I Heard It Through the Grapevine by The Slits(1979)楽曲解説

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

楽曲の概要

「I Heard It Through the Grapevine」は、The Slitsが1979年のデビュー・アルバム『Cut』で取り上げたNorman WhitfieldとBarrett Strong作の楽曲である。1967年のGladys Knight & the Pips版、そして1968年に全米1位となったMarvin Gaye版で広く知られるMotownのスタンダードだが、The Slitsは原曲のソウルらしい緊張感をそのまま再現しなかった。レゲエ/ダブのリズム、鋭く途切れるギター、強烈なベース、Ari Upの奔放な歌声によって、曲の骨格そのものを組み替えている。

『Cut』本編はDennis Bovellのプロデュースで制作され、パンクとレゲエ/ダブを大胆に接続した作品として知られる。ただし「I Heard It Through the Grapevine」の制作クレジットはアルバムの他曲とは異なり、The Slits、Rema、Stuart Hendersonがプロデューサーとして記載されている。演奏はAri Upがボーカル、Viv Albertineがギター、Tessa Pollittがベース、Max Edwardsがドラムを担当した。名曲の忠実なカバーではなく、既存のポップソングを解体して自分たちのリズム感へ作り替えるという、The Slitsの姿勢がよく表れた録音である。

歌詞の概要

歌詞の基本設定はオリジナルから変わらない。語り手は、愛する相手が別の人物を選び、自分との関係を終わらせようとしていることを本人からではなく「grapevine」、つまり人づての噂によって知る。問題なのは恋人を失うことだけではない。自分に直接話してもらえず、周囲の噂から事実を知ってしまったことで、愛情、不信、嫉妬、屈辱が一度に押し寄せている。

タイトルの「grapevine」は、情報が人から人へと伝わる非公式な噂のネットワークを意味する。語り手はその情報を完全には信じたくないが、無視することもできない。だから歌詞には、すでに答えを知っている人物が、それでも相手本人から真実を聞こうとする緊張がある。単なる失恋ではなく、「誰を信じればよいのか分からない」という情報への不安が曲を動かしている。

The Slits版で興味深いのは、この歌詞を女性ボーカルのAri Upが歌うことである。元の歌詞には男性の立場を示す表現が含まれているが、The Slitsはその大枠を保ちながら演奏している。その結果、語り手の性別を整えて女性向けの失恋歌へ作り替えるのではなく、既存の歌詞をAri Upが自分の身体と声で乗っ取るような感触が生まれる。カバー曲であることを隠さず、原曲とのずれそのものを面白さにしているのである。

制作背景・時代背景

The Slitsは1976年にロンドンで結成され、初期にはThe Clashとのツアーなどを通して英国パンクの現場で活動した。しかし『Cut』が発売された1979年には、彼女たちの音楽は単純なパンク・ロックからかなり離れていた。大きな転機となったのがレゲエとダブである。ベースとドラムを音楽の中心に置き、ギターをコードの壁ではなくリズムやノイズとして扱うことで、初期の荒々しさを別の方向へ発展させた。

『Cut』では英国レゲエの重要人物Dennis Bovellをプロデューサーに迎えた。BovellはMatumbiでの活動やダブ作品でも知られ、The Slitsの不規則な演奏を通常のロックバンドらしく矯正するのではなく、ベース、空間、リズムの面白さが前へ出るサウンドへ導いた。1970年代末の英国ではパンクとジャマイカ音楽の交流が活発になっており、The ClashやPublic Image Ltdなどもレゲエ/ダブから大きな刺激を受けていたが、The Slitsはそれを曲の構造や演奏の身体感覚まで深く取り込んだ。

そのアルバムの終盤にMotownの有名曲を置いたことも重要である。パンクには過去のロック文化を拒絶するイメージがあるが、The Slitsは古い曲を排除するのではなく、好きな曲を自分たちの方法で変形した。原曲の権威に従う必要も、演奏技術を誇示する必要もない。既存のポップソングを材料として扱い、レゲエ、パンク、ダブの感覚で別の曲のように作り直す姿勢は、ポストパンクが1970年代末から急速に広げていった音楽的自由とも重なっている。

歌詞の抜粋と和訳

“I heard it through the grapevine”

和訳:人づての噂で聞いた

タイトルでもあるこの言葉が曲の状況を決定している。「grapevine」は文字通りにはブドウのつるだが、ここでは噂や口コミによる情報網を指す。恋人から直接別れを告げられるのではなく、周囲から伝わってくる情報によって関係の終わりを知るため、語り手は事実そのものと同時に「なぜ自分には直接言わなかったのか」という不信にも直面する。

The Slits版では、Ari Upがこの有名なフレーズを滑らかに歌い上げないことが重要である。言葉を伸ばしたり崩したりしながらリズムへ絡みつくため、「噂が伝わってくる」という内容が、整然とした報告ではなく、あちこちから情報が飛び込んでくる混乱のように聞こえる。

サウンドと歌詞の考察

The Slits版を特徴づける最大の要素は、ベースとドラムの位置である。Marvin Gaye版にもJames Jamersonによる強力なベースがあるが、そこではパーカッション、鍵盤、ストリングス、コーラスなどが緊密に組み合わされ、疑念が少しずつ膨らむソウルのドラマを作っていた。The Slits版では装飾を大きく減らし、低音とリズムの空間をむき出しにする。Tessa Pollittのベースは伴奏の土台に収まらず、曲を先導する太い旋律のように動く。

