
発売日:2017年9月22日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ポップ・ロック、ニューウェイヴ、シンセロック、アリーナ・ロック
概要
The KillersのWonderful Wonderfulは、2017年に発表された5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのキャリアにおいて内省性とアリーナ・ロック的なスケールが強く結びついた作品である。The Killersは2004年のデビュー作Hot Fussで、ニューウェイヴ、ポストパンク・リヴァイヴァル、シンセポップ、ラスベガス的な華やかさを融合し、「Mr. Brightside」「Somebody Told Me」といった楽曲によって2000年代ロックの象徴的な存在となった。続くSam’s Townでは、Bruce Springsteenやアメリカン・ロックの影響を前面に出し、ネオンの都市感覚から砂漠、道、信仰、労働者的なロマンへと視野を広げた。
その後のDay & Ageでは再びシンセポップやダンス的な要素を強め、Battle Bornではアリーナ・ロックとしての壮大さを押し出した。そうした流れの後に登場したWonderful Wonderfulは、過去のThe Killersの複数の要素を引き継ぎながらも、より家庭的で、精神的で、時に不安定な内面へ踏み込んだアルバムである。特にBrandon Flowersの歌詞には、妻の精神的な苦悩、信仰、夫婦関係、男性性への疑問、成熟、自己批評が深く反映されている。
本作は、The Killersのアルバムとして初めてアメリカのBillboard 200で1位を獲得した作品でもある。これは商業的な成功という点で重要だが、内容面では単純なヒット狙いのアルバムではない。むしろWonderful Wonderfulは、The Killersが自分たちの華やかなロック・バンド像を維持しながら、その内側にある不安や痛みを表に出した作品である。大きなコーラス、シンセサイザー、ギター、厚いプロダクションは健在だが、その中心には、以前よりも傷つきやすい声がある。
タイトルのWonderful Wonderfulは、一見すると祝祭的で明るい言葉である。「素晴らしい、素晴らしい」と反復されるこの言葉は、The Killersのアリーナ・ロック的な高揚感にも合っている。しかし本作における「wonderful」は、単純な幸福ではない。人生は素晴らしいと言い聞かせるような言葉であり、苦しみや不安の中で、それでも何かを肯定しようとする祈りに近い。タイトル曲の重く儀式的な響きを聴くと、この言葉が明るい標語ではなく、むしろ暗い砂漠の中で発せられる呪文のように機能していることが分かる。
音楽的には、本作は非常に多様である。タイトル曲「Wonderful Wonderful」では重いベースと民族的・儀式的な雰囲気が強く、「The Man」ではファンク、ディスコ、ニューウェイヴを取り入れた自己風刺的なダンス・ロックが展開される。「Rut」や「Some Kind of Love」では、柔らかく内省的なシンセ・バラードが中心となる。一方、「Run for Cover」や「Tyson vs Douglas」では、従来のThe Killersらしい疾走感とドラマ性が戻ってくる。つまり本作は、アリーナ・ロックのバンドが自分たちの幅を再確認しながら、より個人的なテーマを扱ったアルバムである。
歌詞面では、Brandon Flowersの自己像の変化が非常に重要である。初期のThe Killersには、嫉妬、欲望、若さ、夜の街、ドラマティックな逃走感があった。Sam’s Town以降は、信仰、故郷、労働、アメリカ的な理想が加わった。Wonderful Wonderfulでは、それらに加えて、夫としての責任、家庭内の苦悩、男性的な強さの虚構、自分の限界を認めることが中心に置かれている。「The Man」では男性的な自信を過剰に演じながら、それを風刺する。「Rut」では苦しみから抜け出せない人への支えが歌われる。「Some Kind of Love」では弱さを持つ相手を無条件に肯定しようとする。
このアルバムは、The Killersの中でも特に成熟した作品である。ただし、その成熟は落ち着いた完成度だけを意味しない。曲によっては過剰で、曲調の振れ幅も大きい。だが、その不均衡は、バンドが大きなロック・サウンドの中で個人的な痛みを扱う難しさを示している。The Killersはここで、従来の「大きな歌」を小さな家庭の苦しみへ向けようとしている。その試みが、本作を単なるポップ・ロック作品以上のものにしている。
全曲レビュー
1. Wonderful Wonderful
