
発売日:2001年6月18日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、プログレッシヴ・ロック、スペース・ロック、アート・ロック、ハードロック、エレクトロニック・ロック
概要
ミューズの2作目のスタジオ・アルバム『Origin of Symmetry』は、バンドの初期キャリアにおける決定的な飛躍を示す作品であり、2000年代英国オルタナティヴ・ロックの中でも特に特異な位置を占めるアルバムである。デビュー作『Showbiz』で提示された神経質なギター・ロック、マシュー・ベラミーの劇的なファルセット、クラシック音楽的な感性は、本作で一気に拡張され、より攻撃的で、より構築的で、より宇宙的なスケールへと変化した。
タイトルの『Origin of Symmetry』は、物理学や宇宙論を連想させる抽象的な言葉である。対称性の起源という概念は、秩序、構造、均衡、そしてその崩壊を想起させる。本作の音楽にも、まさにそのような感覚がある。整然としたクラシック的構成と、暴走するようなロックのエネルギー。精密なリフと、制御不能な感情の爆発。人間的な不安と、宇宙的な広がり。これらが強い緊張関係の中で共存している。
2001年という時期も重要である。英国ロックは、ブリットポップ以後の再編期にあり、レディオヘッドが『Kid A』でロックの枠組みを解体し、コールドプレイが『Parachutes』で内省的なメロディを提示し、ストロークス以降のガレージ・ロック・リバイバルが始まろうとしていた。その中でミューズは、簡素化や日常性へ向かうのではなく、むしろ過剰さ、技巧、劇場性、終末感へ突き進んだ。『Origin of Symmetry』は、同時代の多くのロックが抑制やリアリズムへ向かう中で、異様なまでに大きな感情と音響を追求した作品である。
音楽的には、マシュー・ベラミーのギターとピアノ、クリス・ウォルステンホルムの歪んだベース、ドミニク・ハワードの鋭くダイナミックなドラムが、極めて高い緊張感で組み合わさっている。ベースは単なる低音の支えではなく、しばしばリード楽器のように曲を駆動する。ギターはヘヴィなリフ、ノイズ、アルペジオ、フィードバックを自在に使い分ける。ピアノはロックの装飾ではなく、クラシック音楽的なドラマを導入する中心的な要素として機能する。ドラムは楽曲の爆発力を支えながら、急激な展開にも正確に対応する。
本作の特徴は、ヘヴィネスと高音域の美しさが同時に存在する点にある。たとえば「New Born」や「Plug In Baby」では、攻撃的なリフと強烈なファルセットがぶつかり合う。「Space Dementia」や「Megalomania」では、クラシックや教会音楽のような荘厳さが、ロックの歪みと結びつく。「Citizen Erased」では、7分を超える構成の中で、ヘヴィなリフ、静謐なピアノ、絶望的な歌詞が一つのドラマへと統合される。
歌詞面では、疎外、支配、情報化、身体性の喪失、人工性、精神的不安、自己破壊、宗教的権威への違和感が繰り返し扱われる。『Origin of Symmetry』の世界では、人間は安定した主体ではなく、何かに操作され、圧迫され、変形されていく存在として描かれる。ここには後の『Absolution』や『The Resistance』でさらに発展する、終末論、監視社会、権力への不信の萌芽がある。
キャリア上の位置づけとして、本作はミューズが単なるレディオヘッド以後の英国オルタナティヴ・バンドではないことを証明したアルバムである。デビュー時には、ベラミーの高音ヴォーカルや内省的な空気からレディオヘッドとの比較も多かったが、『Origin of Symmetry』では、その比較を振り切るように、プログレッシヴ・ロック、メタル、クラシック、SF的想像力を大胆に結びつけた。以後のミューズがスタジアム級の壮大なロックへ発展していく土台は、ここでほぼ完成している。
