
- 発売日: 2019年6月21日
- ジャンル: マス・ロック、ノイズ・ロック、ポストパンク、エクスペリメンタル・ロック、アート・ロック、プログレッシブ・ロック
概要
black midiのデビュー・アルバム『Schlagenheim』は、2010年代末の英国ギター・ロックにおいて、最も異物感の強い作品のひとつである。ロンドンのBRIT School出身の若いミュージシャンたちによって結成されたblack midiは、登場当初から通常のインディー・ロックやポストパンク・バンドとは明らかに異なる存在感を放っていた。彼らの音楽は、ギター・ロックの形式を持ちながら、マス・ロックの複雑なリズム、ノイズ・ロックの暴力性、プログレッシブ・ロックの構築性、ノー・ウェイヴ的な歪さ、即興演奏の緊張感を同時に含んでいる。
『Schlagenheim』というタイトルは、英語として明確な意味を持つ言葉ではなく、架空の地名、施設名、精神状態、あるいはどこか不気味な建築物の名前のように響く。この意味の不確定さは、アルバム全体の性格とよく合っている。本作において、black midiは明確な物語やジャンルの枠を提示するのではなく、聴き手を奇妙な構造物の中に放り込む。部屋は突然広がり、床は傾き、壁は軋み、リズムは予測不能に変形する。『Schlagenheim』は、音楽的な建築物であると同時に、常に崩れかけている迷宮のような作品である。
本作の中心にあるのは、徹底したリズムの異常性である。ドラマーのモーガン・シンプソンは、単なるビートの保持者ではなく、バンドの音楽を駆動し、破壊し、再構築する核として機能している。彼のドラミングはジャズ、フュージョン、マス・ロック、ポストハードコアを横断するような精密さと爆発力を持ち、曲の構造そのものを不安定にする。ギターはリフを提示するだけでなく、切断音、金属的なノイズ、鋭い反復、奇妙な空白を作り出す。ベースは時に曲の重心を支え、時にギターやドラムと同じレベルで攻撃的に動く。
ヴォーカルを担うジョーディ・グリープの声も、本作の異様さを決定づけている。彼の歌唱は伝統的なロック・ヴォーカルの熱さや情緒とは異なり、芝居がかった語り、奇妙な抑揚、突然の叫び、冷たい観察者のような発声を行き来する。歌詞は断片的で、人物、場所、暴力、身体、都市的な不安、グロテスクな状況が現れるが、明確な意味へ収束することは少ない。むしろ、言葉は楽曲の不安定な構造の中で、奇妙なキャラクターや場面を一瞬だけ浮かび上がらせる。
音楽的背景としては、This Heat、Slint、Shellac、The Jesus Lizard、King Crimson、Talking Heads、Battles、Hella、Don Caballero、Drive Like Jehu、初期Foals、そしてノー・ウェイヴやポストパンクの系譜が参照点として挙げられる。ただし、black midiはそれらを分かりやすい形で再現しているわけではない。むしろ、過去の実験的ロックの語彙を、2010年代末のロンドンのライブ・シーンの緊張感の中で再配線している。特に、同時期のblack midi、Black Country, New Road、Squid、Dry Cleaningなどに見られる英国ポストパンク/アート・ロックの新潮流の中でも、『Schlagenheim』は最も破壊的で、最も身体的な作品として位置づけられる。
キャリア上の位置づけとして、『Schlagenheim』はblack midiの原点であり、後の『Cavalcade』や『Hellfire』で展開される演劇性、ジャズ的複雑性、プログレッシブ・ロック的な大構成の基礎を示した作品である。後のblack midiがより明確に物語性や技巧性を前面に出していくのに対し、本作にはライブ・バンドとしての剥き出しの緊張感が強く残っている。音が整理されすぎておらず、曲が常に暴発寸前にある。この危うさが『Schlagenheim』の魅力である。
本作は、ギター・ロックが2010年代末にどのような形で更新され得るかを示したアルバムでもある。ロックの伝統的な快楽であるサビ、メロディ、歌詞の共感、直線的なビートは、ここではしばしば解体される。だが、それは単に難解さを目指したものではない。むしろ、身体を揺さぶるリズム、音の衝突、予測不能な展開によって、別種の快楽が生まれている。『Schlagenheim』は、ロックを知的な構造物としても、肉体的な衝撃としても成立させた作品である。
全曲レビュー
1. 953
