アルバムレビュー:Turn Out the Lights by Julien Baker

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2017年10月27日

ジャンル:インディー・フォーク、エモ、シンガーソングライター、インディー・ロック、スロウコア

概要

Julien Bakerの『Turn Out the Lights』は、2017年にMatador Recordsから発表された通算2作目のスタジオ・アルバムであり、デビュー作『Sprained Ankle』で確立された極度に内省的なソングライティングを、より広い音響空間と重層的なアレンジへ拡張した作品である。テネシー州メンフィス出身のBakerは、ギターと声を中心に、孤独、信仰、自己破壊、依存、罪悪感、回復への不確かさを歌ってきたアーティストである。『Turn Out the Lights』では、そのテーマがさらに深く掘り下げられ、ピアノ、ストリングス、オルガン、管楽器、残響を含む音響処理によって、彼女の歌はより立体的な精神風景として提示されている。

デビュー作『Sprained Ankle』は、ほとんど裸の声とギターだけで成立するような作品だった。そこでは、Julien Bakerの歌が直接的に聴き手の前へ置かれ、音の少なさが言葉の痛みを際立たせていた。それに対して『Turn Out the Lights』は、静けさを保ちながらも、より建築的なアルバムである。曲ごとに音の層が増え、空間の奥行きが広がり、Bakerの声は孤独な部屋の中から教会、ホール、夜の道路、記憶の中の空白へと響いていく。音数が増えたことで感情が曖昧になるのではなく、むしろ彼女の内面にある複数の葛藤が、よりはっきりと輪郭を持つようになった。

本作のタイトル『Turn Out the Lights』は、「明かりを消す」という意味を持つ。光を消す行為は、休息、眠り、終わり、閉じこもり、自己との対面を連想させる。日中の社会的な役割や他者との関係が終わり、暗闇の中で自分自身と向き合わざるを得ない瞬間。本作はそのような時間のアルバムである。Bakerの歌詞では、誰かに見られている時よりも、誰も見ていない時に現れる苦しみが重要になる。自己嫌悪、再発への恐れ、信仰への疑い、助けを求めることへの罪悪感は、外からは見えにくい。しかし、明かりを消した後の静けさの中では、それらが逃れられないほど大きく響く。

キャリア上の位置づけとして、『Turn Out the Lights』は、Julien Bakerが単なるミニマルな弾き語りアーティストではなく、音響と構成によって感情を拡張できるソングライターであることを示した重要作である。後の『Little Oblivions』ではフル・バンド的なインディー・ロックへ進むが、その前段階として、本作では静謐な室内楽的アレンジとエモ的な感情の爆発が結びついている。アルバム全体は非常に抑制されているが、随所で声が張り上げられ、ギターやピアノが空間を大きく満たし、感情が限界点に達する。静けさと爆発の間にある緊張こそ、本作の中心的な魅力である。

音楽的な背景としては、エモ、インディー・フォーク、スロウコア、ポストロック、教会音楽的な残響感が挙げられる。Julien Bakerの音楽は、派手なリズムや装飾によって感情を演出するのではなく、反復するギター、ゆっくりと広がるコード、空間に残る声の余韻によって、痛みを時間の中に置く。歌詞の面では、信仰の言葉や罪のイメージが頻繁に現れるが、それは明快な救済の物語ではない。むしろ、信じたいが信じきれない、赦されたいが赦しを受け取れない、自分の苦しみが他者を疲弊させるのではないかと恐れる、そのような複雑な精神状態が描かれる。

『Turn Out the Lights』は、2010年代後半のインディー・シンガーソングライター作品の中でも、特に言葉の切実さと音の余白が強く結びついた作品である。Phoebe BridgersやLucy Dacusとのboygenius結成以前に、Julien Bakerがすでに現代インディーにおける重要な声のひとつであったことを示すアルバムでもある。本作には、大きな物語としての克服や、分かりやすい希望はない。しかし、希望が確信できない場所でなお言葉を発すること、その行為自体が本作の倫理であり、音楽的な強度になっている。

全曲レビュー

1. Over

「Over」は、アルバムの冒頭に置かれた短いインストゥルメンタルであり、本作の空間を開く序章として機能する。ピアノを中心とした静かな音の響きは、劇的な導入というより、暗い部屋にゆっくり入っていくような感覚を作る。曲名の“Over”には、終わったもの、過ぎ去ったもの、あるいは何かを越えた後の状態という意味が含まれる。言葉のないこの導入部は、アルバム全体がすでに何らかの喪失や疲弊の後から始まっていることを示している。