後の音楽シーンへの影響も大きい。本作は、2000年代以降のロックにおいて、技巧性、劇場性、ヘヴィネス、電子音響、クラシック的構成を再び大衆的な文脈へ持ち込んだ作品の一つである。プログレッシヴ・ロック的な大作志向を、現代的なオルタナティヴ・ロックの緊張感と結びつけた点で、『Origin of Symmetry』はミューズの代表作であると同時に、21世紀初頭のロックにおける重要な転換点でもある。
全曲レビュー
1. New Born
アルバムの冒頭を飾る「New Born」は、『Origin of Symmetry』の方向性を一曲で示す強烈なオープニングである。静かなピアノ・アルペジオから始まり、やがて歪んだベースとギターが一気に爆発する構成は、ミューズの静と動の対比を象徴している。冒頭のピアノはクラシック音楽的で、整然とした美しさを持つが、その後に入るリフは機械的で攻撃的であり、まるで人間的な秩序が突然破壊されるような感覚を生む。
音楽的には、クリス・ウォルステンホルムのベースが非常に重要である。太く歪んだ低音は曲全体を支配し、ギターと一体化しながら巨大なリフを作り出す。ドミニク・ハワードのドラムは鋭く、テンションを高め続ける。マシュー・ベラミーのヴォーカルは、抑制された導入部から徐々に激しさを増し、サビでは高音域へ突き抜ける。
歌詞では、人工的な誕生、感情の喪失、現代社会における人間性の希薄化が示唆される。「New Born」というタイトルは、本来ならば生命の始まりを意味するが、この曲における誕生は祝福されたものではない。むしろ、新たに生まれる存在が、すでに何かに操作され、歪められているように感じられる。ここには、テクノロジーや管理社会への不安がある。
この曲の重要性は、ミューズがロックの伝統的な構成を超え、クラシック的導入、ヘヴィなリフ、SF的な不安、劇的なヴォーカルを一体化させた点にある。『Origin of Symmetry』の幕開けとして、「New Born」は非常に効果的であり、本作が単なるギター・ロックではなく、もっと大きな音楽的野心を持つ作品であることを明確に告げている。
2. Bliss
「Bliss」は、前曲の攻撃性から一転し、シンセサイザーのきらめきと浮遊感が印象的な楽曲である。タイトルは「至福」を意味するが、その響きは単純に明るい幸福ではなく、手の届かない理想や憧れに近い。曲全体には、宇宙的な広がりと、何かを渇望する切実さが同時に存在している。
音楽的には、反復されるシンセのフレーズが曲の中心となる。このフレーズは軽やかで美しいが、背後ではベースとドラムが強い推進力を作り、楽曲を前へ押し出している。ギターは過度に前面へ出ず、音の層の一部として機能する。ミューズはここで、ロック・バンドの編成に電子的な質感を自然に取り込み、後の作品にもつながるスペース・ロック的な音像を作っている。
歌詞では、語り手が誰かの内面にある純粋さや幸福に憧れ、それを自分も得たいと願っているように聞こえる。ここでの「Bliss」は、他者の中に見出される理想であり、自分には欠けているものでもある。ミューズの歌詞にしばしば見られる、自己の不完全さと他者への憧れが、この曲では比較的透明な形で表れている。
マシューのヴォーカルは、非常に高く、伸びやかである。ファルセットは、曲の宇宙的な浮遊感とよく合っており、地上の重力から離れていくような印象を与える。しかし、サウンド全体には強いビートがあるため、完全に夢幻的になることはない。憧れと焦燥が同時に鳴っている。
「Bliss」は、『Origin of Symmetry』の中で比較的メロディアスで開かれた楽曲だが、その内側には深い渇望がある。攻撃的なリフだけではない、ミューズの美的で宇宙的な側面を示す重要な曲である。
3. Space Dementia
