アルバムレビュー:X by INXS

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1990年9月25日

ジャンル:ロック、ポップ・ロック、ニューウェイヴ、ダンス・ロック、ファンク・ロック、オルタナティヴ・ポップ、ブルーアイド・ソウル

概要

INXSの『X』は、1987年の世界的ヒット作『Kick』の成功を受けて制作された、バンドのキャリアにおける重要な転換点に位置するアルバムである。オーストラリア出身のINXSは、1980年代前半からニューウェイヴ、ポスト・パンク、ファンク、ロック、ダンス・ミュージックを融合させながら独自のサウンドを築いてきた。『Shabooh Shoobah』や『The Swing』で国際的な知名度を高め、『Listen Like Thieves』でロック・バンドとしての存在感を拡大し、『Kick』によって世界的なポップ・ロック・アクトとして頂点に達した。

『X』は、その『Kick』の延長線上にある作品である。プロデューサーには前作に続きChris Thomasを迎え、INXSが確立したリズム重視のロック、しなやかなファンク感、キャッチーなポップ・メロディ、Michael Hutchenceの官能的なヴォーカルをさらに洗練された形で提示している。アルバム・タイトルの『X』は、バンド結成から10年を迎えたことを示す意味も持つ。つまり本作は、INXSが1980年代を通じて築いたサウンドを総括しつつ、1990年代の入り口で自分たちの立ち位置を確認する作品でもあった。

前作『Kick』は、「Need You Tonight」「New Sensation」「Devil Inside」「Never Tear Us Apart」などを収録し、ロック、ファンク、ソウル、ダンス・ポップを極めて高い完成度で融合したアルバムだった。そのため『X』は、どうしても『Kick』と比較される宿命を背負っている。実際、本作は『Kick』ほど革新的な印象や爆発的な一体感を持つわけではない。しかし、その一方で『X』には、成熟したバンドが自分たちのスタイルをさらに磨き上げた安定感がある。過去の成功をなぞりながらも、曲ごとの質は高く、1990年前後のポップ・ロックとして非常に完成度の高いアルバムになっている。

『X』の中心にあるのは、Michael Hutchenceの存在感である。彼は単なるロック・シンガーではなく、性的な魅力、都会的な退廃、孤独、遊び心、危うさを同時に表現できるフロントマンだった。彼の声は、荒々しいロックの叫びというより、低く、柔らかく、身体的で、時に囁くように響く。その歌唱は、INXSのファンク的なグルーヴと非常に相性が良い。『X』でも彼のヴォーカルは、楽曲に官能性とドラマ性を与えている。

音楽的には、本作はダンス・ロックとポップ・ロックの融合をさらに推し進めている。Andrew Farrissを中心とした作曲、Kirk Pengillyのサックスやギター、Tim Farrissのギター、Garry Gary Beersのベース、Jon Farrissのドラムが作るアンサンブルは、非常にタイトである。INXSのリズム隊は、ハード・ロック的な重量感ではなく、ファンクやダンス・ミュージックに近い弾力を持つ。ギターはリフで押し切るというより、リズムの一部として細かく刻まれ、サックスやキーボードが都市的な色彩を加える。

代表曲「Suicide Blonde」は、本作の方向性を象徴する楽曲である。ハーモニカのリフ、ダンス・ビート、ロック的なギター、Hutchenceの挑発的なヴォーカルが組み合わされ、INXSらしいセクシーでキャッチーなロック・ソングになっている。タイトルは刺激的だが、曲そのものは暗い自殺の歌というより、危険な魅力を持つ女性像を描いたポップ・ロックである。曲にはブルース的な要素もあり、INXSがダンス・ロックを単なる電子的なビートではなく、肉体的なグルーヴとして作っていたことが分かる。

もう一つの重要曲「Disappear」は、より明るく、開放的なポップ・ロックである。恋愛の高揚、日常からの脱出、相手と一緒に消えてしまいたいというロマンティックな衝動が、爽快なメロディで表現される。『Kick』期のINXSが持っていた大衆的なポップ感覚を、本作でもっとも分かりやすく継承している曲である。

『X』には、前作ほどの強烈な新鮮さはないが、INXSの強みが明確に表れている。すなわち、ロックの形式を保ちながら、ファンク、ソウル、ダンス、ポップの要素を自然に取り込む能力である。彼らは、ギター・ロックのバンドでありながら、踊れるリズムを非常に重視した。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ロックとダンス・ミュージックの境界は大きく変化していたが、INXSはその流れの中で、メインストリームに通用する洗練されたダンス・ロックを作った。