音楽的には、極めて抑制された構成でありながら、響きの余韻が大きな役割を果たす。Julien Bakerの作品では、音の少なさそのものが感情を支えることが多いが、「Over」でも空白が重要である。音が鳴っていない部分に、これから語られる痛みや祈りの気配が満ちている。アルバムの開始点として、この曲は聴き手に派手な注意を促すのではなく、沈黙へ耳を澄ませる姿勢を求める。

「Over」は単独の楽曲として強いメロディを持つというより、次曲「Appointments」へ向かうための精神的な入口である。明かりが落ち、部屋の空気が変わり、声が発せられる直前の緊張。そのような役割を担うことで、本作が単なる曲の集合ではなく、ひとつの夜、ひとつの内面の連続として構成されていることを示している。

2. Appointments

「Appointments」は、本作の中心的な楽曲のひとつであり、Julien Bakerのソングライティングの特徴が非常に明確に表れた曲である。タイトルは「約束」や「予約」を意味するが、ここでは日常的な予定であると同時に、治療、面会、義務、生活を維持するための小さな構造を連想させる。精神的に不安定な状態にある人間にとって、予定や約束は支えであると同時に負担にもなる。この曲は、その二重性を静かに描いている。

歌詞の中心には、期待に応えられないことへの罪悪感と、繰り返し失望させることへの恐れがある。Bakerは、自分の苦しみを単に被害者の立場から歌うのではなく、自分が他者を傷つけたり、助けようとする人々を疲弊させたりする可能性も見つめる。その自己認識の厳しさが、彼女の歌詞を単なる悲しみの告白から一段深いものにしている。「Appointments」では、回復を約束しながらも、それを守れないかもしれないという不安が、非常に切実に響く。

音楽的には、静かなギターと声から始まり、徐々に音が広がっていく構成が印象的である。Bakerの歌声は、初めは抑制されているが、終盤に向かって感情を強めていく。彼女の歌唱は、泣き崩れるのではなく、崩れそうな状態をぎりぎりで保ちながら言葉を発する。その緊張感が、曲の説得力を生んでいる。大きなバンド・サウンドに頼らずとも、声のわずかな変化とギターの反復だけで感情の高まりを作る点に、本作の美学がよく表れている。

3. Turn Out the Lights

表題曲「Turn Out the Lights」は、アルバム全体のテーマを最も直接的に示す楽曲である。明かりを消すという行為は、外界との接続を断ち、暗闇の中で自分自身と向き合うことを意味する。この曲で描かれるのは、他者がいなくなった後、静けさの中で自分の思考や自己嫌悪から逃れられなくなる状態である。

歌詞では、他人と一緒にいる時には一時的に持ちこたえられても、一人になった瞬間に不安や自己否定が押し寄せる感覚が描かれる。Bakerの作品において、孤独は単に人がいない状態ではない。むしろ、自分自身の内部にある声から逃れられない状態である。外の光が消えると、内側の闇がよりはっきり見えてしまう。この曲は、その恐ろしさを非常に明確に捉えている。

音楽的には、ピアノの響きとギターの残響が大きな空間を作り出す。Bakerの声はその中で、弱くもあり、同時に非常に強くもある。サビに向かって声が張り上げられる瞬間には、暗闇を振り払うような力があるが、それは完全な解放ではない。むしろ、暗闇の中で叫ぶことしかできない人間の姿が浮かび上がる。表題曲として、この曲は『Turn Out the Lights』が孤独のアルバムであると同時に、孤独を言葉にすることでわずかな抵抗を試みるアルバムであることを示している。

4. Shadowboxing

「Shadowboxing」は、見えない相手と戦う行為を意味するタイトルを持つ楽曲である。シャドーボクシングは実際の敵を相手にするのではなく、自分の動きや想像上の相手と向き合う練習である。この言葉は、Bakerの歌詞世界に非常によく合っている。ここでの戦いは、外部の誰かとの対立というより、自分自身の内側にある恐れ、罪悪感、自己破壊の衝動との戦いである。

歌詞では、戦っているはずなのに相手が見えず、勝敗も定まらない状態が描かれる。自分を苦しめているものが、自分の外にあるのか内にあるのか分からない。あるいは、外部の痛みがいつの間にか自分の内部に入り込み、自分自身が自分を傷つけるようになっている。その混乱が、タイトルの比喩によって表現される。Bakerは、苦しみを単純な敵として描かず、それが自己の一部になってしまう複雑さを歌う。

