
発売日:2019年3月15日
ジャンル:Psychedelic Rock / Neo-Psychedelia / Indie Rock
概要
The Brian Jonestown Massacreは、The Brian Jonestown Massacreが2019年に発表した18作目のスタジオ・アルバムである。中心人物アントン・ニューカムがベルリンのCobra Studioで制作し、前年のSomething Elseと近い時期に録音された楽曲から構成されている。2010年代のニューカムは電子音やドローン、ヨーロッパ的なサイケデリアまで活動範囲を広げていたが、本作ではギター、オルガン、反復するリズムを中心とした比較的オーソドックスなバンド・サウンドへ重心を戻している。
1990年代の代表作にあったThe Rolling StonesやThe Velvet Underground、1960年代サイケデリック・ロックを思わせる語彙は残っている。しかし、それらを若い頃のような荒々しいガレージ・ロックとして鳴らすのではなく、同じコードやリズムを長く反復しながら、ギターや鍵盤の層を少しずつ重ねていく。ニューカムの歌も大きな感情を前へ出すより、楽器の一部のようにミックスへ溶け込む場面が多い。
全9曲という比較的コンパクトな構成も本作の特徴である。曲ごとの劇的な変化より、似た速度と質感を保ちながら少しずつ色を変えていくため、アルバム全体が一続きの演奏のように聞こえる。過去の様式を再現するだけではなく、長年使ってきたサイケデリック・ロックの材料を、より簡潔で乾いた音へ整理した作品だ。
全曲レビュー
1. 「Drained」
乾いたドラムと反復するギターから、ほとんど助走なしでアルバムの世界へ入っていく。タイトル通り歌には消耗した感覚があり、ニューカムのボーカルも強く訴えるのではなく、演奏の奥で淡々と続く。ギターは大きなリフで曲を支配せず、短いフレーズを何度も重ねることで少しずつ厚みを作る。派手なサイケデリアではなく、倦怠感そのものを反復へ変えたようなオープニングである。
2. 「Tombes Oubliées」
フランス語の題名を持つインストゥルメンタルで、歌を外したことでギターとオルガンの絡みが前面に出る。一定のリズムの上で複数の音が重なり、明確なサビへ到達するより同じ景色の中を移動していくように展開する。メロディを大きく主張しないぶん、音色や残響の変化が曲を進める役割を担う。序盤でボーカル曲から離れることで、本作が歌だけを中心にした作品ではないことを示している。
3. 「My Mind Is Filled with Stuff」
題名が示すように、頭の中を雑多な思考が占領している状態をそのまま歌にしたような曲である。短いギター・パターンとリズムを執拗に繰り返し、そこへニューカムの低く力の抜けた歌を乗せるため、思考が同じ場所を巡り続けるように聞こえる。演奏自体は単純だが、ギターの細かな重なりによって奥行きを作り、単調さを催眠的な感覚へ変えている。
4. 「Cannot Be Saved」
少し重いギターと一定のドラムが、題名にある救いのなさを感傷的なバラードではなく淡々としたロックとして表現する。ニューカムは絶望を劇的に演じず、距離を置いた声で歌うため、感情がすでに疲れ切った後のようにも聞こえる。サビで急激に音量を上げることもなく、同じ温度を保ったまま進む構成が、歌詞の諦念を強めている。
5. 「A Word」
比較的簡潔な曲で、ギターの反復とボーカルの短いフレーズを中心に組み立てられている。言葉を大量に並べるのではなく、限られた表現と音型を繰り返すことで、何かを伝えようとしても十分には届かない感覚が残る。演奏にも大きな装飾はなく、アルバム前半で積み上げてきた濁ったサイケデリアを一度整理するような役割を持つ。
6. 「We Never Had a Chance」
タイトルからは関係の破綻を思わせるが、音楽は悲劇的に膨らまず、むしろ一定のテンポで冷静に進む。ギターと鍵盤が声の周囲に薄い層を作り、歌詞にある諦めを過剰に説明しない。最初から可能性などなかったという視点には怒りより事後的な認識が強く、ニューカムの抑えた歌唱によって、終わった関係を遠くから眺めているような距離感が生まれる。
7. 「Too Sad to Tell You」
アコースティックな質感が強まり、それまでの反復的なバンド演奏から一段静かな場所へ移る。悲しみを相手に伝えることすら難しいという題名通り、歌は大きな告白へ向かわず、言葉を飲み込むような抑制を保つ。ニューカムの声と簡素な伴奏の距離が近いため、サイケデリックな音響よりソングライティングそのものが見えやすい。本作後半の重要な静けさを作る曲である。
8. 「Remember Me This」