歌詞面では、愛、欲望、名声、孤独、危険な魅力、都市的な関係性が中心にある。INXSの歌詞は、政治的なメッセージよりも、感情とムードを重視する。Hutchenceの歌によって、歌詞はしばしば直接的な意味以上に、セクシュアルで映画的な雰囲気を帯びる。『X』でも、言葉の細部より、声、リズム、音色が作る情景が重要である。

日本のリスナーにとって『X』は、INXSを『Kick』だけで終わらせず、1990年代に入ったバンドの成熟した姿を理解するために重要な作品である。『Kick』のような圧倒的な代表作と比べると、やや影に隠れがちなアルバムではあるが、「Suicide Blonde」「Disappear」「By My Side」など、INXSの魅力を示す楽曲は多い。ポップ・ロック、ニューウェイヴ、ファンク・ロック、ダンス・ロックが自然に結びついた本作は、バンドの黄金期後半を語るうえで欠かせない一枚である。

全曲レビュー

1. Suicide Blonde

「Suicide Blonde」は、『X』の冒頭を飾る代表曲であり、INXSの1990年代突入を告げる鮮烈なシングルである。ハーモニカの印象的なリフから始まり、タイトなビート、跳ねるベース、ギターの刻み、Michael Hutchenceの挑発的な歌唱が加わることで、バンド特有のダンス・ロックが完成する。

タイトルは刺激的だが、曲は直接的に死を描くものではなく、危険で魅力的な女性像、あるいは自己演出としてのブロンド像を描いている。ここでの「Suicide Blonde」は、破滅的な美しさや、手に負えない魅力を象徴する言葉として機能している。INXSらしく、歌詞の意味を説明しすぎるより、響きとイメージで聴かせる曲である。

サウンド面では、ブルース・ロック的なハーモニカと、ダンス・ロックのビートが結びついている点が面白い。INXSは電子的に踊らせるのではなく、バンド演奏のグルーヴで踊らせる。この曲でも、Jon FarrissのドラムとGarry Gary Beersのベースが強い推進力を作り、その上にギターとハーモニカが絡む。

Hutchenceのヴォーカルは、曲の最大の魅力である。彼は叫ぶのではなく、相手を誘惑し、からかい、距離を詰めるように歌う。その歌い方によって、「Suicide Blonde」は単なるロック・シングルではなく、INXSらしい官能的なポップ・ロックになっている。

2. Disappear

「Disappear」は、『X』の中でも最も明るく開放的なポップ・ソングの一つである。タイトルは「消える」という意味だが、曲全体の印象は暗い逃避ではなく、愛する相手と一緒に日常から抜け出したいというロマンティックな衝動に近い。

サウンドは非常に洗練されている。ギター、キーボード、ベース、ドラムが無駄なく配置され、サビでは大きく視界が開ける。『Kick』の「New Sensation」や「Never Tear Us Apart」に通じる大衆的なメロディ感覚があり、INXSがポップ・ロック・バンドとして非常に高い作曲力を持っていたことが分かる。

歌詞では、相手といることで自分の悩みや不安が消えていく感覚が描かれる。恋愛はここで、現実の問題を完全に解決するものではないが、一時的に世界を変える力として表現される。「消える」という言葉には、日常からの脱出、自己の境界が溶ける感覚、相手との一体感が含まれている。

「Disappear」は、『X』の中で最も親しみやすい曲の一つであり、INXSのポップな側面を代表している。前作『Kick』の成功を自然に引き継ぐ楽曲であり、本作の商業的な中心の一つである。

3. The Stairs

「The Stairs」は、アルバムの中でも比較的シリアスで、都市的な観察眼が強く表れた楽曲である。タイトルの「階段」は、上昇と下降、すれ違い、日常の反復、人々が交差する場所を象徴している。INXSの中では、やや社会的な視点を感じさせる曲である。

サウンドは、ミドルテンポでじっくりと進む。リズムはタイトだが、派手なシングル曲ほど即効性を狙っていない。ギターとキーボードが作る空間には、都会の夜や集合住宅のような冷たいイメージがある。Hutchenceの歌唱も、誘惑的というより観察者的である。

歌詞では、同じ建物や街の中ですれ違う人々、互いに近くにいながら孤独な存在が描かれる。階段は、人々が出会う場所であると同時に、ただ通り過ぎる場所でもある。都市における距離感、匿名性、孤立がこの曲の背景にある。

