I May Hate You Sometimes by The Posies(1988)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「I May Hate You Sometimes」は、The Posiesが1988年に自主制作で発表したデビュー・アルバム『Failure』に収録された楽曲であり、彼らの最初期の代表曲として、後のキャリアにおけるパワーポップ的美学の原点を示す作品である。この曲の最大の魅力は、恋愛関係の中における愛と憎しみの共存――すなわち“好きだからこそ腹が立つ”“大切に思うほど傷つく”という複雑でリアルな感情を、ストレートに、そしてキャッチーに歌い上げている点にある。

タイトルの「I May Hate You Sometimes(ときどき君のことが大嫌いになるかもしれない)」という一節は、関係に潜むネガティブな感情をそのまま肯定する勇気ある告白であり、恋愛を理想化するのではなく、等身大のものとして描いている。語り手は相手を愛しているが、同時にその相手がもたらすストレスや怒りも無視できない。そしてそれを隠すのではなく、共に抱えながら生きていくことを選ぶ――その成熟した感情の在り方が、この曲の根底を流れている。

2. 歌詞のバックグラウンド

The PosiesのKen StringfellowとJon Auerが10代の頃にホームレコーディングで制作した『Failure』は、その後インディーレーベルPopLlama Recordsから再リリースされ、彼らの注目度を一気に高めた。このアルバムは、まだ粗削りながらも既にポップセンスに満ちており、中でも「I May Hate You Sometimes」は、彼らのソングライティング力とヴォーカル・ハーモニーの才能を証明する象徴的な一曲となっている。

1980年代後半のアメリカでは、パンクやニューウェーブの後の時代において、Big StarThe Byrdsの影響を受けた“パワーポップ回帰”の流れが地下で続いていた。The Posiesはまさにその流れを汲みながらも、より個人的で心理的なテーマを取り上げることで、新世代のギターポップを切り拓いた存在である。

「I May Hate You Sometimes」はその最初のマニフェストであり、若さゆえの衝動と、思慮深さがせめぎ合うような瑞々しい楽曲である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I may hate you sometimes
時には君のことを憎んでしまうかもしれない

But I’ll always love you
でも、君のことをずっと愛しているんだ

この一節は、楽曲の中心テーマそのものである。愛と憎しみという一見矛盾する感情が、実は親密な関係性の中でしばしば共存するという事実を、非常に誠実に、シンプルな言葉で表現している。

I may hate you sometimes
時々、君が大嫌いになることもある

But you’ll always be mine
でも、君はずっと僕の人だよ

ここで描かれるのは、“所有”というよりは“絆”に近い感覚だ。感情に波があっても、深いところでは離れられない、そんな複雑でリアルな人間関係の姿が浮かび上がる。

※引用元:Genius – I May Hate You Sometimes

4. 歌詞の考察

「I May Hate You Sometimes」は、恋愛や人間関係における“感情のゆらぎ”をそのまま歌に落とし込んだ稀有なポップソングである。通常、ポップミュージックでは愛か別れか、あるいは喜びか悲しみかという“二項対立”で感情が語られることが多いが、この曲はむしろ「矛盾こそがリアルな感情だ」と言わんばかりに、相反する感情の共存を受け入れている。

語り手は、相手を完璧な存在として描くことを放棄している。それどころか、相手の欠点や、相互理解が及ばない部分に怒りを感じながらも、その全体を愛そうとする。その姿勢は、恋愛の理想像ではなく、むしろ“人を愛することの現実”を映し出しており、10代の若者が書いたとは思えないほどの成熟を感じさせる。

音楽的にも、爽やかでメロディアスなコード進行と、やや切なさを帯びたヴォーカルのトーンが、歌詞の持つ“明るいのに陰がある”という矛盾した感情を的確に伝えている。この感情のバランス感覚こそが、The Posiesというバンドの魅力であり、彼らの原点でもある。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Thirteen by Big Star
    思春期の恋愛の微細な心の揺れを描いた名曲。The Posiesが最も影響を受けたバンドのひとつ。

  • There She Goes by The La’s
    切ない片想いを瑞々しく描いたギターポップの古典。
  • Valerie Loves Me by Material Issue
    10代の不安と誤解をパワーポップに乗せて描いた傑作。青さと苦さが共通する。

  • Sick of Myself by Matthew Sweet
    自己否定と愛情の入り混じる心理を、力強いギターとともに放つ90年代パワーポップの名曲。

6. 恋とは、好きと嫌いのあいだにある

「I May Hate You Sometimes」は、恋愛というものが“常に愛に満ちているもの”ではなく、“矛盾した感情の連なり”であることを肯定する、驚くほど正直な楽曲である。語り手は自分の感情に嘘をつかないし、相手に対して理想を押し付けることもしない。ただ、自分の中に芽生える怒りや不満さえも“関係の一部”として受け入れている。

そしてその姿勢は、成熟した大人の恋愛観を先取りしたようでもあり、逆説的に“恋を知ったばかりの若者のリアリズム”にも感じられる。なぜなら、若さゆえにこそ感情は複雑で、不安定で、だけどそれでも誰かを好きでいようとする――その痛みと優しさが、この曲には満ちているからだ。

The Posiesはこの曲で、ただのラブソングを超えた“人間関係の真実”を描き出した。だからこそ「I May Hate You Sometimes」は、リリースから何十年経っても、多くの人の心にリアルに響き続けるのである。愛とは矛盾であり、憎しみさえもその一部なのだと教えてくれる、唯一無二のパワーポップ・アンセムである。

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