「Space Dementia」は、本作のクラシック音楽的・プログレッシヴな側面が強く表れた楽曲である。タイトルは「宇宙認知症」あるいは「宇宙的狂気」とでも訳せる言葉で、空間的な広がりと精神の崩壊が結びついている。ミューズのSF的想像力と心理的な不安が、ここで非常に濃密な形で展開される。
音楽的には、ピアノが主役である。ラフマニノフを思わせるような重厚で劇的なピアノの響きが、楽曲全体を支配している。ロック・バンドの曲でありながら、導入部からクラシック音楽の緊張感が強く、通常のギター・ロックとは明らかに異なる。ベースとドラムが加わることで、曲はさらに重く、暗い方向へ進む。
歌詞では、精神の不安定さ、相手への執着、宇宙的な孤独が描かれる。広大な宇宙空間は、解放の象徴ではなく、むしろ孤立や狂気を増幅する場所として機能している。人間の意識は、無限の空間に触れることで安定を失う。ミューズの宇宙的イメージは、しばしばロマンティックであると同時に不気味であり、この曲はその典型である。
マシューの歌唱は、ピアノの劇的な響きと結びつき、オペラ的な切迫感を帯びる。声はしばしば高く張り詰め、語り手の精神が限界に近づいていることを示す。曲の後半では、演奏がさらに混沌とし、制御不能な感情が音として噴き出す。
「Space Dementia」は、ミューズが単なるロック・バンドではなく、クラシック、SF、心理的ドラマを統合するバンドであることを示す楽曲である。本作の中でも特に濃密で、聴き手を選ぶ曲だが、アルバムの野心を理解するうえで欠かせない。
4. Hyper Music
「Hyper Music」は、『Origin of Symmetry』の中でも特に攻撃的で、短く鋭い楽曲である。タイトル通り、過剰な速度感と神経の高ぶりが曲全体を支配している。前曲「Space Dementia」がクラシック的な重厚さを持っていたのに対し、この曲はより直接的な怒りと衝動を表す。
音楽的には、鋭いギター・リフ、歪んだベース、タイトなドラムが一体となり、非常に高いテンションを生み出している。曲は複雑な構成よりも、短い時間で感情を爆発させることに重点を置いている。ミューズのヘヴィな側面、ポスト・ハードコア的な苛立ち、オルタナティヴ・ロックの攻撃性が凝縮されている。
歌詞では、相手への拒絶、怒り、失望が非常に直接的に表現される。語り手は相手からの支配や期待を拒み、自分の感情を荒々しく吐き出す。『Origin of Symmetry』には宇宙的・抽象的なテーマも多いが、この曲では対人関係の怒りが前面に出ている。ただし、その怒りは単なる恋愛の不満ではなく、自分を押しつぶすものへの反発として響く。
マシューのヴォーカルは、ここでは美しく伸びるファルセットよりも、鋭く攻撃的な叫びに近い。演奏全体も、制御された美しさより、壊れそうな勢いを重視している。この荒々しさが、アルバムのバランスを作っている。
「Hyper Music」は、ミューズの過剰な神経性を短時間で爆発させた曲である。『Origin of Symmetry』の中で、ヘヴィなロック・バンドとしての彼らの力を示す重要な一曲である。
5. Plug In Baby
「Plug In Baby」は、ミューズ初期を代表する楽曲であり、本作の中でも最もポップな即効性を持つ一曲である。冒頭のギター・リフは非常に有名で、クラシック音楽的な旋律感とロックの攻撃性が見事に結びついている。シンプルで印象的なリフが曲全体を引っ張り、ミューズのメロディセンスと演奏の鋭さが凝縮されている。
音楽的には、疾走感のあるテンポ、明快な構成、強いフックが特徴である。リフは技巧的でありながら、過度に複雑ではなく、聴き手の耳にすぐ残る。ベースとドラムは曲をタイトに支え、ギターのメロディを最大限に引き立てる。サビではマシューの高音ヴォーカルが大きく開き、曲は強い開放感を得る。