音楽的には、ギターの反復が緊張感を生み、曲全体に持続的な不安を与える。派手な展開は少ないが、声の強弱とコードの積み重ねによって、内面の戦いが少しずつ激しさを増していく。シャドーボクシングという行為には、努力や準備の意味もあるが、この曲ではその努力が必ずしも勝利へ向かわない。何度も同じ動作を繰り返しながら、それでも根本的な不安は残り続ける。その反復性が、Julien Bakerの歌う回復の難しさと強く結びついている。

5. Sour Breath

「Sour Breath」は、本作の中でも特に親密で、身体的なイメージが強い楽曲である。タイトルは「酸っぱい息」を意味し、近い距離でしか感じられない生々しい感覚を含んでいる。美化された恋愛や精神的な絆ではなく、疲労、飲酒、病、生活の乱れ、身体の現実がにじむ言葉である。Julien Bakerの歌詞は、抽象的な痛みを身体の具体的な感覚へ引き戻すことが多く、この曲もその典型である。

歌詞では、他者との親密な関係と、その中で自分が相手を傷つけてしまうことへの恐れが描かれる。愛されたいという願いはあるが、自分の状態が相手を汚してしまうのではないか、相手の善意を消耗させてしまうのではないかという不安がある。Bakerにとって親密さは救いであると同時に、責任や罪悪感を伴う場である。この曲では、その矛盾が非常に切実に響く。

音楽的には、静かなギターと声を中心に進み、徐々に感情が高まっていく。サビのメロディは美しいが、その美しさは安心ではなく、むしろ壊れやすさを際立たせる。Bakerの歌唱は、相手にすがるようでありながら、自分を相手から遠ざけようとするようにも聴こえる。愛情と自己否定が同時に存在するため、曲は単純なラブソングにはならない。「Sour Breath」は、Julien Bakerが親密さの中にある痛みと恐れを精密に描いた重要曲である。

6. Televangelist

「Televangelist」は、テレビを通じて説教を行う伝道師を意味するタイトルを持つ曲であり、宗教、メディア、救済、欺瞞といったテーマが重なる。本作における宗教的イメージは非常に重要だが、それは単純な信仰告白ではない。Julien Bakerは、神や赦しを求める一方で、宗教的言葉が時に空虚になり、制度や演出によって消費されることにも敏感である。

この曲はピアノを中心にした静かな楽曲で、アルバムの中でも特に祈りに近い質感を持つ。声は抑えられ、言葉は慎重に置かれる。タイトルが示すように、ここには「誰かが救いを語ること」への距離感がある。テレビ伝道師は、救済を大衆へ届ける存在であると同時に、その救済を演出する存在でもある。Bakerはこの曲で、救いの言葉が本物なのか、それとも空虚なパフォーマンスなのかを問うているように響く。

歌詞の中心には、自分を赦せないこと、信仰の言葉を知っていても心がそこへ届かないことへの苦しさがある。Bakerの作品では、宗教的な言葉はしばしば最終的な答えではなく、問いを深めるための素材になる。「Televangelist」は、その点で本作の精神的な核に近い曲である。ピアノの簡素な響きが、教会的な空間と個人的な孤独を同時に感じさせる。大きな救済の言葉ではなく、静かに崩れ落ちる祈りとして、この曲は強い余韻を残す。

7. Everything to Help You Sleep

Everything to Help You Sleep」は、タイトルから睡眠や休息への欲望を連想させる楽曲である。眠るために必要なものすべて、つまり薬、音楽、祈り、習慣、誰かの声、あるいは忘却。そのようなイメージが込められている。Julien Bakerの歌詞において、眠りは安息であると同時に、現実から一時的に消える手段でもある。この曲は、その両義性を静かに描いている。

歌詞では、苦しみを和らげるためのさまざまな方法が示唆されるが、それらは根本的な解決にはならない。眠ることは必要であり、救いのようにも感じられる。しかし、目が覚めれば同じ問題が残っている。ここには、回復が劇的な変化ではなく、小さな対処の積み重ねであるという現実がある。Bakerは、そうした対処を軽視しないが、それが完全な救済ではないことも隠さない。

音楽的には、柔らかな響きと余白が特徴で、曲全体に夜の静けさがある。Bakerの声は近く、聴き手に囁くように響くが、そこには安心よりも疲労がある。眠りを助けるものを求めることは、同時に起きていることに耐えられないことを示す。「Everything to Help You Sleep」は、本作の中でも目立つ爆発を持たない曲だが、アルバムの夜の感覚を深める重要な楽曲である。

