
楽曲の概要
「The Adults Are Talking」は、The Strokesが2020年に発表した6作目のアルバム『The New Abnormal』のオープニング曲である。歌詞はJulian Casablancas、音楽はバンドの5人によるもので、プロデュースはRick Rubinが担当した。MalibuのShangri-La Studiosで録音され、Albert Hammond Jr.とNick Valensiの2本のギター、Nikolai Fraitureのベース、Fabrizio Morettiのドラムというバンド本来の編成を、非常に整理された音で聞かせる。
アルバム発表より前の2019年5月、ロサンゼルスのThe Wilternで新曲として初演されており、当時からThe Strokes初期を思わせるギターの絡みが注目されていた。完成版ではその簡潔さを残しながら、Casablancasのファルセットや後半の崩れたような展開を加えている。2000年代初頭の彼らを思わせる要素と、その後にCasablancasがThe Voidzなどで追求してきた実験性が自然に同居した曲である。
歌詞の概要
歌詞は一つの物語を順番に語るタイプではない。語り手は「大人たち」あるいは権力を持つ側から何かを評価され、期待され、同時に押さえつけられているような状況について話している。そこには世代間の対立だけでなく、成功した人物に対して社会や音楽産業が何を要求するのかという問題も重ねて読むことができる。タイトルの「大人たちが話している」という言い方自体、子どもが重要な会話から締め出される場面を思わせる。
ただしCasablancasは、誰が「大人」で誰が「子ども」なのかを明示しない。歌詞には、相手がこちらの才能や可能性を認めながら、その人物が自分たちの理解できない場所まで進むことは嫌がっている、という感覚がある。称賛と管理が同時に存在しており、成功を認められるほど自由を失っていくという皮肉にも聞こえる。
後半では恋愛や個人的な関係を思わせる言葉も入り、社会批評だけでは説明できなくなる。政治、階級、音楽産業、人間関係といった複数の読み方が重なるように書かれているのが特徴だ。その曖昧さは欠点ではなく、意味を一つのメッセージへ固定せず、会話の断片だけを聞いているような感覚を作っている。
制作背景・時代背景
『The New Abnormal』は、2013年の『Comedown Machine』以来7年ぶりとなるThe Strokesのスタジオ・アルバムだった。2010年代の彼らは各メンバーのソロ活動も活発になり、特にCasablancasはThe Voidzでより実験的なロックや電子音楽へ進んでいた。そうした時期を経て制作された『The New Abnormal』では、初期The Strokesのギター・バンドとしての特徴を捨てず、1980年代のニューウェーブやシンセポップ、長い曲構成などを取り込んでいる。
プロデューサーには、Beastie Boys、Red Hot Chili Peppers、Johnny Cashなど幅広いアーティストを手掛けてきたRick Rubinが起用された。録音の中心となったShangri-LaはMalibuにあるRubinのスタジオである。「The Adults Are Talking」の録音ではJason Laderがエンジニア、Ben Baptieがミックスを担当しており、初期作品の荒く圧縮された質感とは異なる、各楽器の位置が分かりやすい広い音像になっている。
曲自体はアルバム発売より約1年前の2019年5月にライブで初披露された。The Wilternでの演奏時、Casablancasは新曲を予定外に演奏するような形で紹介している。したがって完成版はスタジオだけで組み立てられた作品というより、アルバム発売前からライブを通じて存在していた曲でもある。2020年の『The New Abnormal』ではこれを1曲目に置くことで、長い空白期間を経たThe Strokesがどのようなバンドになったのかを最初の数分で示している。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では、タイトルの「The Adults Are Talking」という言葉そのものが重要なモチーフになっている。直訳すれば「大人たちが話している」となるが、そこには子どもを会話から遠ざけるときのような、権威と上下関係を感じさせる響きがある。
歌詞全体でも、誰かに評価されることと、その相手から行動を制限されることが同時に描かれる。成功すれば自由になるという単純な話ではなく、認められるほど周囲から期待され、分類され、管理されるという矛盾として読むことができる。ただし具体的な対象は限定されておらず、音楽業界だけを歌ったものと断定する必要はない。
サウンドと歌詞の考察
「The Adults Are Talking」で最初に耳を引くのは、ギターが非常に細い音で短いフレーズを繰り返すイントロである。大きなコードを鳴らして曲を始めるのではなく、数音のパターンを機械のように反復する。その下へドラムとベースが入ることで、ロック・バンドなのにシーケンサーで電子音を組み立てたような規則性が生まれる。ギターを「壁」のように鳴らすのではなく、小さな部品として噛み合わせるThe Strokesらしい方法である。
Albert Hammond Jr.とNick Valensiの2本のギターも、同じコードを厚く重ねるのではなく、それぞれ別の場所を埋めている。一方が短い反復を維持すると、もう一方がその隙間へ別の音を入れる。結果として一つ一つの演奏は単純なのに、合わせると細かな網目のようなリズムが生まれる。この考え方は『Is This It』や『Room on Fire』から続くThe Strokesの基本的な特徴だが、ここでは音がより清潔に分離されている。
Morettiのドラムも派手ではない。ハイハットとスネアを中心に一定のパターンを刻み、フィルを大量に入れず、ほぼ同じ速度で曲を前へ運ぶ。Fraitureのベースも低音でギターをなぞるだけではなく、短い動きを加えながらリズムを支える。全員が目立とうとせず、一つの反復装置として動くことで独特の緊張感が生まれている。