歌詞では、人工的な愛、テクノロジーによって置き換えられる感情、あるいは関係の破綻が描かれているように読める。「Plug In Baby」という言葉は、接続された恋人、機械化された愛、人工的な代理物を連想させる。ここには、現代社会における人間関係の人工性や、感情の代替可能性への不安がある。
この曲の魅力は、歌詞の不穏さとサウンドのキャッチーさが共存している点である。リフは爽快で、メロディは非常にポップだが、テーマはどこか冷たく、歪んでいる。ミューズはここで、メロディアスなロック・ソングの形式の中に、SF的な疎外感を忍ばせている。
「Plug In Baby」は、ミューズが幅広いリスナーに届くポップ性を持ちながら、独自の不安定な世界観を失わないことを示した代表曲である。アルバム全体の中でも、最も重要な楽曲の一つである。
6. Citizen Erased
「Citizen Erased」は、『Origin of Symmetry』の中核をなす長尺曲であり、ミューズ初期の最高到達点の一つとして語られることが多い。7分を超える構成の中で、ヘヴィなリフ、静かなピアノ、劇的な展開、疎外感に満ちた歌詞が一体化している。アルバム全体のテーマである支配、消去、自己喪失が、この曲で最も深く表現される。
音楽的には、冒頭から重く歪んだリフが鳴り響く。ギターとベースが一体となって作る壁のような音は、聴き手を圧迫する。ドラムは非常に力強く、曲の巨大なスケールを支える。中盤以降、曲は一度静まり、ピアノを中心とした繊細なパートへ移行する。この落差が、楽曲に深いドラマを与えている。
歌詞では、個人が社会や権力、他者の期待によって消されていく感覚が描かれる。「Citizen Erased」というタイトルは、存在を記録から抹消された市民を思わせる。これは政治的な意味にも、心理的な意味にも読める。自分の声、自分の記憶、自分の人格が、外部の力によって消されていく。その恐怖が曲全体を覆っている。
この曲の重要な点は、単に怒りを爆発させるだけでなく、後半で深い疲労と悲しみへ移行することである。激しいリフの後に現れる静かなパートは、抵抗の後に残る虚無のように響く。マシューのヴォーカルも、前半では攻撃的だが、後半では壊れやすく、諦めに近い色を帯びる。
「Citizen Erased」は、ミューズのプログレッシヴな構成力と感情表現が最も高い水準で結びついた楽曲である。本作の精神的な中心であり、後の『Absolution』や『The Resistance』に続く政治的・終末的テーマの原型としても重要である。
7. Micro Cuts
「Micro Cuts」は、アルバムの中でも最も異様で、不安定な楽曲の一つである。タイトルは「小さな切り傷」を意味し、目に見えにくい傷、細かな痛み、精神的な損傷を連想させる。曲のサウンドもまた、通常のロック・ソングの安定感から大きく外れており、聴き手に強烈な緊張を与える。
音楽的には、マシュー・ベラミーの極端なファルセットが最大の特徴である。声は人間離れした高さで響き、オペラ、悪夢、狂気の境界にあるような印象を与える。ギターは鋭く、ドラムは不穏で、曲全体が非常に尖った質感を持つ。メロディは美しいというより、切り裂くようである。
歌詞では、身体的・精神的な傷、操作される感覚、痛みの蓄積が描かれる。大きな破壊ではなく、小さな傷が積み重なって人間を壊していく。このイメージは、現代的なストレスや心理的圧迫とも結びつく。ミューズはここで、痛みを直接的な叫びではなく、声そのものの異様さによって表現している。
「Micro Cuts」は、ポップな聴きやすさからは遠いが、本作の実験性を象徴する曲である。ミューズが商業的なロック・バンドでありながら、ここまで極端な声と構成をアルバムに組み込んだことは重要である。美しさと不快感が紙一重で存在しており、聴き手の感覚を揺さぶる。
この曲は、『Origin of Symmetry』の持つ緊張感を極限まで高める。アルバムの中で異物のように響きながらも、支配、傷、精神の不安定というテーマを強烈に補強している。
8. Screenager
