
発売日:2017年1月27日
ジャンル:Indie Rock / Alternative Rock / Post-Hardcore
概要
Life Without Soundは、米オハイオ州クリーブランドのCloud Nothingsが2017年に発表したスタジオ・アルバムである。Dylan Baldiの宅録プロジェクトとして始まったCloud Nothingsは、『Attack on Memory』『Here and Nowhere Else』で荒々しいギターと切迫した演奏を武器にするバンドへ変化した。本作ではその強度を保ちながら、メロディ、コーラス、各楽器の分離を以前より重視し、ノイズの塊として突進するだけではないロック・サウンドへ進んでいる。
プロデュースを担当したのはJohn Goodmanson。Sleater-KinneyやDeath Cab for Cutieなどとの仕事でも知られる彼のもと、本作ではBaldiのギターにChris Brownのギターが加わった4人編成の厚みを生かしつつ、ベースやドラムまで明瞭に聞こえる録音になった。前作の短く猛烈な演奏と比べるとテンポや構成にも余裕があり、パワー・ポップ的な旋律とポスト・ハードコアの爆発力を同じ曲の中で使い分けている。
歌詞の中心にあるのは、自分の現状への不満、他者との距離、変化したいという願いと、それを実行できない焦りである。Baldiは大きな物語を語るより、短く直接的な言葉を反復し、その意味を演奏によって膨らませる。過去作の衝動を単純に弱めた作品ではなく、Cloud Nothingsの攻撃性をより明確な曲構成の中へ置き直したアルバムと考えると、その特徴が見えやすい。
全曲レビュー
1. 「Up to the Surface」
ピアノの静かな反復という、従来のCloud Nothingsとしては意外な音から始まる。Baldiの歌声も最初は抑えられているが、ギター、ベース、ドラムが加わるにつれて曲は徐々に巨大化し、後半ではバンド本来の轟音へ到達する。「表面へ上がる」というタイトルに似合う上昇型の構成で、停滞した場所から抜け出したいという本作の感覚を、演奏の変化そのものによって示すオープニングだ。
2. 「Things Are Right with You」
細かく刻むギターとJayson Geryczの力強いドラムが曲を前へ押し、前曲で時間をかけて作った緊張を一気に解放する。サビではギターの厚みを増やしながらメロディを明瞭にするため、荒々しさとポップさのどちらも失われない。歌詞には他者との関係を通して自分の状態を確認しようとする感覚があり、単純な幸福というより、安定した場所を探しているように聞こえる。
3. 「Internal World」
軽快なギター・フレーズと簡潔なサビによって、本作でも特にパワー・ポップ寄りの明るい輪郭を持つ。しかし歌詞は、自分の内側に閉じこもり、現実との接点をうまく作れない状態へ目を向けている。メロディの親しみやすさと内向きな言葉が対照を作り、Baldiのボーカルも絶叫ではなく比較的自然な高さに抑えられる。変化した本作の作曲法がよく分かる曲だ。
4. 「Darkened Rings」
ギターの不穏な反復と重いリズムによって、前曲の明るさを急に曇らせる。ヴァースでは緊張を維持したまま進み、サビで音の密度を上げることで、閉塞感が徐々に強くなる。歌詞も自分を取り囲む状態から簡単には抜け出せない感覚を持ち、楽観的な解決へ急がない。アルバムが単なるメロディ重視の方向転換ではないことを示す、暗い質感の一曲である。
5. 「Enter Entirely」
開放的なギターと前へ進むドラムに乗せて、誰かとの関係へ完全に踏み込もうとする意志を歌う。Baldiは短い言葉を繰り返しながら声を次第に強め、それに合わせてバンドも音量を上げていくため、感情の変化が非常に分かりやすい。内側へ閉じる「Internal World」と対になるように、ここでは外部との接触が中心となる。後半のギターが作る広がりにも4人編成の利点が表れている。
6. 「Modern Act」
明快なギター・リフと覚えやすいサビを持つ、本作のポップな側面を代表する曲。自分の生き方や現在の状態に満足できず、より良い何かを求める歌詞はアルバム全体の問題意識にも近いが、抽象的な自己探求へ逃げず、短いフレーズで直接伝える。演奏も余計なノイズでメロディを覆わないため、Cloud Nothingsが轟音に頼らず強いロック・ソングを書けることを示している。
7. 「Sight Unseen」
硬く刻まれるギターとドラムが緊張を作り、アルバム後半を再び荒々しい方向へ動かす。メロディは存在するものの、楽器同士が押し合うようなアンサンブルが前へ出るため、「Modern Act」の整理されたポップ感とは対照的だ。見えないもの、不確かなものへ進む感覚を思わせる言葉と、着地点を簡単に示さない演奏が噛み合い、後半の焦燥感を強めている。
8. 「Strange Year」
6分を超える長さを使い、Cloud Nothingsの反復とノイズの強さを本格的に戻す。Geryczのドラムが執拗に演奏を押し続け、その周囲でギターが同じパターンを重ねながら徐々に荒れていくため、一般的なヴァースとサビの往復以上に演奏の持続そのものが重要になる。整った曲が多い本作の中で、『Attack on Memory』期の危険なライブ感を最も強く思い出させる場面だ。
9. 「Realize My Fate」
最終曲では、重いギターと不安定な反復を使い、アルバムを簡単な解放へ着地させない。タイトルには自分の運命を認識するという意味があるが、その認識が安心につながるわけではなく、Baldiの声は演奏が激しくなるほど追い詰められていく。終盤ではギターとドラムの圧力が増し、序盤の比較的整理された音像から遠く離れた場所へ到達する。変化を求め続けた作品を、不確かなまま終わらせる締め方である。
総評
Life Without Soundの重要な変化は、Cloud Nothingsが激しさを捨てたことではなく、その激しさをいつ使うか選ぶようになった点にある。『Here and Nowhere Else』ではドラムとギターが最初から高い速度で走り続ける曲が多かったが、本作では静かな導入、明快なサビ、長いノイズの展開を別々の場所へ配置している。結果として最大音量になる瞬間が以前より少ないぶん、そこへ到達したときの効果は大きい。
4人編成になったこともサウンドへ影響している。二本のギターを単純に重ねて厚くするだけでなく、一方がコードを支え、もう一方が短い旋律やノイズを加えることで、曲の内部に複数の動きを作れるようになった。それでも中心にいるのはGeryczのドラムであり、細かなフィルを入れながら猛烈な力でテンポを維持する演奏が、ポップになった楽曲にもCloud Nothingsらしい切迫感を残している。
Baldiのソングライティングは以前より旋律が整理され、「Internal World」や「Modern Act」ではサビだけでも成立するほど輪郭が強い。一方、歌詞ではその明快さとは反対に、現状への違和感が繰り返される。自分を変えたい、外の世界とつながりたいという願いはあるが、それを達成したという結論にはならない。このため明るいギターが鳴る曲にも落ち着かなさが残り、単純な成熟や前向きさを歌う作品には聞こえない。
過去作の剥き出しの勢いを好むなら、整ったプロダクションや中速曲の増加を物足りなく感じる部分はあるだろう。しかし本作によってCloud Nothingsは、速さとノイズだけに依存せず、メロディとアレンジによって緊張を維持できることを証明した。パンクの衝動、パワー・ポップの簡潔さ、ポスト・ハードコアの反復を整理しながら共存させたことで、初期から続く焦燥感を別の形へ更新したアルバムである。
おすすめアルバム
Here and Nowhere Else by Cloud Nothings
2014年の前作。猛烈なドラムと歪んだギターがほぼ休まず走り続け、Life Without Soundより荒々しく切迫している。そこからメロディや静と動の配置がどう整理されたかを比較しやすい。
Attack on Memory by Cloud Nothings
2012年作で、宅録ポップから激しいバンド・サウンドへ転換した作品。長い反復とノイズを使う「Wasted Days」などは、本作の「Strange Year」「Realize My Fate」へ続く重要な出発点になっている。
The Meadowlands by The Wrens
複数のギターと強いメロディを使いながら、挫折や停滞を細かなアレンジへ変換した2003年作。Cloud Nothingsより演奏は抑制的だが、内向きな歌詞を大きなギター・ロックへ広げる方法に共通点がある。
Celebration Rock by Japandroids
2012年の作品で、ギターとドラムを大音量で鳴らしながら、非常に明快なサビを中心に曲を組み立てる。感情の方向はより開放的だが、ノイズとパワー・ポップ的な即効性を両立させる点で本作と比較できる。
Dig Me Out by Sleater-Kinney
鋭いギターの絡みと強力なドラムによって、メロディを失わず緊張感を維持する1997年作。本作を手掛けたJohn Goodmansonがプロデュースした作品でもあり、整理された録音と生々しいバンド演奏を両立させる感覚をたどれる。

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