アルバムレビュー:Bravery, Repetition and Noise by The Brian Jonestown Massacre

Spotifyジャケット画像

発売日: 2001年11月20日
ジャンル: サイケデリック・ロック、ドリームポップ、スペースロック、アートロック


勇気と反復とノイズのあいだで——静かな戦慄を鳴らす“感覚のマニフェスト”

Bravery, Repetition and Noise』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)による通算7作目のスタジオ・アルバムであり、
2000年代初頭という時代において、サイケデリックという語の“内的再定義”を試みた作品でもある。

タイトルにある三語——“勇気(Bravery)”、“反復(Repetition)”、“ノイズ(Noise)”——は、Anton Newcombeという人物とその音楽性を最も簡潔に表すキーワードと言える。
ここで彼が提示したのは、単なる過去のサイケ再解釈ではなく、メランコリーと抑制、そして神経質なまでに制御された音の渦である。

この時期のBJMは、かつての暴走的ローファイ・ガレージから一転、
より内省的で洗練されたサウンドを志向しており、
同時にその中にある感情の静かな爆発や、自己解体的なエクスタシーがアルバム全体にじんわりと広がっている。


全曲レビュー

1. Just for Today

アコースティックなギターと淡いシンセ、儚いコーラスが交錯する、まるで朝の霞のようなオープニング
その“今日だけは”という願いが、時間の儚さと救済を同時に語っている

2. Telegram

ミニマルなギターフレーズに乗せられた、催眠的ヴォーカルの断片が繰り返される。
まさに“電報”のような、届くかどうかわからない言葉の連なり。

3. Open Heart Surgery

本作のハイライトのひとつ。
痛々しくも美しいメロディと、自己の内面を“手術”するようなリリック
夢と現実の境界線で心を開くような一曲。

4. If Love Is the Drug Then I Want to OD

退廃的でロマンティックなタイトルがすべてを物語る。
愛=中毒物という比喩の中にある諦観と欲望を、抑制された音で描く。

5. It Girl

甘くサイケなメロディにのせて、どこか幻影のような“彼女”を讃える。
ドリーミーなプロダクションが、記憶と虚構の女性像を溶かし込む。

6. Salvador Sanchez

実在のボクサーの名前を冠した異色曲。
力強いビートとメランコリックな旋律が交錯し、暴力と詩情の奇妙な同居を見せる。

7. You Have Been Disconnected

タイトル通り、“切断”をテーマにした実験的トラック。
コミュニケーション不全と都市の孤独をノイズとビートで表現する。

8. Leave Nothing for Sancho

ややユーモラスなタイトルながら、音像は極めて陰鬱。
幻想に希望を託す“ドン・キホーテ”のサイドストーリーのような曲

9. Let Me Stand Next to Your Flower

一見ラブソングのようで、実は存在と接触に関する静かな祈りのような一曲。
“花の隣に立たせて”という詩的比喩が秀逸。

10. Sailor

最後を飾るのは、どこまでも漂っていくようなスロー・サイケバラード
“海”と“船乗り”のメタファーが、旅と孤独、出発と帰還を象徴する。


総評

Bravery, Repetition and Noise』は、叫ぶことをやめたサイケデリックの成熟形である。
轟音でもなく、明確なメッセージでもなく、
ひとつひとつの音と語りが、静かに、しかし確実に心の奥を打つ。

Anton Newcombeはこの作品で、サイケの“トリップ性”を日常的な感情や都市的感覚に落とし込むことに成功している。
それは、まるで現代における内面のラウンジ・ミュージック
ノイズはここでは破壊ではなく、共鳴と記憶の断片なのだ。


おすすめアルバム

  • SpiritualizedLet It Come Down
    オーケストラルでスピリチュアルなサイケ。『Open Heart Surgery』に通じる情念。
  • Galaxie 500On Fire
    ドリーミーで内省的、静かな燃焼を続けるようなローファイ・サイケ。
  • The Jesus and Mary ChainDarklands
    ノイズからメロディへとシフトした叙情派オルタナの原点。
  • Red House Painters – Songs for a Blue Guitar
    メランコリーとギターが語り合う、静謐なるカントリー・スロウコア。
  • Dean & Britta – L’Avventura
    甘さと浮遊感を兼ね備えた男女デュオによるドリームポップの逸品。

コメント

タイトルとURLをコピーしました