再びエレクトリックなバンド・サウンドへ戻り、反復するリズムの上でギターが少しずつ形を変えていく。誰かの記憶にどう残るかという題材は、過去や喪失を扱ってきた前曲までの流れとも自然につながる。ただし感傷を前面に押し出さず、メロディよりグルーヴを持続させることで、記憶が断片的に繰り返されるような感覚を作っている。
9. 「What Can I Say」
最後まで大げさな結論を避け、タイトル通り「何を言えるのか」という行き止まりに近い感覚でアルバムを閉じる。ギターとリズムはそれまでの曲と同じく反復を重視し、最終曲だからといって急に壮大なアレンジへ進まない。言葉では十分に説明できない状態を、同じフレーズを演奏し続けることで埋めていくように聞こえる。作品全体の疲労感と諦念を、そのまま持続させて終わる締め方である。
総評
セルフタイトルであるThe Brian Jonestown Massacreは、バンドの歴史を総括するような派手な作品ではない。むしろ特徴的なのは、長い活動の中で身につけてきたサイケデリック・ロックの方法を、かなり少ない材料で使っていることだ。ギターの反復、簡潔なドラム、オルガン、残響を伴うボーカルという基本的な要素を曲ごとに組み替え、劇的な展開を作らなくても数分間の空気を維持することを重視している。
この方法では、リズムの反復が特に大きな意味を持つ。多くの曲はヴァースから巨大なサビへ飛び込むのではなく、同じ速度を保ったままギターや声の層を変えていく。結果として一曲ごとの輪郭は代表作Take It from the Man!やGive It Back!ほど鮮烈ではない反面、アルバムを続けて聴いたときには統一された温度が生まれる。「Tombes Oubliées」のようなインストゥルメンタルが違和感なく収まるのも、歌より音の持続を重視しているからだ。
歌詞にも同じ抑制がある。救済できないこと、最初から機会がなかったこと、悲しみを言葉にできないことなど、否定や喪失を示す題名が並ぶが、それを若いロック・バンドの激情として表現しない。ニューカムの歌声は疲れや諦めを含みつつも冷静で、感情を爆発させるより、その状態から抜け出せない時間を描く。反復する演奏とこの歌唱が組み合わさることで、音楽と歌詞が同じ心理的な停滞を共有している。
1990年代のThe Brian Jonestown Massacreが60年代ロックの語彙を大量に吸収しながら勢いよく作品を作っていた時期と比べると、本作には新しいジャンルへ踏み込む驚きは少ない。しかし、自分たちが長く使ってきた語彙を必要以上に飾らず、短い9曲へ整理したことには別の強さがある。過去のサイケデリアを懐古的に再現するのではなく、反復と倦怠、音の層という自分たちの基本技法だけを残した、後期The Brian Jonestown Massacreの性格が分かりやすいアルバムである。
おすすめアルバム
Something Else by The Brian Jonestown Massacre
前年の2018年に発表された作品で、本作と制作時期も近い。ギターを中心とする簡潔なサイケデリック・ロックという共通点が多く、2010年代後半のニューカムが電子的な実験から再びバンド演奏へ重心を移した流れを追える。
Take It from the Man! by The Brian Jonestown Massacre
1996年の代表作の一つ。Rolling Stones的なリズムや60年代ガレージ・ロックを若々しく鳴らしており、本作にも残るヴィンテージな音楽語法が、初期にはどれほど荒々しい演奏として現れていたかを比較できる。
Their Satanic Majesties’ Second Request by The Brian Jonestown Massacre
同じく1996年作だが、こちらはドローン、シタール的な響き、長い反復を使ったサイケデリアを前面に出す。本作の催眠的な反復が、バンド初期から続く方法であることを確認するのに適した一枚だ。
The Velvet Underground by The Velvet Underground
派手なサイケデリック表現より、単純なコード、反復、抑えた歌声によって親密な空間を作った1969年作。The Brian Jonestown Massacreが持つ、簡素な演奏を長く持続させる美学と共通する部分を聴き取れる。
Recurring by Spacemen 3
ドローンと反復を使い、少数のコードから長いサイケデリックな時間を作る1991年作。本作より音響的な極端さは強いが、曲を複雑に展開させるのではなく、同じ音を持続させることで感覚を変えていく発想がよく響き合う。

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