アルバムレビュー:Sam’s Town by The Killers

発売日: 2006年10月2日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハートランド・ロック、ニュー・ウェーブ


ネオンの向こうに見えるアメリカ——The Killersが描いた“砂漠の叙事詩”

デビュー作Hot FussでUK的ポストパンク・リヴァイバルの旗手として華々しく登場したThe Killersが、その次に選んだ道は、なんと“アメリカ”を正面から歌うことだった。
2006年発表のSam’s Townは、ハートランド・ロックとグラム・ロック、そしてバンド自身の出自であるラスベガスのネオン感覚を融合させた、非常に野心的でドラマティックな作品である。

タイトルは、フロントマンのブランドン・フラワーズが幼少期に親しんだラスベガス郊外のカジノ“Sam’s Town”から。
つまり本作は、彼らにとっての“ふるさと”=アメリカ西部の都市と郊外、夢と現実が交錯する場所をコンセプトに据えた“パーソナルで壮大なロック叙事詩”なのだ。

プロデューサーにFloodとAlan Moulderという名匠を迎え、サウンド面でも厚みと広がりを獲得。
Bruce SpringsteenやU2Queenの影響を咀嚼しながら、The Killers独自の世界観へと昇華している。


全曲レビュー

1. Sam’s Town

アルバムの冒頭を飾るアンセム。
小さな街に生きる者の希望と葛藤が、力強いバンドサウンドとともに爆発する。

2. Enterlude

わずか1分強のインタールードだが、「We hope you enjoy your stay」と繰り返されるフレーズが、アルバム全体を包み込む“演出”のように機能。

3. When You Were Young

本作最大のヒット曲。
U2を彷彿とさせるギターサウンドと、青年期のノスタルジアを切り裂くようなコーラス。
「彼はイエスのような男じゃなかった」というラインが象徴的。

4. Bling (Confession of a King)

ミドルテンポで進行する、宗教的モチーフを纏った内省的なナンバー。
自身の信仰と野心、過去と現在が交錯する。

5. For Reasons Unknown

ダンサブルでメロディアスな中にも、不安と混乱がにじむ。
愛がすり抜けていく理由を掴めずにいる“叫び”が胸を打つ。

6. Read My Mind

Sam’s Townの中核を担う名バラード。
「好きな星座は“見えるもの全部”」というフレーズが、広大な心象風景を描く。
夢と現実の間で揺れる感情の機微が、美しく響く。

7. Uncle Jonny

ドラッグ中毒の叔父に捧げられた、ヘヴィかつ皮肉なロックチューン。
軽妙なグルーヴと深刻なテーマのギャップが印象的。

8. Bones

ホーンセクションとスウィングするリズムが特徴の、やや異色のトラック。
死と性愛を交錯させたリリックが、どこかエルヴィス的な幽霊性を帯びている。

9. My List

しっとりとしたラブソング。
ストリングスを控えめに配したアレンジの中、ブランドンの歌声が温かく響く。

10. This River Is Wild

リバーブと疾走感に満ちたアメリカ的ロックナンバー。
社会と個人の間で揺れる自己を、“野生の川”にたとえる。

11. Why Do I Keep Counting?

数字にすがるような不安と希望の入り混じったバラード。
オーケストレーションが壮麗さと不安定さを同時に演出している。

12. Exitlude

“Enterlude”の再演として、リスナーを“物語の出口”へ導く。
旅の終わりと始まりを曖昧に繋げる、美しい終幕。


総評

Sam’s Townは、The Killersが“UKから見たアメリカ”という立ち位置を脱し、アメリカに生きる若者としての自分たちを直視した作品である。
そこには夢の都市ラスベガスの虚飾と現実、青春の痛み、そして世界への眼差しが複雑に重なっている。

それをグラマラスなギターと壮麗なアレンジで包み込みつつも、どこか泥臭く、叙情的で、そしてロマンチック。
The Killersはここで、ポストパンクの枠を飛び越え、“アメリカン・ロックの語り手”として新たな地平を切り拓いた。
この作品が過小評価されることがあっても、その野心と誠実さは、間違いなく21世紀のロックにおける重要なマイルストーンである。


おすすめアルバム

  • Born to Run by Bruce Springsteen
     ——ハートランド・ロックの原点にして、Sam’s Townの精神的祖先。

  • The Joshua Tree by U2
     ——“アメリカ”を外側から捉えた壮大なロック叙事詩。音像にも共通点多数。

  • Hot Fuss by The Killers
     ——本作との対比で聴くと、彼らの進化の軌跡がより鮮明に見える。

  • Achtung Baby by U2
     ——ポップとロック、内省と祝祭を両立させた90年代の傑作。

  • Heartbreaker by Ryan Adams
     ——アメリカーナ的叙情とロックの質感を併せ持つ、静かな魂の歌。

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