Stay Useless by Cloud Nothings(2012)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Stay Useless」は、アメリカ・オハイオ州出身のロックバンド**Cloud Nothings(クラウド・ナッシングス)**が2012年にリリースしたアルバム『Attack on Memory』からの代表曲であり、若さゆえの空虚感とアイロニカルな諦念をポップな爆発力で包んだパンク・アンセムである。

タイトルの「Stay Useless(ずっと無駄なままでいろ)」というフレーズは、一見すると自己否定的な響きを持ちながらも、実はその裏に現実社会に順応できないことを逆手に取った、皮肉な肯定感を含んでいる。語り手は、自分が役に立たない存在だということをどこかで受け入れながら、それでも何かを求める渇望や欲望を否定できずにいる。

「I need time to stay useless(俺には、無駄でいる時間が必要なんだ)」というフレーズに代表されるように、社会的な成功や意味ある行動に背を向けることで、かえって個人的な誠実さを保とうとする態度がこの曲の核心にある。これは、“意味”を追い求めすぎる現代の若者にとっての反語的なエスケープ・ソングとも言えるだろう。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Stay Useless」が収録された『Attack on Memory』は、Cloud Nothingsがそれまでのキャッチーでローファイなギターポップ路線から大きく方向転換を図ったアルバムであり、スティーヴ・アルビニがエンジニアを務めたことで、よりラウドで、生々しく、攻撃的な音像が生まれた。

本作全体に共通しているのは、希望に裏打ちされた絶望、あるいは絶望の中に残るかすかな意志である。「Stay Useless」では、それが最もキャッチーな形で、ポップパンク的なフックとグランジ的な粗暴さを兼ね備えて表現されている。演奏自体はシンプルながら、反復されるフレーズと爆発的なコーラスが、内面に溜まった感情を一気に吹き飛ばすようなカタルシスをもたらす。

また、この曲はMTVやPitchforkといったメディアでも話題となり、Cloud Nothingsの存在をインディーロックの枠を超えて広く知らしめたきっかけともなった。DIY精神を残しつつ、若者の真実を叫ぶリアルな歌詞が、当時のインディーシーンに一石を投じたのである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“I need time to stay useless”
無駄なままでいる時間が 俺には必要なんだ

“I don’t wanna do this / I just wanna feel something”
こんなことしたくない ただ 何かを感じたいだけなんだ

“I need something to remind me / I need something to remind me who I am
自分が何者かを思い出させてくれるものが 必要なんだ

“I don’t really know you / And I don’t think I want to”
君のことをよく知らない そして たぶん知りたくもない

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

「Stay Useless」は、若者の心に渦巻く虚無感と抵抗の精神が、ユーモアと爆発力をもって描かれた傑作である。

「無駄でいたい」という言葉は、表面的には投げやりな態度にも聞こえる。しかしそこには、「役に立つこと」が常に善であるとされる社会への疑問や、感情や感覚を抑圧してまで生きることへの拒絶が込められている。

「ただ何かを感じたい」という一節には、感情の麻痺に抗おうとする本能的な欲望があり、それがこの曲の叫びの原動力となっている。自分という存在を確かめるには、意味のある行動や生産性よりも、もっと直感的で混沌とした“感覚”の揺れこそが必要だという、極めてロマンティックな価値観がそこにはある。

また、「I don’t really know you / and I don’t think I want to」という一見冷淡な一節も、過剰な関係性を押し付ける社会への静かな拒絶と取ることができる。ここで語られている“無関心”は冷たさではなく、自分自身を保つための防衛線のように響く。

このように、「Stay Useless」は自己否定に見せかけて、実は自己保存と内面の誠実さを守るためのポジションを描いている。
それは現代の“生きづらさ”を逆説的に肯定する、最もパンキッシュなラブソングの一種なのかもしれない。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • No Passion All Technique by Protomartyr
     存在の空虚さを乾いた語り口で描く、ポストパンクの鋭利な一撃。
  • Cut Your Hair by Pavement
     何もかもがばかばかしく思えてくる90年代オルタナのアイロニー。
  • I Wanna Be Adored by The Stone Roses
     承認欲求と虚無感の狭間を描いた、ドリーミーでシニカルな名曲。
  • Fell in Love with a Girl by The White Stripes
     スピードと感情の爆発力が直結した、現代ガレージロックの金字塔。
  • Drunk Drivers/Killer Whales by Car Seat Headrest
     若者特有の自己矛盾を、文学的かつダイナミックに描いたアンセム。

6. 役に立たないままで生きるという選択——「Stay Useless」の逆説的肯定

「Stay Useless」は、Cloud Nothingsの代表作であり、同時に21世紀における“青春の孤独と怒り”のひとつの解答でもある。

それは、「がんばらなければいけない」「何かにならなければ意味がない」という社会の声に対して、
「それでも、無駄なままでも生きていいじゃないか」と真顔で投げ返すような曲である。

本気で叫びながらも、どこかユーモラスで、冷笑的で、痛烈にリアル。
生きる意味が見つからないからこそ、とりあえず叫ぶ。音を鳴らす。それだけでもいい。

この曲を聴くと、自分が“無駄”であることを、少しだけ誇らしく思えるようになる。
「Stay Useless」は、無意味であることの価値を肯定する、静かで鋭い反抗の賛歌なのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました