Cold Kiss

“冷たい最後のキス”という死のメタファーを持つバラードで、失った愛や死別への哀悼がテーマ。
パパラルディのしっとりとしたヴォーカルとピアノが、沈痛な美しさを放つ。
Mountainの叙情的側面が最大限に発揮された名曲。

4. Crossroader

ブルース・ロック然とした王道ハードロック・ナンバー。
“十字路に立つ者”という神話的モチーフが、運命と選択というロックの原初的テーマを強調する。
ウェストのギターが雄弁に語る一曲。

5. Pride and Passion

プログレッシブな展開を持つドラマチックな楽曲。
タイトル通り“誇りと情熱”をぶつけるような構成で、Mountainの音楽性の幅広さを実感させる。
重厚なコード進行と劇的なビルドアップが特徴。

ライヴパート（収録：フィルモア・イースト、1971年）

6. Dream Sequence

約25分にわたるライヴ・メドレー。
「Guitar Solo」「Roll Over Beethoven（チャック・ベリーのカバー）」「Dreams of Milk and Honey」「Swan Theme」などが織り込まれ、Mountainのライヴでの即興性と攻撃性が全開。
レスリー・ウェストのギター・ソロは壮絶な爆音の連続でありながら、フレージングにはブルースの魂が息づく。
パパラルディのベースとレイングのドラムとのインタープレイも白熱。

7. Mississippi Queen

バンドの代表曲である「ミシシッピ・クイーン」のライヴ・ヴァージョン。
スタジオ録音よりも速く、荒々しく、観客との一体感を感じさせる。
Mountainというバンドが“スタジオでは収まりきらない存在”であることを証明する一曲。

総評

『Flowers of Evil』は、Mountainが“録音芸術”と“現場の暴力性”のあいだで揺れながら、それぞれに独自の魅力を発揮したユニークな作品である。
スタジオ・パートでは、アメリカの陰影や死、愛の終わりといったテーマが精緻に構築され、ライヴ・パートでは音のカオスと躍動が真空パックのように記録されている。
まさに“花のように美しく、悪のように激しい”というタイトルにふさわしい内容であり、Mountainの両極をもっとも端的に体験できるアルバムといえる。

また、Mountainの音楽は、ただ重くラウドなだけではなく、その奥に“歌心”と“詩情”があることを、この作品は改めて教えてくれる。
ハードロックの枠を超えて、アメリカのリアルな情動を刻んだ本作は、より深く掘り下げるほどにその真価を増していく。