オープニング曲「953」は、アルバムの開始と同時に聴き手をblack midiの異様な世界へ叩き込む楽曲である。冒頭のギター・リフは鋭く、硬く、どこか機械的でありながら、人間の手による不安定な歪みを持っている。ドラムが加わると、曲は一気に複雑な運動を始め、通常のロック・ソングの安定した足場を拒否する。
音楽的には、マス・ロック的な変拍子感、ノイズ・ロック的な暴力性、ポストパンク的な直線性が同時に存在している。リフは反復されるが、その反復は安心を与えるものではない。むしろ、何度も同じ角度で聴き手を切りつけるように響く。モーガン・シンプソンのドラムは、単にリズムを支えるのではなく、曲の輪郭を絶えず揺さぶる。
ジョーディ・グリープのヴォーカルは、ここで非常に芝居がかっている。歌というより、奇妙な物語の語り手、あるいは壊れたアナウンサーのように聞こえる。歌詞は明確なストーリーを提示しないが、数字のタイトルと断片的な言葉によって、無機質なシステム、都市的な圧力、制御不能な機械のようなイメージが浮かぶ。
「953」は、black midiのデビュー・アルバムの冒頭として完璧である。ここでは、バンドの主要な特徴である複雑なリズム、鋭いギター、演劇的な声、暴力的な緊張感がすべて提示される。この曲を聴いた時点で、『Schlagenheim』が通常のインディー・ロック作品ではないことが明らかになる。
2. Speedway
「Speedway」は、タイトルが示す通り、速度、移動、機械、車両、都市的な流れを連想させる楽曲である。しかし、ここでの速度は単純な疾走感ではない。むしろ、速度の中で何かが歪み、感覚が麻痺し、空間が不安定になっていくような印象がある。
サウンドは前曲「953」に比べて抑制されているが、その分、不穏な緊張が強い。ギターやリズムは隙間を多く残し、音の配置は冷たく、乾いている。曲は暴力的に爆発するというより、奇妙な低温状態のまま進む。ここにはポストパンク的な反復と、ミニマルな緊張感がある。
歌詞では、移動する身体や風景、あるいは無機質なシステムの中に置かれた人間の感覚が示唆される。Speedwayという言葉は、レース場や高速道路のような場所を思わせるが、black midiの手にかかると、それは娯楽やスピードの快楽ではなく、制御された暴力や近代的な移動の不気味さを帯びる。
この曲の重要性は、black midiが常に大音量で攻撃するバンドではないことを示す点にある。彼らは音数を減らし、空白を作ることで、別種の不安を生み出すことができる。「Speedway」は、アルバム序盤に冷たい陰影を与え、次の「Reggae」へ向けて緊張を持続させる。
3. Reggae
「Reggae」というタイトルは、非常に挑発的である。実際の曲は一般的なレゲエとは大きく異なり、タイトルと内容のずれがblack midiらしいユーモアと不穏さを生んでいる。もちろん、リズムの隙間やオフビート的な感覚に、レゲエへのねじれた参照を感じることはできる。しかし、それは敬意を込めた再現というより、ジャンル名そのものを異物として配置しているように響く。
音楽的には、ギターの硬質な反復、ドラムの奇妙な揺れ、ベースの緊張感が中心となる。曲はどこかぎこちなく、身体が自然に踊るというより、関節が別々の方向へ動かされるような不安定なグルーヴを持つ。black midiはここで、グルーヴという概念を気持ちよく流すのではなく、ぎくしゃくした身体性として再構築している。
ヴォーカルは抑制されながらも奇妙な存在感を放つ。言葉は断片的で、聴き手に明確な感情移入を許さない。レゲエというジャンルが本来持つ共同体性や開放感とは対照的に、この曲には疎外感と硬直がある。その対比が、本曲のブラックユーモアを形成している。
「Reggae」は、black midiのジャンル感覚の歪さをよく示す曲である。彼らはジャンルを尊重しながら再現するのではなく、タイトル、リズム、音の断片として扱い、それを奇妙な構造物の中に組み込む。その結果、聴き手は「これは何の音楽なのか」という問いを常に突きつけられる。
4. Near DT, MI
「Near DT, MI」は、アルバムの中でも特に強烈な楽曲のひとつである。タイトルは「ミシガン州デトロイト近郊」を示す略記として読める。デトロイトという地名は、工業都市、荒廃、労働、資本主義の栄光と衰退、都市的な暴力を連想させる。本曲の荒々しい音像は、そのイメージと密接に結びついている。
音楽的には、短く、激しく、爆発的である。ギターは鋭く歪み、ドラムは凄まじい密度で叩き込まれ、ベースは曲全体を重く押し出す。アルバムの中でも特にハードコアやノイズ・ロックに近いエネルギーを持つ曲であり、聴き手にほとんど猶予を与えない。