8. Happy to Be Here

「Happy to Be Here」は、タイトルだけを見ると前向きな感謝の表明のように見える。しかし、Julien Bakerの文脈では、この言葉には複雑な皮肉と痛みが含まれる。生きていること、ここにいることへの感謝は本物であるかもしれない。しかし同時に、その感謝を心から感じられない自分への罪悪感、あるいは周囲に対して「大丈夫」と振る舞うための言葉としても響く。

歌詞では、自分の存在を肯定しようとしながら、その肯定がうまく機能しない状態が描かれる。Bakerは、感謝や希望の言葉を使うことの難しさをよく理解している。苦しんでいる人にとって、「生きていてよかった」と言うことは、時に真実であり、時に自分を納得させるための努力でもある。この曲は、その努力の不安定さを表現している。

音楽的には、比較的明るい響きを持つ部分もあるが、全体としては静かな緊張を保っている。メロディは穏やかで、Bakerの声も抑制されているが、言葉の裏には深い自己検証がある。タイトルの明るさと曲の内面の重さのズレが、この曲の核心である。幸福を表す言葉が、必ずしも幸福を保証しない。むしろ、その言葉を口にすること自体が、苦しみの中での小さな抵抗になる。「Happy to Be Here」は、本作における希望の曖昧さを示す楽曲である。

9. Hurt Less

「Hurt Less」は、痛みが少なくなることを意味するタイトルを持つ。ここで重要なのは、“痛みがなくなる”ではなく、“少なくなる”というニュアンスである。Julien Bakerの音楽における回復は、完全な治癒や劇的な救済ではない。痛みが少し軽くなる、耐えられる時間が少し増える、誰かの存在によって自分を傷つける衝動が少し弱まる。そのような現実的で慎重な回復が、この曲の中心にある。

歌詞では、他者との関係によって、自分の安全に対する考え方が変化する様子が描かれる。自分一人ならどうなってもいいと思っていた人間が、誰かを悲しませたくないという理由で自分を守ろうとする。この変化は、単純なハッピーエンドではないが、非常に重要な一歩である。Bakerはここで、愛や友情を万能の救済として描かない。しかし、他者の存在が痛みの量を変えることはある。その小さな変化を、曲は丁寧にすくい上げている。

音楽的には、徐々に広がるアレンジが印象的で、アルバムの中でも比較的開かれた感触を持つ。声はまだ脆いが、完全に閉じてはいない。曲の展開には、闇の中から少しだけ外気が入ってくるような感覚がある。「Hurt Less」は、本作における数少ない明確な希望の瞬間ともいえる。ただし、その希望は輝かしいものではなく、痛みが消えないことを認めた上で、それでも少しだけ軽くなる可能性を示すものである。

10. Even

「Even」は、アルバム終盤に置かれた短い楽曲であり、感情の余白を作る役割を担っている。タイトルの“Even”には、均等な、平らな、さらには「それでも」という副詞的な含意もある。Julien Bakerの作品では、短い曲や間奏的な曲が、感情の大きな波の間に静かな呼吸を与えることがあるが、この曲もそのような位置づけにある。

音楽的には簡素で、派手な展開を避けている。声と楽器の距離が近く、アルバム全体の重いテーマを一度静かに受け止めるような印象がある。ここでの静けさは、安心ではなく、むしろ終盤へ向かう前の一時的な停止である。Bakerの音楽において、沈黙や短さは欠落ではなく、重要な表現手段である。

歌詞の面では、自己認識や関係性をめぐる断片的な感覚が中心となる。曲は明確な結論を提示しないが、アルバム全体に漂う疲労と祈りの間に、小さな余白を作る。「Even」は目立つ曲ではないが、『Turn Out the Lights』のアルバムとしての流れを整える上で重要であり、次曲「Claws in Your Back」の重さを受け止めるための静かな前室として機能している。

11. Claws in Your Back

アルバム本編を締めくくる「Claws in Your Back」は、『Turn Out the Lights』の最も痛切な結末であり、Julien Bakerのキャリアの中でも特に強い楽曲のひとつである。タイトルは「背中に食い込む爪」を意味し、逃れようとしても何かが身体にしがみつき、傷を残し続けるイメージを持つ。自己破壊、依存、罪悪感、絶望は、外から来る敵というより、自分の背中に爪を立てて離れないものとして描かれる。