アルバム冒頭のタイトル曲「Wonderful Wonderful」は、The Killersの作品としては非常に異色の重さを持つ楽曲である。一般的なアリーナ・ロックの明るい開幕ではなく、低くうねるベース、広い空間、どこか砂漠的で儀式的な雰囲気がアルバムの扉を開く。タイトルの反復は祝福のようでありながら、不安を抑えるための呪文のようにも響く。
音楽的には、曲全体に不穏な緊張がある。派手なギターや明快なサビで押し切るのではなく、低音と声の存在感で世界を作っている。Brandon Flowersのヴォーカルは、導く者のようでもあり、祈る者のようでもある。The Killersが持つラスベガス的な華やかさとは別に、ネバダの砂漠、宗教的な幻視、孤独な儀式のような感覚が強い。
歌詞では、母性的なイメージ、渇き、救済、導きが重なる。誰かを慰め、守り、呼びかけるような言葉が使われているが、その背後には深い不安がある。「素晴らしい」と言うことは、現実が本当に素晴らしいからではなく、そう信じたいからかもしれない。この二重性が曲の核心である。
冒頭曲として「Wonderful Wonderful」は非常に効果的である。アルバムは、明るい勝利の宣言ではなく、暗い場所からの呼びかけとして始まる。この時点で、The Killersが本作で従来よりも深い内面へ向かおうとしていることが示される。
2. The Man
「The Man」は、本作のリード・シングルであり、ファンク、ディスコ、ニューウェイヴ、ロックを組み合わせた非常にキャッチーな楽曲である。タイトルの「The Man」は、強い男、成功者、支配的な男性像を意味する。Brandon Flowersはここで、その男性性を過剰に演じながら、同時にそれを風刺している。
音楽的には、弾むベースライン、ダンサブルなリズム、煌びやかなシンセサイザーが中心で、The Killersの中でもかなりグルーヴ重視の曲である。初期のニューウェイヴ的な華やかさを思わせながら、よりファンク的で自己演劇的な方向へ進んでいる。曲は非常に明るく、ライブ映えするが、その明るさの中に強い皮肉がある。
歌詞では、自分は金も力も魅力もある男だと誇示する語り手が登場する。しかし、その誇示はあまりに過剰で、聴き手には本気の自己称賛というより、男性的な虚勢のパロディとして響く。Brandon Flowersは、若い頃にロックスターとしてまとっていた自信やナルシシズムを、成熟した視点から笑い飛ばしている。
「The Man」は、Wonderful Wonderfulの重要曲である。アルバムが単に重く内省的なだけでなく、自己批評とユーモアを持っていることを示す。The Killersはここで、男性的なロック・スター像を華やかに演じながら、その空虚さを暴いている。
3. Rut
「Rut」は、本作の中でも特に感情的な中心となる楽曲である。タイトルの「rut」は、わだち、抜け出せない状態、精神的な停滞を意味する。Brandon Flowersの妻の苦悩に触発された曲として知られ、アルバム全体の個人的なテーマを明確に示している。
音楽的には、シンセサイザーを中心にした柔らかなバラードであり、The Killersらしい大きなコーラスへ向かう構成を持つ。しかし、曲の感情は派手な高揚よりも、支えること、寄り添うことにある。ヴォーカルは優しく、相手の弱さを責めるのではなく、その状態を理解しようとしている。
歌詞では、抜け出せない苦しみの中にいる人が描かれる。重要なのは、この曲が「頑張ればすぐに抜け出せる」という単純な励ましになっていない点である。Rutとは、一時的な落ち込みではなく、何度も戻ってしまう深い状態である。語り手はその苦しみを完全に解決できないが、それでもそばにいようとする。
「Rut」は、The Killersの成熟を示す曲である。初期のドラマティックな恋愛や嫉妬ではなく、長い関係の中で誰かを支え続けることがテーマになっている。アリーナ・ロック的な大きさが、ここでは非常に個人的な優しさへ向けられている。
4. Life to Come
「Life to Come」は、未来、救済、信仰、約束をテーマにした楽曲である。タイトルは「来たるべき人生」あるいは「これからの命」を意味し、現世の苦しみを超えた希望を連想させる。Brandon Flowersのモルモン信仰を考えると、宗教的な含みも強い。
音楽的には、明るく開かれたサウンドを持ち、シンセサイザーとギターがバランスよく配置されている。The Killersのアリーナ・ロック的な壮大さが比較的素直に出ている曲であり、サビには大きな解放感がある。ただし、その解放感は軽い楽観ではなく、苦しみを経たうえでの希望として響く。
