Yes Close to the Edge(1972)楽曲解説

1. 歌詞の概要

Close to the Edge」は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンドYesが1972年に発表したアルバム『Close to the Edge』の表題曲であり、彼らの音楽的・精神的到達点とも評される傑作である。全長18分超におよぶこの楽曲は、「I. The Solid Time of Change」「II. Total Mass Retain」「III. I Get Up, I Get Down」「IV. Seasons of Man」の4つのセクションから構成される組曲であり、Yesというバンドの芸術的野心と創作力が結晶化した一曲である。

歌詞の内容は一見して難解で抽象的だが、中心にあるテーマは「自己超越」である。自然との一体感、意識の目覚め、精神的な変容といった象徴を通じて、人間が“縁(エッジ)”に近づき、そこを越えることで新たな存在へと生まれ変わるという過程が描かれている。輪廻、瞑想、光と闇の交錯、人生の季節──それらすべてが壮大な音楽の流れとともに展開していく。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Close to the Edge」は、Yesのボーカルであるジョン・アンダーソンが、ロシアの神秘思想家パーヴェル・ベルジャーエフや、ヘルマン・ヘッセの小説『シッダールタ』に影響を受けて構想した作品であり、精神的覚醒や存在の本質を探求する哲学的なテーマが色濃く反映されている。

この曲の構成は非常に複雑でありながら緻密に設計されており、クリス・スクワイア(ベース)、スティーヴ・ハウ(ギター)、リック・ウェイクマン(キーボード)、アラン・ホワイト(ドラム、制作当時はビル・ブルーフォード)の卓越した演奏技術が集結し、絶妙なバランスで楽曲を推進している。アルバム全体がわずか3曲しか収録されていない構成であるにもかかわらず、濃密な表現力によりプログレッシブ・ロックの金字塔として広く認識されることとなった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Yes “Close to the Edge”

A seasoned witch could call you from the depths of your disgrace
年季の入った魔女が君を、君の恥の深淵から呼び戻すことができるだろう

And rearrange your liver to the solid mental grace
そして君の心を再構成し、確固たる精神の優美さへと導く

この冒頭のイメージは極めて象徴的で、魂が混沌や破滅から「召喚」され、内なる秩序と恩寵へと向かう変容のプロセスを示している。魔女という存在は霊的導師や転換の象徴として機能しており、精神的な再生を物語る。

I get up, I get down / I get up, I get down
昇っては沈む/昇ってはまた沈む

このシンプルなリフレインは、人生の浮き沈み、光と影、行動と内省の往復を表している。「I Get Up, I Get Down」のセクションは、楽曲の中間部に位置し、荘厳なオルガンと深いエコーを伴って静謐な時間を作り出す。その静けさは、精神の深奥へ沈潜する瞑想の時間であり、次の覚醒へと至るための「闇」である。

Now that it’s all over and done / Now that you find, now that you’re whole
すべてが終わり、成就した今/君は気づき、そして自らが完全であると知る

最終セクション「Seasons of Man」において、自己の探求は完結し、自己認識と統合の瞬間が訪れる。これは個人のスピリチュアルな旅の終着点であり、輪廻の円環を抜け、より高次の存在へと昇華していくイメージが描かれる。

4. 歌詞の考察

「Close to the Edge」の歌詞は、Yesの作品群の中でも最もスピリチュアルかつ哲学的な内容を含んでおり、構成と詞が完全に一体となって“精神の旅”を描き出している。楽曲の流れは、混沌(破壊)→浄化(沈潜)→覚醒(上昇)という三部構成に近く、これは神秘主義における“浄化・照明・合一”のプロセスにも対応している。

アンダーソンの詞には、仏教的な輪廻観や自然との一体化、西洋神秘思想の影響が混在しており、「エッジに近づく」という行為そのものが、常識や自己の限界を越えて“存在の本質”に触れるという意味を持つ。それは危うさを伴いながらも、新たな次元へ進化するために不可避な一歩である。

また、「I Get Up, I Get Down」という静寂のパートを挟むことで、楽曲全体が呼吸を持つように展開し、聴き手に“気づき”や“間”を与えている。最終セクションでの高揚感と、再び戻ってくるモチーフの循環性は、曲が終わってもなお続く“意識の流れ”を示唆している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Supper’s Ready” by Genesis
    同じく組曲形式で、宗教的・黙示録的なイメージを交えた精神の旅路を描くプログレ名作。

  • “Echoes” by Pink Floyd
    深海や宇宙のイメージを用いて、意識の拡張と統合を体験させるような20分超の大作。

  • “Awaken” by Yes
    「Close to the Edge」に続くスピリチュアルな名曲で、覚醒と再生が主題。

  • “Song of the Marching Children” by Earth & Fire
    宗教的テーマと組曲構成を持つ、オランダ産プログレッシブ・ロックの隠れた傑作。

6. 音楽と詩が一体となった“精神のアルケミー”

「Close to the Edge」は、プログレッシブ・ロックというジャンルにおける究極の試みであり、“音楽による精神変容”のひとつの完成形とも言える作品である。Yesはこの楽曲で、構成美、演奏技術、リリシズム、哲学性を完璧なまでに融合させ、聴く者を“エッジ”へと導く。

この“エッジ”は人生の境界、存在の限界、または死と再生の境目でもある。そこに近づくことで人は恐れを感じるが、そこを越えたときにこそ、真の自由や覚醒が訪れる。Yesはこの楽曲を通じて、そうした内面的変容の旅路を、壮麗な音楽と言葉によって体験させる。

「Close to the Edge」は、ロック音楽の可能性を精神世界へと拡張した、永遠に語り継がれる“音による啓示”である。

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