
1. 歌詞の概要
「Shoplifting」は、**イギリスのポストパンクバンド The Slits(ザ・スリッツ)**が1979年にリリースしたデビューアルバム『Cut』に収録された楽曲で、盗み(万引き)をテーマにしたユーモラスで反抗的なパンクソングです。
この曲では、主人公が**「万引き(shoplifting)」を楽しむかのように語りながらも、その背後には、資本主義社会や消費主義への批判が込められている**ようにも解釈できます。
歌詞の中では、**「万引きは楽しい」「タダで手に入れろ」**といった挑発的なフレーズが繰り返され、最後には「警察に捕まる」というオチがつくという、まるでブラックコメディのような展開が描かれています。
サウンドは、The Slits特有のレゲエの影響を受けたグルーヴィーなリズムと、Ari Up(アリ・アップ)の衝動的でアナーキーなボーカルが特徴的です。シンプルなギターリフとベースラインが繰り返されることで、衝動的な行動のスリルとカオスな雰囲気が演出されています。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Slitsは、1976年にロンドンで結成された女性のみのポストパンクバンドで、当時のパンクシーンの中でも最もラディカルで実験的なバンドの一つでした。彼女たちは、音楽的にもビジュアル的にも従来の女性アーティスト像を壊し、自由で過激な表現を追求することで、後のライオット・ガール・ムーブメントにも大きな影響を与えました。
「Shoplifting」は、その象徴的な楽曲のひとつで、単なるパンク的な悪ふざけのようにも聞こえますが、実際には資本主義社会への風刺や、反権力的なメッセージを含んでいる可能性が高いと言われています。
また、当時のイギリスは不況による経済的混乱が続き、若者たちが貧困と不満を抱えていた時代でもあり、「Shoplifting」という行為は、単なる犯罪ではなく、社会への反抗や生き抜くための手段の象徴として捉えることもできます。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は、「Shoplifting」の印象的な歌詞の一部です。
万引きのスリル
Lyrics:
Put the cheddar in the pocket
Put the rest under the jacket
和訳:
チーズをポケットに入れろ
残りはジャケットの下に隠せ
このラインでは、実際に万引きをしているシーンが描かれています。特に「チーズ(cheddar)」は、スラングで「お金」を意味することもあり、「金の代わりに盗めばいい」という反消費主義的なメッセージとも解釈できます。
「タダで手に入れろ!」
Lyrics:
We pay fuck all
Gimme some more
和訳:
私たちは何も払わない
もっとよこせ
ここでは、「金を払わずに欲しいものを手に入れる」という、資本主義社会に対する皮肉と反抗の精神が表れています。「もっとよこせ」というラインは、まるで欲望を煽る広告のキャッチコピーをパロディにしているかのようです。
捕まる瞬間
Lyrics:
Ten quid for the lot
We pay fuck all
STOP! THIEF!
和訳:
これ全部で10ポンド
私たちは何も払わない
止まれ!泥棒だ!
この部分では、万引きが成功していたかのように思えたが、結局は捕まり、「STOP! THIEF!(止まれ!泥棒だ!)」と叫ばれるというオチがついています。これはまるでコメディ映画のワンシーンのような展開であり、単なる犯罪行為を描いているのではなく、社会のルールに対するいたずら心やパンクの反抗精神を表現しているとも言えます。
歌詞全文はこちらから確認できます。
4. 歌詞の考察
「Shoplifting」は、一見すると単なる悪ふざけのように聞こえるかもしれませんが、パンクの持つ「社会のルールに縛られない」という精神を表現する楽曲として非常に重要です。
この曲のポイントは、資本主義や消費主義に対する皮肉です。
- 「金を払わずに欲しいものを手に入れる」という行為は、物が溢れる社会の中で、貧困層が生き抜くためのサバイバル手段であるという視点も持つことができます。
- また、「STOP! THIEF!」というラストの叫びは、万引きが決してヒロイックな行為ではなく、結局はシステムに捕まることを示唆しているとも解釈できます。
さらに、**曲全体がコミカルでキャッチーなリズムを持っていることから、単なる犯罪賛美ではなく、社会を揶揄するための「ブラックユーモア」**として機能しているのが特徴です。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “God Save the Queen” by Sex Pistols
→ 体制批判とパンクの精神を象徴する楽曲。 - “Oh Bondage! Up Yours!” by X-Ray Spex
→ 女性の自己表現と社会的な抑圧への反抗を描いたパンクの名曲。 - “Rebel Girl” by Bikini Kill
→ 90年代ライオット・ガール・ムーブメントの代表曲。 - “Lost in the Supermarket” by The Clash
→ 消費主義社会への批判を描いたポストパンクの楽曲。 - “Police and Thieves” by The Clash
→ レゲエの影響を受けたパンクの社会批判ソング。
6. 「Shoplifting」の影響と意義
「Shoplifting」は、パンクの持つ「既存のルールを破る精神」と、女性アーティストによる挑発的な表現が融合した、The Slitsらしい楽曲です。
また、この曲のユーモラスなアプローチは、パンクが単なる怒りの音楽ではなく、社会風刺や自己表現の場であることを示しており、ライオット・ガール・ムーブメントをはじめとする後続のアーティストにも影響を与えました。
The Slitsは、男性中心のパンクシーンの中で独自の立ち位置を確立し、女性がパンクの中で自由に表現することを可能にした存在であり、「Shoplifting」はその象徴的な楽曲のひとつと言えるでしょう。
まとめ
「Shoplifting」は、万引きをテーマにしながらも、ブラックユーモアと社会批判を込めたユニークなパンクソングです。その挑発的な歌詞とエネルギッシュなサウンドは、今なおパンクの精神を体現する楽曲として多くの人に影響を与え続けています。
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