1. 歌詞の概要
「Cosigns（コサインズ）」は、Bartees Strange（バーティーズ・ストレンジ）が2022年にリリースしたセカンドアルバム『Farm to Table』に収録された楽曲であり、そのタイトルが示すとおり、“誰に認められるか”という外部評価の構造と、それに伴う自己肯定感の揺らぎを鋭く掘り下げた楽曲である。
“Cosign（コサイン）”とは、音楽業界においては「影響力のある人物からの推薦」や「他アーティストからの支持・認証」を意味する言葉だ。Barteesは、この楽曲で自らが受けてきた無数のコサイン――有名アーティストたちからの称賛、批評家たちの絶賛――を列挙する一方で、それが本当に“自分らしさ”につながるのか、という根本的な問いを投げかけている。
語り口は挑発的でありながらユーモラスで、彼独特のジャンル横断的なフロウとサウンドアレンジが冴えわたる一曲。セルフブランディングの時代にあって、“承認”という概念を痛快に解体してみせた、Bartees流の自己肯定アンセムである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Cosigns」が生まれた背景には、Bartees Strange自身の目覚ましいキャリアの変化がある。デビューアルバム『Live Forever』（2020年）の成功後、彼はThe NationalやPhoebe Bridgers、Bon Iver、Courtney Barnettといった数々の人気アーティストと共演するようになり、インディーシーンで一躍重要な存在となった。
その過程で受け取った「賞賛」「評価」「推薦」――それらが一種の“仮面”となり、本来の自分を見えにくくしてしまう。そうした危機感が、「Cosigns」の内側には強く宿っている。
同時にこの曲は、「自分を信じる」というシンプルで根源的なテーマにも回帰している。誰に認められるかよりも、自分自身であることを選び続けること。その強さがこの楽曲の核心をなしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I got big dog energy, they play my shit in Germany
僕は“ビッグドッグ”の気迫でやってる、ドイツでも僕の曲は流れてるBon Iver cosigned me, I’m not broke, this ain’t charity
Bon Iverが俺を推薦したんだ、貧乏でやってるんじゃない、これは施しじゃないSayin’ I’m next up, hope it don’t go to my head
“次の注目株だ”って言われてる、でもそれが天狗にならなきゃいいけどなYou know I’m self-made, built my house up from the wreck
僕は自力でここまで来た、廃墟から自分の家を建てたんだ
歌詞引用元：Genius Lyrics – Cosigns
4. 歌詞の考察
「Cosigns」は、業界内での承認や支持を誇りつつ、それを鵜呑みにせず批評的に眺める視点を失わないBartees Strangeらしい曲である。彼はこの楽曲で、自己満足や虚飾の罠に陥ることなく、“自分の手で築いた道”を誇っている。
冒頭でのドイツのリスナーへの言及や、Bon Iverからの支持をユーモラスに語る姿勢には、成功を笑い飛ばす余裕が見えるが、同時に「それに溺れたくない」という本音も垣間見える。特に「hope it don’t go to my head」というラインは、自己認識の高さと自戒の念が凝縮された一節である。
Barteesにとって“コサイン”とは、単なる名声の証ではなく、時に自分らしさを見失わせる“重荷”にもなり得る。彼はその二面性を見抜きながら、それでも音楽を通して“本当の自分”を貫こうとしている。この曲の痛快さは、そうした内面の誠実さと冷静な自己分析に裏打ちされているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Interlude (That’s Love) by Chance the Rapper
自己肯定と信念、外部評価に縛られないマインドをスムーズに綴るナンバー。 - Freedom by Solange
業界の視線と自我との間で揺れながらも、自分のルーツと美学を貫く強烈な表現。 - King Kunta by Kendrick Lamar
“王”としての地位とそれに伴う重圧をユーモアと鋭さで描いた、アーティスト宣言のような一曲。 - Unstoppable by Sia
他者の評価に揺るがず、自らの強さを信じる人に響く、力強い自己肯定ソング。
6. “誰に認められても、自分であることをやめない”
「Cosigns」は、Bartees Strangeがインディー音楽界の“期待の星”として脚光を浴びる中で、それでも“自分自身の声”を失わないという強い意志を詰め込んだ楽曲である。華やかな承認の言葉が並ぶ中で、彼はむしろ「じゃあ、自分は本当に何をやりたいのか？」という問いをリスナーに向けて投げかける。
成功はときに、“本当の自分”を飲み込んでしまう。そんな時代にあって、この曲は「外からの評価に依存せず、自分の原点を見失わないこと」の大切さを軽やかに、しかし真剣に教えてくれる。
Bartees Strangeはこの曲で、ジャンルも、評価も、文化的バイアスも超えて、“本物の自己表現”を貫く。その姿勢こそが、彼を真にユニークな存在たらしめている。そして「Cosigns」はその“信念のリズム”であり、全ての自己創造者たちへのエールなのだ。
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