この機械的な演奏と歌詞の関係が面白い。歌詞では社会や周囲から評価され、一定の枠へ押し込まれる感覚が示されるが、伴奏も最初は非常に規則正しい。決められた場所からほとんど外れず、同じパターンを繰り返している。ところが、その上で歌うCasablancasだけは少し違う動きをする。リズムの後ろへずれたり、言葉を伸ばしたりしながら、整然とした伴奏から抜け出そうとするように聞こえる。
ボーカルの変化も曲の大きな特徴である。前半のCasablancasは低めの音域を使い、力を抜いた声で歌っている。初期The Strokesでも聞かれた無関心そうな歌い方だが、後半になると声は徐々に高くなり、ファルセットへ移る。ファルセットとは地声より軽く息の多い高音で、ここでは男性的なロック・ボーカルの力強さとは反対の、細く不安定な響きを作っている。
この高音が入ることで、曲の印象は大きく変わる。前半では社会を少し冷めた位置から観察しているようだった語り手が、後半ではその距離を維持できなくなったように聞こえる。歌詞も個人的な感情へ近づき、社会について話しているのか恋愛について話しているのかが曖昧になる。声の高さと不安定さが増すことで、歌詞の意味まで揺れていくのである。
曲構成も一般的なロックのヴァース/サビ型から少し外れている。耳に残る反復はあるものの、巨大なサビを何度も繰り返して頂点を作る設計ではない。むしろ一つのグルーヴを長く維持し、その内部でギター、声、ドラムの密度を少しずつ変化させる。5分を超える長さがありながら、派手な転調や大規模なブリッジを使わないため、聞き手は同じ場所を進み続けているような感覚になる。
後半になると、その秩序が少しずつ崩れていく。Casablancasのファルセットが自由に動き、ギターも前半ほど厳密な反復だけには聞こえなくなる。最後には演奏や声の断片が残り、きれいなロックソングとして完全に閉じるより、スタジオで演奏がほどけていくような感触を残す。規則正しく始まった曲が最後には人間的な揺れへ向かう構成である。
Rick Rubinによるプロダクションは、この変化を聞き取りやすくしている。初期The Strokesの録音では、Gordon Raphaelによる意図的に狭く荒れた音像がバンドの特徴だった。「The Adults Are Talking」ではドラム、ベース、左右のギター、ボーカルの間に十分な空間があり、それぞれの小さな動きを追いやすい。それでも演奏そのものは過剰に豪華にならず、5人のバンドが同じグルーヴを共有している感覚を保っている。
そのため、この曲は単純な「初期The Strokesへの回帰」ではない。確かに絡み合う2本のギターや乾いたリズムには初期作品との共通点があるが、Casablancasの高音、長い構成、途中から輪郭を変えていくアレンジには2010年代以降の経験が反映されている。若い頃のスタイルをそのまま再現するのではなく、かつての演奏方法を現在のバンドが使い直したところに、「The Adults Are Talking」の面白さがある。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Hard to Explain」 by The Strokes
『Is This It』収録曲。機械のように正確なドラムと細かく噛み合うギターという「The Adults Are Talking」の原型を聞ける。約20年前の演奏と比較すると、The Strokesが何を残し、何を変えたのかが分かりやすい。
「Why Are Sundays So Depressing」 by The Strokes
同じ『The New Abnormal』収録曲。ギターの隙間を生かしたアレンジと、Casablancasの力を抜いた歌唱が共通する一方、こちらはより倦怠感が強く、アルバム後半の内向的な雰囲気を代表している。
「Human Sadness」 by The Voidz
Julian CasablancasがThe Strokesとは別に追求した実験性を理解するための一曲。長大な構成、加工されたボーカル、崩れていくようなアレンジを持ち、「The Adults Are Talking」後半の自由さにつながる感覚がある。
「Obstacle 1」 by Interpol
同じ2000年代初頭のニューヨーク・ロックから登場した代表曲。2本のギターとベースがそれぞれ独立したフレーズを弾きながら一つのグルーヴを作る点で共通するが、The Strokesより暗く切迫した方向へ進んでいる。
「Age of Consent」 by New Order
細かく反復するギターと動き続けるベースによって、ロック・バンドの演奏を機械的なダンス・ミュージックへ近づけた1980年代の代表例。「The Adults Are Talking」のニューウェーブ的なリズム感を遡るうえで興味深い一曲である。
まとめ
「The Adults Are Talking」は、The Strokesが初期のスタイルへ単純に戻るのではなく、その特徴を20年近い経験の後で組み直した曲である。短いギター・フレーズ、一定のドラム、動きのあるベースは精密な機械のように噛み合うが、その上でJulian Casablancasの歌だけが次第に自由になり、終盤ではファルセットとともに曲の秩序自体が緩んでいく。権威、期待、管理、人間関係を行き来する曖昧な歌詞も、この「規則の中から外へ出ようとする」音の動きと重なる。『The New Abnormal』の1曲目として、初期The Strokesの簡潔さと後年の実験性を一つの演奏に収めた作品である。
参照元
- The Strokes公式ストア『The New Abnormal』作品情報
- Sony Music『The New Abnormal』公式リリース情報
- RCA Records / Cult Records「The Adults Are Talking」公式クレジット
- The FADER「The Adults Are Talking」初演記事
- MusicBrainz『The New Abnormal』録音・クレジット情報

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