歌詞は、希死念慮や自己消滅への欲望を暗示しながらも、それを単純な絶望として終わらせない。重要なのは、曲の終盤において「生きたい」という方向へ向かう感情が現れる点である。ただし、それは明るく力強い宣言ではない。むしろ、死にたいと思うことを知っている人間が、それでも生きたいという言葉を絞り出す瞬間である。その重みは、安易な希望とはまったく異なる。

音楽的には、ピアノを中心に静かに始まり、終盤に向かって声と音が大きく広がる。Bakerの歌唱は、抑制を保ちながらも限界まで感情を押し出す。彼女の声が高まるにつれて、曲は祈りのような、叫びのような、告白のような状態になる。ここでの音の高まりは、カタルシスであると同時に、未解決の苦しみの露出である。

「Claws in Your Back」は、本作のテーマを集約する曲である。苦しみは消えない。信仰も完全な答えを与えない。自己嫌悪もすぐには止まらない。それでも、生きたいという言葉が最後に残る。この曲が持つ力は、その希望が確信に満ちていないところにある。壊れそうな声で発せられる希望だからこそ、深い説得力を持つ。

12. Go Home

一部のエディションや文脈で重要な位置を持つ「Go Home」は、Julien Bakerの初期からのテーマを象徴する楽曲として、『Turn Out the Lights』の理解にも深く関わる曲である。タイトルは「家に帰る」という非常に単純な言葉だが、Bakerの歌詞世界において“家”は単なる安全な場所ではない。帰りたい場所でありながら、そこに戻れるのか分からない場所、赦しや休息を求める場所でありながら、自分がそこにふさわしいのか疑ってしまう場所である。

曲の中では、疲れ切った人間が、これ以上進めない地点から帰還を願うような感覚がある。ここでの「帰る」は、物理的な移動だけでなく、精神的な避難、信仰への回帰、あるいは自己破壊からの一時的な撤退としても読める。Julien Bakerの歌はしばしば、道路、部屋、教会、家といった場所のイメージを通じて、心の状態を描く。「Go Home」でも、場所は内面の比喩として機能している。

音楽的には静かで、声の脆さが前面に出る。大きな解決はなく、ただ帰りたいという願いが残る。この曲は、『Turn Out the Lights』の中心にある「暗闇の中でなお戻る場所を探す」という感覚と深く響き合う。家が本当に救いになるのかは分からない。しかし、帰りたいと願うこと自体が、完全な諦めではないことを示している。

総評

『Turn Out the Lights』は、Julien Bakerの表現がデビュー作から大きく深化したアルバムである。『Sprained Ankle』のミニマルな構造を引き継ぎながら、ピアノ、ストリングス、オルガン、空間的な残響を加えることで、彼女の歌はより広く、より深く響くようになった。しかし、本作の本質は音の拡張そのものではない。重要なのは、音が増えたにもかかわらず、中心にある孤独な声の切実さがまったく薄れていない点である。むしろ、音の余韻や空間の広がりによって、Bakerの歌詞に含まれる孤独、罪悪感、信仰への疑い、回復への不確かさが、より立体的に表現されている。

アルバム全体を貫くテーマは、自分自身から逃げられないことの苦しさである。「Turn Out the Lights」で示されるように、明かりを消し、他者がいなくなり、外の世界が静まった後、人は自分の中にある声と向き合わなければならない。Julien Bakerの歌詞における最大の敵は、必ずしも外部にいるわけではない。むしろ、自分の内側にある自己否定、依存の記憶、罪悪感、回復を信じられない気持ちこそが、最も執拗に彼女を苦しめる。「Shadowboxing」や「Claws in Your Back」は、その内なる戦いを象徴する楽曲である。

本作における信仰の扱いも非常に重要である。Julien Bakerの歌には、祈り、赦し、罪、救済といった宗教的な言葉がしばしば登場する。しかし、それらは単純に安らぎを与えるものではない。「Televangelist」に見られるように、救いの言葉は時に空虚に響き、信仰は慰めであると同時に自分を裁く視線にもなる。Bakerの音楽は、信仰を持つことと疑うこと、救われたいことと救いを受け取れないことの間にある緊張を描く。そのため、本作は宗教的なアルバムでありながら、説教的ではなく、むしろ信仰の不確かさを誠実に見つめる作品になっている。

