1. 歌詞の概要
「The Adults Are Talking（大人たちが話してる）」は、The Strokes（ザ・ストロークス）が2020年にリリースした6作目のアルバム『The New Abnormal』のオープニング・トラックにして、同作を象徴するモダンな名曲である。タイトルが示す通り、この曲では“権威”や“社会的ルール”に対する違和感と反発がテーマとなっており、語り手は「大人たちが勝手に決めた世界」で、うまく順応できない自分を見つめながら、諦めやアイロニー、そして希望までも滲ませている。
内容は一見してポリティカルだが、露骨な抗議ではない。むしろ都市生活者としての倦怠と知性、そして小さな抵抗を描いたような、“冷めた炎”のようなメッセージが中心にある。
「We are trying hard to get your attention（僕たちは君の注意を引こうと必死なんだ）」というラインに象徴されるように、社会に無視される存在＝若者やアーティスト、アウトサイダーたちの視点が中心に据えられている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『The New Abnormal』は、The Strokesが7年ぶりに発表したスタジオ・アルバムであり、プロデューサーには名匠リック・ルービンを迎え、サウンド的にもこれまでとは一線を画す洗練と静謐さを手に入れた作品である。
「The Adults Are Talking」は、そのなかで最も“初期ストロークスのスピリット”を現代的に再構築した楽曲とされており、細やかに刻まれるギターリフ、軽快でダンサブルなリズム、そしてジュリアン・カサブランカスのエフェクトの効いたボーカルが有機的に結びついている。
この曲は2019年に初めてライブで披露され、翌年のアルバム発売前からファンの間で高い評価を受けていた。ポストパンキッシュな切れ味のある演奏と、冷笑的ながら情熱を隠せないリリックのバランスが秀逸で、**バンドの再出発にふさわしい“現代の反抗歌”**となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「The Adults Are Talking」の印象的な一節を抜粋し、和訳とともに紹介する。
They’ve been sayin’, “You’re sophisticated”
「あんたは大人だよね」なんて、奴らは言うけどさThey’re complainin’, overeducated
だけど文句ばっかり──「学歴だけは無駄にある」ってねYou are saying all the words I’m dreaming
君が言ってることは、僕が夢で見ていた言葉そのものなんだSay it now, I hope it’s true
今、言ってくれ、お願いだから──それが本心であってほしいWe’re gonna fight the war
僕たちは闘うつもりだよThey don’t know what we’re for
奴らには分からない、僕らが何のためにやってるのかなんてWe just want more and more
僕らは、もっと多くを求めている──ただ、それだけなんだ
出典：Genius – The Strokes “The Adults Are Talking”
4. 歌詞の考察
この曲の本質は、“声なき声”を歌うことにある。
ストレートな反体制メッセージではなく、The Strokesらしい遠回しで皮肉に満ちた語り口によって、“社会の仕組みに違和感を抱えながら、それでも生きている”若者たちの気持ちをすくい取っているのだ。
たとえば「They don’t know what we’re for（奴らには、僕らの目的なんて分からない）」というライン。
これは世代間の断絶を示しているとも読めるし、“意義ある活動に見えなくても、自分たちにとっては大切なこと”への誇りとも読める。
また、「We just want more and more（ただもっと欲しいだけ）」という表現は、消費社会的な風刺にもなっており、それでいてもっと何かを感じたい／表現したいという欲求にも見えてくる。
ジュリアンのボーカルは、機械的なトーンでありながら、時折感情のエッジをのぞかせる。
その無感情と熱の混在こそが、この曲のメッセージを強くする。
つまりこの歌は、“怒りを怒りのまま歌わずに、冷笑で包む”という方法によって、逆に怒りの純度を高めているのだ。
※歌詞引用元：Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- At the Door by The Strokes
同アルバム収録のダークで壮麗なエレクトロ・バラード。絶望と希望が共存する詩世界が魅力。 - Reptilia by The Strokes
人間関係の“読み合い”を題材にした、パンチの効いたストレートなロックナンバー。 - Obstacle 1 by Interpol
同じくNY出身のバンドによる、抑制された激情と都市の冷たさが交錯する名曲。 - The Less I Know the Better by Tame Impala
恋愛への執着と無力感をサイケデリックなサウンドに閉じ込めた、現代的ラブソング。 -
No Hope by The Vaccines
若さと未来への不安を爽快に歌い飛ばす、ポップで痛快なインディーロック。
6. 冷笑の奥にある“闘う気持ち”──モダンな反抗の歌
「The Adults Are Talking」は、叫ばずに抗議する。怒りをエネルギーに変えながら、静かに燃え続ける。
それは、デモでもなくスローガンでもない、**“都市の中で曖昧に生きる者たちの抵抗”**であり、The Strokesが長年培ってきた“スタイルとしての反抗心”の集大成とも言える。
この曲は、もう何かを変えることができるかどうかもわからない現実の中で、
それでも「君はわかってるよね」と誰かに問いかけるような、
微かな連帯と確信の音楽なのである。
そしてそれこそが、2020年代のオルタナティヴ・ロックにおける、
もっともスマートで、もっとも切実な“反逆”のかたちなのかもしれない。
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