歌詞では、水、都市、災害、社会的な危機が示唆される。ミシガン州という文脈から、フリントの水道危機を連想させる要素もあり、身体とインフラ、生活と政治が結びつく。不安定な社会構造が、人間の身体に直接影響を及ぼすという感覚が、この曲にはある。
「Near DT, MI」は、『Schlagenheim』の中で最も直接的に社会的な怒りを感じさせる曲でもある。ただし、その怒りはスローガンとして整理されるのではなく、音の暴力として表現される。曲の短さも重要である。長く展開するのではなく、一瞬で炎上し、焦げ跡だけを残すような楽曲である。
5. Western
「Western」は、アルバムの中でも比較的長尺で、構成の変化が大きい楽曲である。タイトルは西部劇、西洋、あるいは西へ向かう運動を連想させる。black midiの楽曲において、タイトルはしばしば直接的な説明ではなく、奇妙な場面設定として機能する。この曲でも「Western」という言葉は、広大な空間、荒野、神話、暴力、移動のイメージを呼び起こす。
音楽的には、静かな部分と激しい部分の対比が印象的である。冒頭では比較的抑制された演奏が続き、ギターとヴォーカルが不穏な空間を作る。やがて曲は強度を増し、リズムが複雑化し、バンド全体が荒々しく展開していく。この構成は、black midiが単に奇抜なリフを並べるだけのバンドではなく、長い緊張の流れを設計できることを示している。
歌詞では、人物、場所、移動、暴力の気配が断片的に現れる。西部劇的な神話は、英雄性と暴力、自由と略奪を同時に含む。black midiはそのイメージを直接再現するのではなく、音楽の中に歪んだ風景として配置している。曲の中盤以降の展開は、安定した地平線が崩れ、荒野がノイズに変わっていくような感覚を与える。
「Western」は、『Schlagenheim』の中でも特にアルバム的な広がりを持つ楽曲である。短い衝撃曲ではなく、時間をかけて空間を歪ませる曲であり、後のblack midiがより大きな構成へ向かう予兆を感じさせる。
6. Of Schlagenheim
「Of Schlagenheim」は、アルバム・タイトルを含む楽曲であり、本作の中心的な謎を担う曲である。タイトルは「Schlagenheimの」「Schlagenheimについて」といった意味に読めるが、そもそもSchlagenheimが何であるかは明確にされない。地名なのか、精神状態なのか、架空の施設なのか、人物なのか。曲はその不確定な場所の内部を音で描くように進む。
音楽的には、非常に不安定で、ギターとドラムの細かな動きが曲を奇妙に変形させる。リズムは直線的ではなく、断続的に切り替わり、聴き手は安定した拍を掴みにくい。ヴォーカルは語りと歌の間を揺れ、まるで奇妙な建物の案内人のように響く。
歌詞では、場面や人物が断片として現れるが、それらは一つの物語にはまとまらない。むしろ、聴き手はSchlagenheimという不可解な空間を、断片的な映像として体験することになる。ここでの言葉は、説明ではなく、音楽の迷宮性を増幅する装置である。
この曲は、アルバム全体の概念を象徴している。『Schlagenheim』とは何かという問いに答えるのではなく、その問いそのものを音楽化している。black midiの魅力は、意味を明確に提示しないことではなく、意味が生成される寸前の混乱を高い演奏力で維持することにある。「Of Schlagenheim」は、その核心を示す楽曲である。
7. bmbmbm
「bmbmbm」は、black midi初期を象徴する代表曲であり、アルバムの中でも最も異様で中毒性の高い楽曲である。タイトルは言葉というより音そのものであり、反復される低音や機械的な響きを視覚化したようにも見える。この曲は、black midiの不条理なユーモア、反復の暴力、ミニマルな構造が最も分かりやすく表れた曲である。
音楽的には、極めて単純なベース・リフが執拗に反復される。その上にギター、ドラム、声が少しずつ異常な緊張を加えていく。曲は複雑なコード進行や派手なメロディではなく、ひとつの反復をどこまで奇妙に、どこまで不穏にできるかに集中している。このミニマルな構造が、逆に強烈なインパクトを生む。
ヴォーカルは非常に演劇的で、不気味な語りが中心となる。歌詞に登場する「彼女はマグネシウム製の目的を持って動く」といった奇妙なイメージは、明確な意味を持つというより、言葉の異物感そのものが魅力になっている。人物描写はグロテスクで、機械的で、人間的でありながら人間離れしている。
「bmbmbm」は、ライブでも大きな存在感を持つ曲であり、black midiが初期にどれほど異様なバンドとして受け取られたかを理解するうえで重要である。単純な反復が、演奏の強度と声の異常性によって、ほとんど儀式的な圧力へ変わる。この曲は、『Schlagenheim』の中でも最も即物的で、最も記憶に残る楽曲である。
