
発売日:2013年4月12日 ジャンル:Alternative Rock / Pop Rock
概要
Fall Out Boyの5作目Save Rock and Rollは、2009年から活動休止状態にあったバンドが約4年ぶりに復帰して発表したアルバムである。2000年代にはポップ・パンクやエモの代表的な存在として成功した彼らだが、本作では過去のスタイルをそのまま再現しなかった。Patrick Stumpの大きく伸びる歌声とPete Wentzの言葉を中心に置きながら、シンセサイザー、打ち込み、ヒップホップやR&Bの感覚を大胆に取り込み、ギターだけに頼らないポップ作品へ進んでいる。
タイトルの「ロックンロールを救え」は、昔ながらのロックへの回帰宣言として受け取ると本作の音とは噛み合わない。むしろジャンルの境界を守るのではなく、それを壊しながらバンドが生き残るという姿勢を表した言葉と考える方が自然である。Butch Walkerが中心となってプロデュースし、2 Chainz、Big Sean、Courtney Love、Elton Johnと出自の異なるゲストが参加する構成もその考えを補強する。活動休止を経た再出発を扱いながら、懐古ではなく2010年代のポップ・ミュージックへ自分たちを接続し直した作品である。
全曲レビュー
1. 「The Phoenix」
ストリングスの鋭いフレーズと巨大なドラムが冒頭から鳴り、復帰作の開始を派手に宣言する。ギターを中心に勢いを作っていた初期とは異なり、オーケストラ的な音、電子的な低音、声の加工まで一つのリズムとして組み込まれている。灰から復活する不死鳥という題材は、活動再開したバンドの状況とも重ねて聞けるが、歌詞は単純な自伝には収まらない。Stumpの高音がサビで一気に開き、本作の過剰なスケールを最初に提示する。
2. 「My Songs Know What You Did in the Dark (Light Em Up)」
重いビートと短いギターのアクセントを組み合わせ、反復する掛け声によってサビを作る。複雑なコードや速い演奏よりも、数秒で覚えられるリズムと声の強さを優先した作りで、従来のFall Out Boyとは違う復帰を強く印象づけた。火や暗闇のイメージが並ぶ歌詞には破壊と再生の両方があり、過去を燃やして進むようにも読める。ロックバンドの編成を保ちながら、ヒップホップ的なビート感覚へ踏み込んだ一曲だ。
3. 「Alone Together」
電子音を含んだ明るいアレンジと、孤独を前提としたタイトルの組み合わせが面白い。「一緒に孤独でいる」という矛盾した言葉によって、他人とつながりたい気持ちと、完全には理解し合えない感覚を同時に扱っている。ヴァースでは比較的音数を抑え、サビになるとStumpの声とコーラスを大きく広げるため、メロディの親しみやすさが際立つ。復帰作の中でも特にポップへ開かれた曲である。
4. 「Where Did the Party Go」
ベースが前面に出たファンク寄りのリズムによって、前3曲の巨大なロックサウンドから方向を変える。タイトルは楽しいパーティーの終わりを探す言葉に見えるが、歌詞には時間の経過や人間関係への戸惑いが入り込み、かつてと同じ場所には戻れない感覚が漂う。StumpのR&Bからの影響が感じられる滑らかな歌唱も、ギター中心だった初期との差を強調する。活動休止後の変化を、説教ではなくダンスできる曲として聞かせるのが巧みだ。
5. 「Just One Yesterday」
Foxesを迎えたミッドテンポ曲で、ピアノと重いビートを軸に、Stumpと女性ボーカルの声を重ねていく。過去を取り戻したいという欲望を扱いながら、その感情には愛情だけでなく執着や後悔も混じる。サビは大きいが演奏を必要以上に速くせず、声の伸びとメロディによって高揚を作るため、前半の攻撃的な曲とは違う形でスケールを出している。アルバムの感情的な側面を前へ出す転換点である。
6. 「The Mighty Fall」
ギターの鋭いフレーズと重量感のあるビートを組み合わせ、Big Seanのラップを途中へ差し込む。ロックとヒップホップを別々の要素として交互に置くのではなく、最初からビート中心の曲として設計されているため、ゲスト部分も構成に溶け込んでいる。歌詞には欲望や失敗、自分で危険な方向へ進んでしまう感覚があり、タイトルの「転落」と結びつく。Fall Out Boyが復帰に際してジャンルの境界を気にしていなかったことが端的に表れた曲だ。
7. 「Miss Missing You」
派手なゲストや特殊な構成から離れ、メロディの強さを中心に据えた一曲である。別れた相手そのものだけでなく、その相手を恋しく思っていた状態まで失いつつあるという視点がタイトルに込められている。時間が傷を癒やすという単純な話ではなく、痛みが薄れることで過去の自分まで遠くなる寂しさを描くところにWentzらしい言葉のひねりがある。明るく上昇するサビとの対比によって、喪失感を過度に沈んだ曲にはしていない。
8. 「Death Valley」
電子的な低音と加工されたボーカルを強く使い、途中ではクラブ・ミュージックに近い感触まで踏み込む。バンド演奏の自然な響きを守るより、音を切断したり歪めたりして刺激を作るプロダクションが主役だ。危険な関係へ自ら入り込んでいくような歌詞と、落ち着く場所のないアレンジがよく対応している。アルバム中盤以降でも新しい音色を投入することで、似たテンポのポップ・ロックが続くのを避けている。