「The Stairs」は、『X』の中で深みを与える楽曲である。派手なヒット曲ではないが、INXSが単なるセクシーなダンス・ロック・バンドではなく、都市的な孤独や人間関係の距離を描けるバンドだったことを示している。

4. Faith in Each Other

「Faith in Each Other」は、信頼、関係性、相互理解をテーマにした楽曲である。タイトルは「互いへの信頼」を意味し、アルバムの中では比較的前向きなメッセージを持つ曲である。

サウンドは、軽快なリズムと明るいメロディを中心に構成されている。INXSらしいファンク感はあるが、曲全体はロックよりもポップ寄りで、聴きやすい。ギターの刻みとリズム隊の弾力が、曲に前進感を与えている。

歌詞では、困難な状況でも互いを信じることの重要性が歌われる。INXSの楽曲には、欲望や危険な関係を描くものが多いが、この曲ではもう少し健全で人間的なつながりが扱われている。ただし、過度に説教的にはならず、ポップ・ソングとして軽やかに表現されている。

「Faith in Each Other」は、アルバムの中で大きな代表曲ではないが、全体のバランスを整える役割を持つ。『X』の持つ都会的なセクシュアリティの中に、信頼や連帯の感覚を加えている。

5. By My Side

「By My Side」は、『X』の中でも特に感傷的で、バラード色の強い楽曲である。タイトルは「そばにいて」という意味で、孤独や不安の中で相手の存在を求める切実な感情が歌われる。INXSの楽曲の中でも、Michael Hutchenceの脆さがよく表れた曲である。

サウンドは、静かで広がりがあり、バンドの演奏も抑制されている。派手なリズムやファンク的なグルーヴではなく、メロディと声の感情が中心に置かれる。Hutchenceのヴォーカルは、ここでは官能的というより、孤独で、やや傷ついた響きを持つ。

歌詞では、誰かにそばにいてほしいという非常に普遍的な感情が描かれる。ロック・スター的な華やかさやセクシュアルな魅力の裏にある孤独が、曲の中心にある。Hutchenceの声は、その孤独を直接的に伝える力を持っている。

「By My Side」は、『X』の中で感情的な深みを担う重要曲である。INXSはダンス・ロックのバンドとして知られるが、この曲のようなバラードにおいても、非常に強い表現力を持っていたことが分かる。

6. Lately

「Lately」は、関係の変化、気持ちのずれ、過去と現在の距離をテーマにした楽曲である。タイトルは「最近」という意味で、相手との間に少しずつ生じる変化や違和感を見つめる言葉として機能している。

サウンドは、穏やかでありながら、どこか緊張感を含んでいる。リズムは抑えめで、メロディは落ち着いている。Hutchenceの歌唱も、感情を大きく爆発させるのではなく、内側に抱えた不安を静かに伝える。

歌詞では、最近の相手の様子、自分の感情の変化、関係が以前と同じではなくなっていることが示される。恋愛の終わりを劇的に描くのではなく、小さな違和感の積み重ねとして捉えている点が特徴である。INXSの歌詞としては、比較的内省的な曲である。

「Lately」は、アルバム中盤に静かな陰影を与える曲である。大きなフックで押すのではなく、感情の微妙な揺れを表現することで、『X』に成熟した側面を加えている。

7. Who Pays the Price

「Who Pays the Price」は、責任、代償、関係や社会の中で誰が犠牲を払うのかというテーマを持つ楽曲である。タイトルは「誰がその代償を払うのか」という問いであり、INXSの中ではやや批評的な響きを持つ。

サウンドは、ギターとリズムの絡みが強く、比較的ロック色が濃い。ビートはタイトで、曲に緊迫感を与えている。Hutchenceの歌唱も、ここではやや鋭く、問いかけるようなニュアンスがある。

歌詞では、何かが起こったとき、最終的に誰がその負担を背負うのかが問われる。恋愛関係の中の責任としても、社会的な不公平としても読める。INXSの歌詞はしばしば意味を開いたままにするが、この曲では問いの形が強く残る。

「Who Pays the Price」は、アルバムの中で硬質なアクセントとなる曲である。華やかなポップ・ロックだけでなく、少し重いテーマを扱うことで、『X』の幅を広げている。

8. Know the Difference

「Know the Difference」は、判断、識別、感情と現実の区別をテーマにした楽曲である。タイトルは「違いを知る」という意味で、何が本物で何が幻想なのか、何を信じるべきなのかという問いを含んでいる。