歌詞では、相手を励まし、未来へ向かうことを約束するような言葉が歌われる。現在が困難であっても、まだ人生は続く。まだ別の時間がある。これは夫婦関係や信仰の文脈で読めると同時に、The Killersが得意とする広い意味での希望の歌でもある。
「Life to Come」は、Wonderful Wonderfulの中で希望の側面を担う曲である。暗いタイトル曲や「Rut」の停滞感の後に、ここでは未来への視線が示される。ただし、その未来は簡単に手に入るものではなく、信じ続けることによって辛うじて保たれるものである。
5. Run for Cover
「Run for Cover」は、The Killersらしい疾走感と切迫感を持つロック・ナンバーである。タイトルは「身を隠せ」「逃げろ」という意味を持ち、危険から逃れる緊急性がある。アルバム前半の内省的な流れの中で、バンドのエネルギーを一気に高める曲である。
音楽的には、鋭いギター、推進力のあるドラム、畳みかけるようなヴォーカルが特徴である。初期のThe KillersやSam’s Town期の勢いを思わせる部分があり、ロック・バンドとしての身体性が戻ってくる。サビは大きく開け、ライブでの高揚を想定したような構成になっている。
歌詞では、不誠実な人物、壊れた関係、政治的・個人的な逃避が断片的に描かれる。誰かが責任から逃げ、誰かが傷つき、誰かが危険を察知して走る。The Killersの歌詞にはしばしば映画的な場面転換があるが、この曲もその例である。具体的な物語は断片的だが、緊張感は明確である。
「Run for Cover」は、本作に必要なロック的推進力を与える曲である。The Killersが内省的なテーマを扱いながらも、なお鋭いアリーナ・ロックを鳴らせることを示している。
6. Tyson vs Douglas
「Tyson vs Douglas」は、1990年のMike Tyson対Buster Douglas戦を題材にした楽曲である。この試合は、圧倒的な王者だったTysonが格下と見られていたDouglasに敗れた歴史的な番狂わせとして知られる。Brandon Flowersはこの出来事を、ヒーローの崩壊、無敵だと思っていた存在の敗北、子どもの頃の衝撃として歌っている。
音楽的には、ドラマティックなシンセロックであり、The Killersらしい大きなスケールを持つ。曲は回想的でありながら、サビでは強い感情の高まりを見せる。スポーツの題材を扱っているが、単なるボクシングの歌ではなく、信じていたものが崩れる瞬間を描く楽曲である。
歌詞では、少年時代の記憶と大人になってからの不安が重なる。Tysonの敗北は、無敵の存在などいないという現実を突きつける。これは父親、ヒーロー、信仰、男性性、自分自身の強さへの幻想が壊れることとも重なる。The Killersが本作で扱う「強さの虚構」というテーマと深く結びつく。
「Tyson vs Douglas」は、本作の中でも非常に優れた楽曲である。具体的なスポーツの出来事を、人生における幻滅と成熟の象徴へ変換している。The Killersの物語的なソングライティングの強さがよく表れている。
7. Some Kind of Love
「Some Kind of Love」は、本作の中でも最も優しく、静かな楽曲の一つである。Brian Enoの「An Ending (Ascent)」を参照したようなアンビエント的な質感を持ち、The Killersの通常のロック・サウンドからは大きく距離を取っている。タイトルは「ある種の愛」を意味し、完全ではないが確かに存在する愛を示している。
音楽的には、非常に柔らかく、浮遊感がある。ビートは控えめで、シンセサイザーの広がりと声の重なりが中心になる。Brandon Flowersのヴォーカルは穏やかで、相手を包み込むように歌う。曲全体が、激励ではなく、静かな肯定として機能している。
歌詞では、弱さを抱えた人に対して、その人の中に愛があることを伝えようとする。ここでの愛は劇的なロマンスではなく、壊れやすい人をそのまま受け入れる感情である。精神的な苦しみを抱える相手に向けて、あなたは愛を持っている、あなたは価値があると語りかけるように響く。
「Some Kind of Love」は、本作の核心的なバラードである。The Killersの派手な側面とは対照的だが、アルバムのテーマである支え、優しさ、信仰、脆さを最も繊細に表している。
8. Out of My Mind
「Out of My Mind」は、名声、憧れ、自己認識をテーマにした楽曲であり、The Killersらしい大きなポップ・ロックの感覚を持つ。タイトルは「気が変になる」「頭から離れない」という意味に取れ、恋愛や夢、成功への執着が感じられる。
音楽的には、シンセサイザーとギターが明るく広がり、サビには開放感がある。1980年代的なアリーナ・ポップの影響も感じられ、The Killersが得意とする大きなメロディが前面に出ている。曲調は比較的明るいが、歌詞には自己意識が強くにじむ。