「Screenager」は、前曲「Micro Cuts」の極端な緊張から一転し、静かで内省的な楽曲である。タイトルは「screen」と「teenager」を組み合わせたような造語であり、画面を通じて自己を認識する若者、あるいはメディアに媒介された身体意識を連想させる。2001年という時代を考えると、インターネットや映像文化の中で変化する自己像への不安を先取りした曲として読むことができる。
音楽的には、アコースティックな質感と繊細なパーカッションが中心で、アルバムの中ではかなり抑制された雰囲気を持つ。ミューズのヘヴィなリフは後退し、代わりに静かな不気味さが前面に出る。音の隙間が多く、声と楽器の響きが密室的な空間を作る。
歌詞では、身体への嫌悪、若さの喪失、自己イメージの変形が描かれる。スクリーンに映る自分、あるいは他者から見られる自分は、現実の身体とは異なる形で認識される。その結果、人は自分自身を歪んだものとして感じるようになる。このテーマは、後のSNS時代を考えると非常に示唆的である。
マシューのヴォーカルは、ここでは抑制され、囁くような不安を帯びている。前曲の極端なファルセットとは異なり、内側へ沈み込むような声である。これにより、曲は派手なドラマではなく、静かな自己嫌悪や疎外感を表現している。
「Screenager」は、『Origin of Symmetry』の中で重要な休止点であると同時に、テーマ面では非常に現代的な曲である。身体、メディア、若さ、自己認識の問題を、静かなアート・ロックとして描いている。
9. Darkshines
「Darkshines」は、タイトルからして光と闇の矛盾を含む楽曲である。暗く輝くもの、危険な魅力、破滅的な美しさ。そうしたイメージが曲全体に漂っている。ミューズの音楽にしばしば見られる、官能性と不安、誘惑と破壊の結びつきがここで明確に表れる。
音楽的には、ラテン的なリズム感やスパニッシュなギターの雰囲気が感じられ、アルバムの中でも独特の色彩を持つ。重いリフ一辺倒ではなく、リズムの揺れや旋律の妖しさが曲を特徴づけている。ベースはうねるように動き、ドラムは曲に緊張感と官能性を与える。
歌詞では、相手の持つ危険な魅力に引き込まれていく語り手の姿が描かれる。ここでの愛や欲望は、幸福をもたらすものではなく、自己を崩していく力として感じられる。ミューズの恋愛表現は、しばしば支配や依存、破壊と結びつくが、「Darkshines」はその官能的な側面を強く示している。
マシューのヴォーカルは、曲の怪しさをよく表現している。高音域の緊張と低い部分の抑制が交互に現れ、語り手の揺らぎを示す。曲全体は、暗い場所で何かが妖しく輝いているような印象を与える。
「Darkshines」は、アルバムの中でラテン的・官能的な色合いを加える楽曲である。ミューズがヘヴィネスや宇宙的テーマだけでなく、身体的な誘惑や不安も描けることを示している。
10. Feeling Good
「Feeling Good」は、アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカッスによる楽曲のカバーであり、ニーナ・シモンの歌唱でも有名なスタンダードである。ミューズはこの曲を、原曲のジャズ/ソウル的なムードを保ちながらも、自分たちの劇場的で重厚なロックへと作り替えている。
音楽的には、冒頭のヴォーカルが非常に印象的である。マシューの声は、自由と解放を歌いながらも、どこか不穏で演劇的である。その後、重いベースとドラムが入り、曲はミューズらしい濃密なサウンドへ変わる。原曲の持つ開放感は残されているが、同時に支配的で暗い空気も加わっている。
歌詞は、新しい夜明け、新しい日、新しい人生を迎え、気分が良いという内容である。本来は解放と再生の歌だが、ミューズの演奏では、その解放がどこか歪んで聞こえる。これは、アルバム全体の文脈に置かれることで、単純な幸福の歌ではなく、支配や痛みを通過した後の奇妙な解放感として響くためである。
