When Jokers Attack by The Brian Jonestown Massacre(2003)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「When Jokers Attack」は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2003年にリリースしたアルバム『…And This Is Our Music』の冒頭を飾る楽曲であり、バンドの音楽的成熟とアントン・ニューコムの内面世界の深化が色濃く投影された、知的で不穏、そして美しいロック・ナンバーである。

この曲のタイトルに含まれる“Jokers(道化)”は、単なる愉快犯ではなく、社会的欺瞞の象徴、あるいは個人の内なる矛盾のメタファーとして機能している。そして“攻撃する(attack)”という言葉が示すのは、他者からの圧力と同時に、自分自身の中にある不安や疑念が襲いかかってくる感覚でもある。

歌詞には明確なストーリー展開はなく、言葉はあくまで断片的に提示される。しかしその断片は、まるで都市の雑踏で交差する思考のノイズのように、リスナーの内面に響いてくる。冷たく抑制されたヴォーカルと、乾いたギターのカッティングが交錯する中で、曲全体は知性と幻覚のあいだを行き来するような独特のテンションを保っている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「When Jokers Attack」が収録された『…And This Is Our Music』は、BJMにとって10作目のスタジオ・アルバムであり、初期のガレージ・ロックやサイケデリアの熱狂を経て、より構造的で洗練されたアプローチを見せた重要作である。セルフプロデュースによるこのアルバムは、録音技術・楽器編成ともに完成度が高く、ジャンルを横断するような多様性を持ちながら、一貫した“アントン・ニューコムの内面”の表現として統合されている。

本作の冒頭に配された「When Jokers Attack」は、そのタイトルやサウンド面、構造のすべてにおいて、“これが今のBJMだ”と静かに高らかに宣言するような位置づけを持っている。幻想性に偏りすぎず、現実に足をつけながらも詩的で、なおかつ反抗的——まさにBJMの進化を象徴するトラックである。

また、この楽曲は、後年にかけて映画やテレビシリーズでも使用され、特にHBO作品のトレイラーや映画『The Education of Charlie Banks』などでその存在感を放ち、“匿名の叙情”としてのBGM的魅力も備えている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

英語原文:
“If you walk away, I’ll walk away
If you leave me there, I’ll leave you there
That’s the way it goes
When jokers attack”

日本語訳:
「君が去るなら、僕も去ろう
君が僕を置き去りにするなら、僕も君を置き去りにする
それが道化たちが襲いかかる時のやり方さ」

引用元:Genius – When Jokers Attack Lyrics

この冒頭部分からは、非情で冷めた感情の応酬が浮かび上がる。それは恋人との関係にも見えるが、同時に個人と世界との距離感、信頼の断絶とも読み取れる。語り手は執着しないが、それは諦めではなく“対等な無関心”として提示されている。

4. 歌詞の考察

「When Jokers Attack」は、ある種の**“関係性のゼロ地点”を描いた歌**である。語り手は自分の感情に巻き込まれることなく、あくまで相手と“対称”のポジションに立ち続ける。ここで表現されるのは、ロマンティックな感情ではなく、情念を手放した冷静な視線だ。

また、道化師=Jokersは、真実を語らず、嘘と軽薄で世界を覆う存在の象徴として機能している。つまり、この楽曲はポップカルチャー、メディア社会、あるいは人間関係における欺瞞への静かな怒りを内包していると見ることもできる。

反復されるミニマルなリフと、抑制された演奏は、楽曲そのものを冷静な“観察者のまなざし”として機能させており、リスナーはただ音に没入するのではなく、自分自身の中の“不誠実なもの”と向き合うように導かれる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Some Velvet Morning” by Lee Hazlewood & Nancy Sinatra
     詩的で抽象的、幻覚的なデュエットがBJMの構造と共鳴する。

  • “Yes” by Morphine
     低音を活かしたクールなテンションの楽曲。都会的で影のある音像。

  • “Pass This On” by The Knife
     冷たく抑えたエレクトロニカとリリックの断絶感が似ている。

  • “Golden Hours” by Brian Eno
     浮遊感と空虚な情緒が重なる、知的かつ感情の余白を持った傑作。

  • “Losing Touch with My Mind” by Spacemen 3
     自意識の揺らぎと幻覚性を表現した、クラウトロック的反復の妙。

6. “道化たち”の時代に鳴らされる、無言のプロテスト

「When Jokers Attack」は、The Brian Jonestown Massacreが20世紀的なサイケデリックの残響から抜け出し、よりクールで洗練された21世紀型サイケ/ガレージの姿を示した楽曲である。そこにあるのは暴力ではなく静寂、激情ではなく冷笑。騒がしくはないが、確かに怒っている——そんな曲である。

道化たちが攻撃してくる。それはニュースかもしれないし、恋人の嘘かもしれない。あるいは、自分自身の妄想なのかもしれない。

だがこの曲は、そんな世界に飲み込まれず、“距離を置くこと”を選ぶ。それは逃避ではない。むしろ、巻き込まれないことこそが、現代における最も強い意志の表明なのだ。

「When Jokers Attack」は、怒りを静かに研ぎ澄ませるための音楽である。
そしてその静けさが、聴く者にとっては、時に叫びよりも力強く響くのである。

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