発売日: 1991年5月14日
ジャンル: サイケデリックロック、ノイズロック、ドリームポップ
Mercury Revのデビューアルバム『Yerself Is Steam』は、サイケデリックロックとノイズロックを大胆に融合させた挑戦的な作品であり、1990年代初頭のオルタナティブロックシーンに鮮烈な印象を与えた。荒々しくも感情的な音楽性、そして幻想的な歌詞は、初期Flaming LipsやSpacemen 3を彷彿とさせつつも、彼ら独自のアプローチによって唯一無二の世界観を築いている。
アルバムの制作は、メンバーたちのカオス的な創作プロセスを反映し、ノイズ、メロディー、実験的な音響が混在した内容となっている。Jonathan Donahueの繊細なボーカルと、Dave Fridmannの多彩なプロダクション技術が際立ち、バンドの美学がアルバム全体に貫かれている。本作は、後のMercury Revのメロディックな進化への布石でありながらも、未完成でありながら魅力的なエネルギーを持つ。
トラック解説
1. Chasing a Bee
アルバムの幕開けを飾る12分の壮大な楽曲。アコースティックギターの優しいイントロから始まり、ノイズとカオスの嵐に変貌していく構成が印象的。Donahueの詩的な歌詞が、楽曲の幻想的な雰囲気を強調している。
2. Syringe Mouth
攻撃的なノイズギターとヘヴィなドラムが特徴の一曲。荒々しいエネルギーと混沌の中にも、どこかキャッチーなメロディーが潜んでいるのが印象的だ。
3. Coney Island Cyclone
ノスタルジックなタイトルとは裏腹に、不安定で実験的な楽曲。ピアノとエフェクトの重なりが、独特の浮遊感を生み出している。
4. Blue and Black
アルバムの中でも特にメロディックな楽曲。静寂と爆発が交互に訪れる構成がドラマチックで、聴き手を感情的に揺さぶる。
5. Sweet Oddysee of a Cancer Cell T’ th’ Center of Yer Heart
タイトル通り、非常に実験的でサイケデリックな楽曲。曲全体がノイズとドローンで覆われており、混沌とした音響が続く中に突如現れる静寂が印象深い。
6. Frittering
美しいメロディーラインが際立つ、アルバムの中でも静かな楽曲。Donahueの柔らかいボーカルが中心にあり、ノイズロックの中に潜むロマンティックな一面を垣間見ることができる。
7. Continuous Drunks and Blunders
ユーモアと混沌が入り混じる楽曲。タイトルが示す通り、酔っぱらったような不安定なリズムとサイケデリックなアレンジが特徴だ。
8. Very Sleepy Rivers
アルバムを締めくくる14分超の大作。ゆったりとしたドローンのリズムが、聴き手を瞑想的な空間へと導く。終盤に向けて、音響が徐々に激しさを増し、カタルシスへと到達する構成が圧巻。
アルバム総評
『Yerself Is Steam』は、Mercury Revの原点であり、彼らのカオス的な創造性が全開の作品である。後の作品と比較すると荒削りで実験的だが、そこに宿るエネルギーと独創性は類を見ない魅力を放っている。特に「Chasing a Bee」や「Very Sleepy Rivers」のような楽曲は、サイケデリックロックの自由さとノイズロックの攻撃性を見事に融合させており、バンドの可能性を強く感じさせる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Soft Bulletin by The Flaming Lips
幻想的なメロディーと実験的なアレンジが特徴で、Mercury Revの繊細な側面に通じる。
Loveless by My Bloody Valentine
ノイズと美しさが共存するサウンドが、『Yerself Is Steam』のカオス的な美学と共通する。
Nowhere by Ride
シューゲイザーとサイケデリックの要素が融合した作品で、Mercury Revの浮遊感が好きな人におすすめ。
Hex by Bark Psychosis
ポストロックの草分け的作品で、実験的な音楽性と静寂と混沌の対比が際立つ。
A Storm in Heaven by The Verve
初期The Verveのサイケデリックなサウンドが、Mercury Revのダイナミズムと共鳴する。
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