サウンドは、INXSらしいファンク・ロックの要素を持ち、リズムが非常に重要である。ギターは細かく刻まれ、ベースとドラムが曲をしなやかに進める。曲は派手ではないが、バンドのタイトな演奏がよく分かる。

歌詞では、物事の違いを見極めることの重要性が示される。恋愛においても、人生においても、欲望と真実、見せかけと本質を混同しないことが必要になる。Hutchenceの歌唱には、相手に語りかけるような説得力がある。

「Know the Difference」は、アルバムの中ではやや地味な存在かもしれないが、INXSのグルーヴの巧さを示す曲である。大きなサビよりも、リズムと雰囲気で聴かせるタイプの楽曲である。

9. Bitter Tears

「Bitter Tears」は、タイトル通り、苦い涙、後悔、失望をテーマにした楽曲である。INXSの持つロマンティックな側面と、関係の痛みを描く側面が結びついている。

サウンドは、比較的明快なロック・ポップであり、曲調には前進感がある。しかし、歌詞の感情は苦く、明るいだけではない。こうした明るいサウンドと切ないテーマの組み合わせは、INXSが得意とするところである。

歌詞では、失われた関係や傷ついた感情が「苦い涙」として描かれる。涙は悲しみの象徴だが、ここでは単なる悲哀ではなく、悔しさ、怒り、諦めも含んでいる。Hutchenceの声は、その複雑な感情を滑らかに表現する。

「Bitter Tears」は、『X』の後半において、ポップな聴きやすさと感情的な苦味を両立させる曲である。シングル的な華やかさは控えめだが、アルバムの流れの中でしっかりと機能している。

10. On My Way

「On My Way」は、移動、前進、自分の道を進むことをテーマにした楽曲である。タイトルは「向かっている途中」という意味で、到達よりも過程を重視する感覚がある。

サウンドは、比較的軽快で、リズムの弾力がある。INXSのバンド・アンサンブルはここでもタイトで、ドラムとベースが曲を前へ進める。ギターとキーボードは装飾的に働き、曲に明るい動きを与えている。

歌詞では、自分がどこかへ向かっていること、変化の途中にいることが示される。これは恋愛の文脈でも、人生やキャリアの文脈でも読める。1990年という時点で、バンド自身が1980年代の成功を経て次の段階へ向かっていたことを考えると、この曲には少し自己言及的な響きもある。

「On My Way」は、アルバム終盤に前向きな感覚を与える楽曲である。重すぎず、明るすぎず、INXSの成熟したポップ・ロック感覚が表れている。

11. Hear That Sound

アルバム最後を飾る「Hear That Sound」は、音楽そのもの、街の音、時代の響きに耳を澄ますような楽曲である。タイトルは「その音を聞け」という呼びかけであり、終曲としてアルバム全体を外へ開く役割を持つ。

サウンドは、INXSらしいリズム感とロック的な勢いを持ちながら、終曲らしい広がりもある。バンドは過度に感傷的な終わり方を選ばず、むしろ音とリズムを前面に出してアルバムを締めくくる。

歌詞では、どこかで鳴っている音、呼びかけ、変化の気配が扱われる。音を聞くことは、世界の変化に気づくことでもある。INXSにとって音楽は、単なる自己表現ではなく、人々を動かし、踊らせ、つなぐものだった。この曲は、その感覚を終盤に示している。

「Hear That Sound」は、『X』の締めくくりとして、バンドのリズム志向とポップ・ロックとしての開放感を再確認させる曲である。大きなバラードで終わるのではなく、音そのものへの呼びかけで終わる点がINXSらしい。

総評

『X』は、INXSが『Kick』で確立したダンス・ロック/ポップ・ロックのスタイルを、1990年代の入り口でさらに洗練させたアルバムである。前作ほどの衝撃や革新性はないが、楽曲の完成度、演奏のタイトさ、Michael Hutchenceのヴォーカルの魅力は非常に高い水準にある。大ヒット作の後に作られた作品としては、安定したクオリティを持つ成功作といえる。

本作の最大の魅力は、INXSらしいグルーヴにある。彼らはロック・バンドでありながら、常にリズムを重視していた。ギターは分厚い壁を作るのではなく、リズムを刻み、ベースとドラムがしなやかに曲を動かす。サックスやキーボードは、都会的な色気とポップな装飾を加える。このバンド・アンサンブルの洗練が、『X』全体を支えている。