Max Edwardsのドラムも、ロックのようにギターの後ろから拍を強調するだけではない。ベースと組み合わさって、身体が左右に揺れるようなレゲエ由来のグルーヴを作る。しかも演奏は完全に滑らかではなく、アクセントが予想外の場所に現れるため、曲には少し落ち着かない感覚が残る。この不安定さが、恋人についての情報を噂から聞き、確信と疑いの間を行き来する歌詞によく合っている。

Viv Albertineのギターはさらに特徴的である。コードを厚く鳴らして曲を埋めるのではなく、短く乾いた音をリズムの隙間へ差し込む。時にはメロディ楽器というより、金属的な音を発生させる打楽器のようにも聞こえる。この空白の多さによってベースの動きがさらに大きく感じられ、曲全体にダブ的な奥行きが生まれる。ロックでは「何を弾くか」が重要になりやすいが、ここでは「どこで弾かないか」もアレンジの一部になっている。

その上でAri Upは、Motownのソウルシンガーらしい端正な表現から意識的に離れたような歌い方をする。声を真っすぐ伸ばさず、単語を引き延ばしたり、突然アクセントを強くしたり、リズムから飛び出すような発音をしたりする。Marvin Gaye版では、抑えようとしても漏れ出してしまう苦悩が歌声の中心にある。それに対してThe Slits版では、感情が一つの方向へ整理されない。怒っているのか、傷ついているのか、相手をからかっているのかさえ曖昧で、その予測不能さがAri Upらしい魅力になっている。

この歌い方によって「grapevine」という言葉の意味も少し変わって聞こえる。Motown版では、噂は語り手を苦しめる情報源であり、真実を知ることへの恐怖がドラマを生む。The Slits版では、情報そのものが音楽の中を飛び回っているような感覚がある。メインボーカル、応答する声、ギターの断片、ベースの動きが互いに割り込み、中心を一つに固定しないからだ。人から人へ伝わる噂のネットワークが、演奏の構造として再現されているようにも聞こえる。

さらに重要なのは、The Slitsがこの曲を「上手にカバーする」という発想から自由だったことである。原曲のコードやメロディを認識できる範囲で残しながら、何を前面に出すかを根本から変えている。Motownの緊密なアンサンブルからレゲエ/ダブ的な空間へ移し、男性ソウル歌手の苦悩をAri Upの奔放な声へ置き換える。それでも「恋人についての真実を第三者から知ってしまった」という曲の緊張は消えていない。むしろ不規則なリズムと声によって、別の形で強調されている。

この変換こそ、The Slitsのカバーが長く残った理由である。原曲への敬意を「似せること」で示すのではなく、曲の内部にある可能性を別のジャンルから引き出している。ソウルの名曲がパンクを経由し、レゲエとダブの身体感覚をまとって、1979年のポストパンクへ変わる。「I Heard It Through the Grapevine」は『Cut』のオリジナル曲ではないが、既成の形式に従わず、自分たちに必要な形へ音楽を作り替えるという意味では、The Slitsを非常によく説明する一曲なのである。

この曲が好きな人におすすめの曲 5曲

「Typical Girls」 by The Slits

『Cut』を代表するオリジナル曲。ギターを通常のロック的な役割から解放し、ベースとドラムを中心に不規則なポップを組み立てている。「Grapevine」のカバーで聞けるリズム感が、彼女たち自身の作曲でどう使われたかが分かる。

「Ping Pong Affair」 by The Slits

同じ『Cut』収録曲で、レゲエ的な余白とAri Upの自由なボーカルが特に目立つ。恋愛を扱いながらも一般的なラブソングの感傷へ向かわず、少し突き放した視点と不安定なリズムで描くところも共通している。

「I Heard It Through the Grapevine」 by Marvin Gaye

比較するなら欠かせない1968年の代表的バージョン。緊張したパーカッション、James Jamersonのベース、ストリングス、Gayeの抑制された歌唱によって疑念をドラマ化しており、The Slitsが何を残して何を壊したのかがよく分かる。

「Private Life」 by Grace Jones

The Pretendersの曲をGrace Jonesが1980年にレゲエ/ダブ方向へ大きく作り替えたカバー。ロック曲を低音と空間中心のアレンジへ移し、原曲とは異なる冷たさと身体性を引き出す方法がThe Slits版「Grapevine」とつながる。

「Poptones」 by Public Image Ltd

1979年の『Metal Box』収録曲。巨大なベース、反復するドラム、鋭いギターという配置によって、ロックを低音とリズム中心に組み直している。同時代の英国ポストパンクがダブから何を吸収したのかを比較できる一曲である。

まとめ

The Slits版「I Heard It Through the Grapevine」の特徴は、Motownの名曲をパンク風に速く演奏したのではなく、曲をレゲエ/ダブの発想から組み立て直したことにある。Tessa Pollittの太いベースを中心に、Max Edwardsの揺れるドラム、Viv Albertineの隙間だらけのギター、Ari Upの予測不能な声が互いに独立して動き、噂によって恋人の裏切りを知る歌詞に新しい不安定さを与えている。原曲の完成されたソウル・アレンジを模倣せず、それでも歌そのものの緊張を失わない。この大胆な変換には、既存の音楽を壊すだけでなく、レゲエやダブとの接触を通じて新しい演奏のルールを作ろうとしていた1979年のThe Slitsの姿がよく表れている。

参照元

  • Universal Music Japan『Cut』
  • Apple Music「I Heard It Through the Grapevine」
  • Shazam「I Heard It Through the Grapevine」
  • The Guardian「How we made Cut – The Slits」
  • Island Records『Cut』

コメント

タイトルとURLをコピーしました