このカバーの重要性は、ミューズが既存の楽曲を自分たちの世界観へ完全に取り込んでいる点にある。ジャズ・スタンダードの洗練された楽曲が、ここではオルタナティヴ・ロックの重さと劇場性を帯びる。マシューのヴォーカルは、原曲のソウルフルな解釈とは異なり、より演劇的で、異形の祝祭のような印象を与える。
「Feeling Good」は、アルバムの中ではカバー曲でありながら、決して浮いていない。むしろ、自由、再生、身体性というテーマを、ミューズ流の不穏な美学で再解釈した重要な楽曲である。
11. Megalomania
アルバムの最後を飾る「Megalomania」は、『Origin of Symmetry』を荘厳かつ不穏に締めくくる楽曲である。タイトルは「誇大妄想」や「権力妄想」を意味し、宗教的権威、支配欲、自己肥大への批判を連想させる。本作全体に漂う支配と不信のテーマが、最後に非常に重い形で提示される。
音楽的には、オルガンの響きが中心であり、教会音楽のような荘厳さを持つ。ロック・バンドの終曲でありながら、ギター・リフの爆発ではなく、宗教的空間を思わせる音響が選ばれている点が特徴的である。このオルガンの響きは、神聖さと圧迫感を同時に生み出す。
歌詞では、権力や信仰への疑念、偽りの救済、支配者の肥大した自我が描かれる。語り手は何か大きな権威に対して不信を抱いているように聞こえる。宗教的な言葉や音響を用いながら、曲は安らぎではなく、むしろ神聖なものの背後にある支配性を暴こうとしている。
マシューのヴォーカルは、荘厳な伴奏の上で非常に劇的に響く。声は祈りのようでもあり、告発のようでもある。曲全体はゆっくりと進みながら、重い余韻を残す。アルバムの最後にこの曲が置かれることで、『Origin of Symmetry』は単なる高揚ではなく、権威と自己の関係に対する深い疑念で締めくくられる。
「Megalomania」は、ミューズの初期作品における宗教的・政治的な不信の重要な表現である。後の『Absolution』でさらに強まる終末論的・宗教的テーマの前兆としても聴くことができる。アルバムの終曲として、本作の不穏さと荘厳さを見事にまとめている。
総評
『Origin of Symmetry』は、ミューズの個性が決定的に確立されたアルバムである。デビュー作『Showbiz』で見られた神経質な感情表現は、本作でより大胆な音楽的構造へと発展した。ヘヴィなリフ、クラシック音楽的なピアノ、極端なファルセット、歪んだベース、電子的な浮遊感、宇宙的な想像力、政治的・心理的な不安が一体となり、他の英国ロック・バンドとは明らかに異なる世界を作り出している。
本作の最大の特徴は、過剰さを恐れないことにある。ミューズはここで、ロックをシンプルなバンド・サウンドへ還元するのではなく、クラシック、プログレ、ハードロック、SF、宗教的イメージを大胆に取り込んだ。これは時に大仰で、演劇的で、過密に聞こえる。しかし、その過剰さこそが『Origin of Symmetry』の魅力である。2000年代初頭のロックにおいて、ここまで真正面から巨大な音楽的ドラマを構築した作品は多くない。
歌詞面では、人間の自由や主体性が脅かされる感覚が繰り返し描かれる。「New Born」では人工的な生命や感情の喪失が示唆され、「Plug In Baby」では機械化された愛が描かれる。「Citizen Erased」では個人の存在が消去され、「Screenager」ではスクリーンを通じて歪む自己像が扱われる。「Megalomania」では宗教的・権力的な自己肥大が批判される。これらの主題は、後のミューズが監視社会や全体主義、陰謀論的世界観へ進む土台となっている。