歌詞では、有名アーティストや成功への言及があり、Brandon Flowers自身のロック・スターとしての夢や現実が重ねられる。憧れの存在に近づきたい、認められたいという気持ちは、若い頃の野心を思わせるが、ここでは少し距離を置いて振り返られている。
「Out of My Mind」は、本作の中でThe Killersのポップな魅力を担う曲である。深刻なテーマが多いアルバムの中で、明るさと自己言及的な軽さをもたらしている。ただし、その明るさの奥には、成功への執着とその虚しさも感じられる。
9. The Calling
「The Calling」は、宗教的・預言的な色彩が強い楽曲であり、本作の中でも特に異色の存在である。タイトルは「召命」を意味し、神から呼ばれること、使命を与えられることを連想させる。The Killersの作品には信仰のテーマがしばしば現れるが、この曲ではそれがより直接的かつ劇的に表現されている。
音楽的には、ブルース・ロック的な重さとファンク的なグルーヴがあり、低くうねるようなサウンドが特徴である。曲には演劇的な雰囲気があり、語りや宗教的引用のような要素も含まれる。The Killersの中でもかなりダークで、説教的な響きを持つ曲である。
歌詞では、聖書的なイメージ、罪、使命、堕落、救済の必要性が示唆される。ここでの宗教性は優しい慰めではなく、厳しく問いかける声として現れる。人間は何に呼ばれているのか。自分の使命から逃げていないか。この問いが曲全体を支配している。
「The Calling」は、アルバムの中で評価が分かれやすい曲だが、Brandon Flowersの信仰的な想像力を理解するうえで重要である。The Killersのポップ・ロックの中に、アメリカ的な宗教劇のような要素が入り込んでいる。
10. Have All the Songs Been Written?
アルバム最後を飾る「Have All the Songs Been Written?」は、非常に印象的なタイトルを持つ終曲である。「すべての歌はもう書かれてしまったのか」という問いは、創作の行き詰まり、愛の言葉の使い古され、人生の後半における疲労を示している。The Killersのような大きな歌を作ってきたバンドが、この問いでアルバムを閉じることは非常に象徴的である。
音楽的には、穏やかで、バラード的な終曲である。派手なフィナーレではなく、落ち着いたメロディと広がりのあるアレンジによって、アルバムを静かに閉じる。Brandon Flowersのヴォーカルは誠実で、問いかけるように響く。
歌詞では、歌を書くこと、言葉を探すこと、愛する人に何を伝えられるのかがテーマになっている。すべての歌がすでに書かれてしまったとしても、それでも自分は何かを歌わなければならない。これは音楽家としての問いであると同時に、夫、父、信仰者としての問いでもある。使い古された言葉しかなくても、それを自分の声で歌うことに意味がある。
「Have All the Songs Been Written?」は、本作の終曲として非常にふさわしい。アルバム全体が、強さ、弱さ、愛、信仰、男性性、支えをめぐる問いで構成されている。その最後に、そもそも歌は何をできるのかという問いが置かれる。The Killersはここで、答えではなく問いを残して終わる。
総評
Wonderful Wonderfulは、The Killersのキャリアにおいて非常に重要な成熟作である。初期のHot Fussが若さ、嫉妬、夜の街、シンセロックの鋭さを象徴し、Sam’s Townがアメリカン・ロックの大きな物語へ向かったとすれば、本作はその大きな音を家庭、信仰、精神的な苦しみ、男性性の自己批評へ向けたアルバムである。The Killersの音楽は常に大きなスケールを持っていたが、ここではそのスケールがより内面的なテーマと結びついている。
本作の中心には、強さとは何かという問いがある。「The Man」では、強い男のイメージが過剰に演じられ、風刺される。「Tyson vs Douglas」では、無敵のヒーローが敗れる瞬間が描かれる。「Rut」や「Some Kind of Love」では、強さは相手を支配することではなく、弱さの中にいる人を支え続けることとして提示される。この視点の変化は、Brandon Flowersの成熟を示している。
音楽的には、アルバムは多彩である。タイトル曲の儀式的な重さ、「The Man」のファンク・ポップ、「Run for Cover」の疾走するロック、「Some Kind of Love」のアンビエント的な優しさ、「The Calling」の宗教劇的なブルース。曲ごとの方向性はかなり異なるため、一枚のアルバムとしての統一感は完璧ではない。しかし、その振れ幅は、本作が扱う感情の複雑さとも対応している。