8. Years Ago
「Years Ago」は、アルバム終盤に置かれた短く鋭い楽曲である。タイトルは「何年も前」を意味し、過去や記憶を示唆するが、曲そのものは懐古的な温かさとは無縁である。むしろ、過去が突然断片として襲ってくるような緊張感がある。
音楽的には、荒々しく、焦燥感に満ちている。ギターは鋭く、リズムは不規則で、ヴォーカルも不安定に揺れる。曲は短時間で複数の表情を見せ、安定する前に終わってしまう。これは、記憶の断片性とも重なる。過去は整った物語としてではなく、突然の音や映像として戻ってくる。
歌詞では、過去への言及があるものの、それは明確な回想ではない。むしろ、何かがかつて起こったという痕跡だけが残り、その意味は曖昧である。black midiは、記憶を感傷的に扱うのではなく、不気味で不連続なものとして提示する。
「Years Ago」は、アルバム終盤の緊張を再び高める曲であり、次の「Ducter」へ向けて聴き手の感覚をさらに不安定にする。短い曲ながら、black midiの切断的な構成力がよく表れている。
9. Ducter
ラスト曲「Ducter」は、『Schlagenheim』を締めくくるにふさわしい、複雑で破壊的な楽曲である。アルバム全体で提示されてきたリズムの異常性、ギターの暴力性、ヴォーカルの演劇性、構成の予測不能さが、この曲で再び集約される。タイトルの意味は明確ではないが、その不明瞭さも含めて、アルバムの終曲にふさわしい。
音楽的には、序盤から緊張感が高く、リズムとギターが細かく絡み合う。曲は何度も形を変え、静と動、緊張と爆発を行き来する。特に終盤に向けての高まりは圧倒的で、バンド全体が崩壊寸前まで加速していくように聞こえる。だが、実際には演奏は極めて精密に制御されており、混沌と構築の境界を保っている。
歌詞やヴォーカルは、ここでも明確な物語よりも、声の質感と不穏なイメージを重視している。ジョーディ・グリープの歌唱は、狂気じみた語り手、観察者、あるいは舞台上の奇妙な人物として機能する。曲が進むにつれて、言葉は意味よりも音の一部となり、バンド全体の暴走に巻き込まれていく。
「Ducter」は、アルバムを綺麗にまとめる曲ではない。むしろ、最後にもう一度、black midiの不安定なエネルギーを最大限に放出し、聴き手を混乱の中に残す。『Schlagenheim』という建物は、この曲で完成するのではなく、轟音とともに一部が崩れ落ちる。その崩壊感こそが、本作の終わり方としてふさわしい。
総評
『Schlagenheim』は、black midiがデビュー時点でいかに異質なバンドであったかを強烈に示すアルバムである。ここには、一般的なロック・アルバムに期待される分かりやすいメロディ、共感しやすい歌詞、安定したビート、カタルシスのある展開は少ない。代わりに、変則的なリズム、金属的なギター、演劇的なヴォーカル、突然の爆発、冷たい空白、奇妙なユーモアがある。
本作の最大の魅力は、混沌と制御の均衡にある。一聴すると、曲は暴発し、バンドは不規則に動いているように感じられる。しかし実際には、演奏は非常に精密であり、各楽器が高い技術と集中力を持って絡み合っている。black midiは、単に騒がしいバンドではない。彼らは混沌を作るために、極めて高度な制御を行うバンドである。この矛盾が『Schlagenheim』の核心である。
リズム面では、モーガン・シンプソンの存在が非常に大きい。彼のドラミングは、black midiの音楽を通常のギター・ロックから引き離している。ビートは直線的に進むだけではなく、曲の構造を引き裂き、別の方向へ曲げる。ギターやベースもまた、リズム楽器として機能する場面が多く、バンド全体が複雑な打楽器群のように動く。これにより、本作は頭で聴く難解な音楽であると同時に、身体に直接作用する音楽にもなっている。
ヴォーカル面では、ジョーディ・グリープの異様な声が重要である。彼の歌唱は、エモーショナルな自己表現ではなく、キャラクターの演技に近い。そのため、歌詞の主人公や語り手は常に信用できない。何かを語っているようで、実際には場面だけを提示し、意味をずらしていく。この不安定な語りは、後のblack midiが『Hellfire』などでさらに発展させる演劇的・物語的な方向の原型である。
歌詞面では、明確な社会批評や私的告白が中心ではないものの、都市、身体、暴力、機械、奇妙な人物、崩壊した風景が断片的に現れる。これらは一つの物語にまとまらないが、アルバム全体としては、近代的な都市生活の不安や、身体がシステムの中で奇妙に変形していく感覚を作り出している。『Schlagenheim』は、感情を説明するのではなく、異常な環境を構築するアルバムである。