音楽的な完成度も高い。マシュー・ベラミーは、ギタリスト、ピアニスト、ヴォーカリストとして、非常に多面的な表現を見せる。クリス・ウォルステンホルムのベースは、アルバム全体の重量感を決定づけており、しばしばギター以上にリフの中心となる。ドミニク・ハワードのドラムは、複雑な展開と激しいダイナミクスを支え、楽曲に鋭い推進力を与えている。3人編成でありながら、サウンドは非常に巨大で、密度が高い。
『Origin of Symmetry』は、ミューズのディスコグラフィの中でも特にファンからの評価が高い作品である。その理由は、後の作品のようなスタジアム・ロック的な洗練に向かう前の、生々しい緊張と実験性が刻まれているからである。『Absolution』以降のミューズはより大規模な構成と明確なコンセプトへ進むが、本作にはまだ制御しきれない若いエネルギーがある。その危うさが、アルバムに独特の魅力を与えている。
日本のリスナーにとって本作は、ミューズの本質を理解するうえで非常に重要な入口となる。代表曲「Plug In Baby」や「New Born」の即効性だけでなく、「Citizen Erased」や「Space Dementia」の長大な構成、「Micro Cuts」の実験性、「Megalomania」の荘厳さまで含めて聴くことで、ミューズが単なるオルタナティヴ・ロック・バンドではないことが分かる。
『Origin of Symmetry』は、21世紀初頭のロックにおいて、プログレッシヴな野心とオルタナティヴな不安を結びつけた重要作である。人間がテクノロジー、権力、自己像、欲望によって変形される時代の不安を、巨大な音、異常な高音、歪んだ低音、クラシック的なドラマによって描いたアルバムである。その意味で本作は、ミューズの出発点を超え、2000年代ロックの中でも特別な強度を持つ一枚である。
おすすめアルバム
1. Muse『Absolution』
2003年発表。『Origin of Symmetry』で確立されたヘヴィなリフ、終末感、クラシック的な劇場性を、より明確なコンセプトと大規模なサウンドへ発展させた作品である。「Time Is Running Out」「Hysteria」「Stockholm Syndrome」などを収録し、ミューズの世界的成功を大きく後押しした。『Origin of Symmetry』の不安と攻撃性を、より洗練された形で聴くことができる。
2. Muse『Showbiz』
1999年発表のデビュー・アルバム。『Origin of Symmetry』ほど大規模な構成やヘヴィネスはないが、マシュー・ベラミーのファルセット、内省的な歌詞、ドラマティックなギター・ロックの原型が確認できる作品である。ミューズがどのようにして本作の過剰なスタイルへ到達したかを理解するために重要である。
3. Radiohead『The Bends』
1995年発表。英国オルタナティヴ・ロックにおける感情的なギター・サウンドと、疎外感を表現した重要作である。初期ミューズはしばしばレディオヘッドと比較されたが、『The Bends』を聴くことで、共通する内省性と、ミューズがそこからどのようにプログレッシヴで劇場的な方向へ逸脱したかが見えやすくなる。
4. Queen『Queen II』
1974年発表。ハードロック、オペラ的コーラス、幻想的な構成、劇場的な展開が詰まったクイーン初期の重要作である。ミューズの多声的な大仰さ、クラシック的な感覚、ロックをドラマとして構築する姿勢を理解するうえで関連性が高い。『Origin of Symmetry』の過剰な美学の先駆として聴くことができる。
5. Jeff Buckley『Grace』
1994年発表。ジェフ・バックリィの圧倒的な高音ヴォーカル、繊細さと爆発力を併せ持つロック表現が刻まれた名盤である。マシュー・ベラミーのファルセットや劇的な歌唱表現を考えるうえで、重要な参照点となる。『Origin of Symmetry』の声の表現、特に美しさと切迫感の結びつきを理解するために関連性の高い作品である。

コメント