プロダクション面では、The Killersらしい大きな音作りが保たれている。シンセサイザー、ギター、ドラム、コーラスは分厚く、アリーナで鳴ることを意識したスケールがある。しかし、以前の作品に比べると、音の大きさが単なる勝利の演出ではなく、不安を包み込むための器として使われている。大きな音で弱さを歌うことが、本作の特徴である。
歌詞面では、Brandon Flowersの個人的な誠実さが強く感じられる。特に妻への思いを反映した楽曲群は、The Killersの従来のドラマティックな語りとは異なる深みを持つ。「Rut」や「Some Kind of Love」は、精神的な苦しみを抱える相手に対して、解決を押しつけず、そばにいることを選ぶ曲である。この姿勢は非常に成熟している。
一方で、本作には弱点もある。曲によってはアレンジがやや過剰で、テーマの深さに対してサウンドが大きすぎると感じられる場面もある。また、「The Calling」のような宗教的・演劇的な曲は、アルバムの流れの中で好みが分かれる。The Killersの持つ壮大さは魅力であると同時に、時に感情を過剰に演出してしまう危険もある。
それでも、Wonderful WonderfulはThe Killersが単なる2000年代ロックのヒット・バンドに留まらず、自分たちの年齢、責任、信仰、家庭、弱さと向き合おうとした作品として評価できる。これは若者の夜遊びのアルバムではない。人生の中盤に差しかかった人間が、自分の限界を知り、それでも愛と信仰を手放さないためのアルバムである。
日本のリスナーにとって本作は、The Killersの華やかな代表曲だけを知っている場合、やや重く感じられるかもしれない。しかし、Hot FussやSam’s Townの先に、Brandon Flowersがどのような成熟へ向かったのかを知るには重要な一枚である。特に「Rut」「Tyson vs Douglas」「Some Kind of Love」「Have All the Songs Been Written?」は、本作の核心を理解するうえで欠かせない。
総合的に見て、Wonderful WonderfulはThe Killersの中期的な転換作であり、アリーナ・ロックのスケールで個人的な弱さを歌ったアルバムである。素晴らしい人生を高らかに祝う作品ではない。むしろ、人生が素晴らしいと信じたいが、現実には苦しみ、停滞、敗北、沈黙がある。その中でなお「Wonderful Wonderful」と言うこと。その祈りのような肯定が、本作の本質である。
おすすめアルバム
1. The Killers – Sam’s Town(2006年)
The Killersがアメリカン・ロック、砂漠、信仰、労働者的なロマンを大きく打ち出した重要作である。Wonderful Wonderfulのアリーナ・ロック的なスケールや、Brandon Flowersのアメリカ的な物語性を理解するために欠かせない。
2. The Killers – Hot Fuss(2004年)
The Killersのデビュー作であり、ニューウェイヴ、ポストパンク・リヴァイヴァル、シンセロックの鋭さが詰まった代表作である。Wonderful Wonderfulの成熟した内省と比較すると、バンドの出発点にあった若さと都市的な緊張がよく分かる。
3. Brandon Flowers – The Desired Effect(2015年)
Brandon Flowersのソロ・アルバムであり、80年代的なポップ、シンセサイザー、明るいメロディが前面に出た作品である。Wonderful Wonderfulのポップな側面や、Flowersのソングライターとしての個性を理解するうえで重要である。
4. Bruce Springsteen – Tunnel of Love(1987年)
結婚、信頼、愛の不安、成熟した男性性をテーマにしたSpringsteenの重要作である。The Killers、とりわけBrandon Flowersが影響を受けたアメリカン・ロックの系譜にあり、Wonderful Wonderfulの夫婦関係や内省的なテーマと深く響き合う。
5. U2 – Achtung Baby(1991年)
アリーナ・ロックのスケールを保ちながら、自己批評、愛の破綻、メディア的なイメージ、電子的なサウンドを取り込んだ作品である。The Killersが本作で試みた、巨大なロック・サウンドと内面的な不安の結合を理解するうえで関連性が高い。

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