「Suicide Blonde」は、本作を象徴する楽曲である。ハーモニカを使ったブルース的な要素と、ダンス・ロックのビート、Hutchenceの官能的な歌唱が結びつき、INXSならではのセクシーで鋭いポップ・ロックが完成している。「Disappear」は、より明るく開放的なポップ・ソングとして、バンドの大衆的なメロディ感覚を示している。「By My Side」は、Hutchenceの脆さと孤独を伝えるバラードとして重要である。

Michael Hutchenceの存在は、本作を語るうえで欠かせない。彼の声とキャラクターは、INXSの音楽に特別な魅力を与えている。彼は典型的なロック・ヴォーカリストのように力で押すのではなく、声の質感、間、低い響き、身体的なニュアンスで楽曲を支配する。『X』では、その魅力が非常に洗練された形で記録されている。

歌詞面では、本作は大きなコンセプト・アルバムではない。恋愛、欲望、孤独、信頼、関係の変化、都市的な感情が曲ごとに描かれる。INXSの歌詞は、細かな物語よりも、ムードとフレーズの強さを重視する。そのため、Hutchenceの歌声と組み合わさることで、言葉以上の官能性やドラマが生まれる。

『X』の弱点は、やはり『Kick』と比べたときの新鮮さの不足である。『Kick』は、ロック、ファンク、ソウル、ダンス・ポップを驚くほど自然に統合した作品であり、曲ごとの個性も非常に強かった。それに対して『X』は、その成功したフォーマットを継承しているため、やや安全に聴こえる部分がある。アルバム全体のインパクトでは前作に及ばない。

しかし、その「安全さ」は必ずしも欠点だけではない。『X』には、成功したバンドが自分たちのスタイルを自信を持って展開する余裕がある。バンドの演奏は洗練され、プロダクションは明快で、楽曲は粒ぞろいである。派手な革新よりも、完成されたポップ・ロックとしての質を楽しむべきアルバムである。

1990年という時代を考えると、『X』は1980年代的な洗練と1990年代的な変化の間に立つ作品でもある。この直後、ロック・シーンはグランジやオルタナティヴの台頭によって大きく変化していく。INXSの都会的でセクシーなダンス・ロックは、1980年代後半のメインストリーム・ロックの頂点を象徴するものだった。その意味で『X』は、ひとつの時代の完成形として聴くことができる。

日本のリスナーにとって本作は、『Kick』の次に聴くべきINXS黄金期の重要作である。『Kick』ほどの歴史的な代表作ではないが、バンドの魅力は十分に詰まっている。特に、ポップ・ロックの洗練、ダンス・グルーヴ、Michael Hutchenceのヴォーカルに惹かれるリスナーにとって、『X』は非常に聴き応えのある作品である。

『X』は、INXSが自分たちの完成されたスタイルを1990年代へ持ち込もうとしたアルバムである。セクシーで、都会的で、踊れて、メロディアスで、ロックとしての力もある。『Kick』の影に隠れがちではあるが、バンドの成熟と安定したソングライティングを示す、INXSの重要な一枚である。

おすすめアルバム

1. Kick by INXS

1987年発表の代表作。「Need You Tonight」「New Sensation」「Devil Inside」「Never Tear Us Apart」を収録し、INXSのダンス・ロックとポップ・ロックの融合が最も完成されたアルバムである。『X』の直接的な前作として必聴である。

2. Listen Like Thieves by INXS

1985年発表のアルバム。INXSが国際的なロック・バンドとして大きく飛躍した作品であり、「What You Need」を収録している。『Kick』『X』へつながるリズム重視のロック・サウンドの形成過程を理解できる。

3. Welcome to Wherever You Are by INXS

1992年発表のアルバム。『X』の次作にあたり、より多様で実験的なアレンジを取り入れた作品である。INXSが『Kick』『X』の成功したフォーマットからさらに変化しようとした姿を確認できる。

4. Songs from the Big Chair by Tears for Fears

1985年発表のアルバム。ニューウェイヴ以後のポップ・ロックを大きなスケールで完成させた作品であり、INXSと同様に1980年代的な洗練と強いメロディを持つ。『X』の時代背景を理解するうえで有効である。

5. The Joshua Tree by U2

1987年発表のロック名盤。INXSとは音楽性が異なるが、1980年代後半にロック・バンドが世界的なスケールでポップ・マーケットに到達した例として比較しやすい。INXSの都会的なダンス・ロックと、U2の広大なロック美学の違いを理解できる。

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