本作は、2010年代末の英国アート・ロック/ポストパンクの再興を象徴する作品でもある。black midiは、同時期のBlack Country, New RoadやSquidなどとともに、ギター・バンドがまだ新しい形を取り得ることを示した。ただしblack midiの場合、その方法はより過激で、技巧的で、ノイズに近い。彼らはロックの伝統を蘇らせるのではなく、過去の実験的ロックの断片を過剰な演奏技術と奇妙な構成によって再組成した。
『Schlagenheim』は、black midiの後続作と比べると、まだ荒く、混沌としている。『Cavalcade』ではよりプログレッシブでジャズ的な構成が洗練され、『Hellfire』では演劇性と物語性が前面に出る。それに対して本作は、ライブ・バンドとしての衝撃、予測不能な音の暴力、剥き出しの緊張感が強い。完成された建築物というより、まだ建設中で、火花が散り、鉄骨がむき出しの構造物である。その未完成感が、デビュー作としての強度につながっている。
日本のリスナーにとって本作は、聴きやすいロック・アルバムではない。歌メロやサビを中心に聴くと、取っつきにくく感じられる可能性が高い。しかし、リズムの複雑さ、演奏の緊張感、ノイズの質感、ポストパンクやプログレッシブ・ロックの現代的な更新に関心があるリスナーにとっては、非常に刺激的な作品である。Battles、Slint、King Crimson、This Heat、The Jesus Lizard、Hella、Don Caballeroなどに親しんでいる場合、本作の異様な構造をより深く楽しめる。
後の音楽シーンへの影響という点では、『Schlagenheim』は、若いギター・バンドが高度な演奏力と実験性を武器に、インディー・ロックの停滞感を突破できることを示した作品である。2010年代の終わりに、ロックは何度も「古い形式」と見なされていた。しかしblack midiは、ロックのフォーマットを維持しながら、その内部をリズム、ノイズ、演劇性、構造の面から徹底的に変形させた。本作は、その可能性を最初に大きく提示したアルバムである。
総じて『Schlagenheim』は、black midiの衝撃的な出発点であり、2010年代末の実験的ギター・ロックを代表する重要作である。美しく整ったアルバムではなく、歪で、硬く、神経質で、暴力的で、時に滑稽である。しかし、その歪さこそが本作の魅力であり、ロックがまだ未知の形へ変形できることを証明している。『Schlagenheim』は、音楽的な快適さを拒否しながら、別種の快楽を生み出すアルバムである。
おすすめアルバム
1. black midi – Cavalcade
2021年発表のセカンド・アルバム。『Schlagenheim』のノイズ的な荒々しさを引き継ぎながら、よりプログレッシブ・ロック、ジャズ、チェンバー・ロック的な構成へ進んだ作品である。black midiの演奏力と構築性がさらに洗練された重要作である。
2. black midi – Hellfire
2022年発表のサード・アルバム。演劇的な語り、物語性、ジャズ的な複雑さ、プログレッシブ・ロック的な過密さがさらに強まった作品である。『Schlagenheim』で提示された異様なヴォーカルと構成力が、より明確なコンセプトへ発展している。
3. Slint – Spiderland
1991年発表のポストロック/マス・ロックの古典。静と動の極端な対比、語りに近いヴォーカル、不穏な空間構成は、black midiの緊張感を理解するうえで重要な参照点となる。『Schlagenheim』よりも静的だが、構造的な不安が共通している。
4. This Heat – Deceit
1981年発表の実験的ポストパンクの重要作。冷戦期の不安、変則的なリズム、テープ編集、ノイズ、ポストパンク的な緊張感が融合している。black midiの知的で不安定なアート・ロック感覚の背景を理解するために非常に関連性が高い。
5. The Jesus Lizard – Goat
1991年発表のノイズ・ロック作品。鋭いギター、変則的なリズム、肉体的なヴォーカル、緊張感のあるバンド・アンサンブルが特徴である。『Schlagenheim』の暴力的なギター・ロック感覚や、聴き手を不安にさせるグルーヴに通じる作品である。

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