9. 「Young Volcanoes」
アコースティックギターと手拍子を思わせるリズムを使い、それまでの密度の高い音から急に風通しを良くする。Stumpも力いっぱい張り上げるのではなく、軽い声でメロディを運び、集団コーラスが親しみやすさを加える。若さや自由を祝うように聞こえる一方、タイトルの火山にはいつ爆発するか分からない危うさもある。電子音を大量に使った前曲の直後に置かれることで、本作の音楽的な振れ幅が特に分かりやすくなる。
10. 「Rat a Tat」
Courtney Loveの語りに近いボーカルから始まり、鋭い電子音とドラムがせわしなく動く。整ったポップソングというより、ノイズや声を次々にぶつけて混乱そのものを演出する曲で、Loveの荒れた声とStumpの正確な歌唱の違いも強い効果を生む。歌詞には世代、反抗、自己破壊を思わせる断片が並び、終盤へ来ても安定した場所へ着地しない。アルバムの過剰さを意図的に極端なところまで押し進めた一曲である。
11. 「Save Rock and Roll」
Elton Johnを迎えたタイトル曲は、ピアノを中心にした大きなバラードとしてアルバムを締める。ここで語られる「ロックンロール」は特定のギターサウンドというより、周囲の期待に従わず音楽を続ける態度として扱われている。Stumpの高く張った声にJohnの太い声が加わることで世代差そのものがアレンジの一部となり、最後には合唱的なスケールへ広がる。ジャンルを混ぜ続けたアルバムの最後でこのタイトルを掲げることが、本作の意図を最も明確にしている。
総評
Save Rock and Rollは、Fall Out Boyが過去の成功を再現するのではなく、自分たちが活動していなかった数年間に変化したポップ・ミュージックへ飛び込んだ作品である。初期のようにギター、ベース、ドラムだけで曲の勢いを作る場面は減り、ストリングス、シンセ、サンプル的な音、巨大な低音や加工されたボーカルまで同列に扱う。ロックバンドのアルバムというより、ロックバンドを核にして作られた現代的なポップ作品と考えると、その設計が分かりやすい。
それでもFall Out Boyらしさが消えない最大の理由は、Stumpの歌とWentzの言葉にある。StumpはR&B的な細かな節回しからロックの強い高音まで使い分け、情報量の多いアレンジの上でもメロディを前へ出す。一方の歌詞では、復活や成功を無条件に祝うのではなく、過去への執着、自滅、孤独、年齢を重ねることへの戸惑いが繰り返し現れる。音は以前より派手になったが、感情にはむしろ不安定さが残されている。
ゲストの多さや曲ごとの音色の変化は、本作の長所であると同時にまとまりを弱める部分でもある。ヒップホップ、ファンク、エレクトロニック・ポップ、アコースティックな曲まで短い間隔で移動するため、一つのバンドサウンドを深く追求した作品ではない。しかし、その落ち着かなさ自体が復帰作としては意味を持つ。過去のFall Out Boy像を慎重に守るより、「現在なら何ができるか」を曲ごとに試した結果として聞けば一貫している。
そしてタイトルに反して、本作はロックを過去の形のまま保存しようとはしない。2 ChainzとElton Johnが同じアルバムに登場し、ギターと電子ビートが同じ重要度で使われること自体が、その答えになっている。2000年代のポップ・パンク/エモの成功から距離を置き、2010年代の巨大なポップサウンドへ移行したことで、Fall Out Boyは第二期の活動方法をここで確立した。その後の作品を理解するうえでも、単なる再結成盤ではなく、バンドの音楽的な前提を組み直した転換点である。
おすすめアルバム
Folie à Deux by Fall Out Boy
活動休止前最後のアルバムで、ポップ・パンクの枠から外へ向かう複雑な作曲やソウル的な歌唱がすでに目立つ。Save Rock and Rollの大胆なジャンル混合が突然生まれたものではないことが分かる。
American Beauty/American Psycho by Fall Out Boy
本作に続くアルバムで、電子ビートやサンプリングをさらに前面へ出し、アリーナ向けの巨大なポップへ進んだ。復帰後に選んだ方向をFall Out Boyがどこまで押し広げたかを確認できる。
Vices & Virtues by Panic!
同じ2000年代のエモ/ポップ・パンク周辺から出発しながら、装飾的なアレンジと強いポップメロディへ進んだ作品。ロックの編成を守りつつジャンルの幅を広げる方法を比較できる。
My Beautiful Dark Twisted Fantasy by Kanye West
音楽性は異なるが、多数のゲスト、巨大なビート、ロックやソウルを含む異ジャンルの素材を一つのポップ作品へ集約する発想に接点がある。本作の過剰なプロダクションを2010年代初頭の流れから捉えやすい。
The Black Parade by My Chemical Romance
2000年代の同時代シーンから生まれながら、パンクだけでは説明できない大規模なロックへ到達した作品。方法は異なるものの、出自となったジャンルの境界を越え、劇的な歌とアレンジでより広い聴衆へ届こうとする姿勢が共通している。

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