歌詞面では、Bakerの自己分析の鋭さが際立つ。彼女は自分の痛みを歌うだけでなく、その痛みが他者に与える影響も見つめる。「Appointments」や「Sour Breath」では、助けを求めながらも、助けてくれる人を疲れさせるのではないかという罪悪感が描かれる。これは、単純な自己憐憫とは異なる視点である。自分が苦しんでいることを認めながら、同時に自分が他者を傷つける可能性を認める。その厳しさが、Julien Bakerの歌詞に倫理的な深みを与えている。

音楽的には、本作はエモやインディー・フォークの流れを受け継ぎながら、非常に独自の空間性を持っている。派手なドラムや大きなバンド・アンサンブルは少なく、音は基本的に抑制されている。しかし、ギターの残響、ピアノの余韻、ストリングスの広がり、声の重なりによって、曲は静かなまま大きなスケールを持つ。これは、ポストロック的な音の構築にも通じる部分がある。感情を直接爆発させるのではなく、ゆっくりと空間に広げ、聴き手にその中へ入らせる。『Turn Out the Lights』は、その方法論が最も美しく機能した作品である。

本作の希望は、非常に控えめである。「Hurt Less」では、痛みが完全に消えるのではなく、少しだけ軽くなる可能性が歌われる。「Claws in Your Back」では、死への衝動を見つめながら、それでも生きたいという言葉が現れる。これらの瞬間は、簡単な救済ではない。むしろ、痛みが残り続けることを認めた上で、それでもわずかに違う選択がありうるという、非常に現実的な希望である。Julien Bakerは、苦しみを美化しない。同時に、苦しみの中にいる人間が完全に終わってしまうとも言わない。その均衡が、本作の大きな強度になっている。

日本のリスナーにとって『Turn Out the Lights』は、現代インディー・シンガーソングライター作品の中でも、言葉と余白の力を強く感じられるアルバムである。派手なサウンドや即効性のあるポップな展開を求める作品ではないが、静かな音の中に非常に大きな感情が込められている。Phoebe Bridgers、Lucy Dacus、MitskiSharon Van Etten、The National、Manchester Orchestraなどの内省的なロックやフォークを好むリスナーにとって、本作は深く響く作品である。

『Turn Out the Lights』は、暗闇を消し去るアルバムではない。むしろ、暗闇の中に入っていき、そこで何が見えるのかを誠実に見つめるアルバムである。明かりを消した後に残るのは、孤独、罪悪感、疑い、痛み、そしてかすかな生への意志である。Julien Bakerはそれらを大きな物語に回収せず、静かな声と広い余韻の中に置いた。その結果、本作は2010年代インディー・フォーク/エモの重要作であると同時に、苦しみと希望の関係を極めて繊細に描いたアルバムとして高く評価されるべき作品となっている。

おすすめアルバム

1. Julien Baker – Sprained Ankle

Julien Bakerのデビュー作であり、ギターと声を中心にした極めてミニマルな作品。『Turn Out the Lights』で広がった音響の原点を確認できるアルバムで、孤独、信仰、自己破壊、回復への不確かさというテーマが、より裸に近い形で提示されている。

2. Julien Baker – Little Oblivions

『Turn Out the Lights』の次作にあたり、フル・バンド的な音像へ大きく展開した作品。依存、罪悪感、信仰、自己破壊というテーマを引き継ぎながら、ドラム、シンセ、歪んだギターを加え、より身体的で重いインディー・ロックとして表現している。

3. boygenius – boygenius

Julien Baker、Phoebe Bridgers、Lucy DacusによるコラボレーションEP。Bakerの孤独な歌とは異なり、三者の声が重なり合うことで共同体的な響きが生まれている。『Turn Out the Lights』の孤独と対照的に、同時代の女性シンガーソングライターたちの連帯を知る上で重要な作品である。

4. Phoebe Bridgers – Stranger in the Alps

Julien Bakerと同時代のインディー・シンガーソングライター作品として関連性が高いアルバム。死、孤独、親密さ、不安を、繊細なアレンジと冷静な歌詞で描く。Bakerよりもドリーム・ポップ的で映像的な質感を持つが、静かな音の中に深い痛みを込める点で共通している。

5. Manchester Orchestra – A Black Mile to the Surface

宗教的イメージ、家族、罪悪感、救済への問いを、壮大なオルタナティヴ・ロックとして描いた作品。Julien Bakerの音楽にある信仰と疑い、静けさから大きな感情へ向かう構成と響き合う。エモ以降のアメリカン・ロックが持つ精神的な重みを理解する上で有効なアルバムである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました