
発売日:1975年11月7日
ジャンル:Hard Rock / Funk Rock / Blues Rock
概要
Come Taste the Bandは、Deep Purpleが1975年に発表した10作目のスタジオ・アルバムである。最大の変化は、結成期からバンドの音を特徴づけてきたギタリストRitchie Blackmoreが脱退し、アメリカ人ギタリストTommy Bolinが加入したことだった。David Coverdale、Glenn Hughes、Jon Lord、Ian Paiceという前作Stormbringerのメンバーを残しながら、Blackmore不在によってクラシック音楽の影響が強いハードロックからさらに距離を取り、ファンク、ソウル、ブルースを大胆に組み込んでいる。
BolinはBilly CobhamのSpectrumやJames Gangで活動しており、ハードロックだけに収まらないギタリストだった。本作でも鋭いリフを弾く一方、ファンク的なカッティング、ブルース、ジャズ・ロック的なフレーズまで使い分ける。Glenn Hughesのベースも細かく動き、Ian Paiceのドラムとともに強いグルーヴを作るため、従来のDeep Purpleよりリズム隊の存在感が大きい。
ボーカル面ではCoverdaleとHughesの二人体制がさらに明確になった。Coverdaleの低くブルージーな声と、Hughesの高音域まで伸びるソウル的な歌唱が交互に現れ、ときには同じ曲の中でぶつかり合う。結果としてCome Taste the Bandは、Blackmore時代の様式を新しいギタリストで再現した作品ではなく、Deep Purpleという名前を使いながら別のバンドへ変わろうとした記録になっている。
全曲レビュー
1. 「Comin’ Home」
Bolinの鋭いギターから一気に走り出すオープニングで、新編成の違いを最初から隠さない。Ian Paiceのドラムは細かなフィルを挟みながら高速で進み、Jon Lordのオルガンとギターが左右から曲を押す。Coverdaleのボーカルも荒々しく、帰還を歌うタイトルとは裏腹に、過去へ戻るというより新しいバンドの登場を宣言するような勢いがある。BolinのソロもBlackmoreの様式を模倣せず、滑らかで流動的なフレーズを聞かせる。
2. 「Lady Luck」
太いギターリフを中心にしながら、リズムにはファンクの跳ねる感覚が入る。Coverdaleは幸運の女神を女性になぞらえるような歌詞を、ブルース歌手らしい粘りのある声で歌い、バックではHughesの声が厚みを加える。ギター、ベース、オルガンが同じ動きを重ねるのではなく、それぞれ短いフレーズを差し込むため、重いハードロックでありながら演奏にはかなりの隙間と動きがある。
3. 「Gettin’ Tighter」
Glenn HughesとTommy Bolinの共作で、本作のファンク志向が最も明瞭に現れる曲の一つ。Hughesのベースが旋律的に動き、Paiceのドラムが細かくアクセントをずらすことで、演奏には身体を揺らすような弾力が生まれる。Hughesの高くソウルフルな歌唱も中心的で、Bolinは重いコードを鳴らし続けず、短いカッティングやフレーズでリズムに参加する。従来のDeep Purple像から意識的に離れた演奏である。
4. 「Dealer」
暗く硬いギターリフを軸に、アルバムを再びヘヴィな方向へ引き戻す。Coverdaleの荒れた声が曲の危険な雰囲気に合い、中盤ではBolin自身のボーカルが登場して質感を変える。ギターソロでは速さだけを競わず、音を伸ばしたり間を空けたりしながらブルースとジャズ・ロックの間を動く。新ギタリストを単なる演奏者ではなく、作曲と歌にも関わるメンバーとして提示する曲になっている。
5. 「I Need Love」
題名は単純だが、演奏はかなり力強い。Coverdaleが得意とするブルース/R&B系の歌唱を中心に、ギターとオルガンが短く鋭いアクセントを入れ、Paiceのドラムが強いバックビートで支える。愛を求める直接的な歌詞に合わせ、構成も複雑にせずサビの即効性を優先している。前曲までの細かなリズム遊びに比べて直線的で、アルバム前半をハードロックらしい力で締める。
6. 「Drifter」
低い位置で反復するリフと、重くうねるリズムが中心となる。題名通り定住せず移動する人物を思わせる歌詞をCoverdaleがブルージーに歌い、Bolinのギターはボーカルの隙間へ短い応答を返す。特にベースとドラムが単なる伴奏ではなく、ギターから独立して動くことで曲に粘りが生まれている。後半では演奏の密度が増し、簡潔なリフから徐々に熱を上げていく構成も効果的だ。
7. 「Love Child」
シンセサイザーの低く奇妙な音色と重いリフが組み合わさり、本作の中でも独特の不穏さを持つ。Coverdaleの歌唱はブルース的だが、バックの電子音によって伝統的なブルース・ロックには収まらない。リズムも直線的に突進するより腰を落として反復し、歌の性的な緊張を強調する。Jon Lordが従来のハモンド・オルガンだけでなく異なる鍵盤の質感を利用している点も、新編成の音を特徴づけている。
8. 「This Time Around / Owed to ‘G’」
前半「This Time Around」ではHughesの歌唱とLordの鍵盤が中心となり、激しいバンド演奏から一転してソウル・バラードに近い空間を作る。Hughesは高音を力任せに張るのではなく、柔らかな声から徐々に感情を広げていく。そこからインストゥルメンタルの「Owed to ‘G’」へ移るとBolinが主役となり、ジャズ・ロック的な滑らかなギターを展開する。二つの部分をつなぐことで、新編成のソウルとフュージョンへの関心をまとめて示している。
9. 「You Keep on Moving」
CoverdaleとHughesが以前から温めていた曲で、アルバムの最後にふさわしい大きなスケールを持つ。ゆっくり反復するベースと鍵盤の上で二人の声が重なり、序盤の抑制された雰囲気から次第に演奏が広がっていく。移動し続ける相手を見送るような歌詞には距離と喪失の感覚があり、勢いで終わるロック曲とは対照的だ。二人のボーカルの違いを競わせず一つの響きにまとめたことで、この編成ならではの余韻を残してアルバムを閉じる。
総評
Come Taste the Bandを特徴づけるのは、何よりもリズムの変化である。Blackmore在籍時のDeep Purpleでは、ギターとオルガンの強烈なリフや両者のソロの応酬が曲の中心になることが多かった。本作ではベースとドラムがより独立して動き、その上へギター、鍵盤、ボーカルが別々のリズムを重ねる。「Gettin’ Tighter」のような曲では、その違いがファンクとしてはっきり聞き取れる。
Tommy Bolinの加入も単なるギタリスト交代以上の変化をもたらした。Blackmoreのようなクラシック由来の速いフレーズや厳格なリフを再現するのではなく、Bolinはブルース、ファンク、ジャズ・ロックを行き来し、必要ならギターをリズム楽器として使う。その柔軟性がHughesのソウル/ファンク志向と結びついたことで、前作Stormbringerで始まっていた方向転換がさらに進んだ。
一方で、この変化をDeep Purpleらしさの後退と感じる余地もある。Ian GillanとBlackmoreを擁した時期の、オルガンとギターが正面から衝突するような緊張感は薄く、曲によってはCoverdaleやHughes、Bolinそれぞれの音楽性が強く出る。その代わり、Paiceのドラミングは異なるスタイルを一つのバンドへまとめる役割を果たしており、Lordもソウルからハードロックまで鍵盤の音色を巧みに変えている。
この編成は長く続かず、Deep Purpleは1976年にいったん解散し、Bolinも同年12月に亡くなった。そのためCome Taste the Bandで示された方向が次作でどう発展したかを確認することはできない。しかし、だからこそ本作は特殊な位置にある。代表的なDeep Purpleサウンドを求める作品ではなく、1970年代半ばにハードロックがファンク、ソウル、フュージョンと接近していた状況を、Deep Purple自身が内部から経験した記録として聞くと、その独自性がよく分かるアルバムである。
おすすめアルバム
Stormbringer by Deep Purple
前作であり、CoverdaleとHughesによるソウル/ファンク志向がすでに強く表れている。Blackmoreがまだ在籍しているため、Come Taste the Bandと比較すると、ギタリスト交代がバンドのリズムや作曲へどれほど影響したかが分かりやすい。
Burn by Deep Purple
CoverdaleとHughesが加入した第3期Deep Purpleの出発点。ハードロックの重量感を保ちながらブルースやソウルの要素を広げており、そこからStormbringerを経てCome Taste the Bandへ進む変化を理解する基準になる。
Spectrum by Billy Cobham
Tommy Bolinが参加したジャズ・ロック/フュージョンの重要作。速いソロだけでなく、複雑なリズムの上を滑らかに移動するBolinのギターを聞くことができ、Come Taste the Bandへ持ち込まれた彼の音楽的背景を理解しやすい。
Teaser by Tommy Bolin
Come Taste the Bandと同じ1975年に発表されたBolinのソロ作。ハードロック、ファンク、ジャズ、レゲエなどを自然に横断しており、Deep Purpleではバンドの一員として使われた彼の多彩な語彙を、より自由な形で確認できる。
There’s the Rub by Wishbone Ash
1970年代半ばの英国ハードロックが、従来の重いリフだけでなくアメリカ的なグルーヴや広がりのあるギター表現へ向かった例の一つ。Come Taste the Bandとは方法が異なるが、ハードロックの語彙が拡張されていた時代の流れを比較できる。

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